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再出発(リスタート)

第十章の始まりです。

宜しくお願いします。

 

 (パチパチ)


 あれ?

 私、何をしていたんだっけ?


 えーっと、斉明帝が亡くなられて……、建クンと一緒に逃げて……。

 ああ、そうか。

 何処かの小屋で休んでいたんだ。

 建クン、寒くないかな?


 焚き木は消えていない様だね。

 火を起こすのにあんなに苦労したんだもん。


 ……建クン。


 ……高志。



 (ガバッ!)


 ここはどこ?

 起き上がると、暗い小屋の中で見覚えのある男の人が火の番をしていました。

 もうすぐ元服という感じの若武者という感じで、ボロ屋には不似合いな程のイケメン君です。


 ……あれ?

 私はこの人を知っている!

 誰だっけ?


「気が付きましたか?」


 イケメン君は私が起きた事に気付くと声を掛けました。

 何故かデジャブを感じます。


「ここは?」


「ここは長門国の浜辺にある小屋を借り、休んでおります。

 かぐや様が気を失ってしまいましたので火を起こし暖を取ってました。

 覚えておりますか?」


 あれ、何か夢を見ていた様な?


 ……建クン!

 夢の中でお話しした建クンの姿が、夢とは思えない明瞭な記憶として脳裏に浮かびます。


「ちょ、ちょっと待って!」


 えーっと、頭の中が混乱しております。

 えーっと、こんな時は!


 チューン!


 精神鎮静の光の玉で強制的に心を落ち着かせます。


 先ずは目の前にいるイケメン君。

 思い出しました。

 大伴御行おおとものみゆきクン。

 昔、建クンを虐めたため、斉明帝の勘気に触れて危うく首と胴体が泣き別れするところだった悪ガキ。


 そして運命の五人の求婚者の一人でもあります。

 何故更生したのかは謎です。


「大伴御行様ですよね。みっともない所をお見せして申し訳ございませんでした」


 そうだ!

 私は建クンと宇麻乃様の死を認識して、錯乱して、気を失ったのでした。

 そうだった。


「いえ、お辛い事があったのでしょう。

 無理もない事です。

 気が落ち着かれるまで、お休み下さい」


「お気遣いありがとうございます」


 建クンの事は夢の中の出来事のお陰で少しだけ消化できたみたいです。

 ショックは引きずっておりますが、建クンが高志……、というより高志が建クンの転生だったなんて都合の良い夢なのか、月詠尊つくよみのみこと様の計らいなのか、判別がつきません。

 いずれ神の御使いの方と話す機会があるでしょうから、その時に確認しましょう。


「聞きたい事はたくさんありますが、まず皇子様のご命令とは何だったのか教えて頂けますか?」


 話の大前提として、御行クンが敵なのか味方なのか、ハッキリさせたいと思います。

 ここまで介抱してくれて敵という事は無いでしょうけど、目的が分かりません。

 まさか『竹取物語げんさく』の通り、私に求婚するため?


「はい、皇子様と妃の鵜野様は、かぐや様が朝倉宮の火災を免れ逃亡しているだろうとお考えになり、お探ししております。

 そこでかぐや様の捜索を私にお命じなさいました」


 さすが、皇子様と鵜野様。

 頭脳も大人、見かけも大人ですね。


「しかし何故、大伴御行様が?」


「理由は分かりません。

 ですが、私に皇兄様と面識がないことを確認され、なおかつかぐや様を知っている私に白羽の矢が立ったみたいです」


 流石は大海人皇子。

 そこまで読んでいるとはデキる人は違います。


「なるほど、さすがは皇子様ですね。

 実は、中大兄皇子が神より未来が見える力を授かったと言ってました。

 私と行動を共にした物部宇麻乃様の行動を見ることで、どんなに相手の裏をかこうとしても私達の居場所が知られてしまいました」


「そのような事があるのですか?!」


 御行クンの理解が追い付かなくなってきました。

 無理もありません。

 そこで光の玉を浮かべてみました。

 暗い小屋の中で明るく照らします。

 それを見てイケメンの御行クンが目を大きく開けて、驚いています。


「神から力を授かったのは中大兄皇子だけではありません。

 私も神様からご加護を受けた身です。

 実際に相対してみてお互いの御業をぶつけ合いました・

 つまりは中大兄皇子に対抗し得る者は私を置いて他に居ないという事です。

 何故なら私に中大兄皇子の神の御業が及ばないからです」


「かぐや様が仰るのでしたらそうなのでしょうが、しかしにわかには信じられません」


「なので、私は中大兄皇子の力の及ばない場所で力を蓄えるべきかと思います」


「では何処か当てはあるのですか?」


「それはこれから考えます。

 ……そう言えば、私は懐に木簡を持っておりませんでしたか?」


「ああ、確か……これでしょうか?

 着替えの時に落としてしまいました」


 ということは私のお胸を見たの? ……とは言えませんね。

 私を介抱するのに必要な処置でしたから。


「すみません。それを見せて下さい」


 木簡を受け取り、潮水で薄くなった墨書きの文字を注視すると、こう書かれていることが分かりました。


『頼れを

 濃に美

 る村居

 男依国』


 ……何これ?

 切羽詰まっていたとはいえ意味不明が過ぎます。

 しかしあの状況で宇麻乃様が意味のない事をするはずがありません。


「少しいいですか?

 この木簡に書かれている意味が分かりますか?」


 木簡を見せながら御行クンに尋ねてみました。


「? ……申し訳御座いません。分かりますのは『頼れ』だけですね。

 男依国という国は聞いたことが御座いません」


 何か意味ありげな感じはします。

 多分、何かの謎解きなのでしょう。

 おそらくは中大兄皇子に覗き見られることを想定して、暗号にしたのだと思います。


 ……うーん。

 入社試験でこんな問題があった様な?

『濃に美』……これを『美濃に』にすれば意味が通る気がします。

 だとしたら……3列目の文字を1列目にカット&ペーストします。


『を頼れ

 美濃に

 居る村

 国男依』


 何か意味が通じる気がします。

 でも何かおかしい様な…………分かった!

 1行目を最終行にカット&ペーストすれば完成です。


 つまり『美濃に居る村国男依を頼れ』

 村国様? ……初めて聞く名前です。


「分かりました。

 物部様の遺したこの木簡には美濃国の村国様を頼るべきと書かれております。

 物部宇麻乃様が中大兄皇子の力を知った上で、頼れるお方を考えた上で推挙しただろうと思います」


「分かりました。

 その旨を皇子様へ報告いたします」


「それは少しお待ちください。便りを受け取る姿を覗き見られるかも知れません。

 工夫を凝らす必要があるかと思われます」


「工夫ですか? 一体どうすれば」


「宇麻乃様のこの木簡の様に他人に見られてもすぐには意味が分からなくするのです。

 例えば……こんなのはどうでしょう?」


 私はそう言って、筆を借りてその辺の木片に詩を書いてみました。


『笹雪舞う

 いわおを流れし

 目代川めじろかわ

 いてつく寒さに

 手をつかむ

 壱岐の島は

 なお遠くなら

 んとす

 君への想いもまた遠くなら

 ん』


「……どうでしょう?」


「何ですか?

 申し訳ないのですが、歌は不得手なので意味が分かりません」


「この詩に意味はありません。

 縦読みです」


「タテヨミ?」


「読んでみて下さい」


「さ・い・め・い・て・い・な・ん・き・ん。

 ……斉明帝、軟禁!?」


「そうです。斉明帝と私達は中大兄皇子により朝倉宮に軟禁されておりました。

 そこを筑紫の者と思われる悪漢により斉明帝は命を落とし、私と建皇子は逃亡の旅に出たのです」


「そうだったのですか……」


「一度に全部伝える必要はありません。

 小出しにして少しづつ、手法を変えてお伝えすれば、皇子様に伝わると思います」


「手法を変えるとは、どうやってでしょうか?」


「例えば……、

『孝敬は御頼臣れる(皇兄は未来を見れる)』と字を変えたり、

『皇子様の予想通りでした』と内容を示さないとか、

 絵にして伝えるとか、方法は様々です」


「なるほど。

 それでは早速、その木辺を便りにして飛鳥へ送ります」


 御行クン、堅物すぎて少し融通が利かなさそうな感じです。

 それにしても、どうしてこれほどまで人が変わったのでしょう?

 先は長いですから、おいおい聞いてみましょう。

 ともかく今は身体の血が足りませんので、よく食べて休むことが優先です。


「申し訳ないのですが、まだ身体が本調子ではないみたいです。

 少しお休みさせて下さいまし」


「ええ、その通りですね。ゆっくりお休み下さい。

 その間に私は連絡方法を考えます」


「お願いします」


 夢の中でもう一度建クンと再会できないか期待しつつ、暫し私は眠りにつくのでした。


 ◇◇◇◇◇


「神楽~! 魔王を倒しに行くぞ~!!」


「高志? 何やっているの?」


「今は異世界に転生して勇者をやっている。

 パーティーを組んで魔王討伐の旅に出るんだ。

 まだレベル1だけど」


「貴方、剣なんて振れたの?」


「イメトレはばっちり、後は実践あるのみ!」


「全然ダメじゃん!」


「大丈夫、大丈夫、神楽が付いていれば治癒ヒールしてくれるんだよね?」


「敵は手ごわいのよ。第一、主人公の器じゃないでしょ?」


「じゃあ神楽が勇者をやってくれよ」


「で、高志は何をするの?」


「僕? 僕は農民Aやるから」


「じゃあ私は農民Aの奥さん役にする」


「それはいいね。うん、そうしよう」



 ……実に下らない夢にうなされるのでした。


(つづきます)

昨日の投稿は2話連投でしたが、1話目を飛ばして読んでしまった方はぜひ御読み返し下さい。


※2025.2.15内容を改変しました。

宇麻乃からの木簡を暗号にしました。

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