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ハルマゲドン(善と悪の戦争)

映画『幻魔大戦』(1983)で一躍有名な言葉となったハルマゲドン。

前にも申しましたが、本作品は多分にして小説・幻魔大戦シリーズの影響を受けております。

(※知らぬ間に取り囲まれたかぐや達。その先頭には中大兄皇子自らが居た。光の玉(チート)で抵抗するかぐや、しかし中大兄皇子には全く通用しないのであった)



 正に私の頭上に剣が振り下されそうな瞬間、ハッと気がつき横へと逃げようとしました。

 が、間に合うはずもありません。

 肩にドスンと強い衝撃を感じました。

 もし横に逃げようとしていなかったら脳天でした。

 中大兄皇子は本気で私を殺すつもりです。


 肩から血が一気に噴き出ました。

 私は急いで止血の光の玉を当てて傷を塞ぎます。

 気がつくと中大兄皇子の後ろにいた兵士達がこちらへと進んでいます。


 そうだ!

 私は建クンと宇麻乃様を守らなければならないのです!

 私は頭の中で『相手の(てっぺん)をやっつければ後はどうにでもなる』と思い込んでい様で、光の玉をムダ撃ちするあまり周りが見えていませんでした。

 視覚狭窄というものでしょうか?


 しかし中大兄皇子の剣は容赦なく私へと降り注ぎます。

 剣筋を見極めるなんて真似は到底出来ません。

 猫の爪を逃れようとするネズミの様に、ちょこまかと全力で必死に回避するだけです。

 光の玉が効かない相手なんて想定していなかたっため、これほどまで追いつけられるとは想定外でした。

 これまでは光の玉があれば何とかなると思い、タカを括っていたのかも知れません。

 チートを持つのは私一人だけ、自分だけが特別だと思い上がっていたツケが回ってきたみたいです。


 そう言えば朝倉宮で中大兄皇子は私がどの神様の御加護を受けているのかを聞きましたが、裏を返せば中大兄皇子もまた何かしらの御加護を受けているのかも知れません。

 中大兄皇子がどの様な力を持っているのか分かりませんが、私の力がどの様なものであるのか全ては分かっていないはず。

 対等の力を持つもの同士の超能力戦争(サイキックウォーズ)

 ハルマゲドンが大接近です!


「かぐやよ。

 この私に敵意を持って攻撃したのだ。

 タダで済むと思うなよ」


「これまで大人しく従った者達はタダで済んだのですか?!」


「斬首が絞首になるくらいの情状を与えてやったわ。

 お前には私自らが首を刎ねる栄光に与らせてやる。

 蘇我入鹿の首を刎ねた剣だ。

 有難く思え!」


「全然有り難くないわっ!」


 ぶんぶん振り回される中大兄皇子の剣に、私の身体は少しづつ削られていきます。

 チートが無ければ今頃私はなます切りになっているハズです。

 ありがた迷惑な事に当の中大兄皇子は私を甚振いたぶるのを愉しんでいるらしく、とどめを刺さずに薄ら笑いを浮かべながら私を追い詰めていきます。

 チートが通用しない私(しかも素手)は、恐れるに足りないのでしょう。

 全然真剣さがありません。剣なのに……。


 無造作に振られる中大兄皇子の剣を避けるため、私は思いっきり飛び込み前転の様な格好でゴロゴロと転がって距離を取りました。


 ……っ!

 足を切られました。


 チューン!


 怪我をする度に光の玉で治癒しますが、あちこち斬られたので衣がボロボロです。

 しかし距離にして約3メートル。

 やっとの思いでこの距離を稼ぐことが出来ました。


 チートが効かないのなら! と、私は見えない光の玉を展開しました。


 私を全く恐れていない中大兄皇子はゆっくりと近づいてきます。

 一歩、また一歩、距離2メートル、今だ!!


 赤外線の光の玉を一斉に最大光量の黄金色へと変えました。


 ピカ(〇ゅー!)


 突然の眩しい光に中大兄皇子が目を隠して一瞬だけ怯みました。

 その隙に私は中大兄皇子と距離を取り、すぐそこまで迫ってきている兵士達に向かってあらん限りの光の玉を放ちました。


 <<<<<チューン!>>>>>


 しかし何も起こりません。


「かぐやよ、どうした?

 神の御業を忘れたのか?

 はははははは」


 何も変化が起きないのを見て、中大兄皇子は完全に愉悦に浸っております。

 でも残念。何も起こっていない様に見えるのは表向きだけです。


「はれ? オレは何をしているのだ?」

「何でこんなとこに居るのだ?」

「うわっ、小屋が燃えてる!!」


 変化は彼らの精神なかみに起こっていたのです。

 そうです。

 全消去デリートオールで連中の記憶を消しました。

 敢えて行動不能にするのではなく、行動は出来るけど混乱させるのが目的です。

 中大兄皇子の後ろ側に居た連中は撃ち漏らしましたが、かなりの数を削ったはず。

 一人でも二人でも三人でも敵の数を減らして、宇麻乃様と建クンを逃がすのを手助け(アススト)します。

 このままでは、私は血を失なって動けなくなるのも時間の問題です。

 でもそれまでに徹底的にあがなってやる!


 私の後ろでは炎が立ち上り、いよいよあばら家が崩壊しそうです。

 宇麻乃様は無事抜け出せたのでしょうか?

 気が気ではありません。

 しかし光の玉が当たり損ねた兵士と中大兄皇子はじりじりと私の方へと近づいてきます。


 すると突然。


「お嬢ちゃん! 伏せろっ!!」


 え? 何、何、何、何、何なの?

 私は訳も分からず、宇麻乃様の声に従って地面に伏せました。

 現代知識が無ければ取れない行動です。


(どーーーーーーーーーん!!!)


 大音響と共にあばら屋が吹き飛びました。

 火薬のないこの時代に有り得ない大爆発です。

 多分、爆薬とか爆発とか、この時代の人にはそのような概念すらないでしょう。

 耳かキンキンします。

 鼓膜が破れたかもしれません。


 チューン!


 鼓膜を再生しました。


「さ、今のうちに逃げるんだ!」


 いつの間にか建クンを背負った宇麻乃様が私のすぐそばに居ました。


「今のは……?」


「説明は後だ、急いで!」


「は、はいっ!」


 周りを見ると、小屋の近くに居た兵士達は爆風をモロに受けたらしく、唸り声をあげて倒れていました。

 中大兄皇子も例外ではありません。

 私は慌てて駆け出し、宇麻乃様の後を付いていきました。

 混乱に乗じて簡単に包囲網を突破しました。


 一時間ほど走り追手が居ないことを確認すると、川のほとりで一休みすることにしました。


 ◇◇◇◇◇


 小川で喉を潤し、少し奥まった林の中で休憩です。

 辺りは真っ暗です。


「お嬢ちゃん、怪我はないか?」


「怪我はしましたが全部治しました。

 ただ血が足りない気がします」


「やはりお嬢ちゃんには怪我を治す力があったんだね」


「やはり、という事は前々からご存じでしたの?」


「ああ、いつぞやの新春の宴で、お嬢ちゃんが舞を披露して、その後賊が押し入ったことがあっただろ?」

(※第74話『【幕間】これまでのあらすじととある場所での会話』参照)


「随分と昔の話ですね。

 そんな以前からバレていたとは思いませんでした」


「そうかい?

 それにしては大胆過ぎるから隠すつもりが無いんじゃないかと思っていたよ」


「隠すつもりが無いわけではありませんが、隠したところでどうしても使ってしまいます。

 怪我をした人を前に何もしないというのはあり得ませんので」


「そこがお嬢ちゃんらしいところだね」


「しかし私の技は中大兄皇子には全く通用しませんでした。

 おそらく中大兄皇子もまた神様からご加護を授かったのではないかと思います」


「あんなのに加護を授けるなんて、神は何を考えているのやらだね」


「しかしこのままではジリ貧です。何か対策を考えませんと……」


「とりあえず、今夜は休もう。

 野宿になる。

 寒いから暖かくして寝ようか。

 枯れ枝を集めるのを手伝ってくれるかな?」


「ええ、明りでしたらお任せ下さい」


「助かるよ」


 今日のところは危機一髪で逃げ出せました。

 しかし次はどうなるのか……?

 緊迫の逃避行が続きます。



(つづきます)


爆発のカラクリについては次話にて。

(※一応ヒント、粉塵爆発ではないですよ)

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