表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

365/585

欲しがりません勝つまでは!

 筑紫国へと向かうのは三か月後の正月と決まりました。

 大王(おおきみ)の一族が総出で参られるため、準備も大変です。

 留守は大海人皇子と中臣鎌足様、そして鸕野皇女様です。

 微妙な間柄の三人ですが、それぞれが能力化物なので上手くいくでしょう。(他人事)


 それにしましても、公共工事なら残るものもあるでしょうが、戦争なんて金食い虫のくせに何も利益をもたらさないものです。

 今頃、中臣様は重なる出費で頭と胃が痛くなっているのではないでしょうか?


 筑紫へは人だけではなく物資や武器も大量に持っていきます。

 剣が一本1kgだとしても一万本で10000kg、つまり10トン。

 矢が一本20gだとして、十万本で2000kg、つまり2トン。

 弓が、鎧が、食料が……。

 すべてが桁違いです。

 それでも足りません。


 よくよく考えてみますと、現代の知識からすれば今の状況は既に負け戦です。

 戦争とは経済力と準備、そして戦略(ずのう)です。

 経済力で唐に敵うとは到底思えません。

 準備にしても、今この体たらくではあまりに遅いです。

 現代において防衛力とは10年20年をかけて計画していくもので、中期防衛計画にしても5年先を見据えて立てられます。

 企業だって三年先を見据えて中期経営計画を立案しているのですから。

(その通りにいかないことが多いですが……)

 いくら古代とは言え、普段から戦に備えていないようであれば勝ち筋など見えません。

 おそらくは一万を超える軍隊同士の戦の経験が少ないからで、悪い事だとは思いませんが、初心者しろーとは首を突っ込むなと言いたくなります。


 もう一つ気になりますのは、目的が百済の再興に置かれているという割には勝利条件が曖昧な事です。

 仮に百済の国が再興したとして、何をもって再興(ゴール)とするのか?

  豊璋ほうしょう様が独立宣言をしたら終わり?

 それとも百済にいる唐と新羅の軍を全滅、もしくは撤退させる?

 相手は兵の補充が出来ても、私達は容易ではありません。

 またいつ攻め込んで来るのか分かりません。

 百済が単独で生き残れないのであれば、倭国やまとが援助し続けるのでしょうか?

 それって誰得?


 考えれば考えるほど、無謀な戦争へと突き進んだ皇太子様(オレ様)の失政が気になります。

 中臣様ほどの方が傍にいらして、どうして放置するのでしょうか?

 もしかして他に目的があるの?

 領土の割譲とか?

 賄賂を貰ったとか?

 それとも女か?!


 考えれば考えるほど、憤懣やるせない気持ちになります。


 ◇◇◇◇◇


 宮全体が重苦しい空気に包まれており、後宮も例外ではありません。

 遷都をするのだから後宮も移動となります。

 ただし帝と同行するのは一部の采女だけで、主力メインは帝が筑紫国に到着されるのに併せて遅れて向かう段取りとなっております。


 とは言え、筑紫に遷都するのはあくまで戦時体制せんじたいせいとしてであり、平時体制に戻れば飛鳥へとまた遷都するはずです。

 それまでは『欲しがりません勝つまでは』、『ここも戦場だ』、『ぜいたくは敵だ』、『パーマネントはやめましょう』の標語スローガンの元、国民が一丸となって不便な生活を強いられるわけですね。


【天の声】国家総動員法かっ?!


 なので飛鳥に戻ることを前提として、後宮の采女達を割り振ることになります。

 当然、筑紫島きゅうしゅうから来た采女さん達は筑紫行きです。

 東国かんとう出身の采女さんは留守番です。

 畿内と吉備、播磨など西側の采女さんたちは、そこに立ち寄る予定の地域の出身者が同行組となります。

 こうやって後宮の中でも準備が着々と進んでいくのでした。


 準備と言えば建クンの準備も必要です。

 皇太子様の皇子でもある建クンは強制参加です。

 しっかりと念を押されました。……建クンの父親に。


 一応、建クンには筑紫国へ行くことを説明してあります。

 だけど本人は「ん!」と言うだけで分かっているのか、分かっていないのかが分かりません。

 ずっと絵を描いています。

 様子からすると、消化しきれない憤懣の気持ちを絵にぶつけているようにも見えます。

 おそらくは動きたくないのか、環境を変えられたくないのでしょう。


 絵と言えば、最近の建クンは色付きの絵を描くようになりました。

 帝の財力と情報力で絵具を掻き集めました。

 すごく貴重なものです。

 ですが帝の建クンに掛ける情熱は凄まじく六色+金色の絵具を取り揃えました。

 最初のうちは原色だらけの塗り絵のような絵でしたが、色の混ぜ方で新しい色を造り、明暗を色で表現する西洋画法的な手法を覚えてからメキメキ上達しております。

 まるで西洋美術ルネッサンスの様な絵も描けるようになってきました。

 建クンの描く絵は完全に時代を超越した絵画になってきております。


「ねえねえ、建クン。

 その絵の具で私達を描いてくれる?」


 ダメ元で私と亀ちゃんとシマちゃん三人の絵をお願いしてみました。

 筑紫へ行ったらこれだけの絵具を用意できるか分かりません。

 あまり人物画を得意としていない建クンですが、どうかな?

 最近、建クン反抗期っぽいし……。


「……ん」


『いいよ』の『ん』です。


「嬉しい!!

 じゃあおめかしして来るね。

 綺麗に描いてね」


 急いで私はお化粧をするため部屋へ戻ろうとしました。

 すると後ろから声が掛かりました。


「かぐやじゃないか、久しぶりじゃな」


 声の主は鸕野様です。


「鸕野様、一体どうしたのですか?」


「わはははは、暫くここに滞在するのじゃ。

 吉野から来たばかりじゃ」


「私達がここを出立するのはまだ少し先ですが?」


「呼び出されたから仕方がないのじゃ」


 誰が呼び出したのかは聞かないでおきましょう。


 !!!!


「そうだ! 今から建クンに絵を描いて貰うのです。

 鸕野様もご一緒に如何でしょうか?」


「おお、それは面白そうじゃ。

 建の事じゃ、絵も上達しているじゃろう」


「ええ、最近は建クンの絵を欲しがる方も増えているのです。

 殆どは帝のお手元(コレクション)となっておりますが、たまにお気に入りの方に差し上げています。

 なので今から描く絵は内緒ですよ」


「分かったのじゃ」


「ではお化粧しましょうか。

 少しでも綺麗に描いて欲しいですからね」


「そうじゃの」


 こうして私達三人に鸕野様を加えた四人の絵を描いて貰いました。

 記憶力の良い建クンの場合、ずっとポーズをとる必要はなく、ある程度ポーズをとったらあとは建クンの記憶の中の情景や人物を紙の上に描き写していきます。

 なのでそれほど付きっきりになる訳ではありません。

 建クンの筆には迷いはなく、見る見るうちに筆の軌跡が衣の皺となり、裳のひだとなり目となり鼻となり、そして人となります。


 二時間ほどして絵は完成しました。

 ビックリするほど綺麗で精細な絵です。

 額に入れて飾っておきたい出来……というか、そうしましょう!

 変にポージングして描いていないので、絵の中の私たちはまるで抜け出して今にも動き出しそうなくらいに動的ダイナミックな絵です。


 これは一生大切にしなければならないものですね。

 鸕野様を拝み倒して、私の秘蔵の書と共に大切に保管することになりました。

 ここで飾ったら帝に取り上げられてしまうので、讃岐の実家で飾るつもりです。


 あまり気乗りのしない日々を過ごしながらも、準備は着々と進んでいきました。

 そしていよいよ出発の日を迎えるのです。



九章に入ってから少し時間の流れが早くなっている様な?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ