表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

423/585

かぐや、未来について語る・・・(2)

少し哲学的な話になってしまいました。


(※前話より話が続いております)


「それにしても、不確かさはあるもののかぐや殿の未来を見れる力があれば、未来を見れるという中大兄皇子と対等に渡り合えるのではないのか?」


 村国様が素朴な疑問をぶつけてきました。


「私が知る未来とは知識の様なものです。

 たとえて言うなら、神話で聞いた話と目の前での出来事とが奇妙に一致している様な感覚です。

 ですから、初めて中臣鎌足様とお会いした時も、鵜野皇女様とお話している時も、額田様が目の前に現れた時も……。

 神話の中に登場する神様か著名人に会ったかのような気持になりました」


「つまりかぐや殿は、今の我々の居る世を物語の様にして見てきた所からやって来たという事かな?」


「そう解釈していただいて構いません」


「ではその物語の結末はあるのかい?」


「歴史とはらせんの階段の様な物です。

 グルグル同じところを回っている様に見えて、その実段々と高い所へ行っていたり、あるいは下へ下へと降りている。

 歩いている人々には何も変わらない日常けしきでしかありませんが、大局を見た時、実は大きな踊り場へと差し掛かっていたりするのです」


「随分と遠回しな言い方だけど、何を言わんとするのか分かるような気もするよ。

 おそらくそれは神様の視点で我々を見ているという事だね」


「神様は行き過ぎですけど、高い場所から見ていると思って差し支えありません」


「という事は、我々がこの先もっと良い未来へと向かうための澪標みをつくしとしてやって来たということかい?」


「そうですね……

 月詠様には一度しかお目に掛った事が御座いません。

 その時に言われた言葉が、

『世のことわりを学んだそなたならば同じ過ちを繰り返すまい。頼むぞ』

 ……たったそれだけなのです」


ことわり? それは一体何なんだ?」


「さっぱり分かりません。

 私が学んできだ学問をさしているのか、働きながら得た知識や経験なのか、あるいはその世界で体験した不条理の数々だったのか。

 ただ一つ言えることは、私がこの世界の未来について、幾分か詳しい事は確かです」


 だって日本書記が卒論テーマでしたから。

 仲の良い友人の卒論テーマが竹取物語だったし。


【天の声】うろ覚えだけどな。


「かぐや様、一つ聞いて宜しいでしょうか?」


 私達の会話を聞いて御行クンから質問です。


「ええ、答えられる事なら」


「我々の未来とはどのようなものでしょうか?

 我々はいつか必ず死にます。

 ですかその先、ずっとその先にどのような未来があるのかご存じでしたら教えて下さい」


「そうですね……、何の苦労も不安も無い理想の世界、唐ではそれを桃源郷と呼んでおります。

 遥か西の国ではユートピア、アルカディア、シャングリラ、……様々な呼び名があります。

 しかしどんなに時が経ち、人々の暮らしが豊かになろうと、この世は桃源郷にはなりません」


「随分とはっきり否定されますね」


「人はより良い未来を夢見て、頑張る生き物です。

 苗を植えたら秋にはたわわな実りを夢見て、子供が生まれれば立派に成人する姿を夢みます」


「しかし現実は厳しいですね」


 秋田様が私の言葉に合わせます。


「もし……それが叶ったら、人は満足すると思いますか?」


「それは勿論ではないですか?」


 御行クンらしい即答です。


「ところがそうはならないのです。

 より多くの富を求め、人々は争うのです。

 人をだまし、殺めて、奪い取ろうとするのです。

 人の業とはかくも深いものなのです」


「そんな馬鹿な!?」


 御行クンは私の返答に納得がいかないみたいです。


「不思議なもので、人というのは不便が無くなるとそれを当たり前の事だと思ってしまうの。

 そして当たり前の事を得だとは思わず、自分には足らない事ばかりだと不満をこぼし、更に欲を出してしまうのよ」


「確かに人にはそのような面があるかも知れませんね。

 仏教の世界で『吾唯足知(われ、ただ足るを知る)』という言葉があります。

 そのような人の業があるからこそ生まれた教えなのでしょう」


 秋田様が蔵書家らしい事を言います。

 だったら萬田先生のお胸(チーパイ)で満足しなさい!


【天の声】秋田に代わって答えよう。無理だ! 大きさではないのだ!


「厄介なのはそれが人だけではないのです。

 国そのものがその様になったらどの様な結果をもたらすと思いますか?」


「それは先ほどかぐや殿が言った言葉を国に当てはめるれば良いのかな?

 国をだまし、国を殺めて、国を奪い取ろうとする、とでも?

 実際に隋国はそうやって滅んだわけだから、決して絵空事ではないね」


 村国様が私の意見を補って下さいます。


「今のこの国の在り方があまりに未熟なのは、私も心を痛めている事です。

 斉明帝、大海人皇子様、鵜野皇女様、中臣鎌足様、そして中大兄皇子。

 皆、足りないことを知っているからこそ、国の在り方を根本から変えようとしているのです。

 ただ、中大兄皇子のやり方は余りにも危険です。

 国が自らを富ませようとする目的が同じであったのに、今ではそれに至る手段そのものが目的に入れ替わっております。

 そして同じ過ちは未来において何度も何度も繰り返されるのです。

 例え人の生活が豊かになってもずっとです」


「つまり、かぐや様はこの先にあるのは桃源郷とは正反対へと向かうというのでしょうか?」


「安心して。

 人は過ちを犯しますが、同時に反省もできるのです。

 過ちの数だけ反省もあるのです。

 大切なのは過ちを正す心です」


「それが姫様がここへとやってきた真の目的という訳なのですね。

 過ちを繰り返さぬようにと」


「どうでしょう?

 私は秋田様が言うほど立派な女子おなごではない事はよく存じてますでしょ?

 もし中大兄皇子が目の前に居たら、決して許せないと思います。

 今でも建クンが実の父親の剣に刺し貫かれられた瞬間の記憶は薄れることはありません。

 玄界灘の船の上で彼を殴り殺せなかったのを未だに悔やんでおます」


「そんな事が……」


「この先、人はどんどんと豊かになっていくの。

 だけど人の心がそれについて行けず貧しい心のままならば、何も変わらないという事。

 それは私自身にも言える事なの。

 澪標として案内は出来ませんが、一緒に悩むことは出来るから」


「そう言えば思い出しました。

 『人は賢く、また未熟である』

 姫様がまだ幼かったずっと昔、仰った言葉ですね。

 まさかここまで含蓄のある言葉だとは……」


(※第55話『その時歴史が動いた!』、第65話『皇子の呼び出し』ご参照)


「同じ言葉を耳にした中大兄皇子はああなってしまいましたけどね。

 今でもあれは本当に起こった現実だったのかと不思議に思います。

 あの時、若く理想に燃えていた若者が人を落としめす事に快感を覚え、人を人とは思わぬ修羅と化してしまいました」


 建クンと宇麻乃様を失った玄界灘での出来事が頭をよぎります。


「それでは中大兄皇子を亡き者にすれば、問題は解決するのでしょうか?」


 御行クンがズバッと核心をついてきます。


「神託にて、それは駄目だと言われました。

 中大兄皇子が即位するのは確定なのだそうです。

 来るべき未来を構成するためには、中大兄皇子の功績は無くてはならない物なのです」


「では、大海人皇子様が決起するその日まで、我々は準備に明け暮れるわけかな?」


「はい、おそらくはそうなります。

 村国様にはやって頂きたい事がたくさん御座いますので退屈はさせません」


「お手柔らかに頼むよ」


「かぐや様、私も必ずお役に立ちます」


「御行クンも頼りにしています」


「連絡係はお任せ下さい」


「はい、讃岐との連絡をどうしようか頭を悩ませております。

 秋田様、是非よろしくお願いします」


 こうして私達の反撃レジスタンスの砦は静かに行動を開始したのでした。


日本史の授業では遣隋使でお馴染みの隋の国ですが、隋の初代皇帝・文帝が西暦589年長年続いた魏晋南北朝時代を終結しさせ中国の統一を果たしたのにも関わらず、618年二代目の煬帝(ようだい)が殺害され、たったの29年で滅亡しました。

滅亡の原因は全長1800kmにも及ぶ巨大運河の建設と三度の高句麗遠征の失敗による民の不満が爆発したからだと言われております。

政策そのものは間違った方向では無かったのですが、民の実情を鑑みなかったこと、非漢民族による大陸支配の難しさ、そして名君(カリスマ)だった実の父・文帝を暗殺してのし上がった煬帝(ようだい)の人望の無さが原因なのでは無いかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ