チート幼女の激昂・・・(1)
サブタイトルが何時になく過激です。
内容も少しシリアスです。
目の前の泥んこ幼女が本人だと知らず、偉そうに「かぐやはどこだ!」と吠える護衛さん、と主人らしきお貴族様。
素性の分からない輩に「私の名はカグヤ」と言うのはあまりに危険です。
もっとも泥だらけの姿で国造の娘とは信じてもらえないでしょうけど。
私はこの中で一番場慣れしている源蔵さんに目配らせして、対応を無言でお願いしました。
「恐れながら、うかつに姫様の居場所を教えて、万が一何かありましたら私達が罰を受けてしまいます。ご勘弁下せえ」
「お前らがどうなろうが知ったことではない。素直に話せばいいだけだ。言え!」
人さらいの可能性もゼロではなさそうです。このままでは埒があかないので、退出願いましょう。 ちょっと厨二チックで。
(心の声)
『出でよ、不可視の光の玉!
あの偉そうな護衛に正義の鉄槌をっ!
はぁ~~ぁ、はっっ!!』
チューン!
「早く話さん……か……痛っ! あたたたたた」
威張った護衛は蹲って何も言えなくなりました。礼儀を知らない貴方に、女の子の気持ちが分かる光の玉をプレゼント♪
久しぶりだけど、腕は錆び付いていないみたいです。
傍らにいたピッカリ軍団の元山賊達は何があったのかが分かっているらしく、心なしか青ざめています。
試したことは無いけど、多分三日間は痛いまま、完全回復に一週間掛かると思います。
だって生理痛だから♪
世の中の人類の半分が毎月知る痛みだと思えば、非道でも何でもないと思います。
「さ、続きやって」
時間は有限です。
出来るだけたくさんの人に田植え体験をさせて、来年の豊作に繫げたいのです。
あんなのはムシムシ。
しかし田植えは今日一日で終わらず明日に持ち越しになりました。
大人数で一遍にやってしまえば早いのですが、皆揃って田植え初心者ですから仕方がありません。
来年のためでもありますので、野次馬さんを含めて全員に田植えを習わせるつもりです。
夕暮れ前に一旦解散して、また明日です。
気付くと私達が田植えをやっている間に、連中は何処かへ行ってしまいました。
日が傾いているので八十女さんには傘をささず、手を繋いで屋敷へと向かいました。
すると屋敷の前に、例の偉そうな連中が警備の人に足止めされているではありませんか。
私は源蔵さんに手を差し出して手を繋いで貰います。そして屋敷の方へ三人連れだって向かっていきました。
「そこの親子、お前達はこの屋敷の者か?」
「はい、住み込みで働いている者です」
「この屋敷の主人に取り次げ」
はあ? 新手の押しかけ強盗ですか?
「申し訳ないのですが、素性の分からない方をお通しする事は出来ません。先触れはされたのでしょうか?」
「何故、国造如きに先触れしなければならぬのだ。」
「それではお通しする事は出来ません。無理に押し入りましたら賊の襲撃か、戦を仕掛けるのと同じになります」
「我らがその様な無頼に見えるとでも言うのか、貧民のくせに!」
いえ、マジで礼儀知らずです。
忌部氏の氏上様ですら先触れはキチンと出してます。
こう言っては何ですが、他人を貧民呼ばわりする割にはあなた方もそれ程じゃないんじゃない?
一見身なりは良さげだけど、上等な品じゃないし。
私は源蔵さんと繋いでいる手をクイクイと引っ張って、早く中に入ろうと促します。
源蔵さんは住み込みの親子が中に入るかの様にして、敷地へと入っていきました。
しかし私達の後を追って入ろうとした連中は警備に止められて、押し戻されました。
なんかしつこそうな連中です。
然るべき処へ通報出来るのならそうしたいですが、通報先は国造の我が家なのです。
私達は内風呂の近くにある井戸へ向かい、スッポンポンになって泥を落とします。
八十女さんも一緒です。
最近の八十女さんは急激に成長していて飛鳥時代とは思えない破壊力です。
紳士の源蔵さんはその場を離れて、私達が風呂に入る事を中へ伝えに行ってます。
これが秋田様なら……
暫くしたらお風呂場の水を汲むための戸が開いたので、そのまま一緒にお風呂場へ入って行き、髪の毛に染み込んだ泥を綺麗に洗い流します。
お風呂から上がると着替えが用意してあり、ウチの家人さん達はみんな連携がしっかりとしているのが分かります。
「かぐや、もうすぐ夕餉だからね」
お婆さんが待っていたみたいです。
「はは様、ただいま帰りました。田植え楽しかった」
「それは良かったねぇ」
そして夕餉の時。
「かぐやよ、見知らぬ者が来てかぐやに用があると言ってきたが、かぐやはその者に心当たりはあるかの?」
「田植えの時に貴族らしい人と護衛がいた。
『かぐやは何処にいるか』って。
まるで人攫い。
同じ人達が警備に止められているの見た。
『国造如きに先ぶれはいらない』って言ってた。
まるで盗賊」
「何と、そこまでタチの悪い連中だったのか」
「明日も田植えの格好で外へ行く。悪さしない様見張る」
「かぐやよ、それは危険じゃ」
「領民はもっと危険。
今日は1人動けなくした。次は全員」
「かぐやに敵うものは、そうはいないじゃろう。
じゃが何かあっては大変じゃ。
明日は警備を増やすから、十分に気をつけてくれ」
「気をつける」
「かぐや、決して無理しないでね」
「うん、ムリしない」
心配しているお爺さんとお婆さんには申し訳ないけど、連中の目的は私みたいです。
私のせいでお爺さんお婆さんや家人の人達、領民の人達に危害が及ぶのは放っておけません。
◇◇◇◇◇
翌朝、昨日と同じ領民ファッションで源蔵さんと八十女さんと手を繋いで、家人の親子っぽい偽装で屋敷を出ました。護衛さんも三人に増員です。
連中は見当たりません。
今日は1人でも多く領民の皆に田植えを体験してもらうのが目的です。
田んぼに到着すると太郎おじいさんはそこにいました。
田植え体験希望者の野次馬もいっぱい、準備万端です。
「それじゃ、昨日の続きを始めましょう♪」
領民の皆さんにとっては物珍しい田植えもイベントに見えているみたいで、列をなして自分の番を待っています。
来年から自分の仕事になるという意識は薄そう。
だけど仕事が楽しいと思えるのならそっちの方が良いですから、来年田植えをするときは楽器を鳴らしてイベントを盛り上げるのも面白いかも知れませんね。
後の時代には田楽という文化もあったくらいですから。
私は私でやりたい事があります。
それは色分けした種籾の苗を植える事です。
三種類の種籾を一つの田んぼに一緒に植えてしまっては意味が無いので、それぞれ三枚の小さい田んぼに植える事にしました。
少し離れた場所にあるので、少人数で移動です。源蔵さんの田んぼなので、源蔵さんのお父さんのゴン蔵さんが待っていました。
「お待たせしました」
「息子が世話になってる、ます。実りが良くなる稲作が出来ると聞いて楽しみにしている」
「必ずじゃない。けど、良くなって欲しい。じゃあ源蔵さん、お願い」
「わ……、承りました」
黒米、赤米、白米。苗の見分けはつきませんが、秋には真っ白なお米が食べられるかと思うとやはり嬉しいものです。
白米の苗が終わって、赤米の苗の田植えをやっていると何処かからか声が聞こえてきました。
……居た。連中はまだその辺りをウロウロとしていた様です。
「もう戻りましょうぜ」
「ここまで来ておめおめ帰れるか!」
「国造にしてみれば俺らは何処の誰かも分からない不審者ですぜ。会えるハズ無ぇし、会ったところでどうするんですが?」
「……痛ぇ」
「ふん、足手まといが!」
しつこいストーカーですね。一体何が目的なのでしょう?
「讃岐国造はずいぶん羽振りが良いそうだ。
娘を攫って婚姻をでっち上げてしまえばそれでいいんだよ。
身内は他にいないそうだ。五月蠅かったら邪魔な連中を始末すればいい」
その言葉を聞いた瞬間、私は身体中の血がボンッ! と熱くなり、身体中の毛が逆立つような感覚を覚えました。
現代で過ごした三十年(以上)を合わせても、これほどの怒りを覚えた事はありません。
怒りに任せて光の玉をぶつけたい衝動を抑えつつ、
この先どうするのか。
どうすれば良いのか。
どうしてやろうか。
…………
どう始末すべきか。
結論の出ない考えが、頭の中をグルグル回り続けます。
(つづきます)
いつもありがとうございます。
申し遅れましたが、評価ありがとうございました。
大変励みになります。
ところで、あえて古い言葉を使ってみましたが、トランジスタグラマーって聞いたことない人はどのくらいいるのでしょう?