【幕間】神樂と高志・・・(1)
以前予告しました主人公の過去について。
こんな人生を歩んで、今(?)のメンタルモンスター的な強い心を持った主人公が培われたのでは、と考えてみました。
個人的には頼れる身内が助けてくれて、その兄を絶対的に尊敬しているのもアリかな?
おにいさま♡
※主人の現代での生い立ちと、本作で時々登場していた元カレ・高志(※建皇子の転生)とのお話です。
主人公の口調が第1話時に戻っております。
◇◇◇◇◇
幼い時、私はそこそこ恵まれた家庭に育だったと思います。
小さな会社を経営する父と専業主婦の母、そして一人っ子の私の三人家族。
訳も分からず習い事をしておりましたが、特にイヤではありせんでした。
スイミングスクール、書道教室、英会話、などなど。
学校に通うようになっても、良くも悪くも目立つ訳では無く、成績も性格も悪くは無かったと思うし、いわゆるカーストの底辺でも無く、仲の良い友人といつも一緒でした。
仲の良い友人が後のヲタ仲間である事に気付いたのはずっと後のことでしたが……。
何時までも続くと思っていた平穏。
それが突如として崩れたのは、中学生となって暫くしてからの事でした。
それは、父の事業の失敗でした。
いえ……、突如だと思えたのは私が何も知らずにのほほんとしていただけですね。
今思い返せば、異変は一年以上前からありました。
父不在の食事が増え、たまに見る父の顔色が優れなかった事。
そして電話に出る父の態度が、物を頼むための懇願の電話であった事。
父が苦しんでいることに幼い私は気付いてあげられませんでした。
それどころか……。
生活水準を変えなければならないはずなのに、それまでの高コスト体質的な意識が変わらなかったのです。
別にブランド物に身を固めて、月十万円の小遣いを要求していた訳ではありません。
ただ倹約するという意識が低すぎたのです。
私も……、そして母も。
その最たるものが、私立の中高一貫校に在籍し続けた事です。
今の私にとって貧乏というのはお金が無いことではありません。
お金を稼いでも自分のモノに出来ない状態を言います。
お金が無かったら稼げばいいのです。
稼いだお金の範囲内で生活をすればいいのです。
その事に気付いたのは、自分がアルバイトで稼いで自分のお金を手にした頃からです。
高校受験を経て公立高校へと通い始め、就学支援金制度のおかげでようやく自立した生活の目処が立ってきました。
しかし稼いだお金が膨大な借金の利子として消えていくという生活は、家族全員の心を疲弊させます。
まるで毎日が砂漠に水を撒く様な、そんな生活です。
そこで父はある決意をしました。
協議離婚の末、父は借金を全て一人で背負い、私達から離れる事を選んだのです。
家族が家族でなくなる事がとても悲しく、私は泣きました。
でもあっさりと涙が渇く自分はやはり薄情な人間なのでしょう。
以来、父には三度程しか会っていません。
……その三度目の再開は母の葬儀の席でした。
母は温室の花の様なか弱い女性で、温室を追い出された母は萎れる様に弱っていき、衰弱するようにして亡くなりました。
私には生きていく事を精神が拒否した挙句の消極的な自殺にも思えました。
私のバイト代で賄える葬儀で母を送り出し、戒名もお仏壇もない母の遺影だけが母の生きた証となりました。
こんな時、母の生前の事や葬式がどうのこうのと親戚が何か言ってきそうですが、父の借金地獄の時に散々罵った親戚を身内とは思い書くない私は、一切の連絡を絶ったのです。
父の羽振りが良かった時にはあれ程すり寄ってきたのに……。
それ以来父とは直接会うことは無くなり、書類の保護者欄の署名と押印だけの間柄となりました。
後で知ったのですが、その頃には既に父には別の家庭があったそうです。
恨みなんてありません。
むしろ一番苦しいときに支えてあげなかった母と自分が卑しく思え、父の幸せを祈る気持ちの方が大きかったように思えます。
もう私の事は忘れていいから、これからは新しい家族のために頑張って。
◇◇◇◇◇
18歳、私は大学生となりました。
本当は高卒と同時に働くつもりでしたが、事実上の孤児となった私は誰かのために働かねばらならい訳ではありません。
養わねばならないのは自分ひとりです。
養うついでに学費もどうにかなりそうだという事が分かり、大学へと通うため国公立大目指してガリ勉を始めました。
奨学金と授業料免除、そしてバイト代。
私立には一切目もくれず、地元国公立大学に絞り、無事現役合格を果たしました。
自分の意志で進学した大学は、人生の中で一番輝いていた時期だったと思います。
自分のために、自分の手で生活する、自分だけの生活、というのはこれまでにない解放感と充実感です。
質素な生活はありましたが、満ち足りていました。
転学で離れ離れになった友人とも再会し、女子大生らしい生活というのも知ることが出来ました。
友人たちに聞いたら、私がそんなに苦労しているとはつゆ知らず、今でもお嬢さんだと思っていたみたいです。
三つ子の魂百まで、ということなのでしょうか?
とりわけ異性にモテたわけではありませんが、出会う異性はみな私のお嬢さん然とした雰囲気が大和撫子っぽいとか言いました。
つまり面白みに欠けて魅力に乏しいって事?
それとも主体性とか自立心とかが欠けているとか?
何となく亡き母を思い出し、あまり誉め言葉には思えませんでした。
男性とは特に深いお付き合いをすることなく友人らとメイクの情報交換とか、オタク趣味のお手伝いとか、たまに授業のテスト対策とかやって学生生活を満喫しました。
しかしそれも4年間のみ。
いよいよ学生生活期間が終わり社会人となる時になって、自分に社会人となるための技能があまりに足りていないことに気づきました。
そして事務職の有効求人倍率があまりに低い事も。
専攻の国文学が就職に有利に働くわけでもなく、慌てて就職のための技能の習得しました。
4年ぶりのガリ勉です。
大学のパソコンを使ってデータ入力の練習。
ビジネス文章力の向上。
簿記三級。
英会話は英検2級とTOEIC 600点。
漢検準2級。
それはもう必死でした。
何せ奨学金の返済があるのですから。
何とか私を雇用してくれたのはそこそこ大きな製造業。
結婚とかをしなくても、60歳まで安泰でいられそうな会社です。
健康保険組合も厚生年金も充実しております。
生活も志も根無し草同然である自分には過ぎた待遇だと思いました。
さて、プライベートはというと、家族離散の経験を持つ私には結婚が幸せへのゴールとは思えず、相変わらず異性との付き合いはありませんでした。
男嫌いではなりませんが、のめり込みたいと思える類物ではありませんでした。
男性とのお付き合いは楽しくはありますが、それだけだったのです。
そんな時でした。
私はある男性と出会いました。
名前は高志。……とても変な男性でした。
(つづきます)
最近は完全に仕送りなしの苦学生がどのくらいいるのでしょうか?
失われた30年の間、物価はほとんど変動しなかったのに、大学の入学金と授業料はとんでもない上がり方をしております。
やりたくても出来ないのではないかと思いますが……。




