表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

384/585

仇敵のと対面

主人公かぐやの中大兄皇子の呼び方は、ある時を境に『皇太子様」から『皇太子」へと変わっております。

何処から変わったか、分からなかった方は読み返してみましょう♪


(※囚われの身となったかぐや。船に乗せられて向かう先は筑紫か、或いは…?)



 船に揺られる事、四日間。

 目隠しをされた上にずっと船倉の中に閉じ込められているので時間の感覚は狂っていますが、一日一回(無理矢理に)水を口に流し込まれるみたいなので、おそらく四日経ったはず。


  突然、一際ひときわ大きく船が揺れました。


 (がこんっ)


 そこそこの大きさの船っぽいので、そこそこの大きな(みなと)でないと接岸出来ないでしょう。

 やはりここは和国(にほん)最大の港、娜大津なのおおつ、つまり博多港ではないのでしょうか?

 まあ、いずれ分かる事でしょう。

 そんな事より建クン。

 建クンが無事なのか、それだけしか考えられません。

 もう胸が張り裂けそう。

 誰でもいいから建クンを看病してあげていて!

 お願い!!


 ◇◇◇◇◇


 船から降ろされた私は、何処かへと引っ張られていきました。

 しかし膝に力が入りません。

 捕まってから七日間、水以外何も与えられず空腹は遠に限界を超えています。

 空腹感はさほど感じませんが、身体を動かすエネルギーが空っぽなので、考える事も身体を支えるのも億劫な感じです。

 ずっと船に揺られていたので今も地面が揺れている感じがして、まともに歩けずすぐに転んでしまいます。

 自分ではしっかりと歩いているつもりでも傍目からすれば、ガリガリの貧民がヨタヨタ歩いている様にしか見えないでしょう。


 どれくらい歩いたのか?

 目的地に着いたみたいです。

 踏みしめる土の感触が違い、石ころが無くなり整備された敷地へと入った感じがします。

 そのまま私は床の上へと上がり、何処かの部屋へと通されるみたいです。

 ……嫌な予感しかしません。


「危のうございます」

「私は大丈夫だ。任せよ」

「しかし…」


 向こう側から声がしました。

 あの声は……。


 すると戸が開く音がして前方から空気の流れを感じました。

 そして後ろからドンッ! と押されて私はヨロヨロと前へツンのめるようにして進みます。

 しかし足の踏ん張りが利かず、膝を付いてしまいました。


「お前達は外へ出よ」

「しかし危のう御座います」

「私にはこの女子の呪術は効かぬ。其方らが居たら足手まといだ」

「分かりました。で外にて待機しております。何かございましたらお呼び下され」


 この声は間違いありません。

 皇太子です。

 そしてもう一人は私を捕まえにきた時の男の声だと思います。

 男の気配がこちらへとやって来て後ろに回ったと思ったら、私の目を覆っていた布が取り払われました。

 そしてパタンと戸の閉まる音がしました。


 七日ぶりの視界です。

 でも見たくない顔が目の前にあります。

 見たくもないその顔は、私に向かって侮蔑の表情を見せています。


「無様だな。

 一応聞いておく。

 母上は筑紫の者共に殺されたのだな?」


 何を聞いているのでしょう?

 そんな事は調べれば直ぐに分かるだろうに。


「………」


(たける)に会わせて欲しくば素直に答えよ!」


「建クンは………建皇子は無事なのですか?」


「瀕死だが生きている。

 多分もうすぐ死ぬだろう」


 自分の実の子とは思えない冷たい言葉に愕然とします。


「助けてあげて下さい。

 お願いです。建皇子に会わせて下さい」


「お前が素直に答えればな」


 嫌らしい笑みを浮かべて私の返事を求めます。

 くっ!


「……襲撃したのが誰なのかは分かりません。

 深夜、帝のご寝所に剣を携えた五人の賊が来たので、私が撃退しました。

 しかし気づいた時には宮は火に囲まれており、帝をお救いする事が出来ませんでした」


「母上は救えなかったのに、建は助けられたのか?」


阿部倉梯御主人あべのくらはしみうし様より頂きました石綿の布で建皇子を包み、火の中を駆け抜けました」


「どうして母上を助けなかったのだ!」


「石綿の布が小さく、全員を覆えませんでした。

 帝は私に建皇子を救えとお命じになられ、已む無くその命に従いました」


「お前はどうしたのだ?」


「大火傷を負ったと思いますが、神より与えられし力で治しました」


「母上もそうすれば助けられたのではないのか!?」


「帝は朝倉宮に軟禁された日からすっかりと気落ちしてしまい、ひと月以上ずっと寝込んでおりました。

 あの夜もおぶって運ぼうとしましたがそれを拒否され、ここに残ると仰いました。

『もう疲れた』と申されてました」


「………」


 朝倉宮に軟禁した張本人は貴方です、と遠巻きに言ったようなものです。

 さしもの冷血漢も言葉に詰まっております。


「宮の周りにも賊が居たであろう。

 その者らもお前が殺したのか?」


「燃え盛る宮から出ましたら、周りを大勢に取り囲まれておりました。

 帝を失った怒りに任せて、神の御業を彼らにぶつけました。

 その後もうめき声がしておりましたので死んではいないと思いますが、気を失っていたのは確かです」


「全員そうしたのだな?」


「残っていたら私に矢で射るなり剣で襲い掛かかるなりしたはずです。

 全く反撃がありませんでしたので、全員を昏倒させたと思います」


「そうか……、その連中は皆死んだ。

 お前はその事を知っておるか?」


「えっ!?」


 なにそれ?

 捕まえて死罪にしたってこと?


「山が火を噴いたのは知っておるか?」


「はい、東の山から大きな音がしました。

 その後、大きな被害があったと……」


「豊国の山から溶岩と共に吹き出た”毒の気”が朝倉を覆った。

 昏倒していた連中は、その毒を吸って一人残らず死んだのだ。

 つまりお前が殺したようなものだ」


「!!!!」


 思いがけない出来事に息が止まりそうになります。

 驚いた私の顔を見て、皇太子はご満悦の笑みを浮かべて言葉を続けます。


「お前は私の事を大勢を殺した悪党の様に思っているようだが、筑紫の者からすればお前の方が余程だよな」


 私は何も言えず、うつ向いたままです。

 言い返したい。

 そもそも帝を山奥の朝倉宮に軟禁しなければ、こうはならなかったはず。

 筑紫の人達の恨みを買ったのは、ご神木を切り倒したりしてないがしろにしたから。

 誰がそうしたの?


 でも、それを言ってヘソを曲げられては、建クンに会わせてもらえなくなるかも知れません。

 グッと押さえます。

 それに帝をあのような形で死なせてしまった事に対して、襲撃者らに怒りを感じているのは確かです。

 私は聖人でも君子でも聖女様でもありません。

 性格の悪い悪役令嬢姫なんです。

 そのくらいの悪名、受けて立ちます。


「ふん!

 とんだ神降ろしの巫女が居たものだな。

 どうだ? 私が憎いであろう。

 私にも同じことをするか?」


 妙に突っかかってきます。

 大人げないですが、中身は私の方が年上です。

 余裕をもってスルーします。


「建皇子に会わせて下さい」


「そんなにあのおしが可愛いのか?

 母上と言い、お前と言い、汚れた血筋の出来損ないのどこがいいのだ?!」


「帝は建皇子の事を心が美しいと仰ってました。

 建皇子は何処も汚れてなんておりません。

 出来損ないなどでは御座いません!」


 実の父親とは思えない言い方に、カッとなってついに言い返してしまいました。


「言ってくれるな。

 何処の出自かも分らぬ孤児だった者が、この私にそのような物言いをするとはな」


 不味りました。

 何か癇に障ったらしく、額には青筋が立っています。

 心なしか声が震えております。


「ふん! まあよい。

 朴井鮪えのいのしび

 かぐやを建の部屋へ連れていけ!」


 皇太子は戸の向こうにいるであろう男に声を掛けました。

 何故、気が変わったのか分かりませんが、ようやくです。

 朴井鮪(変な名前の男)が一礼して入り、私の片腕をむんずと掴んで立ち上がらせようとしました。

 私はよろけながらも立ち上がり、男によって部屋の外へと連れ出されました。


 ◇◇◇◇◇


 長い廊下を歩き、隅っこに近い狭い部屋に建クンは居ました。


(ひゅー、ひゅー、ひゅー……)


 !!!!

 横になっている建クンは息も絶え絶えで、どうにか息をしている様な状態でした。

 これは危篤状態じゃないですか!!

 誰も看病する人もなく、放置されていました。


「建クン!!」


 残った体力を全て振り絞って、横になっている建クンに駆け寄りました。

 熱い。

 高熱は続いたままです。


 枕元に水の入ったかめはありますが、こんな状態で起き上がって飲めるはずもありません。

 何て酷い事を!!

 急いで甕の水を手ですくって口の中に入れようとするのですが、全く口が動いてくれません。

 水は口の中へと入らず、頬を伝ってこぼれていきます。


 これでは埒があきません。

 肺に水が入らない様にと建クンの上体を少し起こして、甕の中の水を私が口に含んで口移しで建クンへ水を飲ませました。

 口の中へと入った水は、無意識のままコクコクと喉を通って胃に運ばれていきます。

 一口、二口、三口、……、十分ではありませんが胃の中にコップ数杯分くらいは入ったと思います。

 私は上体の起きた建クンをギュッと抱きしめました。


 建クン……。


 そして私はありったけの解熱の光の玉を建クンに当てました。


 <<<< チューン!>>>>


 (どさりっ)


 案の定、私の意識は遠くなっていきました。



(つづきます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ