朝倉橘広庭宮
ここから先、史実を離れて作者の創作がかなり入ります。
龍虎伝みたいな?
私達は磐瀬行宮で本宮が出来るのを待っているのですが、外が危険なので表に出る事が出来ず、殆ど軟禁生活のような生活を送っておりました。
そうしているうちに百済への第一陣が出立する日が近づいて来ました。
多くの船と兵士達が集結しつつあります。
まるでア・バオア・クーか?
【天の声】にわかが語るとファンが怒るから止めなさい!
遠目から見ても人がごった返していて、海辺では諸国から来た兵士達を労る女性達の姿も多く見られます。
人足さん達が船に荷物を積み下ろしして、その喧騒は正に戦争の様相を呈しております。
行き先は百済だった場所、つまり敵地です。
上陸してすぐに迎撃を受けるかも知れません。
その様な緊張感の中、兵士らしき人達は付け焼き刃な訓練をしております。
少しでも生き残る可能性に懸けて……。
◇◇◇◇◇
いよいよ第一陣の出発です。
津には船、船、船。船がいっぱいです。
多分、今日一日では全部出航出来るとは思えないしこれで全部でも無さそうなので、三日くらい掛けて出航するのでは無いのでしょうか?
ひしめく船、行き交う兵士達、準備に追われる船乗りさん達。
戦争映画の1シーンが目の前に目の前で繰り広げられているみたいです。
磐瀬行宮では主だった方々を集めての壮行の儀が執り行われました。
帝とは即ち、最高級の巫女様でもあります。
兵士達の無事を一心に神にお祈りしております。
こらっ! そこっ! 無駄話しているんじゃないっ!!
何処となく浮ついた雰囲気なのは、いわゆる平和ボケというものでしょうか?
おそらく国と国が争う初めての国際紛争がどのようなものか分かっていない様子です。
おそらく戦い方すら知らないのではないでしょうか?
そんな彼らに皇太子様の檄が飛びます。
「去る初夏、百済は突如として新羅の侵略を受け、義慈王は捕らえられ、その安否は未だ明らかでない。
しかしながら、百済王の太子、豊璋殿は我々の元にいらっしゃる。
百済の民は、今なお復興を期し、勇敢に戦っている。
特に鬼室福信、黒歯常之といった名将たちは、任存城や周留城を拠点に、快進撃を続けていると聞く。
彼らから、豊璋殿の帰国と我々の援軍を要請する書状が届いた。
わが国で育ち、その風土に精通した豊璋殿が百済王として復権すれば、我が国にとってこれ以上の利はないであろう。
また、豊璋殿は多蔣敷の妹を后に迎えられ、両国の絆はますます深まった。
百済はもはや我々にとって他国ではなく、血縁の繋がった国なのだ。
安曇比羅夫、狭井檳榔、朴市秦造田来津。
汝らは豊璋殿下を護り、百済復興の志を共にするのだ。
皆の者よ!
百艘の船と五千の兵を率い、出陣の時が来た。
この大軍を見れば、新羅の卑怯者どもは戦わずして必ず逃げるであろう。
思う存分、武勲を挙げ、百済を救い出せ!」
うぉぉぉぉぉぉぉ!!
狭い行宮の広間でムサイ男たちが雄たけびをあげると、ここまで傍迷惑なのだと思い知るところです。(現在進行形)
しかも相変わらず話のアチコチに嘘というか、都合の悪い事には一切触れておりません。
何より、相手が十万を超える軍だって知ったらどうするのよ?
胡散臭い演説の後、帝が前に立ち、豊璋様に織冠を賜りました。
そして帝は冠を授けると降壇せず、そのまま前に立ち、話を始めました。
「百済は必ず復興するじゃろう。
じゃが忘れないでおくれ。
ワシが望むのは其方らの無事な帰還じゃ。
必ず帰ってきておくれ……」
目には一筋の涙が零れ落ちます。
こうして百済への第一陣が那大津を発ったのでした。
◇◇◇◇◇
そのすぐ後、本宮が完成したとの連絡があり、本宮へ移ることになりました。
名前は朝倉橘広庭宮といい、名前の通り朝倉にあります。
半日以上歩いてようやくたどり着く場所なので前線からは随分と離れます。
しかし……、人数が少な過ぎはしませんか?
帝の他、私と建クン、そして世話係の采女さんが十人、護衛が十人。
皇子様、皇女様、妃に皆さん、それにいつもご一緒の額田様もおりません。
後から来るの?
それとも先に行っているのかな?
首をかしげながらも、ま新しい朝倉橘広庭宮に到着しました。
到着しました。
しま……した?
これってログハウス?
大きさはそこそこありますが、宮と言うにはあまりにワイルドです。
宮大工さんがお留守だったから船大工を連れてきて建てたの?
生木の臭いがプンプンする中へ入りますと、そこには皇太子様と護衛の人達が先に入っておりました。
しかし他には誰も居ません。
これはいよいよ……。
私は警戒心をマックスにして帝の前に立ち開かりました。
「どうした? かぐやよ。
帝の前に出しゃばるとは、無礼にもほどがあるぞ」
うっすらと笑みをこぼしながら、皇太子は私に向けて話しかけます。
「…………」
私は黙ったままです。
ですが見えない光の玉を周囲に展開しました。
いつでも反撃できます。
「そう警戒するな。
ここが朝倉宮なのは違いない。
急いで建てたから不満はあるだろうが我慢してくれ。
……ずっとな」
「……ここに帝を監禁するお積もりですか?」
「監禁とはただ事ではないな。
帝としてここに住んで頂きたいだけだ。
母上には無理をさせたくないのだ。
ここでゆっくりと養生して欲しい」
「つまり表に出るな。
何も話すな。
……ということか?」
ずっと黙っていた帝がようやく口を開きました。
「母上には政のいざこざから離れてゆっくりして欲しいだけだ。
私は母上に長生きして欲しいのだよ。
たとえ筑紫の山奥であってもな」
「ふん! いざこざを起こしておる張本人に言われとうないわ」
「いざこざの張本人とは心外だな。
私ほど帝による治世を真剣に考えている者は他には居ない。
母上は情に流され過ぎるのだ。
これからは私がやりたいようにやらせて貰う」
「これまで散々好き勝ってやっておきながらまだ足らぬのか」
「邪魔な者には全て居なくなって貰った。
古人、倉山田、内麻呂、有間、叔父上……。
だからと言って私は母上に亡くなって欲しくない。
これっぽちもな。
だから終の住処を用意させてもらった。
かぐやよ、其方には母上の世話係に任命する」
「待て! 葛城よ!
叔父上とは孝徳の事か?」
「他に誰が居る?
宇麻乃に命じて誰にも分らぬよう始末させた。
眠るように安らかな最期だったそうだ」
「何てことを……」
「何を甘い事を言っているんだ?
これからもっと人が死ぬのだ。
万を超える兵がな。
これで我々の基盤は盤石なものとなる。
この先、百年、二百年、千年先も私の血を引く帝がこの国を治めるのだ。
母上にはここで何もせずに居て貰いたい。
私とて親殺しの大罪を背負いたくないからな」
怖い……。
私はこの世界に来て初めて心の底から怖いと思いました。
目の前にいるのは人の形をした人ではない何かに見えます。
反撃して逃げるか?
ここにいる全員を昏倒させれば……、しかしその後どうする?
私が頭の中であれこれと考えていると、察した皇太子が私に釘を刺します。
「かぐやよ、其方が摩訶不思議な技を使う事は知っている。
だが、それを私に向けるようであれば、私は許さんからな。
讃岐くらい一捻りで消し去ってやる。
其方の父も母も領民も……一人残らずな」
「くっ!」
一番痛いところを突かれました。
「かぐやよ、遠慮はいらん。
どのみちワシは生い先短いのじゃ
目の前の賊を始末せいっ!」
帝は皇太子を『賊』と呼び、反撃せよと仰います。
だけど……。
「分かり……ました」
「かぐや!」
ここに私の敗北は決定的となりました。
(つづきます)
ご存じの方は分かりますが、日本書紀とは年月に若干のズレがあります。
ストーリーの関係上の措置なので、あまり深い理由はありません。
困った事にウィキが今ひとつ当てにならないため調査は難航しております。




