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人間のクズ

注意

本話は本作品が嫌いになってしまうレベルで胸の悪いお話となっております。

苦手な方はお読み飛ばし下さい。

出来れば書く側も飛ばしたいくらいです。

m(_ _)m


(※船上で囚われの身となったかぐや。物部宇麻乃が中大兄皇子の手で殺され、頼れる者は誰も居なくなってしまった。魔の手はいよいよかぐやへと!?)


 痛めつけた挙句、宇麻乃様を自らの手でほふった 中大兄皇子。

 次の標的は私へと向かうのでした。

 一歩、また一歩、近づいてきます。

 足元には亡骸となった宇麻乃様が横たわっています。

 しかし私にはこれから自分の身にに起こる事よりも、宇麻乃様の死へのショックの方が大きく、奥歯がカタカタと鳴ります。

 ……宇麻乃様。


 中大兄皇子は私の前に立つと(おもむろ)に片手で剣を振り上げ、峰で殴ろうとしました。


「……おっと、お前は妙な技を使うんだったな。

 殴っても治されてしまうのでは面白みがない」


 そう言うと中大兄皇子は私の横にいる建クンに向かって思いっきり剣を振り払いました。


 (どがっ!)


「建クン!!!」


 建クンがゴロゴロと吹っ飛びます。


「治したいのなら好きなだけ治せ。

 代わりに建が痛い目を見るからな」


 何て最低な奴!

 自分の息子を盾に取って脅すなんて屑過ぎる!

 その屑過ぎる男は愉悦の表情を浮かべ、私に向かって思いっきり剣を振り下ろしました。


 (ぼきっ!)


 目をキツく閉じて歯を思いっきり食いしばりましたが、まるで鉄塊の様な剣で殴られた痛みは許容範囲を遥かに超えていました。

 肩に剣の峰がめり込みます。

 体内を伝って、中耳(ちゅうじ)に鎖骨の折れた音が伝わりました。

 歯を食いしばって倒れ込まないよう踏ん張りたいのですが、一発で意識が飛びそうになりました。


 (どんっ!)


 今度は肩から背中に掛けて衝撃が来ました。

 目を開けていられず、心構えなんかしていられません。


 (がんっ!)


 私は横っ面を蹴られ、ゴロゴロと転がっているみたいです。

 もう体の自由が効きません。

 でも……起き上がらなきゃ。

 建クンが……。


「うぅぅ……」


「もうお終いか?

 これじゃあ面白みがないな。

 もう少し私を楽しませろよ!」


 そう言いながら、私の背中を再び剣で殴り付けます。


 (どぐっ! どがっ! ボキッ!)


 何本か骨が逝ったみたいですが、既に骨折の痛みは麻痺して感じません。

 意識が朦朧として、自分が気絶しているのかすら分からないのです。


「痛っ!」


 急に中大兄皇子(にんげんのクズ)が大声をあげました。

 顔を上げて見てみると、建クンが皇子(クズ)の足に噛みついていました。


「ん、んんっ!」


 お願い!

 建クン、止めて!

 その皇子(クズ)は怒ったら何をするのか分からないのよっ!

 声に出して言いたいのに、息がつまって声が出ません。


「この出来損ないがぁーっ!」


 大人気ない皇子(クズ)は、思いっきり建クンを振り払って吹き飛ばしました。

 建クンがこちらの方へと転がって来ました。

 抱き止めてあげたいのに身体の自由が効きません。


「やめろー!」


 初めて聞く、建クンの大声です。


「何だ?

 お前は(おし)ではなかったのか?

 声を出そうと思えば出せるんじゃないか。

 出来るはずなのにしようとしないこの怠け者が!

 父親の言う事は聞かぬし、やはり生かしても利は無さそうだな」


 他人の痛みや苦しみを全く理解できず、全ての物事を自分の杓子だけでしか測ることの出来ない狭量な(ケツの穴が小さい)男には、建物クンがどれだけ苦しんで、どれだけ大変な思いをしてきて、それでも一生懸命やってきた事が全く理解できないのです。


「建……くん、だ……め」


 このままではいけないと、見えない気付薬の光の玉を自分に当てました。

 意識が急激に覚醒してきました。


「まだ終わってません!

 貴方の全力なんてそんなものなんですか?」


 中大兄皇子(どうしようもないクズ)を挑発します。

 憎悪(ヘイト)を私に向けさせ、建クンだけでも生き延びさせなければ。


「揃いも揃ってこの私をコケにしおって……!」


 額に青筋を浮かべて怒りが頂点へと達します。

 中大兄皇子(ワガママ皇子)にとって、自分の意に沿わない者の存在が許せないみたいです。

 本来は帝を中心とした政治を目指していたのに、いつの間にか独裁者へと変貌していった成れの果てです。


 思いっきり剣を振り上げ、全力で私を打ちのめしにきました。

 斬り殺される前に撲殺されそうです。

 おそらく頭を狙われたら最期でしょう。

 そうしないのは単に私を少しでも長く生きながらせさせて、甚振るのを愉しみたいのだと思います。


 …………


 どれくらい殴られたのか?

 1分? 10分? 1時間?

 全く分かりません。

 私の心の中は建クンを護りたい、その一心です。

 中大兄皇子(救いようのないクズ)が何か言っているみたいです。


「本当に…とい…、もう……かげん、死……」


 声の方向へ顔を上げると、中大兄皇子(外道皇子)が剣を水平にして私に向けて突き刺そうとしている姿が見えました。

 ああ……、私、死ぬんだ。


 うっすらそんな風に思っていると、私の視界を遮る影が現れました。

 そして剣はその影を貫いたのです。


 1テンポ遅れて、その影が建クンである事に気がつきました。


 !!!!!!!!


 そして剣がヌラリと引き抜かれ、真っ赤な血が、建クンの血が、吹き出しました。

 剣は身体の真ん中、心臓を突き刺したのです。


 (どさり)


 建クン!!!

 見る見るうちに赤い液体が建クンの周りに水溜りを作ります。


「いやぁぁぁぁ!!!」


 私は禁忌など忘れて、倒れた建クンに全力の光の玉を放ちました。

 光の玉を当てた後になって自分が気絶する事になる事を思い出しましたが、今はそれどころではありません。


 嫌っ!

 死なないで!!


 光の玉は建クンに何発も命中します。

 だけど私は全然気が遠くなりません。

 流血は止まりましたが、建クンはピクリとも動かないのです。


 嫌っ!

 そんなの嘘よっ!


 私は更に光の玉を連打します。

 お願い、いつもの様に起き上がってこっちを見て。

 何事もなかったかの様に……。

 私と……手を繋いで……一緒に飛鳥へ戻ろうよ。

 お願い、建クン!!


 ……建クン。




 ……プツン。


 もう生きてなんていたくないよ。

 この世に、この世界に、私の居場所はもう無いんだ。

 建クンを独りぽっちであの世へは行かせないからね。

 でも、ちょっと待てて。

 こいつらを始末するから。


 空一面に光の玉を展開しました。


「お前ら、死ね!」


 一斉に光に玉が戦船の甲板に降り注ぎました。

 狙いなんて要らない。

 当たれば死ぬから。


 今まで自重していたけど、心臓を止める光の玉をイメージ出来なかっただけ。

 でもお前ら全員、建クンと同じにしてやる!!


 チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! …………


 見渡す限り兵士だった物が倒れています。

 しかし中大兄皇子(建クンの仇)は平然と立っています。


「私にはお前の技など効かぬと言っているだろうがっ!」


 イヤらしい笑い。

 クソみたいな奴。

 生きていく価値のない男。


 私はゆっくりと皇子(クズ)に向かって歩いていきます。

 クズは私に剣を振り下ろしました。

 峰打ちではなく、(やいば)が私の肩に深々と突き刺さります。

 それが引き抜かれると私は自分自身を治癒します。


 チューン!


 歩みを止めません。

 止めるつもりはありません。

 止める必要もありません。


 それを見て皇子(クズ)は建クンにやった様に、私を突き刺そうとしました。

 私は少しだけ避けて、心臓を外します。

 肺に血が流れ込んでくるのを感じます。

 そしてまた治療します。


 チューン!


 皇子(クズ)は後退りを始めました。

 しかし自尊心が逃げる事を許さず、大きく振りかぶって私を真っ二つにしようと全力で振り下ろしてきました。

 私はそれを右腕で受けたのですが、右腕ごと切り落とされてしまいました。

 血が流れていきます。


 それを見てニヤリとする皇子(クズ)

 私はそんな事に全く意に介さず、自分の右腕を拾って元の位置に押し当てました。


 チューン!


 グッパッグッパッ……。

 うん、元通りです。


 この様子を見て皇子が固まります。

 いつしか私は皇子(てき)の懐まで近づいていました。


 そして、切り落とされた右腕の強烈なアッパーカット。

 からの、左フック、右フック、左フック、右フック。

 この時代の女性としては長身の私は、皇子(アホ)とそれほど身長差はありません。

 火傷してちょっとだけ赤くなった顔に拳を叩き込みます。

 光の玉が効かないのなら拳で滅してやる!


 丁度よく仰向けに倒れたので、上にのし掛かって連打します。

 いわゆるマウントポジションです。

 格闘の経験のない私には拳を痛めずに殴る技術なんてありません。

 拳を痛めたら治せばいいのです。


 ガッガッガッ!


 皇子の歯が折れ、口の中が血だらけです。

 でももう建クンは戻らないのよ!


 ガッガッガッ!


 一心不乱に中大兄皇子(憎っくき敵)を殴っていたら、急に船が大きく揺れました。


 ガーン!


 他の船が体当たりしたのです。

 私は甲板をゴロゴロと転げ回って、海へ落ちそうになりました。

 皇子はまだ息があるらしく、胸が上下しています。


 もう一度、皇子を殴りに行こうと立った瞬間、更に大きな振動が襲いました。

 別の船の体当たりです。

 堪らず私は甲板の隅っこで落ちない様、しがみ付きます。


 その隙を見て、船室に隠れて先程の光の玉を免れた兵士達が、中大兄皇子(悪の親玉)を回収しようとします。


「逃すか!」


 私は殺傷能力のある光の玉を連打しました。

 光の玉当たった兵士達は次々と倒れていきます。

 しかしその間にも皇子は船室へと回収されてしまいました。

 私は後を追おうとしたのですが、別の船がゴンゴンとぶつかってきて、マトモに歩けません。

 そのうちに私は他の兵士達と同じ様に、船外へと放り出されて、海へと落ちてしまいました。


 (どっぽーん!)


 怒りに身を任せていたので気付きませんでしたが、血が流れ過ぎてフラフラだったみたいです。

 私の仇撃ちもどうやらここまでみたいです。

 もう生きていく気力も体力もありません。

 私は海の藻屑となる事を覚悟しました。


 ……建クン、お待たせ。



(つづきます)

本当にごめんなさい。

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