かぐや vs 秋田・村国・・・(1)
二人ともビビってます。
(ふわぁぁぁ~~~)
「秋田様、大きな欠伸などして、疲れが溜っているのでしょうか?
もし宜しければ、癒やしの術を施しますが?」
「有難うございます。
ただ単に寝不足なだけですので、お気になさらず。
ところで、”村国殿が”姫様に伺いたいことがあるとの事です。
少し話をさせて頂けませんか」
「それは一向に構いません。
一体何なんでしょう?」
「まあ、その時にでも」
「承りました」
◇◇◇◇◇
皆で朝餉を食べ、一段落した所で村国様と秋田様と私の三人で話し合いの場を持つことになりました。
「御行クンはいいのですか?」
「ま、まあ彼は前途洋々の若者だから、今回はひな……ではなく別の用事をお願いしているんだ。
もし彼にも話して良い内容だったら、後で話すことにしよう」
ひな? ひなひなひな……、ひな祭り?
この時代に節句はありますが、ひな祭りがありましたっけ?
それともひなげしの花でも摘みに行ったの?
♪ おっかのうえー ひんなげしのはぁなでぇ~ ♪
地味顔の大センパイですね。
もっとも、御行クンに洗いざらい話すのも考えものかもしれません。
御行クンは求婚者候補の一人ですから、変に私の事を深く知られて、私に関心を持たれて、求婚でもされようものなら、私は無理難題を吹っ掛けてしまうかも知れません。
イケメンだけど体育会系&ワンコキャラは私の好みでもないし。
村国様のお部屋へ行くと、飲み物と甘味が用意されていました。
ひょっとしてご相伴に預かれるということ?
ラッキー♪
朝食の後ですが、甘いものは別腹ですから大丈夫。
「かぐや殿、何度も何度も申し訳ないね。
秋田殿に色々と教えて貰ったのだけど、どうしても最後の疑問が解けなくて、”秋田殿に”聞いて頂くようお願いをしたんだ」
どうやら、秋田様が寝不足なのはこのせいみたいです。
何か聞き難いことでも尋ねるつもりなのかしら?
パンツの色とか?
ちなみに下着は朝倉宮の火事で全部え燃てしまったので、裳の下は何も履いていないのよ。
萌えるでしょ?
「ええ、私に答えられることであれば何なりとお尋ね下さい。
それが村国様に必要なのであれば一向に構いません」
「かたじけない。
“秋田殿に”聞いてみたのだけど知らないと言うし、かぐや殿が話さないのにはそれ相応の理由があるのだと思う。
しかし”秋田殿とも”相談したのだが、やはり避けて通れないとい結論になり確認することにした」
「一体、何でしょう?」
「その……、気を悪くしたら先に謝っておく。
だから怒らずに教えて欲しいのだが……、かぐや殿は何処から来られたのかな?」
……は?
「姫様、私も姫様が讃岐に来られる前のことについて全く存じ上げません。
しかし姫様の知識の源が何処にあるのかを知らずに姫様の話を信じることが危険だと、”村国殿が”おっしゃるのですよ」
「いやいや、”秋田殿も”同意されてでは御座いませんか」
「いやいやいや、あくまで”村国殿が”……」
「……あの~、私の元いた世界について知りたいという事で宜しいのですか?
既に斉明帝や鵜野皇女様には話しております。
もしかしたら中大兄皇子にも未来を見通す力で、その場面を見られているかも知れません。
なのでお二人に話をすることは吝かでは御座いませんよ」
「そうなんですか?」
「ええ、聞かれませんでしたから話をしなかっただけです。
強いて言えば、信じて頂くのが面倒だったというのが本音です」
「それではお話して下さるということか?」
「ええ」
「気を悪くされたりはしないのか?」
「それくらいで怒ったりはしません。
むしろなんでもっと早く聞いてくれなかったのか不思議なくらいです」
「そうだったのですね。
ははははは、すっかり私は姫様がお隠しになっているのだと思っていました」
「まあ、自ら進んで話をしようとしなかったのは事実です。
しかし自分の使命を知った以上、この期に及んで隠すつもりはありません。
敵が知っていると思えば隠し事なんてしてられませんよ」
「ではかぐや殿、教えてくれるかい?」
「ええ、分かりました。
でも、話すからには信じて頂きたいので、小道具を使いますね」
「「小道具?」」
「すみません、戸を閉めて部屋を暗くして下さいますか?」
「ああ」
そう言うと村国様は戸を閉め、明かり取りの窓を閉めました。
部屋の中は隙間から入り込む僅かな光だけです。
そこへ私は光の玉を浮かべました。
(ぽわっ!)
そして人の姿へと形を変えました。
「「……!!!」」
二人が息を呑みます。
「これが元いた世界での私です」
OL時代の制服を着て後ろに髪を束ねた無表情の『ザ・事務員』の私が宙に浮かんでおります。
下から覗かないでね。
「これが……」
「何と申しますか……当たり前ですがそっくりですね。
しかし妙な格好ではないですか?」
「主に仕事中の服装ですが、元の世界では当たり前の格好です」
「それにしても、大人……だよね?」
「え? ……子供に見えますか?」
「いや、怒らんでくれ。
かぐや殿が讃岐に現れたのは子供の時だったと聞いていたんだ」
「別に怒ってはいませんが、私は向こうの世界では大人だったのです。
この世界に来た時、持ち物を全部取り上げられて、服も何も持たないスッポンポンの子供の姿で放り出されたのです。
非道いと思いませんか?」
「あ、ああ、……酷いね。
それにしても膝を出した衣なんてまるで童子の服に見えるけど、これも当たり前?」
「ええ、当たり前の格好です。
むしろ地味な格好の部類に入ります」
「つまり姫様は向こうの世界で大人になるまで過ごされていたと?」
「はい、向こうの世界では数えで……八歳から二〇歳まで、全ての子供が学びの期間としてひたすら勉学や武道に励みます。
更にそのうちの半数の者はそれでも飽き足らず更に四年、或いは六年間、最高学府にて学びを極めます。
私も四年間、古の書について学びました。
その後、職に就き、先程の格好で働いていたのです」
「しかしかぐや殿。
そんなに長くては、学んでいる間に大半の子供が亡くなってしまわないか?」
「医術や薬学が発展しているおかげで、生まれ出る子供の九割八分の子が十八歳の成人を迎えるのです。
更に言えば、半数以上の者が八〇過ぎまで生き長らえます。
それくらいに人死にの少ない世界だったのです」
「何と……、まさに桃源郷ではないか」
「先日も申しましたが、ここまで発展しても桃源郷にはならないのです。
人の持つ欲というのは果てがないのです」
「しかし、これを桃源郷と呼ばずにはいられないのは私だけか?」
「当たり前だと思っている基準が違いすぎるので、比較できないと思います。
それに両方の世界を知る私からすれば、この世界も決して悪くはありません。
むしろ、元の世界で失ってしまった大切なものがここには残っているとさえ感じます」
「そうなのか……。
で、これの何処がかぐや殿の元いた世界を知る小道具なのかな?」
「これから説明します。
少々お待ちください」
私はそう言って、私の姿をした光る人を変形させて直径1メートルくらいの球体にしました。
そして地図をオーバーラップさせて地球儀にしました。
「これが何か分かりますか?」
ふよふよと浮かぶ地球儀を見て、ふたりとも怪訝そうな顔をしています。
「月……ではないよな?」
「青い綺麗な球体ですね」
「これは私たちが住む大地、地球と呼ばれております。
青い部分は海です」
「「???」」
よく分かんなーい、といった様子です。
私は立ち上がって地球儀の日本列島を指さしました。
「ここが和国です。
筑紫がここ、蝦夷がこの辺り、畿内はここです」
「「!!!」」
「ここが韓三国、そしてこの辺り一帯が唐の国です」
「まさか……そんな……」
「和国はこんなにも小さいのですか?」
「いいえ、世界が広いのです。
ここが天竺でしょうか?
最果てだと思っている天竺ですら、広い世界の中では近所なのです。
更に西にある大きな陸地には肌の黒い人達が住んでいます。
この当たりの人達は戦に明け暮れております。
下側の白い大地は、一年中冷たい氷に閉ざされ、人が足を踏み入れる事が出来ません」
「しかし姫様。
大地がこの様な形でしたら横や下にいる者たちは皆落ちてしまうのではないのですか?」
「いいえ、落ちません。
地球の表面に住む私達を含めて万物は、この地球の中心へと引き付けられているのです。
つまり私達が踏みしめている大地は球体であり、下と感じているのは球体の中心方向なのです」
「かぐや殿、驚きすぎて言葉が出ないのだけど……。
仮にこれが我々の住む大地だとして、かぐや殿は何処からきたんだ?」
徐ろに私は日本を指差してこう言いました。
「私は和国の大和から来ました。
ここの大和と違うのはただ一つ。
千四百年もの未来だったということなのです」
「「未来?!」」
(つづきます)
頭の中で ♪ おっかのうえー♪ がリピートしております。




