再び美濃へ
昨日は突然お休みして申し訳ございませんでした。
個人的な理由でしたが、全てクリアしました。
今日は短めですが、明日より平常営業に戻ります。
今後とも宜しくお願いします。
美濃へ来てから早くも二年が経ちました。
こちらの方言にもだいぶ慣れました。
無理してでも美濃弁を喋るようにしております。
言葉が違うというのはそれだけで目立ちます。
では飛鳥時代の大和言葉は何故話せるの? なんてツッコミは無し。
とにかく、日陰の花の様に目立たず、決して出しゃばる事をしない、ひっそりと慎ましく普通のお姉さんを演じていります。
【天の声】普通のおばさん?
美濃での生活は、村国様の配下として基本的に農業指導員として、振舞っております。
領民も食べていかなければならず、食料が乏しければ住民の数も減ります。
村国様の治める地域は兵力として勘定しておりますので、過去二〇年で人口が三倍増した讃岐のやり方をそのまま踏襲してります。
しかしこの辺りの土は焼き物に適した土は多いのですが、農業には今一つ適していません。
たい肥造りによる土の再生が一番の課題ですが、今一つ美濃の土の特性を掴み切れておらず悪戦苦闘中です。
素人考えですが、直接的な原因は肥料ではなく土の酸性度に関係あるのではと思うのですが
だけどこの時代にリトマス試験紙もpHメーターもありません。
紫陽花の花が土のpHによって花の色が変わると聞いたことがあるので、何か分からないかと紫陽花を植えて調査中です。
花の形は少し違いますが、古代の日本にも紫陽花は『安治佐為』として身近な植物です。
ただし現代での紫陽花は、水の気を吸うため恋愛運を吸い取るとか、未婚女性が家に根付くと言われていたので、それを自ら植えるのは心中複雑です。
製鉄技術の方は順調に生産量を増やしており、それに伴い質も向上してきました。
刀は試行錯誤しておりますが、だいぶ良くなってきたとの事です。
作り方とか、原料とか、様々な試みをやって結果ですが、意外にも一番効果があったのは『銘を入れる』事でした。
刀鍛冶さん独自の銘を決め、それを剣の柄の部分、茎というらしいのですが、に銘を刻むようにしたのです。
その結果、刀鍛冶さんの意識がだいぶ変わってきたのが一番効果的だったみたいです。
評判の良しあしが丸分かりですからね。
防具開発は鎧兜のコスプレの様な物は出来ましたが、実用にはまだまだ問題山積です。
防御力重視にすると、どうしても重くなり機動性が落ちるため従来の渦中と大差がなくなってしまいます。
軽さと防御力の両立は予想以上に大変な様です。
とりあえず鎧を着こんで20km歩けるくらいにはなりたいですね。
私の記憶によりますと、壬申の乱は飛鳥と近江に至る広範囲で戦いがあったはず。
機動力は必須です。
◇◇◇◇◇
暗号を使った連絡も順当です。
もしかしたら後宮に居た時よりも筆まめになっているかも知れません。
おかげで遠く離れた讃岐の様子も分かりました。
ショックなのは、源蔵さん一家のシンちゃんが奥さんを娶ったという話です。
私はシンちゃんのおしめを変えてあげた事もあるあのシンちゃんが?
現代の感覚ではまだ中学生か高校生なのに?!
先を超されたどころではない敗北感です。
同じトラックを私が400m走で、シンちゃんが800m走で走って、圧倒的に負けた気分です。
先を超されたと言えば、鵜野皇女様。
皇子様を出産なさっていたのですね。
それも4年前、すっかり成長して腕白盛りみたいです。
4年前というと……まだ百済の役の真っ最中?
戦争中に大海人皇子様と鵜野皇女様、一体何をしているのよ!?
【天の声】ナニをしていたんだろうな。
お爺さんとお婆さんは元気そうですが、だいぶ老け込んでしまっているのが心配だと源蔵さんからの手紙にありました。
私が生死不明の状態が長いですし、結構年です。
私が月の都に帰るまで元気でいて下さい。
月の都がどこにあるのか知れりませんが……
兵士の練兵は順調だと、辰巳さんから連絡が来ております。
弓を中心に鍛錬しておりますが、住民からすればちょっとしたレクレーション感覚で練習に参加してのめり込む人もいるそうです。
人によっては猪狩りに挑戦して大けがをした者もいたそうです。
いくら矢の威力が増したとはいえ、単独で猪相手に戦うのは無謀な気がします。
秋田様のご実家で開発中の弓も段々と実用に近づいてきていて、辰巳さんの練兵にも使われるようになっております。
命中精度が犠牲になる事なく射程距離が二倍に伸びて、それだけに強くなった気分になる者が続出しているとか?
未だ、強力な弓の存在が中央に知られると拙いので、個人の持ち出しを禁止しているんですが、古代人の緩さなのか管理が行き届いていないみたいです。
そして秋田様。
弓の開発よりも諸国の調査という忌部氏での本業に従事しておりますが、中央での動向にも目を光らせて貰っております。
真人クンが帰って来るとの情報を仕入れてきたのも、その一環です。
そしてもうすぐ美濃にやってくる予定です。
◇◇◇◇◇
「姫様、お久しぶりです。
難波では真人殿とお会いできたと伺っておりましたが……」
「ええ、僧・定恵としての役目を全うしたいとの事でした。
中臣様の庇護を期待するほか手立てはありません」
「それなんですが……、落ちついて聞いて下さい。
その定恵上人が暗殺されたとの噂なのです」
「……え?」
「定恵上人は活動の場を求め飛鳥にて参られました。
寺院の建立に向けて動いたり、中臣様ゆかりの寺院に仏像を安置したりと忙しく立ち回られていたみたいです」
「……」
「お弟子さんを連れて講和をされたりもしており、評判も良いものばかりでした。
しかし、若き定恵様を妬んだ、弟子の一人が定恵様に毒を盛ったとのことです」
「うそでしょ?」
「私も調べつくしましたが、今の時点では間違いなさそうです。
もちろん姫様のご忠告もあったでしょうし、ご本人も常にお弟子さんを連れて警戒されていみたいです。
しかしその弟子の中から反逆があるとは……」
「おかしいじゃないですかっ!
人を殺せる毒なんてそんな簡単に手に入るものなの?
真人クンに致死量を超える毒キノコでも食べさせたというの?」
「検証は出来ておりませんが、犯人の弟子というのは和国の者ではないみたいなのです。
国許から持ってきたかもしれません」
「つまり真人クンには最初から殺すつもりで近づいてきたとでも言うの?」
「残念ながらそうゆう事になります。
もし背後に彼の人がいるとすれば、むしろ不思議ではないかと」
私の頭の中はぐちゃぐちゃです。
真人クンを止めれなかった私は、心のどこかでどうにかなるという気持があったのかも知れません。
しかしその自分の甘い考えが真人クンを死なせてしまったとしたら……
「うそよ。真人クンはあたしに大丈夫だと言ってくれたのよ!
和国に帰ってきてまだ数か月しかたっていないのよ?
あからさま過ぎじゃないですか?!
何故、中臣様がみすみす暗殺者の存在を見落としたのですか?」
「おそらくは中大兄皇子の差し金だとすれば、防ぐのは難しいかと」
「私、調べてくる!
絶対おかしい。
きっと間違いに違いありません!」
「お待ちください。危険です。
私がいま一度調べてきますので、しばらくお待ちください」
「……分かりました。
間違いであることを期待しております」
居ても立ってもいられない気持です。
自分で動けるのならそうしたいのですが、調べるためには中央の誰かに接触しなければなりません。
中大兄皇子に居場所を知られるリスクが高まります。
止む無く秋田様にお願いすることにし、秋田様はその足でまた飛鳥へと戻られたのでした。




