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かぐや vs 秋田・村国・・・(2)

 (ふよふよふよ)


 光の玉で作った大きな地球儀を見て、秋田様と村国様は呆気に取られています。


「千四百年……一体……どんな……」


 村国様は呆然と呟いています。


「よもや未来……それも千年……」


 秋田様は魂が抜けたかの様になってしまわれました。


「「ぶつぶつぶつ……」」


 埒があきませんね。


 ぱあんっ!!


 思いっきり手を叩きました。


「「はっ!」」


「話が進みません。

 続けて宜しいでしょうか?」


「「ああ、うん」」


 妙に息が合ってますね。

 オタ友同士、意気投合したのかしら?


「私はおよそ千四百年後の大和で平凡に暮らす女子でした。

 私の世界では分業が徹底していて、ごく一部の人が稲を育てれば、一億人以上いる国民全員のお米を作ることが出来ます」


「「いちおくにん!!」」


 面倒なので無視しましょう。


「ある人は建物を建てる仕事を生業にして、ある人は衣を売る仕事を生業にして、またある人は歌の才を生業にしています。

 そして私は讃岐でやっていた様に帳簿を付けたり、他の人の仕事が滞りなく出来る様段取りをする仕事をしていました」


「かぐや殿、……衣を売るとは何だ?」


「良い質問ですね。

 唐では貨幣というものがあり、貨幣と様々な品物とを交換できる事をご存知でしょうか?」


「ああ、よく分からぬが、布を介して交換する様な物だと認識している」


「その布の代わりに、複製が難しい高度な鋳造技術により作られた貨幣を用いるのです。

 貨幣さえあれば、様々な物が手に入ります。

 食料、木材、布、女性からの施し、など」


「それは本当ですか?!」


 秋田様が食いつき気味に質問をしてきます。

 まあ、それが目的で言ったのですけど。


「一線を越えると国が定めた律により罰せられますが、貨幣さえあれば楽しいひと時を過ごす事が出来ますよ」


「一線! 一線とは!?」


「ご想像にお任せします。

 ほほほほほほ」


「それにしましても……。

 十年後ならば我々もまだ生きているかも知れません。

 百年後ならどうにか想像することが出来ます。

 しかし千年後となりますと予想もつきませんね」


「十年なんて過ぎてしまえば夢の様に思うものです。

 百年となれば夢の中の夢の如く。

 千年ともなれば光の矢の如しです」


「面白い表現ですね」


【天の声】それ、千年女王のパクリだろ!


「ところでかぐや殿。

 千四百年年後には、戦は無くなっているのか?

 兵法家としてはそこが一番気になる」


「難しい問題です。

 幸い和国は七十年以上戦のない束の間の安息を謳歌しております。

 しかしこの地球の何処かでは、人が人を殺し合う醜い戦が繰り広げられています。

 しかも効率良く人を殺す手法が確立されており、戦そのものが変質しています」


「効率? 人を殺す効率とは一体何ですか?」


「音の速さで鉄の礫(じゅうだん)を飛ばす道具があるのです。

 それをお互いに撃ち合いするのです」


「それは弓矢の様な物か?」


「大きさは様々ですが、小さな物ですと掌に乗ります。

 戦に使う物は剣と同じくらいの長さで、細長い筒からつぶてが絶え間なく飛び出します。

 ダダダダダダっ! っという具合に」


「音の速さの礫なんて避けようが無いじゃないか」


「はい、当たれば大怪我するか、当たりどころが悪ければ死にます。

 しかし、それは末端の戦いにしかすぎません。

 何故なら、未来の私達には空を飛ぶ乗り物があり、もっと強力な兵器があるのです。

 礫すら届かない上空から鉄の礫や、破裂して周囲一体に破片を撒き散らす塊。

 更には火の熱さを遥かに越える高熱を周囲に解き放ち、一度に数十万人もの命を奪う兵器すらあるのです。

 後先を考えず本気で戦をしてしまえば、この地球上の命という命は全て消え、死の星にする事ができる様になってしまったのです」


「そんな……人とはそんなにも愚かなのか?」


「愚かではなく、賢く未熟なのです。

 仮にそれを最終兵器と呼びますが、最終兵器を禁忌として取り扱い、お互いがお互いに牽制しながら封印する事で、どうにか滅びの運命を免れている状態です」


 村国様は項垂れて、頭を抱えてしまいました。


「姫様が仰っていた言葉にまさかその様な背景があったとは……」


 秋田様も顔面蒼白です。

 きっと地獄絵図の様な未来を想像しているのだと思います。


「安心して下さい。

 私が居た和国は七十年間、戦を経験せず、平穏のときを過ごせていた、という事実が大事なのです」


「それは何故でしょうか?」


「いくつかの要因があります。

 一つは七十年前に手痛い敗戦を経験したことで、二度と戦をしてはいけないという機運が高まった事。

 そして、戦とは仲間を募る事が肝要ですが、その仲間(同盟国)に恵まれた事。

 そして、万が一の事態に備え、武器と兵士の育成を怠らぬ事。

 そして、優れた練度の兵士の方々が国を護り常に不測の事態に備えている事。

 戦とは決して武器だけでやりあうものではないのです」


「つまり……、千年以上経っても兵法の教えは活きているという事か?」


「はい、孫氏の書は多くの兵士の愛読書として重用されております」


 村国様の目から一筋の涙が零れ堕ちました。

 そんなに大層な事なの?


「良かった……私の進む道は決して間違いではなかったのだ」


「ま、まあ、険しい道ではありますが……」


「姫様、私にも聞かせて下さい。

 未来の書はどのようなものなのでしょうか?」


「全く異なっております。

 まず量が違います。

 印刷という技術の発展により、同じ書が数千、数万、と大量に作られるようになり、至る所に書があふれ返っております。

 そして書だけを集めた図書館という場所には、数十万冊の書がいつでもだれでも閲覧が出来るのです」


「それは大袈裟に言っているのではないのですよね?」


「残念ながら……控えめに申しております。

 図書館そのものが数万とあるのです。

 公共の場(公民館)の書を集めた図書室を含めれば、その数は膨大です」


「では私の様な蔵書を趣味とする者は……もう……」


「安心して下さい。

 全ての書を網羅することは出来なくても、専門の書ならば個人でも収集が可能です。

 例えば薄い書にしても、様々な分野があります。

 題材、作者、元ネタ、軽度ソフトな書から重度ハードな書まで様々です。

 印刷の技術があれば自らが薄い書(同人誌)を作り、数百冊を配布することも出来るのです。

 文章だけではありません。

 絵にしたり、仮装コスプレしたり、土偶フィギアにしたり、楽しみ方は様々です」


「そうなんですね。

 何だか希望が湧いてきました。

 姫様の行動の原点を見たような気がします」


「ええ、是非お励み下さい」


【天の声】古代人を汚染するな!


「かぐや殿、疑って申し訳なかった。

 これだけ真に迫るものを見せられて、なお疑うほど私は狭量ではない。

 それにかぐや殿の知見には分厚い裏付けを感じた。

 流石は未来の世界で学びを極めただけの事はある」


 そう言って、村国様が深々と頭を下げます。


「いえ、そんな。買い被り過ぎです。

 何度も申しますが、元の世界では地味で平凡な何の取り柄もない女子おなごだったのです」


「いやいや。

 そもそも私が兵法を学んでまだ十年かそこらだ。

 それに比べれば、かぐや殿は二十年以上、いやこちらに来てからも学んでいるから四十年は学んでいるのだろう。

 もはや国博士とも引けを取らぬ。

 かぐや殿に比べれば私などまだひよっこだ」


 ……ピキッ!


「そうですね。

 私も姫様が幼い頃から年下なのに尊敬出来る御方だと感じていたのは、まんざら間違いではなかったのですね。

 何せその時点で姫様の方が私より年上だったのですから。

 私こそ姫様を師と呼ばせて頂きますよ」


 ……ピキッ!


「そうだな、私も年長者に敬意を表して尊師として仰ごう」


 …………ピキピキッ!


「あ・な・た・た・ち~」


「「え”?」」


「だ・れ・が、年上ですか?

 だ・れ・が、四十年学んでいるのですか~?」


「え、いえ、それは考えすぎですよ。

 年上を敬うのは儒教の教えですよね」

「その……、年長を敬う事に他意は無い……のだよ?」


 …………ピキピキピキピキッ!


「だ・か・ら・誰が年上なんですか?

 私がこちらの世界に来て、まだ二十年も経っていないのですよ!

 人生リセットしたから、ノーカンなんですっ!」


「すまない、いや……申し訳ございません。

 口が滑った。

 この通り謝ります。

 何を言っているのか分かりませんが、気を悪くされたら御免なさい」

「姫様、どうかご慈悲を!」


「くらえ!」


 チューン!

 チューン!


「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」


「今日一日、その格好で過ごしなさーい!!」


 ツルッパゲになった二人のオタクは、その日一日かぐやのご機嫌取りに奔走するのであった。




【天の声】……ベタだな。


♪ 十年は夢の様 百年は夢また夢~ 千年はぁ~一瞬のぉ~光の矢ぁ~~ ♪

 新竹取物語「千年女王」(松本零士大先生原作)ですね。

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