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チート幼女の農業改革(3)

ひとまず農業(ダッシュ)ネタは一区切りです。

 農業系かぐや姫に転職ジョブチェンジして約一ヶ月。

 もうすぐ田植えです。


 有り難い事に、ネタになりそうな事がないまま、日常が過ぎていきます。

 秋田様のお勉強もやっています。

 金の回収は欠かさずやっています。

 疲れたら疲労回復の光の玉で癒します。

 こうして毎日がつつがなく過ぎていきます。

 唯一、変わった事があったとしたら、源蔵さんと傘持ちのお姉さんに相談を受けた事くらいですね。


「姫様、私事で申し訳ないのですが、宜しいでしょうか?」


「何?」


「姫様が『傘持ちのお姉さん』と呼んでいる私のツレなんですが」


「のろけ?」


「いえ、違います。ツレと呼ぶのに抵抗がありまして、別の呼び名が無いかと考えてましたが、よくよく考えてみるとツレには名前が無いのです」


 確かに調査の時にも女性に名前がない人が多くて、帳簿に『女1』、『女2』って記入しました。

 男の人でもサイトウみたいに名前の無い人がいたくらいでしたから。

 そもそもこの時代の人にとって名前とは呪術的な要素が強くて、本名を名乗る事すら忌むべき行為なのです。

 一体何のための名前なのやら……。


「名前付けてあげたら?」


「それが、私の様な貧民の出では名前が思い浮かばないので、姫様に相談したいのです」


「それで良いの?」


「ツレが慕っている姫様に付けてもらうのなら喜ぶと思います」


「分かった。明日までに考えてみる」


「ありがとうございます!」


 ……と安請け合いしてしまいましたが、私は名付けが苦手です。

 作者のペンネームを見れば、そのセンスが分かろうかと思います。

 しかも親しい人に名前をつけるというのはかなりプレッシャーです。

 安請け合いした十分前の自分を叱ってやりたいと思います。


 ……おネムの時間です。名前が思い浮かびません。

 安請け合いした六時間前の自分を叱ってやりたいと思っているところです。

 ポピュラーなところでは、メイ、ミオ、ミウ、ミイ、レム、スージー、キャロラインとか?

  ……なんか違いますね。飛鳥時代っぽくありません。


 日本人古来の名前だと、花子、文子、キヨ、スミヱ、おトミさん、貞子、きっと来る〜♪

 『小野妹子』という男性の名前があるくらいなので『子』を入れると誤解されそうです。

 女性の場合、最後に『』を入れるとそれっぽいかも知れません。

 メイ女、ミオ女、ミウ女、レム女、花女、文女、キヨ女、スミ女、貞女。

 ……何故か傷が深くなった様な気がします。


 こんな時にインターネットが欲しくなります。

 月読命様(仮)に取り上げられたスマホと充電器も返還をお願いしたいとつくづく感じます。

 ついでにWi-fi電波と100ボルト電源もお願い。


 やはり、お姉さんの人柄パーソナリティを尊重したいと思います。

 お姉さんはいつも私の身近にいて日焼けしない様にと傘をさして、私の近くにいるからとばっちり受けて、私が屋敷にいる時は屋敷の下女として働いていて、私のせいで大変な目にも遭っているのに文句一つも言いません。

 とても良く出来たお嬢さんですね。

 源蔵さんには勿体無いかも?

 就寝後も頭の中は名付けの事でいっぱいです。


 うーん、うーん、うーん、うーん………ぐう。


 …………


 翌朝、源蔵さんとお姉さんへ木札を渡しました。

 『命名・八十女やおめ


「姫様、この字は何と読むのでしょうか?」


「やおめ、と読む。八十の女という意味」


「何故八十なのでしょうか?」


「八は字の形が末広がり、縁起が良い。

 八が十個でもっとめでたい。

 八十歳まで長生きできます様に、と」


「ほお、それは素晴らしい名前をありがとうございます」


「もう一つ。八十を縦に書くと『仐(傘)』という字になる。

 いつも傘をさしてくれてありがとうって意味」


「えっ!? そんな、勿体無い言葉を」


「勿体無くない。ありがとう、たくさん言っても減らない。逆に増えるの」


 傍にいるお姉さんを見ると感極まったみたいな様子で涙を流しています。


「今までありがとう、八十女ヤオメさん。これからもよろしく」


「は……はいっ!」


 一生懸命に考えた甲斐がありました。

 安請け合いした十八時間前の自分を褒めてあげたいと思いました。

 そしてこんなに可愛いお嫁さんを泣かせたら、源蔵さんにピッカリの光の玉を飛ばそうと決意するのでした。


 ◇◇◇◇◇


 いよいよ田植えです。苗が15cmくらいまで育ちました。

 猫草みたいにびっしりです。アレって何の草でしょう?


 最初のうちは鳥に啄められたりして大変でした。急遽、雀の大きさよりも目が細かい網を作って、覆ったりしました。

 水田の方は泥が息苦しそうな気がしたので、太郎おじいさんの息子の太郎さんにお願いして、田んぼの泥をかき混ぜて貰いました。

 太郎さんが腰まで浸かって一生懸命にかき混ぜている様子をみて、これを一人でやるのは大変だと、ピッカリ軍団に応援を要請しました。

 ピッカリ軍団は私の言うことをよく聞いてくれるのでとてもありがたいと思っています。


【天の声】向こうは有り難くないと思っているぞ。


 大の大人が腰まで浸かって田んぼの泥をかき混ぜている様子を見て、私が中に入るための対策を考えました。


 何故私が中に入るのか?

 それは私が田植えをするからです。

 テレビとはいえ田植えを見た事があるのが私しかいません。

 つまり私が見本を見せなければなりませんから。


 田植えファッションは、領民の子供と同じです。

 髪の毛は束ねて頭の上にくるくるお団子にしましょう。

 服はこれからも使うかも知れないので、八十女さんに服をお願いしました。

 源蔵さんには長い物干し竿の様な竹を数本お願いしました。


 さて田植え当日。

 領民ファッションに身を包んだ私は意気揚々と準備された田んぼへ行きます。

 何故か野次馬がたくさんです。姫様の農民デビューを見たいのでしょうか?


 農業系アイドル・かぐやちゃん、爆誕!!


 ……なんて事は無いですね。

 姫じゃなかったら全然珍しくも無い光景ですから。

 まずは苗箱の苗を縄で括って、腰紐に縛りつけます。

 そして長い物干し竿2本を縄で縛って補強したのを田んぼの上スレスレを橋渡しします。

 最後に平らな板を履いて、物干し竿にしがみつきながら田んぼに入ります。

 物干し竿には一定間隔で切れ込みを入れてあるので、その切れ込みの位置に合わせて苗を一本一本植えていきます。

 約十分後、左端から右端まで植え終わりました。

 40センチ後ろにある物干し竿に捕まり直して、同じ様に右端から左端へ苗を植えていきます。

 凄く重労働ですが、私には光の玉でリフレッシュ出来ますので、気にしない♪

 慣れてきたので5分くらいで左端に到着。

 そうしたら最初に掴まった物干し竿を、私を飛び越えて今掴まっている物干し竿の40センチ後ろに移動させます。

 バシャッ!

 うぉっと、泥が!


 物干し竿係の息子の太郎さんと源蔵さんが慌てていますが、手を振って気にしないの合図をします。

 後ろに移動させた物干し竿に掴まって田植えを再開します。

 もうすでに全身泥塗れなのです。


 三往復したところで、一旦休止です。


「太郎おじいさん、どう?」


「手間は掛かりますが、この方法なら雑草と稲の区別がつきやすいですな。

 ワシが農家の達人と言われているのは、雑草を見分けるのが上手いからです。

 ほれ、他の田んぼをご覧下せえ。

 田んぼに蒔いた種籾から芽が出てますが、どれが雑草でどれが稲なのかよう分からんです。

 しかし姫様が植えた稲は雑草が生えてもすぐに分かります」


「そうなんだ」


「いやいやいや、姫様。本当に知らずに田植えというのをしたのですか?」


「当たり前すぎて何故田植えするのか知らなかった」


「本当にこれは良い方法です。

 蒔いた種籾は必ず芽を出すとは限りませんし、雀に啄まれて、相当な種籾が無駄になっておりました。

 選別した種籾ばかりですから、今から収穫が楽しみですじゃ」


「まだ試したいこといっぱい。

 太郎おじいさんもやってみて。

 他の人も順番で」


「「「「はい!」」」」


 私はドロドロになった顔を八十女さんに汲んできて貰った桶の水でジャブジャブ洗っていると、高台から人の声がしました。


「おい、そこの貧民共! その辺りにかぐやという娘が居ると聞いた。

 どこだ!」


 声のした方を見ると、身なりの良いお貴族様風な青年とごつい護衛らしき人数人がいました。

 宴の席で見た覚えが無いので、新来のお客さんみたいです。


 トラブルの予感です。



(つづきます)

八十女(やおめ)の名前は1週間ほど掛けて考えて、ネタとしてストックしてあったお話です。

いつまでも『傘持ちのお姉さん』では少し可哀想な気がしていたのですが、なかなかタイミングが無く今に至りました。

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