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かぐやと建皇子の監禁生活

またも作者自演による『なんちゃって博多弁』です。

気を悪くされた方、ごめんなさい。


(※囚われの身となったかぐや。しかしやっとの思いで再会できた建皇子は意識不明の重篤な状態であった)



 筑紫に監禁されて二日目。

 (ことわり)に反した治癒(光の玉)を強行して気絶した私は、起き上がるなりすぐさま建クンの容態をつぶさに調べました。

 はっきり言って建クンの容態は最悪に近いです。

 そう思いたく無くても古代水準の医療では殆ど手の打ち用がありません。

 大和(なら)で捕まってから筑紫国に来るまでずっと放置に近かったらしく、食事はもちろん水も満足に与えられなかったため酷い脱水状態でした。

 ずっと高熱にうなされてながら……。

 これまで生きてこれたのは、建クンの強靭な生命力のお陰としか言いようがありません。


 一度に大量の水を飲ませられないので、少しづつこまめに水を与えておりますが全く足りず、せめて点滴があれば……と思わずにいられません。

 朝になり食事が運ばれるようになりましたが、お椀に盛られたお米と漬物だけでという病人に出す食事ではないのです。

 危篤状態の病人が咀嚼出来るはずがありませんでしょ!

 連中は何を考えているのでしょう。


 仕方がなく私は出されたお米と水を口に入れよく噛み、口移しで建クンに与えました。

 せいぜい数口ですが、建クンの生きるための原動力(エネルギー)が少しでも補充出来ればと、親鳥となって(ヒナ)クンに食事を与えます。

 そしてそれが終わると僅かばかりの残りのお米を私が口にし、最後の仕上げに僅かな間だけでもと光の玉で解熱してあげて私が気絶するまでがルーチンです。

 まるで重病人の介護を病人がしているような状態です。


 だけど再び目を覚ましても、建クンは呼吸が少し収まっただけで改善の兆しは全く見えません。

 今にも押しつぶされそうな気持ちです。


 ◇◇◇◇◇


 三日目。

 建クンの体を綺麗に吹き上げて、ついでに私も濡れた布で拭いて、少しだけスッキリしました。

 昨日までは極度の不安と七日間の絶食で栄養失調だったので、身体だけでなく頭もボヤーっとしていました。

 でも寝たきりとは言え建クンと再開できたし、数口とは言えお米も胃に入れました。

 少しだけ考える事が出来るようになった気がします。


 昨日一日中過ごして感じたのですが、このお屋敷はどうも磐瀬行宮(いわせのかりみや)では無さそうです。

 行宮には一月近く居ましたが、老舗旅館のような造りの良さが感じられました。

 真新しくはありませんが、帝が過ごされる事を前提にした建物ですので当然と言えば当然です。

 しかし今いるこの建物は築五十年の民宿みたいな感じで、庶民感たっぷりの隙間風がスースーしている建物です。

 という事は別の場所を用意させたという事なのでしょうか?

 警備の甘い今なら、逃げようと思えば逃げられるかも知れません。

 ですが建クンを背負っての逃亡となると難しいです。

 もしここが人里離れた場所であれば、その時点で詰みです。

 それを知っての上で、今のような警備体制になったのでしょう。


 それにしても、皇太子は私に何をやらせるつもりなのでしょう?

 帝を朝倉宮に軟禁した事を知る者は私と建クンだけです。

 一思いに殺してしまえば後腐れが無いでしょうに何故生かしておくのか謎です。

 もしかすると皇太子は私か建クンにまだ利用価値があると考えているのでしょうか?

 だけどもし建クンに利用価値を認めているとしたらなら今の扱いは雑すぎます。

 私を利用したいのだとしたら……建クンに何かがあれば、私は差し違えてでも反抗するでしょう。

 私の建クンへの想いの深さをあの冷血感は理解できないのでしょう。

 つくづく理解に苦しむ人物です。


 しかし、程なくしてその答えが分かりました。


 ◇◇◇◇◇


 私が気絶から目を覚まして起き上がれずにいると、突然大きな音がしました。

 遠くで声が聞こえます。

 喧嘩? ……いえ、違います。またしても襲撃です。

 野太い男の人の叫び声や悲鳴が飛び交います。


 帝が亡くなった時の情景がオーバーラップします。

 あの時の襲撃者には、お門違いとはいえ明らかに帝への憎悪の念を向けていました。

 でもこの屋敷には敵襲を受ける対象があるの?

 それともこのボロ屋に命を狙われるほどの大人物が居るって事?

 訳が分かりません。


 しかし今の私には建クンを外に連れ出す体力が無ければ、気力も湧き起こりません。

 いっそこのまま……。

 私は心密かに死を覚悟しました。

 これ以上、建クンが生きていけないのなら、せめて私も一緒にお供してあげましょう。


 お爺さん、お婆さん、ごめんね。

 これまで受けた恩を返せないまま、かぐやとしての生を終えてしまうのはとても残念です。

 でも現代と合わせればそこそこ生きたし、最後は建クンが寂しくないようずっとそばにいてあげるからね。

 斉明帝、言いつけを守れずごめんなさい。

 私をこの世界に放り込んだ月詠命様と御使いの人には後で謝っておきましょう。

 お爺さん、お婆さん、ありがとう。


 私は建クンに帝の最期にしてあげたように、麻酔の光の玉をそっと当ててあげました。

 私は来るべき最期に備えて、じっと待ちます。


「ここにいっとやーっ!」


 一人が部屋に入ってきました。

 またもや筑紫の人間みたいです。

 余程、大和の人間が憎いみたいです。

 全部皇太子が悪いのだから、あっちの方に行けばいいのに。


「しねやぁー!」


 問答無用で横になっている建クンに剣を突き立てようとしました。

 思わず私は最大出力の光の玉をその男に放ちました。


「あぎゃ!」


 変化声を出して、男はごろごろと部屋の外へ転がっていき、そのまま大人しくなりました。

 しかし、今の大声でここに人がいることがバレてしまい、たくさんの足音がこちらへとやってきます。


 あーあ、またこのパターンか。

 げんなりしながらも、私は光の玉を100くらい展開しました。

 部屋が明るく照らされ、やってきた男達はこの部屋の異様さにたじろいでいます。

 もうどうでもいい気持ちです。

 敵? 味方?

 ここに味方なんて居ません。

 だったら手あたり次第、のべつ幕無し、やたらめったらやってしまいましょう。

 同士討ち? なにそれ、美味しいの?


 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!


 何発撃ったのでしょう?

 部屋の外には人が積み重なっています。

 死屍累々とはこうゆうのを言うのでしょう。

 そして陰から立て籠もり犯を取り囲む警官の様に私の様子を伺っています。


 チューン!

 (ばたり)


 私と建クンだけの部屋に土足で上がり込む輩に手加減をするつもりは起こりません。

 動くものがあれば即、発射シューティングです。

 それにしても一向に火が放たれません。

 火に囲まれれば私は逃げるつもりはないのに。


 私は動くつもりがなく、敵は私を警戒して動けず、何故か奇妙な均衡状態が出来てしまいました。

 投げやりな私は、彼らを使って憂さを晴らすことにしました。


 <<<チューン!>>>


 積み重なった連中に今日一日分の記憶を消去デリートする光の玉を当てました。

 これで彼らは何故ここに来たのか、ここで何をしたのか覚えていないはずです。

 そして気付けの光の玉を見舞いました。


 <<<チューン!>>>


 積み重なった男達は意識を取り戻しましたが、状況が飲み込めていない様子です。

 陰に隠れてこちらを攻め込もうとしている連中と話がかみ合いません。


「おいはなんばしよっとか?」

「ここはどこね?」

「うわっ! おめえら、なに物騒な恰好をしよっとか?!」


突然の混乱。

どうすればよいか分からなくなった彼らは玉砕覚悟の特攻バンザイアタックを試みました。


「なんば呆けよっとか! どけやっ!」


 攻めあぐねていた連中が一斉になだれ込んできました。

 連中は私を危険だと判断して、建クンには目もくれず私の方へと飛び掛かってきます。

 気迫に押され、一瞬反応が遅れました。


 チューン! チューン! チューン!


 五人のうち三人を無力化しましたが、残り二人が私のすぐ近くまで迫っています。

 もうだめか?!

 私は全てを諦め、斬られる覚悟を決めました。


 (バンッ! ガツンッ!)


 やられた!

 鈍く殴られるような音がしました。

 しかし恐る恐る目を開けてみると、先ほどの男達が背中を斬られて私の目の前に倒れています。

 どうやら私は無傷みたいです。

 しかし私の光の玉は当たっていないはず。

 混乱していると、向こう側に意外な見知った顔がありました。


「お嬢ちゃん、怪我はないか?」


 物部宇麻乃もののべのうまの様です。


「物部様?! どうしてここに?」


「人使いの荒い雇用主に頼まれたんだよ。

 さ、ここから逃げよう」



(つづきます)

刀で斬られた時の音って、実際はどんなでしょうか?

包丁で鶏肉を切る時に音なんてしませんよね。

骨付きの肉をガンガンと叩き切る様な音なんでしょうか?

……ということで、本話では『バンッ! ガツンッ!』という音になりました。


やはり定番の『ジュバッ! ブスッ!」の方が良かったかな?

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