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竹内街道の攻防

当然のことながら、今回はチューン!が多いです。


 前話のあらすじ:朝倉宮の襲撃から逃げ出したかぐやと建皇子は1か月に及ぶ逃亡の末、目的地の葛城に向けてあと一息のところまでたどり着きました。



 やたらと古墳の多い竹内街道を通り、その日は山のふもとで夜を明かすことにしました。

 幸い夜露を凌げる荒家あれやを見つけることが出来ました。

 荒家というと雨月物語に出てくる様なあばら屋を思い起こすかもしれませんが、飛鳥時代の荒家とは後の世に言う竪穴式住宅です。

 気分は登呂遺跡の住人です。

 藁の隙間から星が見えます。

 でもここなら火を起こして暖を取ることも出来るので、わずかに残った食料に火を通して少しだけお腹を満たました。

 そして、いつもの様に建クンとぴったりとくっ付いて石綿の布に包まって寝ます。

 建クンの温もりが心地いい……。


 翌朝、最後の食糧をお粥にして全部平らげました。

 そして荷物になる甕などの荷物を置いて、いよいよ山越え(アタック)です。

 持っているのは、剣と石綿の布に包んだ帝の形見の鉢だけ。

 建クンの体力を気遣いつつ、ゆっくりゆっくり前へ前へと進んでいきました。

 そして峠道の頂点を超えて、上り道が下り道になってホッとしたところで、向こうから集団がやってきました。

 人数は十二人ほどで、身なりはそこそこ良くて半分が剣を携えています。

 追手の可能性を考え、警戒心をマックスにして身構えます。

 彼らをやり過ごそうと狭い峠道を横に避けて道をあけました。

 もし剣で斬り掛かれても反撃できるよう、見えない光の玉を展開します。

 建クンの手をぎゅっと握ります。


 …………。


 彼らは私達の事など全く気に掛けないかのように前を過ぎ去っていきました。

 大丈夫かと少しだけ安堵したその時、後ろから音がしました。


(ガサ)


 そして次の瞬間、頭に激しい衝撃を受けました。


(がんっ!)


 いつぞや、改心する前の亀ちゃんに思いっきり頭を殴られた時と同じです。

 クラッとして気が遠くなる刹那、ようやく私は用意周到に待ち伏せされていたことに気が付いたのです。

 私が捕まったら建クンはどうなるの?

 守ってあげられる人は居るの?

 帝の死の真相を知っている私や建クンを皇太子アイツが見逃すのか?


『そんなの嫌だ!』


 ほぼ無意識に私は光の玉を自分に当てていました。

 チューン! チューン! チューン!


 頭のケガの治癒と、気付けと、何でもいいから身体を治療する光の玉です。

 以前同じことを経験しているので、抜けはありません。

 突っ伏して倒れる直前に、私はふん! と右足を出して踏みとどまり、そのまま展開していた光の玉を後方へ飛ばしました。


「うあっ!」

「いでぇ!」

「ほげぇ!」


 三人に命中したみたいです。

 とはいえ、他にもいるかも知れません。

 そして襲撃者の声を合図に、先ほどの十二人もこちらへと向きを変え、襲い掛かってきました。


 なめんなっ!


 私は手を握っている建クンを懐に抱えながら、光の玉を全方面に放射しました。


<<<<<< チューン! >>>>>


 正面の相手はバタバタと倒れていきます。

 息も出来ない激痛らしく、気絶している者もいるみたいです。

 後ろの方は分かりません。

 確認する余裕もありません。


 私は建クンの手を引いて、峠道を走って下りました。

 すると後方から音がしました。


 (ポゥーーーーーーー……)


 鏑矢の様な音がする矢が放たれたみたいです。

 という事は前方に敵が居るという事か?!

 だけど戻る訳にはいきません。

 脇道らしい道もありません。

 待ち伏せされていたという事は、たぶんそうゆう場所を選んだのでしょう。

 完全に後れを取っています。


 どうする!?

 何も策が浮かばない私は建クンの手を引っ張りながら、小走りに下へ下へと向かいます。

 向かう先に待ち伏せがあることも承知の上で、これまで山賊をやっつけたように強行突破するしか思いつきません。

 せめてもと光の玉を目いっぱい展開して、いかなる事態にも備えます。


 しかし前からは誰も現れません。

 怪訝に思って足を緩めると、前方から雨の様な矢が飛んできました。

 ほとんど無意識に私は建クンの前に立ちはだかりました。


(ズン!)


 くっ! 私の肩に命中!

 すごく痛いっ!

 たまらず私達は木の陰へと飛び込みました。


 しかしそこには十人を超える伏兵が居ました。

 ちくしょう!

 肩に矢が突き刺さった痛みがズキズキして、気が遠くなりそうです。

 矢が刺さったままでは治癒ヒールは出来ません。


 身の回りに展開した光の玉を目の前の兵士達にぶつけました。

 しかし意識が朦朧とし始めた状態ではコントロールが甘く、撃ち漏らしがあります。

 剣を抜いて私へと襲い掛かってきます。

 次の光の玉をぶつけようとする前に、私は組み伏せられ、押し倒されました。


「ぐっ!」


 転んだままの状態で、上に乗っかかっている男に十発くらいの光の玉をぶつけてやりました。


「うがっ!」


 すると私の上に覆いかぶさっていた男が私の上で気絶したため、益々身動きが取れなくなってしまいました。

 脱力した人間がこんなに重いとは!

 そしてその上に男達が覆いかぶさってきて、あっという間にアニメの怪盗が警官達に取り押さえられるかのような状態になってしまいした。

 だけどアニメと違うのは人に乗っかかれたままスルスルと抜け出せるはずがなく、ピクリとも身動きが取れません。

 とにかく逃げたい私は、乗っかかっている男達に光の玉を乱発しました。


<<<<< チューン!>>>>>


 しばらくして気絶した男達の山がずるずると崩れました。

 頭がくらくらする中、私はどうにかと這い出て、自分の肩に刺さった矢を握りました。


 はぁはぁ……。


 そして力いっぱい引き抜きます。


「ゔっ!!」


 矢と一緒に肩の肉片も一緒に持っていかれました。

 幸いだったのは、返しがない先の尖っただけの矢だったことでした。

 矢を引き抜いたら、光の玉を当てて治療します。

 そして自分自身に気付けの光の玉を当てて、朦朧とした意識を取り戻します。


 建クン!!


 意識をはっきりと取り戻し、振り返った私が見たものは敵に捕まった建クンと喉元に剣を当てている兵士の姿でした。

 私の中の血液が一気に沸騰するような感覚に囚われます。


「この子の命が惜しければ大人しくしろ!」


 テンプレな脅し文句を言う男を前に私は、飛び掛かりそうな自分を抑え、両手を挙げて降参のポーズをします。

 目は心の激情のまま睨んでおります。


「そのままでいろよ」


 横歩きで男は建クンに剣を当てたまま、道へと出ていこうとしました。

 しかし道との僅かな段差に足を取られた刹那、少しだけ剣が喉元から離れます。

 私はそれを見逃さず、ありったけの見えない光の玉を男の頭にぶつけました。


<<<<< チューン! >>>>>


 手加減なしの光の玉です。

 男はその場でバタッと倒れ、ピクリとも動かなくなりました。

 声も出なかったことから即死だったかも知れません。

 建クンは私の方へと駆け寄ってきます。


「んん~~!」


 ここに至って私は街道に出るのを諦め、建クンを負ぶって山の方へと入っていきました。

 山と言っても現代の様な人為的に植林された杉の人工林ではありません。

 鬱蒼うっそうとした草木が生い茂る雑木林ざつぼくりんの中を足を取られながら走っていきます。

 日が暮れれば、暗闇に紛れて逃げ遂せるかも知れませんが、まだ昼前です。

 どちらへ向かえばいいのか分からないまま、必死に走って行きました。


 後ろからは草をかき分けて追ってくる足音が聞こえます。

 もはや後ろを振り返る余裕もなく、後方へと光の玉を乱射しました。

 避けられないよう、見えない光の玉です。


「だぁ!」


 一人に当たったみたいです。

 でもまだ草を踏みしめる音がします。

 何発か分からないくらい光の玉を乱射して、悲鳴が聞こえ、また乱射して……。

 何度か繰り返すうちに、ようやく足音がしなくなりました。


 そこでようやく足を止めて背中の建クンを下ろしました。


「……大丈夫?」


 心配そうな建クンの小さな声が私のメゲそうな心を奮い立たせました。

 帝に託された建クンを守り抜かなきゃ!


「大丈夫! 建クン、絶対に逃げようね」


「んっ!」


 私達は疲れ切った体にむち打って、山の中をさ迷うのでした。



(つづきます)

鏑矢かぶらやは、鳴鏑矢(なりかぶらや)とか嚆矢(こうし)とも呼ばれ、古墳時代には既にあったみたいです。

また四天王寺(大阪府)には飛鳥時代に物と思われる鳴鏑矢が現存しており、重要文化財として大切に保管されております。

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