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物部宇麻乃からの報告

Case Closed.(謎は全て解けた!)


名探偵コナンのUSA版タイトルですね。

 _/_/_/_/_/ 皇太子視点によるお話が続きます _/_/_/_/_/



「火急のお呼び出しと伺い、急ぎ馳せ参じました」


 遠く離れた石上いそのかみ(※現在の奈良県天理市あたり)から宇麻乃(うまの)がやってきた。

 どのような方法をとったのか分からぬが、招集の便りを受け取って三日でここへ着いたことになる。

 馬便よりも早い。

 相変わらず底の見えぬ男だ。


「よく参った、宇麻乃よ。

 話は聞いているだろうが、今すぐ朝倉宮へ行って調査せよ。

 ただ正体不明の攻撃を受け、山の上から俯瞰していた者以外は次々と倒れ戻ってこぬのだ」


「正体不明の攻撃に心当たりは御座いますか?」


「朝倉宮の周辺にかぐやが居るかも知れぬ。

 もし反撃するようであれば殺せ。

 それと兵士達の死因については後回しにて構わぬ。

 帝が無事かどうかだけは必ず調べよ。

 万が一亡くなっていたのなら、ご遺体を回収せよ。

 詳しくはそこの者に聞くがいい」


「承りました」


 こうして宇麻乃による調査が始まった。


 ◇◇◇◇◇


 初日。

 朝倉宮へ行った宇麻乃から便りが届いた。


『朝倉宮一帯には毒を含む”気”が満ちております。

 おそらくは鶴見岳の噴火の際、溶岩と共に出た毒が尾根を伝って朝倉へと流れてきたと思われます。

 朝倉は山に囲まれているため、毒が滞留し易いことが災いした模様です。

 水を含む布を口に当てれば毒を免れることが出来るため、兵士らにはそれを徹底させ調査させております。

 またこの毒は高い場所には届かぬため、山の上に陣を張り、夜を過ごします。

 本日は毒を調べる事に注力したため、明日より朝倉宮を調べます。

 便りが届かなくなりましたら、我々に異変があったとお思い下さい』

(※硫化水素は水に溶け易い性質を持っています)


 さすがは宇麻乃だ。

 毒には詳しい奴だからこそ分かったのであろう。

 しかし兵士らの不審死の原因が”毒の気”によるものならば、母上もかぐやも毒にやられているのかも知れぬな。

 私は次の報告を待った。


 二日目。

 調査に進展があったようだ。


『布を当てているとは言え、毒は確実に身体を蝕むため下山するのは一刻(2時間)と限っております。

 本日分かったのは以下の通りです。

 ・焼け落ちた宮の周りの死体には腐乱に程度があり、腐乱の激しい死体の中には剣で切られた深い傷がある。

 ・腐乱の激しい死体の中で傷のない死体は、身に着けている物、衣、髪型などからこの地の者と思われる。

 ・腐乱が進んでいない死体は、調査に向かった者達の成れの果てと思われる。

 ・焼け落ちた宮の中にも死体があったが、今は手を付けず、一体一体詳細に調べる予定。

 以上の事から、この辺りが”毒の気”に覆われる前に宮で争いがあったものと思われます』


 筑紫の者らによる襲撃があったという事か?

 すると母上は筑紫の者らに殺されたという事か?

 いや、かぐやが一緒だったのだ。

 もしかしたら母上を連れて逃げおおせたという事もあり得る。

 かぐやが味方であれば心強い事だろう。


 三日目。

『腐乱の激しい死体を中心に調査しました。

 本日分かったのは以下の通りです。

 ・腐乱死体の中に帝、かぐや、皇子様と思しき死体は見当たらず。

 ・筑紫の者と思われる死体は宮の周辺に多く、傷のある警備と采女らと思われる死体は宮の近くにある。

 ・このことから、筑紫の者らの襲撃を受け、警備と采女らが殺されたと断定。

 ・宮の中には十体の焼死体があるが、性別、年齢等は不明。

 ・帝の寝所だった場所に五体の死体があったので、これらの中に帝の死体があるかを調べております』


 筑紫の者らの襲撃があったことは間違いない。

 筑紫評造(こおりのみやっこ)を呼び出し、締め上げてくれよう。

 母上の寝所に五体の焼死体か……。

 母上とかぐやと建の三人と、襲撃者が二人……か。

 かぐやが簡単にやられるとは思えぬが、老いた母上とおしの建を庇いながらでは守り切れなかったかも知れぬ。

 寝所という事は寝込みを襲われたこともあり得る。

 母上の死が確実なものになりつつあるのは、私とて辛いものがある。


 四日目。

『調査の者の何人かが動けなくなりました。

 毒が体内に蓄積したものと思われます。

 勝手ながら本日は調査を中止し、毒消しを服薬して休養を取りました。

 本日の報告は御座いません』


 何をしておるのだ!

 毒で体が動かぬなど、心がけが悪いだけだ!

 しかし宇麻乃に任せている以上、待つしかない。

 このようなやり取りをしていると鎌子の苦労が分かるような気がしてきた。

 次からは少し労わってやるとしよう。


 五日目。

『一応、調べつくしたと思われますので、本日にて調査を終わります。

 判明しましたのは以下の通りです。

 ・装飾品から帝と思われる遺体を発見。

 ・かぐやと建皇子様は不明のまま。

 ・采女の特徴を持った焼死体の中の一体がかぐやだと思われる。

 ・背の低い遺体が建皇子かも思われるが、断言はできず。

 ・ただし逃げ出したとしても”毒の気”から逃れる事は困難であり、道中に死体が転がっているはず。

 ・遺体の場所から、現場では以下の順序で事が起こったと推測。

 壱、敵襲により警備の者が殺され、宮が火に包まれた。

 弐、宮の中の者達は襲撃者諸共焼死した。

 参、運よく宮の外に逃れた采女ら六人は襲撃者により惨殺された。

 肆、宮一帯に”毒の気”が流れ込み、その場に居た襲撃者全員が死に至った』


 ……そうか。

 覚悟はしていたがやはり母上は亡くなったのだな。

 だが私は悪くない。

 私は宮を用意し、そこに終の住処を用意しただけに過ぎぬのだ。

 襲撃した筑紫の者らが母上を殺したのだ。

 連中には今回の事件を盾に徹底して要求してやる。


 直ぐに私は額田を始めとして妃、皇子、皇女らを集めた。


 ◇◇◇◇◇


「皆の者、事は重大だ。

 心して聞いてくれ」


 長津宮に居る皆に語り掛けるように話を始めた。


「母上のたっての希望で其方達にはこの狭い長津宮にいて貰い、母上一人だけ朝倉宮へと向かっていた。

 母上は此度の戦のため、僅かな供を従えて朝倉橘広庭宮あさくらのたちばなのひろにわのみやにて祈祷に励んでいたのだ。

 毎日毎日、一心不乱にだ。

 しかし……」


 ここで一旦言葉を切った。

 母親を亡くしたばかりの男が淀みなく話をするというのは決まりが悪い。

 目の前の者達も何事かといいたげな様子だ。


「母上は何者かに殺されたのだ」


((((ひっ!))))


 一同の息を吞む声が聞こえた。


「おそらくは山奥の宮を筑紫の者達が格好の餌食だと狙いを定めたのであろう」


「かぐやさんは、かぐやさんは一緒だったの?」


 額田が突然割って入って声を張り上げた。

 かぐやと額田とは仲が良かったな。


「残念だが宮は焼け落ち、男とも女とも分からぬ死体が転がっている状態だ。

 母上にしても帝の装飾があったから分かったに過ぎぬ」


「しかし、かぐやさんがそんな簡単に賊に殺されるなんて有り得ないわ!」


「そうだ。あり得ない。

 だからこそ私は、母上に嘆願してかぐやだけはと同行させたのだ。

 事実、宮の外には数十人の傷のない死体が転がっていたそうだ。

 おそらくは母上を護ろうと、かぐやは術を用いて全力であがなったのであろう」


「そんな……うっ……うっ!」


 そう言って額田は泣き崩れた。


「今、母のご遺体をこちらへと運ぶ段取りになっている。

 ただし皆には言っておきたい。

 此度の件を公にすると我らと筑紫との間で戦が始まるであろう。

 筑紫評造には厳重に抗議するが、表向き母上は急病で亡くなった事にしておきたい。

 無念ではあるが、これもまつりごとだ。

 承服してくれ」


 皆、母上の突然の崩御で誰もが何も考えることが出来ぬ状態の様だ。

 今後、どうするか。

 私も鎌子が居れば相談したであろうが、事が事なだけに自分一人で決断せねばならぬであろう。



 ***** 朝倉宮にて(物部宇麻乃視点)*****


 私は帝のご遺体に手を合わせた。

 仏教の作法に近いがこれも礫とした我々の作法だ。


 報告には上げていなかったが、帝のご遺体がこれと判断したのは装飾品だけではない。

 この遺体だけが非常に安らかであったからだ。

 焼死というのは一瞬で死ねないためとても苦しい。

 ある者は絶叫をあげ怨嗟の表情を浮かべて死んでいく。

 処刑の立ち合いで何度も見させられたのだ。


 しかしこの遺体は亡くなった後に火葬されたかのように安らかなのだ。

 だが傷は何一つない。

 つまり業火の中を安らかに亡くなった、のだろう。

 そしてこの場所は、帝の控えの者の間なのだそうだ。

 ……ということはお嬢ちゃんが帝をここに横たわらせたのだろうな。


 今私は帝のご遺体はもう一度念入りに焼き、骨にしている。

 黒こげの肉片がついたご遺体では襲撃が公になってしまうから、というのが皇太子の配慮なようだ。

 豪華な造りの木の棺を寄越したので、これに収めよという事なのであろう。


 それにしても皇太子は最後まで自分の息子である建皇子の遺体について尋ねようともしなかったな。

 ……まあいい。

 私も隠し事は苦手なんだよ。


 外に転がっていた采女の遺体の一つが衣を剥ぎ取られていた。

 そして宮の前には燃えカスの様な衣が脱ぎ捨ててあった。

 襲撃者の頭領と思しき者から剣が抜き取られていて、裸足だった。

 履物が無いという事は、男物の履物が必要な者がいたという事だ。


 ただそれだけだ。


この当時、貴人の火葬は一般的ではなく、天皇で初めて火葬されたのは持統天皇つまり鸕野皇女だと言われております。

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