追う男
第388話『竹内街道の攻防』と読み比べますと分かり易いかと思います。
見覚えがあると思った読者様。
御愛読ありがとうございます。
m(_ _)m
***** ???視点 *****
はぁ~、何で俺様がこんな最果ての辺鄙な場所に居なければならねぇんだ。
元はといえば、あの小娘が素直に俺様の言う事を聞かなかったのが悪いってのに。
俺様の……俺様の……、俺様の大事な〇ン〇ンがぁ。
小便する時も不便でならない。
糞っ!
中央で官人としてやっていたこの俺様が、難波宮に飛ばされてから三年が経った。
俺様の言う事を聞かない国造の娘をちょっとだけ痛い目をあわせただけだというのに、内臣の勘気に触れて……。
周りにも竿無し、玉無しと蔑まれ、心はムラムラするのに肝心な物が無い。
だが二ヶ月前、思いがけず復讐の機会が巡ってきた。
あの俺様の大事な息子を奪った憎っくき女がお尋ね者として手配されたのだ。
あいつを捕まえれば褒美が出るだと聞いた時の俺様のやる気は、毛野国で美味しい思いをしていた時以来だった。
その女の名はかぐや。
あの女を間近で見た事がある俺様の利点を活かして探して探して探しまくった。
何人か関係ない女を捕まえて痛めつけたが、大した事ではない。
そしてついに見つけた。
絶対に逃がしたくないオレ様は手柄を独り占めする事よりも失敗を恐れて、事の次第を探索の責任者である物部朴井鮪に報告してしまったのだ。
……慎重に行動したつもりの結果は散々だった。
竹内街道で待ち伏せをして、あの女がやって来たところをすれ違いざまに後ろから棍棒で思いっきり殴りつけた。
本当は剣でバッサリと切ってやろうとしたのだが、鮪に生け捕りを命じられていたため出来なかったのだ。
棍棒で殴った手に確かな手応えがあった。
絶対に上手くいったはずだった。
しかし女は一瞬だけよろけたと思ったら、眩しい光を放って反撃してきやがった。
痛でぇ!!
あまりの痛さに息が出来ず、蹲っていると、女は辺り一面へと光を放った。
すると、木の陰に隠れてこちらを伺っていた連中がバタバタと倒れていった。
やはりこの女は物の怪だ。
意識が遠のく中で俺様はとんでもない物を敵に回したのだと実感したのだった。
だが俺様の災厄はそれだけで終わらなかった。
女は竹内街道の遥か南にある神社で捕まったらしいが、第一陣の攻撃が失敗して取り逃がした責任を俺様が負わされたのだ。
結局俺様は難波宮を追い出され、ここ近江国へと追いやられた。
何でだ!
俺様は与えられた仕事を果たした。
唯一俺様だけがあの女の顔を知るという事で、最初の一撃を加えろと命令されて言われた通りにしただけだ。
何故、オレ様の渾身の一撃を耐えたのかは分からねえ。
手加減なんてしていない。
俺様の大事な大事な、目に入れても痛くない程可愛くて大事な息子の仇なんだ。
するはずがねぇ。
息子を失ってから俺様は俺様で無くなってしまったんだ。
許さねぇ!
その恨み骨髄の気持ちを込めた一撃なんだぞ。
しかし俺様の弁明は全く聞きれらず、今度は近江なんぞに飛ばされてしまった。
畜生!
そんな荒んだ心を少しでも癒そうと、近淡海の畔を当てもなく歩いていた時だった。
!!!! あの女だ!
忘れもしねぇ、あの憎い女だ!
身なりの良い若い男に荷物を持たせて、下僕の様に扱っていた。
何故居る?!
何故、近江に居る?!
捕まったんじゃねぇのか?!
逃げたのか?
……いや、そんな事はどうでもいい。
人違いであっても全然構わねぇ。
俺様の気が晴れればそれでいいんだ。
捕まえようなんて考えなくてもいい。
今度こそ俺様の息子の仇を討ってやる!
俺様は急いで、屋敷へと戻り家人と仲間を呼び、武器を揃えさせた。
お尋ね者だった女が近江の道を歩いているから捕まえるのに協力してくれと頼んだのだ。
かぐや!
今度こそ租の納め時だ!!
◇◇◇◇◇
道は一本道。
まだ陽は高いはずだが、曇天な上に木が生い茂っていて辺りは薄暗い。
ここで襲い掛かっても以前の失敗の二の前だ。
かといって開けた場所では隠れる場所がない。
そこで俺達は木陰に隠れたまま、矢の雨を降らせて仕留めることにした。
あの女は信じられない程、頑丈だ。
俺様の全力の棍棒に全くひるまず反撃してきたのだ。
一撃で仕留めなければ、また摩訶不思議な光を放ち、やられてしまうだろう。
勝負は一瞬だ。
左右に岩がある狭い場所を狙い撃ちをする場所に決めて、弓矢を持った仲間たちを配置した。
見張りの者にどの辺りを歩いているのか報告させ、もうすぐここに来ることは確実だ。
思いもしなかった好機に心が震える。
亡くなってしまった息子の感触も蘇ってきそうだ。
……来た!
男連れのあの女が北へ北へと歩いてくる。
何故か二人の様子が変に見えるが、そんな事はどうでもいい。
それにしてもこのクソ寒いのに軽装だ。
着る衣が無いのか?
まあいい。
あの女もあと少しの命だ。
全員で示し合わせた通り、岩の間を通り抜けようとした瞬間、矢が一斉に放たれた。
さほど離れていない距離だ。
分かっていても避けられるはずがない。
矢がかぐやに刺さった!!
よっしゃっ!! やった!!
死ね! かぐや!!
自分が死んだことに気付かぬうちに死ね!!
◇◇◇◇◇
【かぐや視点】
私達は近江国を越国の方向へと歩いております。
現代も古代も琵琶湖は広大で雄大です。
でも汚れていない分だけ、古代の琵琶湖の勝ちですね。
ブルーギルもブラックバスも居ません。
現代の琵琶湖の水質汚染は関西でも問題になっていて、一時期のピークに比べれば改善されてきておりますがまだまだ道半ばです。
汚染される前の琵琶湖を見ると、現代社会の歪みを見える様な気がしてきます。
私がそんな事を考えているとはつゆ知らず、御行クンは私に荷物を持たせようとせずに黙々と歩いています。
いつもでしたら歩いているだけで質問攻めですがここは近江、敵地です。
一言たりとも声を出さずひたすら黙って歩いておりました。
薄暗い林の中を御歩いていると狭い道に差し掛かりました。
そこに差し掛かろうとした時。
何の前触れもなく何本もの矢が飛んできました。
そして私達にブスリと矢が突き刺さった。
……かの様に見えました。
実はこんな事もあろうかと、私はとあるトリックを駆使していたのです。
逃亡生活で建クンを和ませるために開発した私達を模した光る人(人型バージョン)を100メートル前に歩かせて、私達は目立たぬ様、みすぼらしい格好で遥か後を歩いていたのです。
矢は私達を模した幻に向けて放たれたのです。
やはりここにも敵の目が光っておりました。
今後の作戦に支障が出ては大変ですので、矢を放った人間を一人残らず捕まえなければなりません。
とりあえず私は幻の私達の人型を矢に討たれて倒れたように見せ掛けました。
するとわらわらと弓を持った人達が近づいてきます。
私はその人達に向けて、赤外線の光の玉を連射しました。
<<<<<チューン!>>>>>
命中した連中はパタパタと倒れていきます。
それを見ていたらしい剣を持った別のグループがまた近づいてきました。
(以下省略)
そして私は距離を取ったまま、幻の周りに倒れた連中に向けてこの一月間の記憶を消去する光の玉を一人一人丁寧に当てていきました。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! ……
これで連中は私の事を綺麗さっぱり忘却したはずです。
暫く様子を伺っていると、恐る恐ると言った感じで一人の男が近づいてきました。
……あれ?
何故かあの男に見覚えがあります。
男は倒れてる私の幻に手を伸ばそうとしました。
……が、ビクッと驚いてそのまま逃げ出そうとしました。
どうやら倒れている私が幻であることに気付いたみたいです。
チューン!
しかし逃しません。
最大出力の光の玉で行動不能にして差し上げました。
そして倒れたその男の顔を見た時、私を追う男の正体が分かりました。
お爺さんを讃岐国造から降格にしようとした小役人です。
犬養ナントカという人でしたっけ?
何故この小役人が近江に居るのかは分かりませんが、私の顔を知っているこの人から私に関する記憶を綺麗さっぱり、懇切丁寧に消してあげました。
ファイル名「かぐや***」でソートして選択。そして消去! ×10
<<<<<チューン!>>>>>
◇◇◇◇◇
***** ???視点 *****
……はれ?
俺様は何でここで倒れていたんだ?
何をしていたっけ?
……というか、ここは何処だ?
うわっ! 俺様の大事な息子が無い!!
何故だーーー!!
(なぜだーー なぜだーー (エコー))
一部、気持ちの悪い表現がありますことをお詫びします。
m(_ _)m




