【幕間】神樂と高志・・・(2)
ビジネス文章らしく、カッチリ句読点をつけてあります。
※主人の現代での生い立ちと、本作で時々登場していた元カレ・高志(※建たける皇子の転生)とのお話です。
彼との初めての出会いはほぼ ナンパでした。
何かの研修だったと覚えています。
しかし何の研修であったかを覚えていないという事は、大した用事ではなかっただろうと思います。
強いて言えば、彼と出会った研修という事。
自由席である場合の私の席は、前過ぎず、後ろ過ぎず、真ん中あたりのやや右よりが定位置です。
一番前に座り講師の目につく様な度胸はありません。
かといって会社の経費を使って研修を受ける以上、キチンとやらなければなりません。
視力にあまり自信が無いので一番後ろの席というのは不便です。
右側でも左側でもどちらでもいいのですが、右利きなので筆記している右手の向こう側を聞くのが気分的に嫌だというどうでもよい理由です。
それでどうでもいいのですが、その人は一番前の左端でした。
何故覚えていたかと言えば、彼が研修中良~く寝ている姿を見ていたからです。
別に他人が寝ていようが構いません。
私だって時々眠くなるのですから。
でも他人が授業中寝ているのを見ると、何故か自の眠気が覚めるので、むしろ有り難いくらいです。
そうして午前が1時間半、午後が2時間半、計4時間にも及ぶ研修が終わりました。
何処へも寄らず真っ直ぐ帰ろうとすると、ほぼ全て寝ていて、何しに来似たのか分からない例の人がこちらへとやってきて、
「一緒に食事をしませんか?」と言ってきました。
こいつは一体何言っているんでしょう?
研修を男女の出会いの場だと勘違いしているのではないのでしょうか?
「申し訳ございません。
今から急いで帰らなければならないのですから」
「あ、もしかしたら※※※社の方ですよね?
少しご挨拶したかったので。
それと昨日あんまり寝ていなくて、今日の研修をずっと寝ていてほとんど聞いてなかったんですよ。
もしメモがありましたら、見せて欲しいなぁと……はははは」
「ははは、ではないと思います。
貴方が良くお眠りになっていたのは、講師を含めて会場中の者が知っております。
とにかくコピーを差し上げますので、それをご覧ください」
食事はしませんでしたが、コンビニへ行ってコピーのついでにイートインでコーヒーを頂きました。
あの頃はパンデミックの前でしたので殆どのコンビニにイートインコーナーがありましたから。
後になって聞いたら、彼が女性に声を掛けたのはあれが生まれて初めてだったそうです。
妙にナンパに慣れていない様子でしたから、故意とかと思っていたら、本当に慣れていなかったのです。
私の敗因は名刺を渡して、社名と所属と名前とメールアドレスを知られてしまった事ですね。
私ももう少し個人情報保護に過敏になるべきでした。
おかげで彼と親しくなれたので、結果オーライですけど。
もっともあの頃の私は男性に対して、あまりいい印象を持っていなかったので彼とも意図的に距離を取ろうとしておりました。
少なくとも私から連絡を取ることはしませんでした。
◇◇◇◇◇
『いつもお世話になっております。
明日の提示後、お打ち合わせのお時間を頂きたく存じますが、ご都合は如何でしょうか?』
『平素は格別のご高配を賜り心より感謝申し上げます。
先日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
本件につきましてですが、大変恐縮ではございますが明日は弊社ノー残業デーにつきお時間を頂く事は叶いません。
ちなみにその翌日も同様に御座います。』
社会人たる者、一社員の行動が社のイメージを左右することがありますので邪険には出来ません。
しかし公私の区別は付けるべきですので丁寧に邪険にします。
◇◇◇◇◇
『プルルルル、総務課の竹園さんですか?
×××製作所のスメラギ様より外線が入っております。
転送します。』
「はい、竹園です。
この電話は顧客サービス向上のため録音させて頂いております。
御用件をどうぞ。」
「あ、その、お世話になっております。
せ、先日の研修でお世話になりまして、そのお礼をと思いまして……」
「ええ、わざわざ恐縮に御座います。
その件につきましてお役に立てましたなら幸いです。
それでは失礼いたします。」
(がちゃり)
◇◇◇◇◇
『プルルルル、総務課の竹園さんですか?
×××製作所のスメラギさんが受付にお越しです。
どうされますか?』
「(はぁ~)はい。直ぐに参ります。」
…………
「お待たせ致しました。
「あの、その、どうもです。
研修の時はお礼をしないままでしたので、これをどうぞ。
皆さんで食べて下さい。」
「ありがとうございます。
それにしましても、どうしてそんなに私なんかに付きまとうのですか?
警察を呼ばれるとは思わないのですか?」
「えぇーっと、その、その時はその時で。
せめて一度だけでもお話をしたいな……と。
そ、それだけなんです!」
「はぁ、分かりました。
ただし今は業務時間内です。
勤務時間内に個人的なご連絡をすることは就労規則により禁じられております。
定時後、このメモのお店でお待ちしております。
この場所でしたら、交番の隣なのでいざとなりましたら逃げ込めますから」
「……ふぁ、はい!
宜しくお願いします!!」
ホントにもう。
◇◇◇◇◇
それをきっかけに彼とのお付き合いが始まりました。
名前は皇高志、ずいぶんと大層な名前です。
見ず知らずの女性に声を掛けて、職場まで乗り込んでくる様な非常識な男だから、チャラいか、余程の女好きか、はたまた偏執狂なのかと思っていましたが、中身は全然真逆でした。
というか、その正体を知ったらあまりの檄レアなオタクぶりに逃げ出すであろう程の変人ぶりでした。
そしてもう一つ、認めたくない事実が。
それは私も同類かも知れないという事に気づいてしまいました。
妙に波長が合うのです。
拙いです。
彼の世界に引き込まれたら私が沼から抜け出せなくなりそうな気がしてきました。
……でも心地い。
初めて身体を合せた時も、私も初めてでしたが彼も初めてで、スったもんだの末結局上手くいったのは二回目でした。
痛かった私は泣かなかったけど、何故あなたが泣くの?
……本当に変な人。
いつしか私の住むアパートに彼も住む様になりました。
部屋ですることと言えば、もっぱら彼の住み家を圧迫している古いVHSテープをDVDにダビングするついでにビデオ鑑賞。
あまりお金を使う事を好まない私には良いのですが、VHSテープが一本減るごとに私はズブズブと沼にはまり込んでいきました。
それにしても、当初誠実そうに見えた彼も、その実は随分といい加減な所があるのに気付いたのは同棲を始めてからでした。
家事はまるでダメ夫クンです。
地頭は良いのですが、かなり抜けています。
身の回りにはあまり拘らず、寝癖はデフォルトです。
そのくせに頑固で、失敗をしても決して謝ることをしません。
頑固というより、謝るのが下手糞なのです。
イケメンではありませんが、ブではありません。
デートの時は私がコーディネートして、『外に出しても恥ずかしくないオタク』くらいに仕上げてあげました。
部屋の中ではおならは臭いし、服は脱ぎっぱなし。
もし私達の間に女の子が生まれたら、
「おやじ、ウザい」とか、
「私の下着をお父さんのと一緒に洗わないで!」とか、
そう言われる事は間違いないでしょう。
そんな私達の緩いお付き合いは私が予想したよりも長く続きました。
いつしか私も過去の心の傷を乗り越え、彼との将来を考えるようになりました。
しかし……
私が期待したほど私達のお付き合いは長く続かなかったのです。
(つづきます)
主人公たちの実名の伏字は無い方が良いかな?
もしかしたら修正するかも知れません。
11/2、9:00 修正しました。
主人公:竹園神樂
彼:皇高志
主人公の名前、寄せすぎましたか?




