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焼け落ちる朝倉橘広庭宮

文中のは博多語は変換サイトのお力を借りようとしたのですがイマイチだったため、作者AIによる”なんちゃって博多弁”につき、何卒ご容赦ください。


 燃える朝倉橘広庭宮あさくらのたちばなのひろにわのみや

 帝の寝所にいる私達には外の様子は分かりません。

 しかし最奥のこの部屋に赤い炎の明りが見えるという事は、すぐ近くまで火の手が上がっているという事なのでしょう。

 そしてこの最奥に五人もなだれ込んできたという事は、護衛はその任を果たしていないか、既に果たせない状態なのか、はたまた元々果たすつもりがなかったのか?

 いずれにせよ敵に囲まれていると考えた方が良さそうです。


「ここにおっとっとよ。

 ようもおいら大切なご神木ば切り倒してくれたなぁ。

 あんたら命ば神に捧げしゃしぇてもらうばい」

(標準語訳:ここに居たぞ。よくも我らの大切なご神木を切り倒してくれたな。お前の命を神に捧げさせてもらう)


 賊たちの言葉は畿内の言葉ではありません。

 後に国民的俳優となった長髪のコミックシンガーの歌の中のセリフみたいな言葉です。

 という事は連中は皇太子の差し向けた刺客ではなく、地元の者達?

 ご神木しんぼくという言葉からすると、この宮を建てる際に皇太子が仕出かした不始末への怨恨。

 いえ、これまで募り募った大和への恨みでしょうか?


「あなた達は帝を襲いどうするつもりですか?

 内乱でも起こすつもりなのですか?!」


「しぇからしか!

 これ以上、貴様きさんら好き勝手にはしゃしぇんぞ。

 往生せい!」

(標準語訳:うるさい! これ以上お前たちの好きにはさせん! タヒね!)


 どう見ても素直に言うことを聞いてくれるとは思えません。

 それに酸素がどんどんと少なくなって、部屋中に煙が立ち込めるようになりました。

 時間がありません。

 説得は諦めました。

 展開していた光の玉を5人にぶつけました。


 チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! 


「うあっ!」

「いたぁーす」

「なんばしよっとか!」

「このばかちんがーっ!」

「ひどかぁー!」


 賊が足の痛みで動けない間に、私達は連中をすり抜けて戸の外へ駆け出しました。

 そして見えたのが行く手を遮る巨大な火の手。

 炎はすぐそこまで迫っております。

 外へのルートは完全に炎に遮られておりました。

 やむなく私は手前にある私の部屋へと入りました。


「建クン、竹笥を開けて!」


 私は背中に帝を背負っているので両手が使えません。

 建クンにお願いをしました。


「中から白い布と鉢を取りだして!」


 そう!

 ミウシ君から受け取った石綿の布があれば、炎の中を走り抜けられるかも知れません。

 試しに布を私達に被せてみました。


 ばさっ。


 ……小さい!

 このままでは布からはみ出す建クンが焼けてしまいます。

 私もです。

 布の大きさは一人分を想定したらしく明らかに小さい。

 これでは三人が一つの傘に入るようなものです。


 ……どうしよう。

 こうしている間にも黒い煙が部屋の中に入ってきます。

 すると、背中の帝が動きました。


「どうされました?」


「かぐやよ……、婆ぁを置いていけ。

 これは命令じゃ」


「そんな事出来るはずがないではありませんか!」


「頼む、かぐやよ。

 建を守ってやってくれ。

 其方しかおらんのじゃ。

 どの道、婆ぁの命は風前の灯火じゃ。

 建だけでも生かしてやってくれ」


「そんな!

 出来ません!!」


 頭では分かっています。

 このまま炎に包まれた広い宮の中を三人で走り抜ける事が無理だという事を!!

 だけど助けたい! 帝も建クンも……。


「かぐやよ……すまぬ!」


 すると背中の帝が、これまで寝たきり同然だったとは思えない力で私の背中で暴れだしました。


「きゃっ!」


 ごとん!


 たまらず私は帝を落としてしまいました。

 ごろんと帝は横たわったままです。


「斉明様! ご無事ですか!?」


「(はぁはぁ)

 かぐやよ。婆ぁはもう疲れてしもうたのじゃ。

 婆ぁをこの辛苦から解放してくれ。

 頼む。ワシの最後の望みじゃ。

 我が……娘よ」


 帝は落っこちたままそのまま横になり、動こうとしません。

 見捨てるなんて出来ません。

 しかし帝の願いを無碍にすることはもっと出来ません。

 三人では玉砕かもしれませんが、二人ならどうにか出来る方法があります。

 ごめんなさい。

 私は無事じゃないかもしれないけど、建クンだけでも無事に逃がす……ことが出来るかもしれません。


「建クン、手伝って」


「ん!」


 私と建クンは両腕を帝の背中に潜り込ませて、お互いに強く握りました。

 そしていち、に、さん!の合図で立ち上がり、帝の身体を浮かせます。

 そしてそーっと私のお布団の上に乗せました。

 涙が止まりません。


「それでは、行って参ります。

 絶対に無事脱出します」


「うっ……うっ……」


 建クンも涙を堪えようとしても止めることが出来ません。


「婆ぁば、……ありがと。さよなら」


 帝は建クンの言葉にも何も答えずに、口元には笑みがこぼれております。


 チューン!


 私は帝に麻酔をイメージした光の玉を当てました。

 帝はそのまま眠りに落ちました。

 これで苦しい思いをしないと思います。

 そして私達は部屋の外へ出て戸を閉めました。


「建クン、鉢を持って」


「ん!」


 そして私は建クンを石綿の布を頭から被せて覆いました。


「少しの間、我慢して」


 私は石綿の布に包まれて動けなくなった建クンを脇に抱えて、炎が上がる出口の方へと走り出しました。

 作戦も何もありません。

 炎の中を走り抜けるだけです。


 あつーーーーい!!


 チューン!


 火傷をする前に治癒の光の玉で治します。

 私も建クンも。


 チューン!

 チューン!

 チューン!

 チューン!

 チューン!

 チューン!


 まるでグリルの中のチキンの気持ちです。

 目玉から水分が蒸発し、治癒しても痛みを感じます。

 でも足を取られたら致命的です。

 しっかりと目を見開いていなければなりません。

 腕の中の建クンももごもごと動いています。

 きっと熱いのを必死に我慢しているのでしょう。


 息が苦しい。

 酸素が足りません。


 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い!

 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い!

 熱ーーーいっ!


 ◇◇◇◇◇


 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。


 どのくらい走ったのでしょうか?

 私は燃え移った衣を脱ぎ捨て、裸のまま宮の外で四つん這いになり、立ち上がる事も出来ません。

 身体の中の酸素が全く足りません。

 たぶん水分も失っていると思います。

 頭がくらくらします。


「た……建クン、大丈…夫」


 すると石綿の布から建クンが出てきました。

 石綿で守られていた分、私の様に照り焼きにならなかった分だけダメージは少ないみたいです。


(じゃり)


 足音です。

 それもたくさん。

 目が明るい炎に慣れてしまったので暗闇の中の敵に気付くのが遅れました。


「くっ!」


 何も見えません。

 ならば明るくすればいい!

 私は特大の光の玉を打ち上げました。


 ちゅーーーーん!


 上空の光に照らされて、数十人もの武器を持った敵が潜んでいました。

 突然現れた光の玉に動揺している様子も伺えます。

 中には裸の私に嫌らしい視線を向けている奴もいます。


「建クン、伏せて!」


 もはや狙い撃ちも、手加減もなしです。

 あらん限りの光の玉を自分の周りに展開して、360度一斉に発射しました。


<<<<<チューン!>>>>>


 先ほどまで私が味わった生きながら火あぶり(グリルチキン)になる苦しみを乗せた光の玉が、その場にいた全員に命中しました。


「あつかーーっ!」

「あちちち!」

「うがががががが!」


 彼方此方から悲鳴が上がります。

 もう一丁!


<<<<<チューン!>>>>>


 これまで味わった痛みという痛みを乗せて、その上に帝の恨みを乗せた光の玉です。


「「「「「……………」」」」


 声がしなくなりました。

 全員、気絶したみたいです。

 いえ……、もしかしたら心臓を止めてしまったのかも知れません。

 今の私には止め(ブレーキ)が利きません。

 手加減をする心の余裕など無いのです。


 後ろを振り返るとこれでもかというくらいの火柱が立ち登り、激しく燃えております。

 この炎の中で帝は……。

 乾いてしまった目玉からまた涙があふれてきました。


「かぐや! しっかりとせい!」


 不意に心の中で帝の言葉が聞こえました。

 そう、これから私は建クンを連れて逃亡の旅に出なければならないのです。

 これからどこへ向かえばいいのか分かりません。

 どうやって生き延びればいいのかも分かりません。

 だけど帝との約束は必ず果たします。

 必ず!


 私はその辺に倒れている殺されてしまった世話役の衣をはぎ取って身に付けました。

 襲撃者の中で一番身なりの良さそうな人の履物と剣を取って、建クンに身につけさせました。

 そして最後に宮に向かって深々と礼をし、北の方角へと歩き出しました。


 どのくらい歩いたのでしょう?

 東の方角から大きな音が響き渡りました。

 まるで龍の様な赤い煙が空へと立ち上っていきます。


 後になり、宮の東の方角にある鶴見岳が噴火したのだと知りました。


【日本書記】より

斉明七月二十四日、天皇は朝倉宮あさくらのみやで崩御。

……<中略>

この宵、朝倉山の上に鬼が現れ、大笠を着て喪の儀式を覗た。

人々は皆怪しんだ。


斉明帝の最後は宮殿内に鬼火おにびが現れたり、原因不明の病で死ぬ者が多かったなど祟りが相次いだと言われております。

これらの事象も斉明帝の崩御も、鶴見岳から降りてくる火山性の有毒ガスが原因だったのでは?

……という説があります。

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