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【幕間】神樂と高志・・・(3)

注意

本話は性的なお話を含んでおります。

R15につき15歳未満の方はご退場願います。

あまりに刺激的な内容のため、鼻血が出るかも知れませんのでティッシュのご用意を。


 ※主人(かぐや)の現代での生い立ちと、本作で時々登場していた元カレ・高志(※(たける)皇子の転生)とのお話です。



「それにしてもどうしてこんなにビデオテープがあるの?」


「アルバイト先のレンタルビデオ屋で廃棄になったビデオを貰ったらこうなった……」


「だからと言って使いもしないベータテープまで取っておく必要はないでしょ?

 これは捨てようね」


「いや、後で観るかもしれないし……」


「観るのと見れるのとは違うの。

 家賃を払って、その家賃が使いもしないベータテープ段ボール3個分に使われているのが勿体ないのよ!」


「いや……画質がキレイだし、ベータは場所も取らないから……あまりすり減っていないし」


「使わなければ無駄な場所になるの」


 物を捨てることが出来ない彼を何とか説得して、タイトルの被ったベータテープを廃棄。

 毎日、最低一本をDVDにダビングすることで少しずつビデオの入った段ボール箱を消化していきました。

 見て見ぬふりをしてあげましたが、18歳未満が鑑賞してはイケナイという呪いのビデオもありました。

 そっちの方のビデオも私が不在の間にこっそりダビングして、コピー元(オリジナル)はラベルを剝がして処分しているみたいです。


 当時の私は鑑賞OKの20代(前半)でしたので呪いの対象外です。

 彼が不在の時、時々音量を絞って観てみました。

 大体の場合、真っ最中から始まります。

 DVDと違って、そこで用済み(フィニッシュ)になった事が分かり(バレ)ます。

 ……あ、この体位、あの時に真似したんだ。

 さすがにこの体勢はキツそう。

 お尻……はヤだなぁ。

 うーん、剃った方が彼は喜ぶのかな?


 いにしえの作品を観ながら、彼なりに勉強していたのだと思うと何だか微笑ましい気持ちになってきました。

 夜の営みの時、何としても私に気持ちが良くなって欲しいと一生懸命なのが彼から伝わってきます。

 私としてはどんな行為が気持ちがいいかというより、不器用な彼が抱きしめてくれるだけで十分なのですが、彼を喜ばせるためにも少しは演技をしたあげようと、これを観て勉強しています。

 私ももっと経験が豊富なら良かったのですが、彼しか男性を知らないのでもっと多面的評価が必要なのかも知れません。

 実践はしませんが……。


 もちろんこんな事ばかりではなく、外へ出てデートもしたし、旅行にも出かけました。

 私も彼も会社に勤めているので収入も少ないながらそれなりにあります。

 ただ借金が原因で家庭崩壊を経験した私は贅沢が出来ない体質なので、旅行するにしても近場でした。

 観光地がすぐ近くでしたから。

 たとえ遠くであってもビジホで一泊とかもしくはラブホです。

 ビジホは宿泊日数×宿泊費×宿泊人数ですが、ラブホは一泊の値段ですからね。

 備え付けだからゴムを買う必要もないし。


 そうして回った観光地は、葛飾柴又の御団子屋、荒川河川敷の土手道、封鎖していないレインボーブリッジ、友人たちに買い物を頼まれた新宿のとある専門店、大きな玉ねぎの日本武道館、などなど。

 これを楽しいと思う私はだいぶ彼に毒されてきたみたいです。


 しかし、会社がひけた後の待ち合わせでは必ずと言っていいほど遅刻します。

 彼の仕事はとある製造業のエンジニアでした。

 製造業のエンジニアといいますとスパナを持ってナット締めをするイメージがありますが、彼は製造業の中にあってIT系エンジニアでした。

 実際に製造業と申しましても職種は様々です。

 機械系エンジニアだけでは製造は出来ません。

 システムエンジニアは物理系出身者でしたし、材料化学を担当するのは化学系ケミストエンジニアだったり、今どきの製品は組み込みエンジニア無しでは成り立ちません。


 彼はプログラマーでしたが、本当はゲームプログラマーそれもキャラクタ作成に携わりたかったみたいです。

 実は絵心があり、普通に美大へ行けばよかったのでは? と思うレベルでした。

 しかし絵で生計を立てるののは難しく、安定した収入を得るために飛び込んだのがゲーム制作の現場だったそうです。

 しかしあまりの激務でこのままでは自分の時間が持てないと、一年を待たずに退職し、ITスキルを取得し直したのだそうです。

 つまり学生→社会人→学生→社会人という経歴の持ち主です。

 のほほんとした風貌のわりに努力家の一面もあったみたいです。


 話は逸れましたが、要は時間通りにいかない職種だったという事です。

 素直に謝ればいいのに、自分は悪くないからと何故か謝ることはしません。

 謝ったら貴方は死んじゃうの?

 それが原因でケンカをすることもしょっちゅうでした。

 しかし怒りが長続きしない私と、都合の悪い事をすぐに忘れる彼との間のケンカが翌日まで続くことは無く、彼に至っては一度もケンカしたことがないと思っている程でした。

 過去の事を蒸し返しても、「そんなことあったっけ?」と言ってました。

 必ず(100%)


 私自身、あまり自慢できる様な生い立ちでありませんでしたが、彼もまた同様だったみたいです。

 彼のご両親とは一度も会っておりません。

 私も父とは会うつもりが無かったので、もしお葬式の時は遺骨は海洋散布しようかと話し合っておりました。

 つまりはそんな事を考えるくらいに、この人と一生を過ごそうと考えていたのです。


 高校生の時に天涯孤独となった私にとって、それ以降の家族との思い出というものは存在しません。

 両親と過ごした幼少期はセピア色をした遠い過去の出来事であり、家族離散という結末を思い出したくないがため普段は封印してしまっております。

 そんな空白期間を、彼という存在が本当にどうしようもない日常の思い出で埋めてくれたのです。

 後になって思うのです。

 涙が出そうになる残酷な思い出というのは、ありふれた日常なのだと。


 漠然と……いつまでも続くと思っていた日常は、ある日突然終わりを告げました。


 ◇◇◇◇◇


 その日はいつもの様に彼の遅刻から始まりました。

 週末の外食はファミレスでも有名店でもどこでもいいので一緒に出掛ける事を目的とした約束事でした。

 二人とも放っておきますと一日中部屋に籠りかねず、外出をしないへきが強いので、週一で良いから外に出て冒険の旅をしようという趣旨です。

 なので行先は一度も行ったことがない場所です。


 仕事帰りに駅で待ち合わせて、そのまま目的地へ行きます。

 目的地までの道中、手を繋いでカップルらしさを装います。

 もうすぐネットで調べたお店に着くだろうと信号待ちをしていたらヘッドライトが向かってきました。

 最初は左折のため歩道へと寄ってきたのかと思っていたのですが、赤信号の交差点を減速をしないのに気付いた時点で異常事態であることに気づきました。

 しかし気付いただけで足は動きません。

 運転席のお爺さんの顔もハッキリと見えます。

 目の前に迫りつつあるその車は明らかに歩道にいる私達をそのコース上にしております。

 あとコンマ数秒後、車は私達を蹂躙するだろうというイメージが脳裏を過った時、私を壁へと突き飛ばすかのような強い衝撃を感じました。

 その瞬間は目に映っておりません。

 しかしその時に耳にした音は生涯忘れないでしょう。


 あっけなく。

 本当にあっけなく、ありふれた日常が終わってしまいました。

 その後、どうなったのか、どう過ごしたのかを覚えておりません。


 部屋に戻ると何気ない瞬間に彼が居るような気がして、でももう二度と彼がこの部屋に戻ることがない事を思い出すたびに涙を流す生活がしばらく続きました。

 むしろ仕事をしている方が気分的に楽でした。

 友人たちもやつれた私を気遣って外へと連れ出してくれました。

 無理やりイベントの手伝いをさせられたりもしました。


 心の傷は癒えることはありません。

 忘却と共に自分を苦しめる大切な思い出の上に新しい記憶が覆いかぶさり、見え難くなるだけなのです。

 生涯苦しんでいいられたらどんなに楽だろう。

 そう思う事すらありました。


 それから約十年。

 私は異世界へと放り出されたのでした。


 まさか彼がこんな場所に居たのだとは……。



(幕間おわり)

次話より、第十章に入ります。

第九章は徹頭徹尾ハードモードでしたが、それに比べますとライトになる予定です。

山あり谷ありなのは変わりませんが……。

詳しくは活動報告にて。

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