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逃亡者たち

『逃亡者(The Fugitive)』

1960年代、アメリカで放映されたサスペンスドラマ(どちらかと言うとヒューマンドラマ?)です。

1993年にハリソンフォード主演の映画としてリメイクされました。

4年前には日本版ドラマがリメイクされ、半世紀たった今でも人気の高い傑作ドラマです。

この冒頭ナレーションのファンは今尚多いです。

『リチャード・キンブル。職業、医師。

正しかるべき正義も時として、めしいることがある 。(※ここで「法と正義」の女神・テーミスが映る)

彼は身に覚えのない妻殺しの罪で死刑を宣告され、護送の途中、列車事故に遭って辛くも脱走した。孤独と絶望の逃亡生活が始まる』


執筆の際、このような昔観たドラマ(もちろん再放送)なども大変に参考になります。


(※敵の手を逃れ、山の中へと逃げ込んだかぐやと建皇子。はたして無事、逃げ遂せるか?)


 ……完全に方角を見失いました。

 とりあえずまっすぐ歩いて行きましょう。

 こうゆうのって山道に迷う定番な気がしますが、今は街道に戻れば敵が待ち構えております。

 来た方向の逆へと向かうしか思いつきません。


 それにしても……

 先ほどの攻撃を見る限り、敵は私達を完全に待ち伏せしていました。

 逃げた先に伏兵が待ち構えていたという事は、私達がこのタイミングでやって来る事を事前に察知していたという事。

 つまり何処かで見つかっていたのかも知れません。

 考えてみれば、この道は讃岐へと向かう道順ルートでもあります。

 やはりこのルートを選択したのは失敗でした。


 第一陣が伏兵を合せて二十名くらい。

 第二陣は射手が十名、追手が十名くらいいたと思います。

 しかし一番最初の後ろからの攻撃が剣で斬り掛かったのではなく棒で殴ったという事は、生け捕りを狙っている節があります。

 だからって矢で射るのはアリなのか? ……という気もしますが『出来れば生け捕り』という感じなのでしょう。

 私も飛び道具(チート)をバンバンと撃っていますのでお互い様ですね。

 おかげで逃げられたわけですから文句は言えません。


 先ほどの攻防で光の玉(チート)のおかげで相手を無力化しましたが、そのうち回復して追ってくるはずです。

 もしかしたらこれから向かう先に第三陣も待ち構えているのかも知れません。

 一体何人いるのか?

 少なくとも四,五十人いるのは間違いありません。

 皇太子の本気が透けて見えます。

 時間が経てば経つほど増援が来るでしょう。


 暗くなったら山を抜け出すことが難しくなりますが、明るいうちに山を下りると敵に見つかってしまいます。

 当面の目標は、まず明るいうちに山を出られる麓にまでたどり着くことです。

 とはいえ、当麻様のお屋敷は竹内街道を抜けてすぐの場所にあるので、目的地とするには危険です。

 なので南へと向かって一言主神社を目指そうかと考えております。

 感覚的には歩いて二時間、10kmくらい離れていたと思います。

 山道を10kmというのは平たんな道で20km歩くくらいに大変です。

 建クンには負担を掛けてしまいますが、出来るだけ私がおぶってあげて、目的地ゴールまで連れて行ってあげよう。


 そう考えながら南へ南へと歩いて行きました。

 山の中で南の方角を探るために剣で木を切って、年輪の向きで方角を確認してみました。

 でも実際にやってみるとそれほど年輪って偏っていなくて分かり難かったので、仕方がなくお日様の向きを頼りに歩きました。

 本当に年輪って南向きなの?


【天の声】実は木の年輪の向きで方角が分るというのはガセで、苔が生えている側を北とする方がよほど確実である。


 ◇◇◇◇◇


 日が沈み始めるころ、やっと山の麓に出れたみたいです。

 遠くには人家が見えますが、周りに人の気配はありません。

 どのくらい南に下ったのか、ここはどの辺なのか、全然分かりません。

 歩き回って調べたい気持ちはありますが、もう体力の限界です。

 何処か身体を休ませられる場所を探す方が優先です。


 建クンのヘトヘトで動けません。

 いえ、ここまで来れたことが出来過ぎなのです。

 もうこれ以上頑張らせたくないのです。

 私は建クンをおぶって人家のある方へと歩いて行きました。


 すると外に人が居たので声を掛けてみました。


「すみません。少し教えてください」


 急に話し掛けられ、明らかに警戒している男性。

 こちらは子供をおぶっているとはいえ、剣も持っています。

 この時代の地域コミュニティーはとても狭く、余所者に対してとても排他的です。


「なんだ!」


「すみません。街道から道を外れてしまって、ここに出てしまったのです。

 ここがどこら辺なのか教えて頂きたいのです」


「ああ……そうゆう事か。ここは笛吹様の近くだ」


 笛吹? ……笛吹神社の事かな?


「笛吹様とは火雷大神ほのいかづちのおおかみ様をお祀りする神社ですか?」


「ああ、そうだ」


 たぶん位置的に考えて、葛木坐火雷神社かつらきにいますほのいかづちじんじゃではないでしょうか?


「としますと、一言主様はもう少し南の方でしょうか?」


「一言? ……たぶんそうだろう」


 あまり分かっていないみたいです。


「ありがとうございました。

 申し訳ないのですが、お水を飲める場所はあるでしょうか?

 道に迷っている間、何も口にしていなかったので水だけでも」


「ああ、分かった。

 だが水を飲んだら出て行ってくれ。

 たぶんあんた等は何かに追われているだろ。

 関わり合いになりたくないんだ」


 自分では気付きませんでしたが、逃亡者独特の雰囲気が表にでていたのでしょうか?

 それともこの季節は徴税逃れに逃亡する農民が多いのでしょうか?


「申し訳ありません。お願いします」


 私は水甕のある場所へと案内されて、水を恵んでもらいました。

 建クンにもお腹いっぱいになり過ぎない程度に水をあげます。

 栄養価は全くありませんが、カラカラに乾いたであろう身体に染みわたります。


「ありがとうございました」


「ああ、あとその子にこれをやんな」


 男の人から手渡されたのは梨でした。


「え!? でも……」


「いいからとっとと行け!」


「本当にありがとうございます」


 私は何度もお礼を言って、一言主神社を目指して南へと向かいました。

 この時代の人達は皆貧しい人ばかりですが、決して他人を見殺しに出来るほど殺伐としているわけではありません。

 ここに来るまでも多くの人から建クンを気の毒に思って食べ物を恵んでくれる人がいてくれたおかげで、ここまで来れたのです。


 こうして私達は小一時間ほどで一言主神社へとたどり着きました。


 ◇◇◇◇◇


「夜分すみません。宜しいでしょうか?

 葛城様はいらっしゃいますでしょうか?」


 一言主神社の祭祀である葛城氏のお屋敷に到着した私達は門を護る警備の方にお目通しをお願いしました。

 しかしぼろぼろの身なりの私達を見て、明らかに物乞いか何かと思い込んでいるみたいです。


「今日はもう遅い。明日出直してこい!」


「すみません。葛城様にお取次ぎできませんでしょうか?

 かぐやが参りましたと言えば、分かって頂けると思います」


「くどい! 今夜はもう取り次がぬ!」


「そこを何とかお願いします。

 かぐやが来たと申せば分かって頂けます。

 本当にお願いします!」


「分かった、分かった!

 だが葛城様が合わぬと申せば帰ってもらうぞ」


「はい、お願いします」


 ひたすらに平身低頭でお願いしました。

 もうこれ以上の移動は私も建クンも限界です。


 暫くすると、中から葛城様が自ら出てきました。


「かぐや殿! 一体どうなされたのですか!?」


「夜分申し訳ございません。

 故あって、皇子様をお守りしてここまで逃げてきました。

 ご迷惑は承知ですが、一晩だけ匿って頂けないかと参りました次第です」


「何と……、とにかく大変だったみたいですな。

 ささ、中へお入りください」


「恐れ入ります」


 ようやく私達は体を休める場所へとたどり着きました。

 建クンもフラフラです。


 しかし長い窮乏生活で胃が空っぽだったのでお粥を一杯だけ食べ、お腹を満たすのを我慢しました。

 そして身体を拭き、衣を借りて身ぎれいにして頂きました。


「かぐや殿、一体どうなされたのかお教えいただきますか?」


 ハンセン氏病だった葛城様の顔には痘痕あばたがあり痛々しい感じがします。

 しかし光の玉で治療して差し上げたので完治しているらしく、膿は全くありません。


「詳しく申してしまいますとご迷惑が掛かりますので、概略だけ申し上げます。

 ひと月前、筑紫の国で帝が崩御されたのはお聞きしましたか?」


「ええ、つい先日、帝がご病気で亡くなられ、葬送の儀が執り行われると通達がありました。

 来月か再来月、帝のご遺体がこちらへと運ばれ、陵墓へとお納めされるそうです」


「そうですか……。

 実は私はその帝のお亡くなりになる場面に立ち会いました。

 亡くなった原因はご病気ではなかったのです。

 それを知られると都合の悪い方から、私は逃れているのです」


「なんと! まさか!」


「人の目を避けて摂津までたどり着き、竹内街道を抜けて当麻様を頼ろうとしたのです。

 ところが追手に捕らえられそうになり、山を抜けてここまで来たところに御座います」


「そうですか……、それは大変でした。

 これからどうなされるつもりですか?

 このままここで匿っても宜しいのですよ。

 私にはかぐや殿に恩義が御座います。

 それでなくとも神卸しの巫女たるかぐや殿のお役に立てるのであればどのような事も」


「いえ、それでは葛城様にご迷惑が掛かります。

 それにこの付近に私が居ることが、相手に知られております。

 一刻も早くこの地を離れ、東へと参ろうかと思っております」


「何か当てはあるのですか?」


「いえ、全くありません。

 だからこそ、相手の目を逃れられると思っております」


「何とも、神卸しの巫女がこのような不遇な扱いを受けるとは許し難いものがあります」


「ご心配おかけして大変恐縮です。

 しかし相手は強大な上に容赦ありません。

 出来るだけご迷惑をお掛けしないためにも、出来るだけ早くこの地を離れようと考えております」


「そうですか。

 とにかく今夜だけでもゆっくりと身体を休めてください。

 何か必要な物が御座いましたらお申しつけください。

 何でも用意します」


「返す返す有難うございます。

 お言葉に甘え、休ませて頂きます」


 その夜、私達はゆっくりと身体を横たえて休むことが出来ました。

 しかし精神こころは高揚しているらしく、あまり眠れませんでした。



(つづきます)



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