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敦賀の天女伝説

小さい子に「オジサン」「オバサン」と言われてショックを受けた事、ありますか?

作者は19の時に経験しました。


 (ずぼ、ざぐ、ずぼ、ざぐ、ずぼ、ざぎ、………)


 はぁはぁはぁはぁ……


 敦賀の豪雪を舐めていました。

 味がしません。

 ペロペロ。


 ……じゃなくて、膝まで埋まる程の雪なんて前世を含めてスキー場以外で経験した事がありません。

 これが新潟とか秋田とか青森とか北海道の人でしたら「なんだこんなもんか」と、雪かきをしながらでも私と同じスピードで進めるのでしょうが、私は寒冷地仕様に出来ていません。

 積雪量10センチでも滑って転んでしまうほど、ヤワなのです。

 思わず「天は我々を見放した」と絶叫したくなります。


 何故、美濃国へ向かうはずの私達が越国へと行っているかと申しますと……。

 大津で小役人に見つかってしまったのが、単発なのか組織的な待ち伏せだったのか判断出来ません。

 なので追っ手をケムに巻くためにも一旦越国へ入ってから引き返そうと考えたからです。


 はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……


 御行クンが防寒着を持って来てくれなかったらマジ危なかったかも知れません。

 寒さを凌そうな小屋は見当たらないので、手持ちの食料と引き換えに暖を取らせてくれそうな家を探しました。

 そしてそれらしい家があれば、「(心の)充電させて下さい」と突撃をします。

 建クンと一緒だった時は、そうゆう事がしょっちゅうでしたから慣れたものです。


 御行クンは「私がやります」と言いますが、女性である私の方が成功率が高いので致し方がありませんね。

 オーケーを頂き、中へ入る時に同行者の御行クンを見て、『ケッ、紐付きか!』と残念がる人が殆どです。

 ちゃんと二人と言ってますから騙してはいません。


 そして家……と言っても大抵は竪穴式住居ですが、家の中に入ると、若い夫婦と子供が……ひーふーみー……、5人。

 そして年老いたお婆さんの合計8人が居ました。

 よく見ると奥さんのお腹が大きいような気がします。


【天の声】もはやこの先のストーリーが見えたな。


 ケフンケフン。


「大変な時に申し訳ありません。

 何かお手伝いが出来ることがあれば仰って下さい」


 家の中では黙っていると居たたまれない気持ちになるので、この辺りの領主様とか、信仰している神様についてお話を聞きます。

 この辺りは氣比神宮けひじんぐうのお膝元ですから、伊奢沙別命いざさわけのみこと様をお祀りしております。

 そしてこのような場所(ばすえ)でも比羅夫様の人気は高く、子供たちの英雄ヒーローみたいでした。


『私って、じ・つ・は・比羅夫様とお知り合いなんですよぉ~』と、承認欲求丸だしな友達自慢をしそうになりますが、さすがに自嘲します。

 お尋ね者が身バレするような真似は出来ません。

 でも見た目の通りの素敵な殿方ですねと余所者の私が誉めると地元の人(ジモピー)は大喜びします。


 御行クンは力仕事を請け負い、雪で押しつぶされそうな家を回って雪下ろしを手伝いました。

 私はお腹の大きい奥さんの代わりに家事を手伝い、子供の世話をします。

 建クンが幼い時からずっと世話をしてましたし、産婆で100人以上の赤ん坊を取り上げた経験は伊達ではありません。

 度付きサングラスです。

 それに私には渦巻き印の救命の光の玉(おくすり)がありますので、零歳児でも任せて安心。

 もちろん建クンに散々使った精神鎮静リラックスの光の玉があれば、どんなやんちゃんな子も大人しくなります。


「へぇー、アンタ、見かけによらず子供慣れしているんだな。

 こんなに大人しくしているガキどもを見たのは初めてだ」


 旦那さんは感心しております。


「本当に助かるわぁ。おかげでゆっくり休めます」


 奥さんからも感謝されました。


「おばさ~ん、もっとお話し聞かせてぇ~」


 ピシッ!


 そしてお子様たちからも慕われています。

 小さい子から始めて『おばさん』と呼ばれた瞬間て忘れないものですよね。

 現代では学生の実習の時に保育園児に言われました。

 当時、ピッチピチのJDだった私のショックは計り知れないものがありました。

 でも二度目のアラサーを迎えて私も成長しました。

 小さな子供から見れば、中学生だってとても大きな大人に見えるのです。

 大人の女性の正しい呼び方を知らないだけなのです。

 ちなみに、奥さんの年齢は私とほぼ同じだったりします。

 ……ガックシ。


 雪が止まなくなったため、翌日も翌々日もお世話になりました。

 すっかりと仲良くなった子供たちに童話を聞かせたり、実習でやった子供向けのレクレーションで遊んであげたりしました。


 そして3日目の夜。

 外はビュービューと吹雪いております。

 そんな中、奥さんが産気づきました。

 出産は慣れているからもうそろそろかねぇ、なんて言ってました

 出産予定日なんて誰も知りません。


 でも、奥さんのお腹を見た時にそんな気はしておりました。

 私も百人超の赤ん坊を取り上げたという事は、百人超の妊婦さんを診てきたのですから、いつ生まれても不思議ではないと思いましたから。

 当然、頭の中では脳内シミュレーションはばっちりです。


「御行クン、甕に雪を入れて湯を沸かして!」


「はっ!」


「大丈夫、産婆はこれまで散々やってきました。

 任せて下さい。

 良いですね、奥さん!」


「はい……いたたた。お願いします」


「旦那さん、生まれる子供にはこの中は少し寒いからジャンジャン火をくべて下さい」


「おうっ!」


 私達の荷物の中に貨幣代わりに布があったのでそれを消毒して使います。

 経産婦ですから、今夜中には産まれるでしょう。

 奥さん、頑張ろうね。


 ヒッヒッフー ヒッヒッフー ヒッヒッフー


 ◇◇◇◇◇


 おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ


 特に危ない事も問題もなく、無事元気な男の子を出産しました。

 清潔な布で包んであげて、お母さんに抱っこさせてあげます。

 ついでに消毒の光の玉をプレゼント♪


 チューン!


「かぐやさん、こんなに楽な出産は初めてでした。

 本当にありがとう」


「いえ、私こそお手伝い出来て良かったです。

 おめでとうございます」


「こんな綺麗な布を使ってしまって良かったのですか?」


「ええ、全然構いません。

 できるだけ綺麗に洗って赤ん坊のために使ってあげて下さい」


「そんな勿体ないわ」


「赤ん坊のために役立つのですから、全然勿体なくないのよ」


 ほぼ同じ年齢の私達は意気投合して、赤ん坊の出産を喜び合うのでした。


 さて、赤ん坊も無事生まれたし、雪が止みました。

 今度こそ美濃へと向かうことになりました。


「ありがとー」

「元気でなー」

「おばちゃーん、また来てねー」


 グサッ!

 心に大きなダメージを受けながら敦賀の地を後にしたのでした。


 ◇◇◇◇◇


【その後の出来事】


「ある日突然、綺麗な女の人が訪ねてきて食料を恵んで下さったんだ」

「子供にとても慕われていて、赤ん坊ですら泣き止んでしまうほどだったそうだ」

「身なりの良い若い男が一緒だったけど、始終女の人に従ってしたそうだ。下男なのか?」

「いや、女の人がもの凄く高貴な方だったに違いない」

「高貴な割には、ものすごく親し気で料理なんかもしてくれたらしいぞ」

「そう言えば、比羅夫様の事をよくご存じだったみたいだ」

「ひょっとして比羅夫様の奥方か?」

「いやそれはない。若すぎるし、あの比羅夫様(むさいの)には勿体ないくらい綺麗な方だった」

「じゃなぜこんな雪深い時期に敦賀に来たんだ?」

「さっぱり分からねえ」

「だけど出産の手際がものすごく良くて、あっちゅう間に赤ん坊が産まれたそうだ」

「ひょっとして安産の神様か?」

「そうかも知れんな」

「無事出産を見届けたら、綺麗な布を残して近江の方へ行っちまったらしい」

「布をか? ひょっとして羽衣か?」

「さあ、そうかも知れねぇし、分かんねぇな」

「昔、気比の松原に天女様が舞い降りたそうだ。その天女かも知れんな」

「昔どころじゃねぇ、前の帝には天女様が始終侍(はべ)っていたそうだ」

「前の……って事はもう天女様は居ねぇのか?」

「もしかしたら今頃は全国各地を行脚しているかも知れねぇな」

「は〜、ありがたやありがたや」


 こうして数日間の滞在で良かれと思ってやったことが、話に尾ヒレ、背ヒレ、臀ヒレ、胸ヒレ、腹ヒレ、ヒレというヒレがくっ付いて、実情とかけ離れた天女伝説が生まれるのであった。


全国に残る天女伝説は、

①羽衣を隠されて帰れなくなった天女

②羽衣を隠した男(もしくは老人)との間に子供を作る

③羽衣見つける

④男と子供を残して天へと帰ってしまう

……というのが標準的スタンダートです。

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