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宴の後

(フェス)の話がようやく纏まりました。

 フェスの最後の演目、九人による奉納舞を舞い終えました。

 真っ白に燃え尽きそうなくらい、やり切った感があります。

 舞台を降りた巫女さん達は皆抱き合って泣いています。

 幼女の私から見れば皆大きなお姉さんですが、元アラサーOLの私から見れば皆さん十歳以上年下の若い女の子達です。

 感傷に浸る彼女達を光の玉で落ち着かせるのは野暮ですね。私も彼女達と手を握りあって感動を供にしました。


 萬田先生も泣きじゃくて、ぐしょぐしょです。舞子としてだけでなく、フェスの振り付け、構成、など演出家ディレクターとしてのプレッシャーが大きかったのだと改めて思いました。

 気付くと、与志古よしこ夫人、真人まひと皇子、忌部様、そして中臣様が舞台袖へといらしてました。


「おねーちゃん、ピカピカ〜」


 真人様ミサイルが私の方へ跳んできます。

 あがなう事が出来ずマトモに受け止めてしまい、今回は年下の真人クンに押し倒されてしまいました。

 もう力が残ってませんから仕方がありません。


 傍にいた与志古夫人はそんな私達を横目に見ながら、萬田先生に優しく語り掛けました。


「萬田郎女、貴方が後宮を去り心配していましたが、とても輝いている貴女の姿を見て安心しました。

 貴女の舞はそれは見事でした。しかしそれ以上に貴女が後押しした皆さんの舞が素晴らしかった事を私は嬉しく思います。

 他人を手助けして、導き、高みへと引き上げた貴女の見えない苦労を私は誇らしいと思います」


 この言葉を聞いた萬田先生は感無量となり、へたり込むように大泣きしてしまいました。

 その萬田先生に与志古夫人は優しく手を差し伸べるのでした。

 フェスだけでなく萬田先生の後宮を去ってからの今までの苦労が報われたのですね。

 そんな萬田先生を見ていると反対側に人の気配がしたので振り返ってみたらそこには中臣様が!?

 私は慌てて立ち上がり、パンパンと服についた泥を払って頭を下げます。


「かぐやよ。私も祭司の端くれ、巫女の舞は散々観てきた。

 しかし今宵の舞はこれまで観てきた舞と全く違うものだった」


 えぇ!? もしかして怒ってる?


「巫女の舞とは形式の通りに舞えばそれで良い。

 所作が綺麗であればそれで十分だと思っていた。

 いつしか私は神事を形式張った古臭い儀式と思っていたのかも知れぬ。

 だが其方らが観せた舞は、舞とは人の心をこれほどまでに揺り動かすものだと知らしめるものであった」


 周りにいる与志古夫人も忌部様も頷いています。


「張り詰めた緊張感は目を離す事を許さず、観る者を魅了する。鍛錬により磨かれた舞がこれほどまでに美しいとは思わなかった。

 巫女が輝かろうと、空が光ろうと、そんな些事は関係ない。其方の舞はまさに吉祥天に相応しい舞であったよ」


 ………ほっ。どうやら中臣様に合格点を頂いたみたいです。

 そう思った途端に、緊張の糸がプツンと切れて、今まで張り詰めていた気が一気に解れていくのを自分自身で感じました。

 四肢から力が抜けて立っていられなくなり、ペタンと座り込んでしまったのです。


「おねーちゃん!」


 真人クン、今この状態で押し倒されたら指一本も抵抗出来ないよ。


「「「「「姫様!」」」」


 周りにいた皆さんが一斉に声を上げます。

 でも今の私には大丈夫と声を絞り出すのも無理っぽい様です。

 視界がどんどんと狭まっていき、いつしか意識が自分の身体を離れていきました。


 ◇◇◇◇◇


 次に目を開けた時、私は薄暗い部屋で横になっていました。

 目覚めた瞬間、自分が何故横になっているのか、いつ就寝したのか思い出せず、少しだけ混乱しました。

 しかし頭の中のパニックとは裏腹に身体は指一本動かせず、金縛りみたいな感じです。

 まずは落ち着きを取り戻し、少しずつ舞の後の出来事を思い出して、最後に自分が意識を失い倒れたことを思い出しました。

 力を使い過ぎたのか、緊張感から一気に解放されて気が緩んだのかは分かりませんが、この半年間で二回も倒れるというのは幼い身体にはあまり宜しくないですね。

 首に少し力を入れて横を向いたら、そこにはお婆さんが座ってウトウトしています。


「……はは様」


 掠れた声でしたがお婆さんの耳に私の声が届くと、ガバッと擦り寄ってきて


「かぐや、大丈夫かい。身体は動くのかい。私が分かるかい。大丈夫……」


 お婆さんは声を詰まらせて、言葉が続きません。いつしか大粒の涙がぽつぽつと溢れていくのが、わずかな灯りの中でも分かります。


 よいっしょ。

 身体に力を入れて上体を起き上がらせました。意外と力は入るみたいです。

 ですが100%の力が出ないのは、倒れた影響か、それとも空腹のせいか?

 ……たぶん後者っぽい気がする。


「はは様、お腹が空いた」


 その言葉を聞いて、「待っててね」と言い残し、お婆さんは急いでお膳を取りに行きました。

 お婆さんが戻ってくるまでの間、私は自分の身体の隅々に神経を行き渡らせて、どこか異常がないか確認しました。

 痛いところもなければ、動かない箇所も見当たりません。

 目もはっきり見えるし、耳もしっかりと聞こえます。

 自分の身体をペタペタ触ってみても、感触は確かにあります。

 異常は全く見当たりません。

 試しに光の玉を出してみます。


 ぽわっ。

 チートも健在っぽい。


 足音が聞こえてきましたので、光を引っ込めました。

 それと同時にお婆さんがお膳を持って入ってきました。

 後ろにはお爺さんが続き、戸の向こうには萬田先生、秋田様もいるみたいです。


「入って、いいよ」


 秋田様と萬田先生にも寒い廊下でなく部屋に入って貰いました。

 心配そうに見つめる四人の前で私はお粥を啜り、滋養が体の隅々まで行き渡る感触を感じました。

 お椀半分くらいを食べたところで、私は皆んなに話し始めます。


「心配掛けて、ごめんなさい。私は大丈夫」


「かぐやよ、身体は大丈夫なのか? 痛いところはないのか?」


 お爺さんが私の体調を気遣います。二度目なので余計に心配掛けてしまっているのだと思います。


「何処も痛くない。いつも通り。心配掛けて、ごめんなさい」


「謝る事なんて無いんだよ。かぐや」


 お婆さんにはずっと心配掛けっぱなしです。


「心配掛けて………ごめんなさい。

 でも、心配してくれる事が嬉しい。

 だから、ごめんなさい」


 いつしか私の目からポタポタと涙が落ちていきます。


「ずっと大変だった。

 もうダメかもと思った。

 でも助けてくれた。

 すごく苦しかった。

 とても楽しかった。

 ちち様、はは様、秋田様、萬田様……皆のおかげ」


 声がつまって言葉が続きません。


「うっく、うっく、ごめなさい。

 ありがとう。

 でもごめんなさい」


 なぜこんなにも自分が謝っているのか分かりません。

 もしかしたら、心配掛けたことだけではなく、たくさんの隠し事をしている後ろめたさがあるのかも知れません。

 お婆さんは私をギュッと抱きしめて、一緒に涙を流してくれます。

 それがとても嬉しい。

 一緒に涙を流してくれる人が居てくれる事がとても嬉しい。

 私の事を心底心配して抱きしめてくれる人が居てくれて嬉しい。

 だから……隠している事がある事が心苦しい。


「今夜はゆっくりお休みなさい」


 そう言って、皆は戻っていきました。


 私はかぐや姫としてこの世界に放り込まれたことを、いつしか感謝する様になっていました。

 そのくらいに、私は周りの人に恵まれているのだと思います。

 心の奥底で感じる幸福感と共に就寝するのでした。


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、お泊まりになった与志古夫人と真人皇子が御輿に乗って帰路につきました。

 真人クンにギャン泣きされましたが、渦巻き印の丸薬をイメージした光の玉を真人クンにプレゼントしたら途端に泣き止んで、元気にバイバイしてくれました。

 来た時と同様、中臣様は馬に跨り、与志古夫人の御輿の警護のため颯爽と帰っていきました。


「かぐやよ。次に会う時は見目麗しい女性になっている事を期待しているぞ。

 その頃には私にも息子も出来ているだろうから、求婚させてやるからな。

 何だったら私が求婚してもいいぞ」


 いえいえいえいえ、中臣様、マジ勘弁して下さい。

 見目も麗しく無いジミ顔だし、求婚者はご遠慮します。


 そして三日間を共にした戦友、忌部氏の氏子さん達と氏上様、そして衣通そとおし姫を見送りました。


「姫よ。今後も我らは姫に協力を惜しまない。何かあれば秋田に言うが良い」

「かぐや様、またお会いできるのを楽しみにしおります」

「姫様、私は姫様に救われた身です。お困りのことがあれば何なりと申しつけて下さい」

「姫様、また近々に書を持ってお勉強です。歌人として身を立てるのも良いかも知れませんね」


 巫女の皆さん、楽隊の皆さん、舞台の設置や諸々の道具を用意してくれた大道具係、裏方さん達の皆さんが手を振ってくれます。

 私達家族三人と家人の皆さんで、皆んなの姿が見えなくなるまでいつまでも見送ったのでした。



(第一章おわり)

最終回っぽい雰囲気になってしまいましたが、まだまだ続きます。

一旦頭をリセットしたいので、お休み代わりに幕間を3話ほど繋いで、新章に入るつもりです。

活動報告にもその旨を記載しました。


明日、明後日は作者都合のため投稿時間が大幅に変わりますが、1日1話のペースは欠かさない予定です。

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