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宴、最終日(3)・・・真人皇子

癒し回です。

 扇子を管理している家人さんから豪華仕様の扇子と自分用の新しい扇子(無地)を受け取り、一先ず自分のお部屋へ行きました。

 ここなら落ち着いて詩を清書出来ます。


 手が墨で汚れない様、詩の左の行から書いていきます。

 お手本があるので字の大きさも間隔も大体分かります。

 雑念が入りそうな時は精神鎮静の光の玉を自分に当てて、ゆっくりゆっくり丁寧に書いていきます。

 なんてったって歴史上の偉人への贈り物ですから。

 お返しに自分用の扇子にサインをお願いしたいくらいです。


 だがしかし!

 私も学びました!

 迂闊な行動が自らの墓穴を掘っているという事にっ!


【天の声】本当に自覚あるのか?


 三十分ほど掛けて、扇子二本に詩を書き入れました。


 これでよし、っと。

 墨が乾くのを待って、中臣様と忌部様へ持って行きます。

 すると、先程の与志古よしこ夫人と真人まひと様がお付きの人を伴って、同じ方へと廊下を歩いてました。

 このまま後ろを歩いていたいのですが、真人様の歩みが未満児クラスのスピードなので、年長さんクラスの私はどうしても追いついてしまいます。

 かと言って、皇族ロイヤルファミリーを追い抜くのはさすがに不敬が過ぎます。

 かと言って、無視するのは遠方から来られたお客様への対応として宜しくありません。

 とりあえず、差し障りのない会話で与志古夫人にお声がけしょう。


「与志古様、真人様のご様子は如何でしょうか?」


「えぇ、貴女にあった後直ぐに治ってしまって、むしろ元気すぎるくらいよ」


 与志古夫人が振り返ってにこやかにお応えになります。

 綺麗な女性ヒトです。


「おねーちゃん」


 私を見るなり、真人様が私の元へと駆け寄って来ました。

 どうしましょう?

 人生経験は与志古夫人よりも豊富ですが育児の経験はゼロ、親戚にも小さな子は居なかったのでどの様に向き合えばいいのか全然分かりません。

 ……と考えているうちに、私は子供のタックルをまともに受けてしまいました。


(どーん)


 倒れなかった自分を褒めてあげたい。

 もし倒れたら皇子に押し倒されたイケませんわ♡な展開になるところでした。

 セーフ、セーフ、セーフ。


 タックルのダメージは光の玉で回復ヒール

 チューン!


「ま…真人様はすっかり良くなられたみたいですね」


「あらあらあら、人見知りの真人が他の人に懐くなって珍しい事もあるものですね。

 こんな真人は初めて見ました」


 ああ、小さい子あるあるですね。


「このくらいの子が見知らぬ人に対して怖いと感じてしまうのは当然の事で御座います。

 見知らぬ人を怖いと思うのは、いつも一緒にいる母様への愛情が大きいというあかしでもあるのです」


「まぁ。かぐや殿はその年で随分と博識なのですね」


 あ、失敗!

 私が通っていた大学は国文学部の他に社会福祉学部がありましたので、受講した児童心理学の試験の解答をそのまま答えてしまいました。

 子供と触れ合う見込みのない喪女が児童心理学をどないせえって思いながら履修していました。

 実戦経験は無くても知識だけはあるのですよ。


「あ、いえ。私も思い当たる事がありますので。ほほほほ……」


 私達はお二人と共に歌合せの会場となっている大広間へと歩いて行きます。

 その間、何故か私にベッタリな真人クンに心の中で語り掛けます。


『かぐや、お前との婚約を破棄する』

『どうして……。真人様どうしてその様なことを?』

『まだ分からぬか。お前の様な薄い書物(しゅみのほん)オタクとは結婚なぞできぬ』

 すると真人様の傍に衣通そとおし姫ちゃんが。

『かぐや様……あの…その』

『そ、衣通ちゃん、なぜ……』

『かぐやよ。余は真実の愛を見つけたのだ。趣味くさった本にしか興味を持たぬ喪女ではなく、本当の余を見てくれる女性を見つけたのだ』

『かぐや様、ごめんなさい』

『そう……貴方の心の中に衣通姫ちゃんが居るのですね』

『ああ、麗しい衣通姫こそ我が伴侶に相応しい』

『真人様、分かりました。私は悲しいけど平気。私は真人の事が大好きだから、貴方の新しい恋を応援するわ』

 ……なんて、新人うれない漫画家の投稿作品の様な寸劇を脳内再生しながら。


 たぶん、私疲れているかも?

 チューン!


「おねーちゃん、ピカピカ」


 ……?

 幼児には赤外線が見えるのかな?

 それとも私が回復ヒールの効果で光ってたのかな?

 幼い子供には妖精さんとか小さいオジサンが見えるらしいと聞きますので、そんな事もあってもいいかも知れませんね。


 歌合せの会場に着くと、中臣様と氏上様が並んで上座に座っているのが見えましたので、お付きの人にうやうやしくお渡ししました。

 公の場で雲の上の人に地方じゃくしょう豪族の幼女が直接手渡しなんて無礼にも程がありますから。

 与志古夫人のお席は、中臣様と氏上様がいらっしゃる御簾の向こう側なので、ここで真人クンとはお別れです。

 ……と思ったのですが、離れてくれません。本格的に懐かれてしまいました。


 どうしましょう?


「あらあらあらあら、どうしましょう。

 かぐやさん、目の届く所に居てくれれば宜しいので真人と一緒にいてくれるかしら?」


 これはお願いというより命令?

 でも育児中のお母さんってこうゆう所あるから、丁度いい託児所を見つけた気分なのかも知れません。

 ともあれ私に断る選択肢はないので肯定するしかありません。


「はい、畏まりました。私の舞の番まで少しいとまが御座いますので、それまででしたらお引き受け出来ます」


「そうね。せっかくかぐやさんの舞を観に来たのに、それが観られないというのは困りますわね。

 真人、姫の舞は見たいわよね?」


「みたい!」


「だから、姫の舞の前に戻って来るのですよ。ちゃんと聞き分けなさいね。」


「はい」


「かぐやさん、宜しく頼みますね」


「はい、畏まりました」


 私と真人様、そしてお付きの人は来賓席にいる衣通姫が座っている方へ行きました。

 衣通姫は真人様を見て、興味深そうに聞いてきました。


「かぐや様、その可愛らしい子はどなたなのでしょうか?」


 うん、一番可愛らしいのは衣通ちゃんだよ。……という心の声を封印して。


「御簾の向こうにいらっしゃる与志古夫人のお子様の真人皇子です。お守りを仰せつかりましたの」


「まあ、皇子みこ様なのですか? これは失礼しました」


 まあ、身につけている物はこの国の最高級品で固められているから、見る人が見れば皇族か、有力氏族の御坊ちゃまであるのは丸わかりですけどね。


「真人様、こちらが忌部氏のお姫様の衣通姫様です」


「…………」


 あれ? 私の後ろに隠れてしまいました。

 やはり綺麗なお姉さんと言うのは気恥ずかしいのでしょうか?

 たぶん私の庶民的でお姫様っぽくない雰囲気オーラに親しみを感じてしまったのかも知れませんね。


「それでは真人様、ここに座りましょう」


「うん」


 キュン♡ すごく素直な子!

 満年齢六歳の年長クラスのお姉さんですら母性本能がくすぐられます。

 このくらいの子がじっとしているのは無理だと思うので、つい先程新調した自分用の無地の扇子を貸して、遊ばせてあげました。

 開いたり、閉じたり、扇いだり、叩いたり、半分だけ開いたり、逆さに持ったり、叩いたり、叩いたり、叩いたり、……。

 子供に自分の古いスマホを持たせて好き勝手させて適当にしているお父さんの様な子守りみたく、真人様をあやします。

 だって、現代での三十有余年、幼い子供をあやした事なんてありませんでしたから。

 歌合せの会場はあまり雑談できる雰囲気ではありませんし、静かな広間でも子供の声は通ってしまうので、静かになってくれればそれでOKです。


「おねーちゃん、ピカピカやってー」


 真人様が飽きてしまったらしく、新しいリクエストをして来ました。

 先ほども不可視ステルスの光の玉に反応していましたから、真人様には赤外線が見えているのかも知れませんね。

 とりあえずやってみます。


 ぽわっ。


「ピカピカ〜」


 真人様のリアクションを見る限り、やはり見えているっぽいです。

 試しに今まで使っていた扇子を取り出して、不可視の光の玉を扇子の先端に纏わせて、右へ左へと振ってみます。真人様はそれに合わせて左に右にと光をしっかりと目で追っています。

 間違いないようです。

 それではという事で、扇子を羽子板の様にして光の玉を真人様に打ってみました。

 すると真人様は手に持った扇子で叩く仕草をしましたので、そのタイミングを合わせて光の玉を打ち返したように見せます。

 それを繰り返せばエアー羽つきの出来上がり。

 真人様にすごい大ウケで、真人様は歌合せが終わるまでものすごく夢中になって遊びました。


 傍にいる衣通姫の「お二人は一体何をしているんでしょう?」という視線に気が付かずに……。



(つづきます)

新人(うれない)漫画家の投稿作品の様な寸劇……断罪系悪役令嬢モノ(もしくは追放聖女系?)をディスっているわけではありませんが、お気を悪くされた方がいましたら申し訳ありません。


個人的に追放系ではハメフラが好きです。

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