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新しいマイスィートホーム

飛鳥時代の時代考証が超難しいです。

 奈良にも秋の気配深まり、冬が近づいてくるのを感じます。

 心配なのは、中身が現代人の私にとって、弥生時代より少しマシな程度の造りのこの家で無事に越冬できる自信が無いのです。

 特に奈良は盆地なので底冷えします。

 この夏だってエアコン無しでひと夏越したのは生まれて初めての事でした。

 飛鳥時代が地球温暖化前でなかったら命に関わるところでした。


 ここはやはりアレですね。

 お爺さんに屋敷をお強請(ねだ)りをしましょう。

 今や推しも推されぬ立派な成金になったお爺さんならばお屋敷の一軒や二軒、どうってことは無いはず。

 もっと原資が必要でしたら私が光の玉を連発して、竹林全部を黄金色(こがねいろ)に変えます。


 まさか自分が「パパぁー マンション買ってぇ~」

 を地でやる日が来ようとは、人生とは分からないものですね。


 もっともお爺(パパ)さんのお金の出処が私であるのもアレですが……。


 ◇◇◇◇◇


「ちち様、この家危ない。危険」


「娘よ、この家は五十年もの間、嵐にも地震にも耐えた家じゃぞ。

 安心するがええ」


「ちち様、違う。

 危ないのは人。

 ちち様、成金。

 成金、狙われる」


「ふむ……。

 ワシは兎も角、娘に何かあったらワシは耐えられぬ。

 この家は貧しき時を過ごした思い出深き家なれど、娘を護る砦としては確かに心許ないな。

 中央では大きな戦乱があったばかりじゃ。

 中央が荒れる時は国も荒れる。

 この地も安全とは言い難い。

 ここは一つ、娘の忠告に従い我ら三人が心安らかに過ごせる屋敷を建てるとしよう。

 心の安寧となる造りをな」


「ちち様、賢明」

 (訳:お爺さん、意外!)


「わーはっはっはっは、

 娘のためならば何を惜しむものか。

 何なりとこの父に頼むが良い」


【天の声】

 ……などと偉そーな事を言っている爺さんの本音はこうだった。


『ふむ……。

 ワシが狙われるのは兎も角、娘はまさに金の卵を産む鶏。

 造麻呂とは名ばかりで、ろくに家人も雇えぬ中流階級。

 竹を取って婆さんと二人、慎ましく暮らす家ならば不足は無いが、金の卵を産む鶏を護る砦としては、確かに心許ない。

 中央では相も変わらず争いごとが耐えん。

 おかげで国も荒れるわ、田畑は荒れるわ、人も荒れるわで大変じゃ。

 この地にも賊が出没したって聞き及んでおる。

 ここは一つ、娘と財産を護るためにもドーンと城を造るつもりで万全の備えを実現しようじゃないか!

 蔵は特に丈夫にな。』


 尊厳を得るにしては、(よこしま)な考えが混じる爺さんであった。

 ちなみに『成金』とは将棋で歩が相手陣地で進むと『と金』になり金将の駒と同じ動きが出来る様になる事から転じて、「歩が成って金」、「成金」と言われるようになった。

 つまり将棋が普及していなかったこの時代には「成金」という言葉に馴染みは無く、爺さんはかぐや(仮)になんて言われているのか分かっていなかった。

 当然、どう思われているかも……。

【天の声おわり】


 ◇◇◇◇◇


 ……という訳で出来ました。

 マイスィートホーム。

 本格的な冬の到来に間に合いました。


 建築前、「何なりとこの父に頼むが良い」

 ……というお爺さんの言葉に甘えて、たくさんリクエストしました。


 一番のおねだりポイントは内風呂です。

 この時代でも女性の長い髪は必須アイテムです。

 後世の人もショートヘアのかぐや姫を想像する人はいないはず。

 もしいたら、病院へ行くか、学校を出直すか、小説投稿サイトに思いの丈を書いた方が宜しいでしょう。


 そしてその長い髪を川で洗うのです。

 夏場は気持ちが宜しいですが、冬場にその様な修行僧みたいな事をしたくはありません。

 (※修行に髪があるかないかは別にして)

 かと言って冬の間、髪の毛と頭皮を洗わない生活は考えたくありません。

 それくらいなら髪の毛を切ります。

 ……と聞いたお爺さんが全面協力してくれたという訳です。


 しかしながら、内風呂が何たるかを知らない方ばかりですので、当然快適なお風呂というモノを存じ上げません。

 一つ一つ丁寧に絵をそえて説明しました。


 ゆったりと身体を伸ばしてお湯に浸かれる湯船。

 水はけの良い広々とした洗い場。

 長い髪の毛を濯ぐための専用の桶。

 これら全てが総檜造り。

 良い香りがします。

 すぐ近くに井戸も掘りました。

 お湯を沸かす大鍋はすぐ隣です。

 窓を開ければ風通しが良く、窓を閉めれば気密が保たれ湯気の温かさが逃げない快適なお風呂空間。


 現代での私は一日何回もシャワーを浴びるアニメキャラの様な風呂好きではありませんでしたし、温泉マニアという程、硫黄と癒しに飢えてはおりませんでした。

 とはいえ、毛じらみ、南京虫などの不快害虫がウヨウヨしていて、皮膚病が蔓延しているこの世界で清潔を保つことはQOL(quality of life)の上でとても重要な事なのです。


 無いと言われると、欲しくなるのが人情というもの。

 神の湯を経営するお婆さんになった気分で、お風呂造りを指揮しました。

 お爺さんはボイラー室をお願いします。


 内風呂だけではありません。

 新しい屋敷のこだわりポイントはまだまだあります。

 それは屋根。


 これまでのお家は茅葺き屋根でしたが、瓦屋根にしました。

 飛鳥時代の代表的な建築物である法隆寺を見ても分かりますように、この時代でも瓦は入手可能です。

 私は重い瓦の上に人を乗せてもビクともしない丈夫な屋根をお爺さんにおねだり(リクエスト)しました。


 ……というのは竹取物語でこう書かれているのです。

『かぐや姫が月の都に帰るのを阻止しようと二千人の兵士が待ち構えて、そのうちの千人が屋根に登った』と。

 待ち伏せが成功するか失敗するかは私的に大した問題ではありませんが、屋根が抜け落ちてしまっては大変です。

 なんてったって千人です。

 現代の技術の粋を集めた「百人乗っても大丈夫」の物置が十台も必要です。

 それに負けない屋根を実現しようと猪名部(いなべ)さんと仰る大工さんにはかなり無理を言いました。

 ホントに御免なさい。

 おかげで砦のような屋敷が出来たのでは無いかと思います。


 本当は待ち伏せなどせず、月の使者さんがいらっしゃったら気分良く歓待したいですが、『竹取物語』の原作通りだとしたら使者さんの性格は悪役令姫(かぐやひめ)より難があるんですよね。


 ……はぁ。


実のところ作者は奈良に詳しくありません。

調べたところによると日照時間が短く、関西で一番寒いらしいのですがどうなんでしょう?

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