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美濃での武器製造計画・・・(2)

「三角板鋲留短甲」などで検索してみますと、古墳時代の甲冑はかなりの重量がありそうです。

飛鳥時代もあまり変わりは無かったみたいで、和国が白村江で大敗した一因でもあったみたいです。



 鍜治場の見学中のかぐや達。

 話し合いの結果、ふいごの大型化に取り組むことになりました。

 私の知識なんて大した事はありませんが、未来の完成形を知っているのであれば何かしらのヒントになるはずです。

 大丈夫、私には魔法の言葉があるのです。


 『後は任せた!』


◇◇◇◇◇


「炭火でくべて、柔らかくなった玉鋼を金槌で叩いて、剣の形に整えます。

 この事はご存じですよね?」


 引き続き村国様による解説付きの社会科見学です。


「はい、未来に伝わる製法も大体同じでした」


「ならば、剣を作る技術は今と変わらないと?」


「いえ、かなり違いますね。

 まず形が違います」


「形? どんな形ですか?」


 すごく意外そうな反応です。


「未来というより近い将来、剣は刀と呼ばれるものに進化します。

 刀とは、一言で言えば片刃の曲刀です。

 美しい形は工芸品としての価値もあり、多くの人を魅了します」


「刀? 美しい形?

 随分と無駄な進化を遂げていませんか?」


「私も詳しくはありませんが、私達の体躯に合った剣です。

 切れ味が鋭くて、鉄をも切ってしまうと言い伝えられております」


【天の声】それは斬鉄剣!!


「鉄が切れる? 剣で?

 随分と空想が混じってませんか?」


「空想か分かりませんが、一応理屈はあります」


「剣の切れ味に理屈ですか?」


「ええ、刀は二種類以上の鉄から出来ていると聞きました」


「二種類? 鉄と……もう一つは何かですか?」


「鋼と軟鉄と聞いております」


「軟鉄というと取り出したばかりのけら(※)の事?」

(※低温で融ける溶融銑鉄に砂鉄を少しづつ投入することで、溶融はしませんが砂鉄が銑鉄に溶けだしてけらが得られます。砂鉄が銑鉄中の炭素を吸炭して軟鉄になります)


「申し訳ありません。

 良く分からないのです。

 ただ私が知っているのは、柔らかい鉄の外側に硬い鋼を被せて一体にすることで、薄いのに折れ難くて切れ味の鋭い刀が出来るという結果だけを知っているのです」


「なるほど。

 良くは分からないけど、結果がそうならば試してみる価値はありそうだね」


「うろ覚えなのですみません」


「しょうがないよ。

 他には何か覚えている事はあるかい?」


「刀を鍛造する際、片手で扱えるふいごを使って高温の炭火で鉄を柔らかくしていました」


「ふいご? あれとは違うの?」


 村国様は先ほど見た火起こしみたいなふいごを指さして聞きました。


「ええ、箱の形をしていて取っ手を前後に動かすことで空気を送り込むものでした」


 巨大で四角い水鉄砲みたいな物です。

 おんぶオバケのお爺さんがいつもやっていました。


「ならばそれを後で教えて欲しい。

 その様な形になるという事は何か理由があるという事だろう。

 真似してみれば何かわかるかも知れない」


「承りました」


「ところで、曲刀と言っていたけど、どのくらいの曲がり加減だったか分かる?」


「うーん、長さは今の剣と変わりは無いような気がします。

 曲がるというより、反っているいう感じですね」


 小屋の壁を見ると何本か縄がぶら下がっていました。

 その縄を使ってみましょう。


「これを少しお借りしますね」


 私はそう言って縄の片方を壁の突起に固定して、斜めに緩く引っ張って、ややたるませました。


「このくらいだったような気がします」


「なるほど、面白い形だ。試してみよう」


 こうして時代考証を無視した日本刀造りが始まりました。

 数年でどうにかなるか分かりませんが、敵よりもほんの少しでもアドバンテージがあればそれで良しとしましょう。

 しかし良しと出来ない部分もあります。


 それは防具です。


 ◇◇◇◇◇


 屋敷に戻って、甲冑の制作を担当する方との初顔合わせです。


「宜しくお願いします。

 つたなき知識に御座いますが、お知恵を拝借できましたら幸いです」


「村国殿の推挙で、まさか女子おなごが依頼主だと思わなかったが、儂に出来ることがあれば何なりと手伝おう」


「宜しくお願いします。

 戦を左右するのは武器ではなく防具だと私は考えております。

 そのつもりで真剣に取り組む所存です」


「かぐや殿は剣や弓を作るよりも、甲冑が重要とお考えですか?」


「はい、剣や矢を防ぐだけなら、鉄に覆われた甲冑を頭から被ってしまえばいいわけです。

 しかしそれでは戦になりません。

 従来の甲冑と異なり、防御を犠牲にすることなく動き易い新しい甲冑の制作に取り組めればと思っております。

 少なくとも、逃げ遂せれば死ぬことは無いのですから」


「確かにそう考えることも出来るな。

 それに動き易い甲冑を身に着けていれば、戦意も上がるだろう。

 正直言って、重い甲冑はずっと身につけるのが辛いのだ」


「はい、正直に申しますと味方のは誰一人亡くなって欲しくないのです。

 そのためには数千名の兵士全員に甲冑を行き渡らせるつもりです」


「それは豪気だな。

 その見返りも既に貰っているのだ。

 儂も頑張らさせて貰おう」


「はい、でもそれはより優れた甲冑が開発出来るまでの見返りです。

 本格生産が始まれば、一領(※)ごとに金子をお支払いします」

 (※鎧の数え方の単位、一領、二領、……)


「責任重大だな。

 何か案はあるのか?」


「案と言うほどではありませんが、いくつか絵にしてあります。

 これをご覧ください」


 そう言って現代人がイメージする戦国時代の鎧と兜と具足のポンチ絵を見せました。


「かぐや殿、これは……?」


 村国様が怪訝そうに質問します。


「こちらは馬に乗って戦う事を前提にした鎧です。

 鎧の本体は竹で出来てますが、薄い鉄を張り合わせることで剣を通しません。

 袖と直垂ひたたれは薄い鉄の板を縫い合わせることで、動きを妨げず、矢を防げます」


「何て言うか……私達が考える甲冑とだいぶ違うね」


「重すぎることで身動きが出来なくなり、戦いに負けてしまうのでは本末転倒です。

 人体の急所を効率よく守ることに重点を置いたものです」


「ほう……これは作り甲斐がありそうですな」


 担当の方は乗り気です。


「ただしこれは馬上の兵士向けですね。

 これを身に付けては長い距離を走れないでしょう。

 歩兵向けにはこれをもっと軽量にしたいと思います」


「鉄の甲冑ではそうはいかんな」


「私はこの新しい甲冑を『鎧』と呼びます。

 そして頭と首を守る『兜』と併せて、『鎧兜』と呼びます。

 鎧兜は機能美に優れた工芸品の様な完成を目指しております」


「鎧兜……ですか。

 それはかぐや殿の知っている言葉かな?」


「はい、既に鎧は廃れておりましたが、五月の節句には鎧兜を飾る男の子の成長を祝う風習があります。

 私には男の兄弟がおりませんでしたので無縁でしたけど」


「そんなに鎧兜が重用されたいたのかい?」


「いつの時代も男の子はカッコいい物に憧れるものなのですよ」


「まあ気持ちは分かるよ」


「それに兜には目立つための飾りもあって、煌びやかです」


「それもやるつもりなの?」


「皇子様と村国様には是非お願いしたいですね」


「勘弁してくれよぉ」


 そう言いながら村国様は満更ではない様子です。

 やはり一番人気は伊達政宗タイプの大きな三日月マークでしょうか?

 それとも直江兼続タイプの愛のマーク?

 一押しは大和なららしく鹿の角、真田幸村タイプとか?

 そうなると、六文銭は和同開珎かしら?


 戦国武将も飛鳥時代の男の人も皆、中二病全開ですね。



本稿を執筆するにあたって、研師とぎし倉島一氏の講演資料を参考にさせて頂きました。

刀剣研磨コンクールで数々の賞を受賞された優れた研師とぎしさんです。

著書に『日本刀 謎と真実』があります。

紐のたるみ(懸垂線)と室町以前の古代日本刀との相関について、コンピューター解析して突き止めており、科学的なアプローチがされていて興味深い書です。


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