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真人クンの救命計画・・・(5)

超久しぶりの登場です。


 麻呂クンが真人クンの救命計画に参加することになりました。

 と言っても、敵の隙を見て美濃に連れ出してかくまうという計画もの


 しかし、真人クンの今後の予定スケジュールが分かりません。

 しかも、真人クンにはこれまでの人生を捨てる覚悟をしてもらわなければなりません。

 中臣家の長子・真人として、唐へ渡った定恵としての人生を振り払って、逃亡生活に身をやつす訳です。


「真人クン、真人クン、ちょっと美濃こっちへ来て十年ほど隠れてくれない?」


 なんて誘い文句に乗るはずがありませんし、言う方も問題です。


 その実、僧・定恵上人としての社会的地位ステイタスはとんでもなく高いのです。

 この時代の和国には授戒のできる僧侶様が圧倒的に少ない(※)ため、勝手に僧侶になった私度僧が跋扈ばっこしております。

 その様な中、真人クンは本場中国で仏教を修め、出家した正真正銘の僧侶という事になるのです。

 つまり超貴重な人材でもある訳です。

 ……と麻呂クンは言っておりました。

 そうゆう事もあって、真人クンは軽々(けいけい)に面会する事の出来ない尊い身分なのだそうです。


(※作者注:後の時代に鑑真和上が来訪したのは仏教の布教のためもありますが、それ以上に授戒ができる鑑真様とそのお弟子様ご一行が来日することで、日本における仏教の資格制度を確立する事が目的でした)


 十年と言いましたが、実際の期間は中大兄皇子が亡くなるまでです。

 歴史の上では、中大兄皇子は天智天皇として即位するはず。

 そしてその後に大海人皇子様が天武天皇として即位するのですから、その時には天智天皇は崩御していたという事です。

 つまりは大海人皇子様が勝利するまでが期限タイムリミットです。


 壬申の乱で戦った相手は、日本書紀によると天智天皇ではなく息子の大友皇子だったはずです。

 しかしこの辺りに関する書紀の記述には潤色があるとされるのが通説です。

 平たく言えば、勝った側に都合の良い風に書き換えられていると思われます。

 なので真実は分かりませんし、勝ったのが大海人皇子様であっても経過が異なる可能性もあります。

 今の状況からすると、中大兄皇子と大海人皇子様が直接対立したかも知れません。


 色々な事を踏まえた上で、今後の行動を吟味しなければなりませんね。


 ◇◇◇◇◇


 麻呂クンと接触を計って数日後、麻呂クンから連絡がありました。

 飛鳥へ向かう前に、真人クンは摂津へ向かうのだそうです。

 摂津は中臣様の本拠地ともいえる土地で、難波宮からそう遠くありません。

 もしかしたら、中臣様はそこで真人クンを匿うつもりなのかも知れません。

 それに真人クンが唐に居る間に生まれた弟のふひと君がいるから会わせたいのかも?


 しかし中臣様の懐に入ってしまったら、今でも難しいのに接触コンタクトするのが更に難しくなります。

 出来れば移動の途中とか、難波宮に居る間に、人の居ない所で話がしたい。

 その旨を麻呂クンに伝えました。

 ちなみに、真人クンには私の事をまだ伝えられていないとの事でした。

 真人クンの歓迎の度合いがすごいのと、周りに付き人が常に張り付いているため、簡単に出歩けないのだそうです。


 じっと機会を待つしかなさそう、そう思っておりましたが思わず好機チャンスが巡ってきました。

 隠れ家に籠っていると、真人クン改め定恵様ご一行が、難波宮の辺りで托鉢にやって来たのでした。

 しかし数人の付き人が常に張り付いている事には変わりありません。


 どうしましょう……。


 私達の隠れ家は大伴氏の関係者が住むあばら家の一つです。

 貧民街スラムではありませんが、裕福層が住む場所でもありません。

 その様な中、ご一行が歩いてきます。


 慌てて小屋に戻った御行クンがお坊さん達がこちらに来るのを教えてくれました。

 物陰からそーっと覗くと、集団の真ん中にはひと際眩しい頭……ではなくオーラを放つ若い僧がおります。

 間違いありません、真人クンです。


 すっかり大人になっちゃって……。

 おねーさん、思わず涙ぐんでしまいそうになりました。


【天の声】オバちゃんの間違いじゃないか?


 さて、この千載一遇の好機チャンスを逃すわけにはいきません。

 かと言って、衆人環境の中で話をするのは私も真人クンも危険です。

 お付きの者の中には中大兄皇子の間諜スパイが紛れているかも知れません。


 どうしましょう……。


 !!!!


 私は急いで讃岐の源蔵さんから送られた扇子を取り出しました。

 これならば私だと分かってくれるかも知れません。


「御行クン! 今から来るお坊さんにお米とこれを差し上げて」


 私は外に出れないので、御行クンにお願いしました。


「承りました」


 厳かなご一行が来ると、一部の人がご一行が持っている鉢にお米や雑穀を入れていきます。

 そして私達の小屋の前で、御行クンがお米を入れ、真人クン改め定恵様に扇子を差し出しました。


「これをお納めください」


 すると定恵様は深々と頭を下げて、

「ありがとうございます」と礼を述べました。


 とりあえず、仕込みは成功!

 真人クン、気付いてくれるかな?

 やる事はやりました。

 後は待つだけです。


 ◇◇◇◇◇


 そしてその夜。

 小屋の戸が叩かれました。


 トン、トン、トトン


 きっと麻呂クンです。

 麻呂クンが警戒しながら、戸を開けました。

 来客は二人です。

 すぐさま二人を中に引き入れ、戸を閉めました。


「かぐや様、真人を連れてまいりました」

「麻呂、本当にいらっしゃるのか?」


 暗い小屋の中で何も見えず、目に前にいる私に気付かない僧侶姿の真人クンがそこに居ました。

 少しだけサービスして、ろうそくの炎に満たない照明(光の玉)を浮かべました。


「真人クン、おかえりなさい」


「かぐや様!!」


「シッ! 静かにね」


「あ、ごめんなさい」


 とても偉くなったのに、昔のまま素直な真人クンがそこに居ます。


「こちらこそ、ごめんね。

 こんな風にこっそりとしか会えない立場になってしまって」


「いえ、そんな事はありません。

 まさかかぐや様がこんな近くにいらっしゃるとは思いもよりませんでした」


 そう言って真人クンは昼間差し上げた扇子を広げました。

 そこにはとある歌が書かれております。


『たち別れ 因幡(去なば)の山の峰に生ふる 松(待つ)とし聞かば今帰り来む』

(※第190話『必ず帰ってくるおまじない』ご参照)


「唐に居る間、かぐや様から送られた歌を何度も何度も読み返しておりました。

 受け取った扇子にその歌が書かれていたのにはひどく驚きました。

 急いで麻呂に伝えようとしたら、実はすでに会っていると聞いてさらに驚きましたが……」


「ええ、この歌を見れば誰にも知られずに私が居る事が分かって貰えると思い、急いでしたためめました。

 まだ墨も乾いていなかったから、読めなくなったらどうしようかと思いましたが、杞憂だったみたいですね」


「麻呂から大方の事を聞きました。

 大変だったそうですね。

 私に何かできる事は無いでしょうか?」


 自分の身に降りかかるであろう災難も聞いているはずなのに、私の事を心配するなんて……。


「もしお願いできるとしたら、真人クン……いえ、今は定恵様でしたね。

 定恵様が無事でいてくれることです。

 それを知らせるためにここまでやってきました」


「私はそんなにも危険なのですか?」


「ええ、孝徳帝のご子息である有間皇子は自らが危険だと知っていながら、敵に貶められ、処刑されました。

 斉明帝から聞いた話では、帝も、定恵様のお父様の中臣様も全く関与しない所で謀が進行し、いわれなき罪で断罪され、遠く目の届かない場所で処刑されたと聞いております。

 定恵様の命を狙う者は、やると思い立ちましたら必ず実行します」


「気を付けるだけでは駄目なのですか?」


「ええ、おそらくは。

 その事は中臣様もご承知かと思います。

 しかし私は中臣様にお目通りするどころか、存在そのものを知らせていけない境遇にあります。

 ですので、中臣様が定恵様をお守りする手段を何か講じておりと思いますが、私には知る術はありません」


「そんな……」


「仕方がありません。

 定恵様もですが、私もまた付け狙われている身です。

 なので定恵様にその覚悟がありますのなら、現在私が潜伏している場所にお越しいただきたいと伝えるために来ました」


「つまり、私も逃げよと……?」


「はい」


(つづきます)

鑑真上人は、社会科の歴史の授業で失明してまでも来日した仏教の普及に熱心なお坊さん程度にしか教えられませんが、日本仏教における貢献度は計り知れないものがあり、その実すごかったりします。

そこまで教えてくれる先生は少ないでしょうか?

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