大海人皇子への連絡方法
御行クンのポチ化が止まりません。
(※長門国での養生が明けたかぐや達は美濃国を目指し移動を開始した。敵に見つからぬよう細心の注意を払い、並み居る山賊どもを蹴散らして、摂津へと辿り着いたのだった)
摂津に潜伏中の私達は、話し合い(?)の結果、琵琶湖の東側を通って美濃国へと向かう事にしました。
でもその前に御行クンを派遣した大海人皇子様に現状をお伝えしなければなりません。
今いるこの場所は御行クンのご実家が近いので、そこを経由して皇子様に木簡を渡したいとのことです。
しかし中大兄皇子には『未来を見る能力』があるので、その力に引っ掛からないための対策をしなければなりません。
そこで『未来を見る能力』について改めて考えました。
もし……中大兄皇子の能力が『未来予知』なら、将来の自分が体験するであろう出来事を予知する力だと思います。
一方で『未来視』なら、いつか何処かで引き起こる出来事を視覚として見えてしまう能力です。
記憶を辿ってみると、宇麻乃様が殺された時に中大兄皇子はハッキリと『私には未来が見えるのだ』と言いました。
見える……、つまり『未来視』の可能性が高そうです。
もし中大兄皇子の能力が『未来予知』だったのなら、『未来を知ることが出来る』と言うはずですから。
そう考えると、未来を知ることが出来るはずなのに穴だらけなのも説明がつきそうです。
玄界灘で囚われた時、船の中で私は中大兄皇子をボッコボコにしました。
本気で殴り殺そうとしたくらいのフルボッコです。
なのに中大兄皇子はそれだけ痛い目を見る未来の自分の姿を予知出来なかった訳です。
可能性として自分の姿の未来視が出来ない仕様かも知れませんが。
それにもう一つ。
御行クンが言うには、
『中大兄皇子は見知った者の行動を知る事が出来る』
と、大海人皇子様が推測しているという事です。
つまり未来視の条件が、『自分が知っている者の未来を視覚として見える』のだと考えられます。
私達が宇麻乃様と共に逃亡している最中も、中大兄皇子は宇麻乃様の未来を覗き見ることでどの場所に居るのかが判るほどの精度で見えていたという事です。
もしかしたら音声付きの映像かも知れません。
……エッチな男ですね。
逆に見知らない人の未来が見えた所で、役に立たないどころか情報過多で頭がパンクしてしまうでしょう。
そういう意味で見知らぬ他人の未来が見えないのは、ある種の安全装置なのかも知れません。
もっとも興味がないだけという可能性も捨てきれませんが。
だとすれば、取るに足りない下っ端の御行クンなぞの行動は中大兄皇子には覗き見られておらず、一緒にいる私の生存はバレていないと言うことになります。
そこまで読んでの行動だとしたら、大海人皇子様の読み流石ですね。
やはりデキる男は違います。
そうなると、私が中大兄皇子の知り合いに対面することは絶対に避けなければなりません。
宇麻乃様が"雇用主"と言ってたあの御方にも、です。
お爺さんも中大兄皇子が讃岐に来た時に会っているはずなので、監視対象の一人です。
もし私が生きていることが分かったら、次は讃岐が攻め滅ぼされるかも知れません。
あの偏執ともいえる中大兄皇子に、私はそれだけの事をしましたから。
私が生きていることだけでも伝えたいけど、今は我慢です。
お婆さんのことだから私が死んだと聞いたとしても、
「あの娘はきっと生きている」と私の生存を信じ続けるでしょう。
それはそれで辛いです。
そう考えてみますと、中大兄皇子の監視カメラのような未来視を潜り抜けて大海人皇子様へ連絡する為には、次の条件をクリアしなければなりません。
①中大兄皇子が知る人物を介さずに木簡を渡す。
②差出人に私や御行クンの名を表に出さない。
③大海人皇子に私からの連絡であることを悟って頂く。
④一見して内容が分からず、大海人皇子様には分かって頂く。
……めっちゃハードルが高いやん。
①は簡単に出来そうですが、出来るだけ人を介して元を辿らせない様、工夫を凝らしましょう。
②は簡単ですが、③はどうしましょう?
偽名を使うか、成りすましをするか……?
まるで犯罪者ですね。
オレ、オレ、オレだよ、オレ。
④につきましては以前、御行クンに話しましたし、御行クンも考えると言ってました。
その成果を見せて貰いましょう。
◇◇◇◇◇
「それじゃ、まずどうやって大海人皇子様に連絡するか考えましょう」
御行クンと二人で作戦会議です。
最近、御行クンの言動が従順すぎになっております。
出来るだけ自分で考えて行動することを後押ししましょう。
何でも私の言う事をハイハイと聞くだけでは成長はあり得ません。
数年後会った時に、「まるで成長していない……」なんて言わせないでね。
「はっ、かぐや様の仰せのままに!」
おい!おい!おい!おい!
いきなりツッコミを入れそうになりました。
「いい事?
私一人で考えたらそこから出てくる知恵は私を超えることはないの。
最近、算術も教えてますよね?
一足す一は二なの。
ここに二人いて、二人で知恵を出し合えば一人の倍になるの。
だから御行クンからの知恵も期待しているわ」
「そんな!
私の知恵なぞ、かぐや様の前には塵芥みたいなものです。
かぐや様に物申すなど、なんて恐れ多い」
「いい加減にしなさーい!
人の言う事をハイハイと聞くのは一見良さそうに見えるけど、単に楽をしているだけなのっ!
時には自分で考えて、自分で行動できる者が重宝されるの。
少なくとも頼りたい部下というのは自分一人で考えて動ける人なのよ!」
「は、はい」
「少しは考えたのでしょ?
とっとと話しなさい!」
「はいぃぃ!」
先が思いやられます。
で、出てきたアイディアがこれです。
案1.
『皇子様に置かれましてはご機嫌如何候。
この度の事、全て皇子様の予想通りに進んでおります。
つきましては皇子様の予想通りに動いております。
今後の事につきましては皇子様のご予想の通りと致したく存じ上げます』
案2.
『嗅ぐ矢さ魔を部字反故致し真下。
多大真見野を女座視移動し手織り升。
歳目居て糸猛の巫女波佐ん然長良。
孝敬佐間野田暗みに頼足す鵜野支社』
(かぐや様を無事保護しました。
只今、美濃を目指して移動しております。
斉明帝と建皇子は残念ながら……。
皇兄様の企みにより死者多数)
案3.
『神の知る
ぐらぐら揺らぐ
社かな
星の彼方に
合流すべきか』
(※かぐやほご)
そう言えば以前私が御行クンに言いました。
その例えを愚直に実行した様です。
こんなのを見せられた大海人皇子様の頭を抱える様子が目に浮かびます。
「う……うん、きちんと考えていたみたいで安心したわ。
それじゃ私の番ね。
二番目の文を私の暗号で書いてみます」
そう言って木簡に書いてみました。
『かぐやさまをぶじほごしました。
ただいまみのをめざしていどうしております。
さいめいていとたけるのみこはざんねんでした。
こうけいさまのたくらみによりたすうのししゃがでるもよう』
「……何ですか? これは」
ふと思い出したのですが、過去に一度だけ鸕野様に五十音の概念を理解するために平仮名とカタカナとローマ字を教えたことがあります。
平仮名が成立するのは二百年後の平安時代で、飛鳥時代にはまだありません。
しかし超人的な記憶力を持つ鸕野様ならば、多分この平仮名の文章を読めるはずです。
なので全文を平仮名にしてみました。
これなら中大兄皇子の未来視があろうが、盗み見られる事はありません。
でも平仮名の羅列だけですと、如何にも怪しいのでもう一工夫したいですね。
例えば平仮名を絵みたいに配置して、文字を潜ませると良いかもしれません。
丸とか、四角とか、星とか、山とか、……。
とりあえず山と三日月にこの文章を当てはめてみました。
するとそれっぽくなってきました。
「どうでしょう?」
「それは良いですね。
私にも全然分かりません。
それに、その文字ならば鸕野様はかぐや様からの便りだと一目で分かります」
「そうね。それでは木簡を作成するわ」
こうして私は鸕野様に宛てた木簡を1ダースほど作ったのでした。
残念なことに私には建クンのような絵心がないため、幼稚な絵にしかなりませんでしたが……。
(つづきます)
あれこれと暗号化の作成方法を考えてみましたが、一番楽な方法に落ち着きました。
シャーロックホームズの『踊る人形(The Dancing Men)』みたいなのも考えてみましたが、テキストに落とし込むのが難しいので没にしました。




