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【幕間】小角の千慮・・・(2)

役小角様の話はどうしても楽しくなってしまいます。

次は小角様を主人公にした話でも書こうかな?

(※加茂役君かもえだち小角おずぬ、即ち役小角から見たかぐやとの会話で感じた内容です)



 久しぶりに会ったかぐや殿は時の権力者に追われる身となっていた。

 追われる理由は、かぐや殿が都合の悪い真実を知ってしまったが為。

 そしてかぐや殿と中大兄皇子との神の加護を受ける者同士の争いとなった為。


 かぐや殿は神より人の身体と精神を癒す力を賜り、中大兄皇子は未来を見通す力を神から賜った。

 私も異能を有する身として、未来を見通す力というものがどれだけ脅威なのか分かってしまう。


 そう……とんでもない事になっていることを知ってしまったのだった。


 ◇◇◇◇◇


「かぐや殿よ、勝ち目はあると思うのか?」


 思わず私は心に思ったことを聞いてしまった。


「もし私の持つ力が人を癒す力だけでしたら、戦わず逃げていたかもしれません。

 ですが私にはそれ以上の反則技チートが御座います」


「反則? ……光る人の姿か?」


「それもありますが、私も朧気おぼろげではありますが、未来を知っております」


「なんと!! かぐや殿は二つも加護を承ったというのか?」


 思わず私の口から、嫉妬の入り混じった本音が出てしまった。


「それは違います。

 とりあえずここいらで一息入れませんか?

 小角様は少し焦られているようにお見受けいたします」


 かぐや殿に言われ、ハッとなった。

 確かに私は質問ばかりしている。

 らしくないな。

 追われる身のかぐや殿が危険を冒してわざわざ私を頼ってくれたのだ。

 もっと話を聞くべきだろう。


「そうだな。

 思いも寄らぬ話に興奮してしまったようだ。

 一息入れて落ち着くとしよう」


 私達は義覚の妻が煎れた松葉の茶を吹き冷(フーフー)しながら飲んだ。

 それにしても何と言う事なのだ。

 かぐや殿の持つ力がここまで強大なのだと思うと、そこに至る道を知りたい衝動を抑えるのに苦労している。

 しかし焦りは禁物だ。

 口伝で簡単に分かるものとは限らない。

 かぐや殿は私を頼って来たという。

 それに応えられずに何を求めようか


 しかし、かぐや殿を手伝いたいと思うのは決してそれだけが理由ではない。

 かぐや殿の人柄に惹かれているのかも知れない。

 無論、私は生涯不犯いっしょうふぼんを貫くつもりだ。

 かぐや殿に一指たりとも触れるつもりもない。

 しかし女人を不浄の者として扱うのもまた違うと思っている。

 この世の半分は女子なのだ。

 この世の半分が穢れていると考える事に私は忌避を感じる。

 現に我々が母親から産まれた事は厳然たる事実なのだ。

 故に女子とは神聖にして侵すべきではない存在として扱うべきなのだ。

 そのために母親に危険な修験所に入り込むことを止めるため、大峯山を女人禁制とした。


 こんな事を考えながらかぐや殿を見ると、相変わらず強い感情以外の心の内を読み取れない。

 横に居る男は残念な程に丸見えなのとは正反対だ。

 これも加護のお陰なのだろうか?


 ◇◇◇◇◇


「では、最初から話を仕切り直そうか。

 たしか……かぐや殿は中大兄皇子の野望を止めるために奔走しており、近い将来勃発するであろう大きな戦に備え、準備をしているのだったな?」


「はい、中大兄皇子を中心とする中央の軍と、大海人皇子様を中心とする編成軍との総力戦です」


「で、その敵の大将となる中大兄皇子は未来を視る事が出来る、という事か?」


「はい。中大兄皇子が視れる未来とは、知った者の未来です。

 見ず知らずの者の未来までは視れません。

 また神の加護を受ける私の未来も視ることが出来ません」


 なるほど。万能ではないということか?

 しかし……。


「中大兄皇子の見知った者とは中央の官人くにんはもちろん、国司も見知っていると見ていいだろう。

 それら者達が反逆を興すと分かったら、そうなる前に鎮圧するはずだ。

 上手くいくとは思えぬ」


 妥協を許さぬため、私は頭に浮かんだ最悪の事態をそのまま話した。

 これですら反抗の最初の一歩なのだ。

 乗り越えなければならない障害ハードルが山ほどある。


「こちら側の大将となる大海人皇子様は中大兄皇子のチートを存じております。

 その事は私が暗号を使ってお教えしましたし、既に存じていたようです。

 鵜野皇女様にお教えした際、言葉の持つ規則をお教えするためにお教えした文字が暗号として使われております」


「だが、知っているだけではどうにもならぬぞ」


「私はみやこが近江に移ることを前もって知っておりました。

 美濃に本拠地を置き、美濃の助評こおりのすけの元に身を寄せ、兵士の練兵と製鉄技術の改良に取り組んでおります」


「美濃だけか?」


「私の国許くにもとである讃岐もです。

 ただし、評造こおりのみやっこである父様と母様は中大兄皇子と面識がありますので、助評こおりのすけが中心となり、練兵に励んでおります」


「他には?」


「あとは大伴氏です。

 ここに居る大伴御行様は、右大臣だった大伴長徳様の長子です。

 まだ若く、中大兄皇子にはお目見えしておりません。

 大伴氏の中でも、中大兄皇子と面識の無い者だけで諜報を行っております」


「なるほど。

 しかしそれでも足らぬような気がするが如何か?」


 意外と組織立っていることに驚きを感じつつ、国の頂点に位置する中大兄皇子に反逆するには力不足に思えた。

 大伴氏と助評こおりのすけ二人だけであがなえるとは思えぬ。


「懸念はもっともです。

 それゆえ小角様にお願いに上がりました。

 葛城一帯の中で、中大兄皇子と面識のない方々との橋渡しをお願いしたいのです」


「何故、私なのだ?」


「顔が広く、人望があり、私にとりまして何かとご親切にして下さいました恩人でもあります。

 人里離れた場所に居られるので、情報漏洩の危険は少ないと考えました」


 意外にも私はかぐや殿に良く思われていたらしい。

 思わず怡悦いえつの情が湧き上がってきた。


「そこまで私の事を評価してくれるのは嬉しい。

 しかし戦となれば失うものも多い故、簡単ではない」


「はい、それも対策済みです。

 どうぞこれを」


 横に居る大伴御行殿が包みを差し出してきた。

 そして包みを開けると、竹筒が出てきた。

 これが対策?


「これは?」


「どうぞ」


 かぐや殿はそう言って予め半分に割っていたであろう竹筒を開けた。

 中には暗い小屋の中でも眩しく光り輝く黄金が入っていた。


「これは……金か?」


「はい、何かと物入りでしょう。

 少なくともそれくらいの負担は私の方で請け負います。

 もちろんこれでお終いという訳ではありません」


 なるほど……、これならお相子(イーブン)だ。


「確かにこれなら味方も増えよう。

 しかし数の上だけだ。

 未来視が出来る敵はあまりに厄介だと思うが」


 今までは絶対に無理だろう、という気持で話をしていた。

 しかし今度のは違う。

 本気で戦ってどうなるかという、現実を見据えた考えでの意見だ。


「勝機は二つ御座います。

 一つは私が身を寄せているという助評こおりのすけ様は兵法家として国で一番の知識を有する方であるという事です。

 そしてもう一つ、私は未来を知っているという事です」


 そう言えばそうだった。

 先程言っていた『朧気ながら』という言葉が気になったが……。


「先ほども聞いたのだが、神から授かった力で無く未来を知っているというのはどうゆう事だ?」


 しかし、かぐや殿の答えは私の予想を凌駕するものだった。


「私は千四百年もの未来からやって来た者だからです」


「!!!!」


 千四百年?

 一刹那だけだったが、頭の中が真っ白になった。


「千四百年?」


「はい、千四百年の未来です」


 再び私の頭の中が真っ白になった。


「大丈夫ですか?」


 私の様子を見て、かぐや殿が心配してきた。

 いや待て。

 初めてかぐや殿に会った時……。


「もしかしたら、かぐや殿は千四百年先の未来で私を知っていたのか?」


 大神神社で初めて会った時、かぐや殿の心の反応で一番大きかったのが私の名を聞いた時だったのを思い出した。


「はい、役小角様の名は修験道の開祖として名を馳せております。

 また神仙術の使い手として数々の伝説を残されております」


 かぐや殿の話を全て信じたわけではない。

 しかしこれほどの喜悦を感じた事はこれまでにあっただろうか?

 いやない。

 かぐや殿の心から偽りの反応がない事が私の心を更に震わせる。


 私がやって来たことが間違っていなかったのだ……。

 この気持ちを何といって良いだろうか?



(つづきます)

今年中に本作を終結させる事が出来ませんでした。

どうしても思い入れが勝ったり、話が冗長的になってしまい、ズルズルと延びてしまいます。

出来るだけ話の流れをスムーズにして、クライマックスへと導いていきたいと考えております。


今年一年間、本作を目に通して頂きまして誠にありがとうございました。

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