【幕間】村国の驚愕・・・(4)
第425話『師匠?』、第462話『秋田 vs 村国・・・(1)』の村国視点による話です。
話をなぞったため、半分以上がコピペですが……。
11/30に投稿したつもりでしたが出来ておらず、気が付いたのが今(12/1の昼)でした。
(;´Д`A
***** 村国男依視点のお話です *****
ひと月間、かぐや殿と御行殿の人となりを見てきたが、性格は実直と言ってよく、私を騙そうとしている素振りは無い。
しかし所々……いや、かなりの部分で常軌を逸しているのも事実であり、この私に理解が追い付かない事態が起こりえるとは思ってもいなかった。
かぐや殿が神の使いであり、敵となるであろう中大兄皇子もまた神の使いなのだそうだ。
一蹴してしまえれば楽なのだが、かぐや殿の話にはそれなりの説得力がある。
そうとしか思えない力があることも分かった。
だが、だからと言って信じてよいのか?
いや、むしろ神託などという言葉さえなければもっと容易く信じられたのだ。
そのためには確証……そう確固たる確証が欲しいのだ。
例えば第三者の意見とか……。
◇◇◇◇◇
「かぐや殿、少しいいかな?」
「はい、何でしょう?」
「君達……いや、かぐや殿にとって信頼の置ける人で、尚且つ中大兄皇子に顔を知られていない人物に心当たりはあるかな?」
「ええ、それなりにおります」
「できれば今の君達が置かれている状況を正しく把握できて、知見の広い人が良いのだけど」
「はい、お一人おります。
まず最初に連絡を取ろうと思っていた方です」
「どうゆう立場の人なのかな?」
「忌部氏の御方で学問におきましては私の師に当たる方です。
名を御室戸忌部秋田様と申します」
……?
聞き覚えがあるな。
「忌部……秋田……。
もしかしたら私はその方を知っているかも知れないな」
「一部では蔵書家として有名だそうです。
大海人皇子の家臣、多治比様はお会いになる前からご存知だと仰ってました」
ああ、なるほど。
一度、同じ書を巡って取り合いになった人か?
結局、何回かの文のやり取りの末、その書は先方に渡った。
形としてこちらが譲歩した格好で話をまとめたが、その実、私はその代りに別の書を譲られたから損はしていない。
一つの勝利に拘ることで別の勝利を捨てる様な愚を犯さないのが、私のやり方だ。
「ああ、なるほどね。それでか。
あの秋田殿が君の師なんだ」
「ええ、幼き頃、字を習いたいと父様にお願いしましたら秋田様がいらっしゃいました。
また私の名付け親でもあります。
ただしそれ以外の師匠では御座いません」
言い方に棘があるが、おそらくは秋田殿は“その道”の蔵書家として有名なのを知っての事だろう。
「ではその秋田殿にここへ来て頂くことは出来るのかな?」
「おそらくは可能だと思います。
調べ物などで各地を回ることが多い方ですが、連絡さえ付けばお越しになると思います」
「ならば、御行殿に連絡を取って貰おうかな。
出来るだけ極秘裏に」
「はい、秋田様だけに連絡が届くよう慎重に考えてみます。
何か言伝は御座いますか?」
「いや、出来るだけ予備知識のない状態で話をしたい。
変に構えられても困ってしまうよ」
こうして秋田殿に便りを出して各務原へと来て頂く事にした。
連絡方法については二人に任せきりにした。
そして、翌日。
御行殿が秋田殿に手渡す木簡を見せて貰ったのがこれだった。
『火急かつ重大な事案につき、誰にも伝えず、誰にも知らせず、ご家族にも黙って美濃国の各務原へお越しください。
この要望を守って下されば、生え際を前進させて差し上げます。
守っていただけなかった場合、一本残らず抜け落ちます。
貴方の弟子より』
何だ、これは?
ここへ来る要望以外、何を言っているのかさっぱり分らん。
見せて貰った以上何か言わなければ、と言葉を絞り出した。
「これほど隠匿性の強い文は見たことがないよ」
……かぐや殿よ、そんなに嬉しそうな顔をしないでくれ。
◇◇◇◇◇
御行殿は予想以上に早く帰ってきた
横に居るあの男が秋田殿であろう。
秋田殿を見つけるとかぐや殿は嬉しそうに駆け寄って行き、久しぶりの再会を喜んでいる様であった。
御行殿に視線を送ると、会釈を返した。
どうやら私の依頼通りにしてくれたようだ。
私は御行殿の方へと歩いて行き、慰労の言葉を投げかけた。
「御行殿、お疲れ様」
「無事、お勤めを果たして参りました」
「無理させてごめんね
ところで秋田様に何も説明しなかったというのは?」
答えに窮している御行殿に代わり私から答えた。
が、その前にまずは遠方から来た客人への挨拶だ。
「初めてお目に掛かります。
各務原でしがなき領主を努めております村国男依と申します。
秋田様のお噂は予予伺っております」
「いえ、私こそ忌部のしがない氏子の一人、御室戸忌部秋田と申します。
姫様の師匠を自認しております」
「御行殿には、秋田殿に会ったら出来るだけ予備知識を与えずに話し合いをしたいので、詳細は黙ってくれとお願いしていたのですよ。
かぐや殿は私が想像していた以上に面倒事に巻き込まれておりました。
疑うわけではないのですが、素直に信じるのにはあまりに突飛な部分もあり、秋田殿にお教え頂き達とお越し願った訳です」
「それは仕方がありませんね。
私が知ることでしたら何なりとお話しましょう。
私としましても姫様の現状を一刻も早く知りたいと急いで参った次第です。
是非、お話を聞かせて下さい」
どうやら話の分かる御仁らしい。
かぐや殿の破天荒さについても理解しているみたいだ。
屋敷での話し合いが始まるやいなや、私は気になっていたことを訪ねた。
「忌部氏はかぐや殿をいつから天女として崇めているのですか?」
「姫様が八つの時……、先代の氏上様が御在命だった頃からです。
これが何年前か言ってしまうと後が怖いので勘弁して下さい」
「ははは、分かりました。
かぐや殿は摩訶不思議な御技を持っているが、もちろんそれはご存知で?」
「ええ、もちろんです。
しかしそれだけで天女と崇める程、忌部の底は浅く御座いません。
人智を超えた知識と、博愛の精神。
仏教で言う慈悲、儒教で言う仁の心をお持ちの方です。
それなのに決して驕らず、飾らないお人柄に誰もが惹かれずにはいられないのです。
先代の氏上様も当代の氏上様も、そして私もです」
なるほど。
先代の忌部の氏上ということは、私が幼い頃見たあの御方か?
忌部氏は物部とは比較にならぬほど神の存在を強く信じる傾向が強い。
私はそれを知った上で敢えて厳しい質問を投げかけてみた。
「申し訳ないのだが、私はこの現世とは人のためにあり、神が居なくとも何も変わらぬと考える不届き者です。
故に神を信じず、神を崇める事は致しません。
秋田殿はその様な考えをどう思われますか?」
「そうですね。……気の毒な方と思います」
怒るか、私を説得しようとするかと思ったが、意外な反応が返ってきた。
「それは一体何故でしょう?」
「神が居ても居なくても変わらないのなら、どうして信じるという選択をしないのでしょうか?
私はそれが気の毒に思えるのですよ」
「信じないと気の毒なのですか?」
「はい。だって寂しいではないですか。
現世は辛いことが多過ぎるのです。
その辛さを誰に押し付ければ良いのですか?
私達の神々はとても世俗にまみれており、如何なる者も受け入れてくれるのです。
良いことがあれば神のおかげ、悪いことがあれば神のせい。
私は我が国の神が寛容である事に誇りを持っております」
神について様々な話を聞いてきたが、このような切り返しは初めてだ。
信じないことが罪でなく、信じることで実利を説いたのは初めてだった。
そして一点、気になることがあった。
「我が国と申しますと、他は違うのですか?」
「国によって様々です。
厳しい修行を課す教えもあれば、膨大な寄進を要求する神もある。
贄を強制する神もあるそうです」
「かぐや殿、少し良いかな?
秋田殿の話は本当かな?」
試しに神の使いを自称するかぐや殿にも話を振ってみた。
「大方はその通りです。
仏教一つとりましても、開祖である釈尊が悟りを開かれてから千年以上が経っております。
その間に様々な宗派が出来、同じ教えでありながらその解釈は様々です。
更に西には唯一無二の絶対の神を信じる国があり、他の宗教を邪教として排斥する事すらあるそうです。
それに比べますと、我が国の神とはとても寛容で居心地が良いと思っております」
淀みない答えに嘘偽りは感じらない。
話している内容もかなり高度な知識を持っていることを伺わせる。
だがそろそろ話しの核心に迫ろう。
秋田殿にどうしても聞きたかったことだ。
「私がどうしてこのような事を尋ねたのかと言うと、かぐや殿の話が神託ありきの話に聞こえるのだよ。
今の政が尋常でないことは疑いの余地はない。
しかしそこに神が入り込むことに強い違和感があって、敢えて聞いてみたわけだ。
故にかぐや殿の神託を疑うところから議論を始めるべきかと考えている」
「つまり姫様が神の使いでも天女でもないと……?」
「それはどちらでもいい。
重要なのは神託が正しいかどうかだ」
「なるほど……。
姫様、私はその神託を存じません。
姫様が授かったという神託を教えて下さい」
少し焦り過ぎたか?
考えてみれば“神託”について秋田殿には何も教えていなかったのだ。
「はい、先日、月詠尊様の御使いから神託を承りました。
その神託とは中大兄皇子の暴走を止め、加護を与えた天津甕星様の企みを阻止せよとの事です。
中大兄皇子が暴走した先にあるのは、来るべき未来の消滅です。
大海人皇子が即位して帝となり我が国の神話の策定事業を推し進めるのですが、中大兄皇子、敷いては天津甕星様はその未来を消そうとしているのです。
我が国の過去、現在、未来において、今この時はこの国の在り方の根本が形成されんとする重要な時を迎えているのです。
天津甕星様はこの国家の創世そのものを歪めるつもりなのです。
その野望を阻止するために、私はこの世界に送り込まれたのだそうです」
「そうだったのですか?」
秋田殿が驚いたように聞いたという事は、知らなかったのか、それともこの場の出まかせか?
その場で始まった言い争いが変な方向へと進みそうになってきたのでひと先ず止めた。
「かぐや殿が言った通り中大兄皇子には権力がある。
その権力の使い方次第で、多くの人が不幸になる事は、さしもの私も黙って見ていられない」
「では村国殿はどうされたいと考えてますか?」
「かぐや殿から受け取った宇麻乃殿からの便りにあったのだ。
『私にかぐや殿を託し、彼に代わって物部の使命を果たして欲しい』とな。
元々は村国は始祖を同じくする物部の流れを汲むものだった。
物部の使命が何たるかは私も知っている。
秋田殿が忌部の使命を帯びているのと同じようにね。
だからこそ、権力が暴走することを座して見捨てることは出来ない。
力になりたいと思っているし、そのためには心から納得せねばならないんだ」
宇麻乃殿の木簡を見た時に私の覚悟は九分九厘決まっていた。
しかし、気になる一文があったのだ。
『かぐやをおいて他に中大兄皇子に対抗できる者無し』と。
この言葉が真であるかを私は見極めたいのだ。
「たしかに兵法において村国殿の後押しがあれば、劣勢にあっても戦で勝機を見出すことが出来るでしょう。
味方であればこの上なく頼もしい御方です。
我が国にある兵法の書の半分が村国殿の蔵書だと噂される方です。
この道では第一人者と目されております」
秋田殿の言葉に私自身が驚いた。
第一人者であるかどうかはともかく、私の事をそこまで知られているとは思わなかった。
その言葉を聞いたかぐや殿が妙な事を言い出した。
「それならば、神託はひとまず置いておいて。
まずは私が村国様のお手伝いをしましょう。
兵法だけでは皇兄である中大兄皇子に対抗は出来ませんでしょう。
私にはそれを後押し出来る秘策があります」
「姫様、それは変ではないですか?
本来、姫様が戦うべき戦ですよね?
それを村国殿に丸投げするんですか?」
そう、かぐや殿が戦の主体ではないのか?
かぐや殿の話では、私が皇兄と敵対する首謀者という事になってしまう。
「そうとも言えますし、少し違います。
中大兄皇子の武器は、神より与えられし『力』と、中大兄皇子の生まれ持った『権力』です。
前者は私でも対抗できますが、後者は相手になりません。
そもそも神託の前から大海人皇子の手助けをすると申していたのです。
しかしその頼みの綱である大海人皇子は中大兄皇子に見張られていて自由に動けません。
ですからそれを村国様に託したいのです」
「村国殿に何の得があるのですか?」
「得が必要でしたら用意しますよ」
ここ一番の時のかぐや殿の腹の座り方は好ましいと思う。
見返りを用意するという自信がどこから来るのか分からぬが、考えようによっては私のやりたいように出来るという事でもある。
決して悪い提案ではない。
「いや、見返りは要らない。
聞いた限り君達の話に偽りは無さそうだ。
神託云々はともかく、かぐや殿自身は信じられる方だと思っている。
それに敵は皇兄だ。
私が蓄えた知識をぶつける相手として不足は無い。
しかし足りない物ばかりなのも事実だ。
色々と考えなければならないよね」
とりあえず、今後の方針だけは決まった。
しかし私の疑問が完全に晴れることは無かった。
(つづきます)
このままのペースでは幕間がいつまでも続きそうなので、少しボリュームアップしました。
次話で終わらせて、本題に戻りたいと思っております。




