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【幕間】鎌足の絶望・・・(1)

……はぁ。


ばかりで申し訳ございません。

m(_ _)m

 久々の鎌足様視点のお話です。


 ……はぁ。


 ため息しか出ぬ。

 ため息などで片付くのであればいくらでもため息をついてやりたいが、あまりの事の大きさに頭と胃が限界に近いかも知れぬ。


 ……はぁ。


 葛城皇子が百済救済を言い出した時に、無理にでも止めるべきだった。

 まさかあそこまで大それたことを仕出かすとは私の予想の範疇を超え過ぎていた。

 何故、百済救済に肩入れをするのか?

 名目は立派すぎて反対するのが難しかった。

 確かに、百済を失う事は我が国にとって大きな損失であることに違い無い。

 しかし、百済を救済するために我が国が失うものがあまりに大き過ぎるのだ。

 博打に例えたとしても、賭け事が成り立たない程、勝率が悪く、利益リターンが少ないのだ。

 例え百済を柵封国さくほうこくにしたところで得られるものは大した事無い。


 故に肩入れは余豊璋よほうしょう殿を百済の王にしたところで仕舞いにすると言ってあったはずだった。

 しかし、結果は最悪だった。

 唐を敵に回し、我が国の兵士が数万と失われたのだ。


 ……はぁ。


 その無謀な出兵の理由を知ったのは昨年だった。

 斉明帝がご崩御された時から違和感があったのだ。

 筑紫へと渡った宇麻乃からの報告は、目眩がするものであった。

 斉明帝を朝倉宮に軟禁したのだとの事だった。

 その朝倉宮が襲撃を受け、帝が亡くなったのだと。

 これでは親殺しの大罪と変わりがないではないか。

 これでは葛城皇子が帝に即位する事に賛成できぬ。


 ……はぁ。


 その後の行動も不可解だった為、調べさせたらかぐやが絡んでいることが判った。

 考えれば当たり前の事だ。

 建皇子は斉明帝が溺愛する孫だ。

 その建皇子の母親代わりとして世話をしているのがかぐやだ。

 そしてかぐやは斉明帝の付き人として常に行動を共にしている。

 故に、かぐやが朝倉宮の襲撃に巻き込まれないはずがない。

 宇麻乃の予想では何処かへ逃げ延びているであろうと事だった。

 ここに至って宇麻乃へ指示を出したのだった。

『全て任せる。後は引き受けよう』と。


 ……はぁ。


 だが、宇麻乃は還らぬ者となった。

 かぐやは生きているかどうかも分からぬ。

 建皇子が亡くなられたのだ。

 かぐやが建皇子を死なせるとは思えぬ。

 つまりは建皇子より先にかぐやが死んだのであれば説明が付く。

 だがその代償は大きかったようだ。


 ……はぁ。


 葛城皇子は百済の役の失敗の報を受け、すぐさま飛鳥へと帰ってきた。

 正確には川原宮へと戻り、一歩も外へと出なくなった。

 葛城皇子の歯が何本か無くなっており、顔の左半分が赤くなっていた。

 大方、建皇子を守ろうとしたかぐやの逆鱗に触れたのであろう。

 葛城皇子は人と会う時には化粧をして、御簾を開けることをしなくなった。

 私と話をする時も扇で口元を隠している。

 化粧した白い顔と相まって、ハッキリ言えば気味が悪い。

 筑紫へと発つときと目付きが違っているのだ。

 扇で口元を隠すから、余計に眼が気に掛かる。


 ……はぁ。


 ついうっかりとかぐやの名前を出した時の葛城皇子の反応は異常なものだった。


「チクショウ! あのクソアマをこの手で殺せなかったことが悔やまれる。

 身内も只じゃ済ませねぇ!」


「恐れながらかぐやが何かをしたのでしょうか?

 それを公にして宜しいのであれば、私が兵を出します」


「公に出来るはずが無かろう!

 全て極秘裏に葬るのだ!」


「しかしそれではかぐやの実家を攻め滅ぼす口実が御座いません。

 何の理由もなく、兵を出すことは周りに要らぬ動揺を与えます。

 それでなくとも此度の百済での敗戦で先行きを危ぶむ声が上がっております」


「では、放っておけと申すのか?」


「放っておけないのなら理由を明らかにしたい。

 理由もなしに兵は動かせません。

 先に益なき戦いのため数万もの兵を失ったばかりなのです。

 もっと正直に申せば、それどころではない状況なのです。

 唐を敵に回した事実をもっと真剣にお受け止め下され」


「う……、くっ! 分かったよ!

 此度の件は母上の責ではあるが、私が無関係だと言い逃れするつもりは無い。

 此度の百済の役は決して失敗でなかったのだ。

 鎌子もいずれ私のした事に感謝する時がくる」


「私も全力でお支え致します。

 出来ましたら私の存ぜぬところで話が進んでいる様な真似はお控え下され。

 でなければ事後処理が難しくなることをお心掛け下さい」


「鎌子には感謝しておる。

 だからそんなに怒るな」


 ……はぁ。


 本当に分かっておられるのか?

 我々は唐を相手に戦ったのだぞ。

 唐の水軍の強大さは、私が誰よりも知っているつもりだ。

 楼船(ろうせん)の大きさは書にも事細かに描かれている。

 書に書かれた蒙衝もうしょうの活躍は凄まじいものがあった。

 唐に渡った学者らも書に書かれている船をその目で見ている。

 あんなのが長津や難波津に攻め込んできたらと考えるだけで、夜もおちおちと寝てなんかいられぬ。


 ……はぁ。


 早急に対策をせねばならぬのに、筑紫は大打撃を受け、崩壊寸前……いや崩壊している。

 失った兵を何処から補充すべきか?

 百済の役では各国から兵を募り、多くを失ったのだ。

 此度の戦で被害が少なかったのは皮肉にも畿内だけだ。

 つまり畿内ここから派兵しなければならない。

 これは大王おおきみの屋台骨を揺るがす程の負担となる。

 必要のない戦で、失う必要のない兵士を失い、それを補うため必要のない負担を強いられるのだ。

 誰一人として得るものが無い戦いの結果がこれだ。


 ……はぁ。


 葛城皇子の事だ。

 私に黙って行動したのは有間皇子の時とアレと同じだ。

 つまり私に隠れてはかりごとをしていたという事だ。

 その謀を吟味したが、どうやら目的は筑紫の弱体化にあったみたいだ。

 そうしたいのであればそうしたいと私に相談すればよい。

 唐を相手にしなくても他に方法はある。

 例えば百済と筑紫を敵対させ、戦わせればいいのだ。

 元々、筑紫には百済に滅ぼされた伽耶かや諸国の出身の者も多い。

 大和が百済と敵対しなくとも、筑紫が敵対する分には構わぬであろう。

 恨みの矛先が我々に向くことは無いし、百済(ぼうこく)から恨まれたくらい痛くも痒くもない。

 そこへ我々が筑紫への応援と称して出兵すれば恩義を感じよう。

 百済と敵対する新羅にも有難られる。

 新羅と同盟を組む唐にも良い顔が出来よう。

 百済と繋がりのある高句麗からは文句クレームが来るだろうが、遠く離れた我が国に脅威を与える存在ではない。

 つまり此度の出兵は、これらの真逆をいく悪手なのだ。


 ……はぁ。


 思えば百済が滅ぶ前年に唐に渡った大使らが帰って来ぬこと(※)に異変を感じるべきであった。

 (※659年の遣唐使の副使、津守吉祥らは、百済出兵の情報漏洩を恐れた唐により流刑にされそうになったり一時洛陽で幽閉されたりした。百済が滅亡した翌年の661年にようやく帰国した)

 此度の事は私にとって深い後悔の念が心を苛んでいる。

 葛城皇子は気付いていないが、国家存亡の危機なのだ。

 外は唐と新羅との対立、そして内は百済の役で多くの兵を失った諸国の恨みとそれを補うために駆り出される民の恨みだ。

 隋国の滅亡は、高句麗との戦いに敗れたことの民の不満が、皇帝を打倒する反乱へ発展した結果なのだ。

 同じ運命を辿らないと誰が言えよう。

 これ以上血は流させぬ。

 反乱に耐えられる体制を早急に築かなければならない。

 反乱を起こさせぬ様、諸国の引き締めを急がなければならぬ。

 侵攻を許さぬ防御態勢が今すぐにも必要だ。

 侵攻を思い留まらせる外交術を駆使しなければならぬ。

 十八年前のあの日から始まった新しい政の終結を、このような形で失敗に終わらせてはならないのだ。


 ……はぁ。


 かぐやよ。

 葛城皇子は死んだというが、何処かで生きているであろうか?

 其方が居らぬこの世の何と詰まらぬことか。

 やらねばならぬ事が山済みだというのに、己が気力のない事に情けない気持ちになる。


 ……はぁぁ~。



(つづきます)

来るべき最終決戦・壬申の乱にむけて今後の話は進んでいきますが、もう一山、二山、イベントが待っております。

(作者自身も忘れておりますが、)本作は『竹取物語』を下敷きにしております。

そちらの話も進めなければなりません。

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