ツッコミどころ満載の御前会議
滅茶苦茶でごじゃりまするがな~。
この元ネタの分からない方は検索してみて下さい。
超難問!?
筑紫国へ行く事は決定しました。
何処に宮を建てるかは今後の検討課題となりました。
あとは……誰が行くのか、という事です。
帝が行く事は大前提です。
遷都なのに帝が動かない訳には行きません。
皇太子様が行く事も決定でしょう。
あれだけ言っておきながら自分は行かないとなると、これまで培ってきた皇太子としての面目も実績も丸潰れです。
皇太子様が行くのなら、中臣様も行かれるのでしょうか?
いつもご一緒なので今回も同行されるとは思いますが、内政を考えると中臣様は飛鳥に残った方は賢明な気がします。
少なくとも、蘇我赤兄を留守官にするよりも何百万倍マシです。
私は……おそらく行かなければならないでしょう。
同行したところで何が出来るかは分かりません。
知っているのは白村江で日本の兵士が大敗するという事だけです。
それすら後世の脚色のため正しいかどうか分かりません。
こんなことなら卒論の時、もっと後半部分を読み込んでおけば良かった。
そうすれば、やり込んだゲームの世界に転生した主人公がゲームのストーリー、裏技、登場人物の性癖などの知識を駆使して無双するという、反則技が使えたのに~。
無いもの強請りしても始まりませんね。
帝と私が行くという事は、建クンも一緒だと思います。
だけど少なからず危険な筑紫国へ連れて行くのには抵抗があります。
逆に飛鳥に一人きりで置いていくのも抵抗があります。
じっくり考えたいところです。
一昨年の牟婁の湯へは額田様がご同行されましたが、今回も帝と行動を共にするのでしょうか?
留守だった大海人皇子は?
考えれば考えるほど訳が分からなくなってきます。
しかし……、そのような考えも鶴の一声で全部吹き飛んでしまいました。
「筑紫へ遷都するのだ。
主だった者らは全て筑紫へと行くのが当然だ。
留守は鎌子に全て任せる」
御前会議の場で言った、皇太子様の爆弾発言。
すでに何発目の爆弾だったのか数え切れなくなっております。
滅茶苦茶でごじゃりまするがな~。
思わず(飛鳥時代からすれば)未来の言葉でツッコミを入れてしまいました。
「筑紫は戦の前線に近い。
そこへ我ら一族が勢ぞろいしているというのは、危険すぎはせぬか?」
「危険は分っている。
だからこそ、我らが一族全員を鉄壁の防御で守るのだ。
飛鳥に残せるほど兵に余裕はない」
もう一度言います。
滅茶苦茶でごじゃりまするがな~。
リスクマネジメントの考えからすれば、リスクは分散させるべきであり、皇族を一か所に置くというのはあまりに危険すぎます。
しかも最前線に近いところに、です。
皇子様は他にもいらっしゃるでしょうけど、筑紫へ全員が行くメリットが考えられません。
一体何を考えているのでしょう?
「葛城よ、さすがに全員とはいかぬ。
帝の代理としてせめて一人でも居て貰わぬと困る。
筑紫へ移動する間、筑紫に居る間、ワシは帝として神事が出来ぬのじゃ。
これは鎌子とは言え、任せられぬ」
「ならば、大海人に留守を頼もう。
そのかわり我が娘であり、大海人の妃らは筑紫へと参れ。
これは父親としての命だ」
「す、少しお待ちください。
せめて大田皇女だけは飛鳥にお残し頂きたい。
先ごろ懐妊が判明しまして、長い移動は差し障りが御座います」
会議に居合わせた大海人皇子が慌てて反対します。
妊婦さんには、陸路でも海路でも体に響きます。
留守番はやむを得ません。
「ならば、そこに居るかぐやに頼め。
かぐやは産婆としての腕も優れておる」
突然の無茶ぶり!
書記官として臨席しているだけなのに、流れ弾がピュンピュンと飛んできました。
反論はしたいのですが、私には発言権がありません。
自分事なのに黙って成り行きを見守るしかありません。
「妊婦に長旅をさせるというのは母子ともに危険じゃ。
かぐやが居るからというのは理由にならぬ」
出産を経験した帝だからこそ、女性の立場に立っての反論です。
しかし、そんなことは全然知らないし、知るつもりもない皇太子様は一味違いました。
「我が娘はその様な軟弱ではない。
飛鳥に残ったところで出産には危険は伴う。
数々の難産をこなしてきたかぐやが同行するのだ。
むしろ率先して来るべきであろう」
いやいやいや、出産リスクを軟弱とかで計らないで下さい。
私が居るから大丈夫って、いつの間にそんなに高評価なの?
皇太子の口からそのような言葉が出たことに驚くよ。
かな文字の速記で議事録のメモを取りながら、心の中はツッコミの嵐でした。
「せめて出産が済んでから、出発する訳にはならぬのか?」
「我ら一族が一斉に動くのには訳があるのだ。
今のままでは必要な数の船は集まらぬ。
なので筑紫までの道中、彼方此方へと立ち寄り、その地の船と兵士を集めるのだ。
そうすれば、足りない船も兵士も補える。
我らが一族の本気を見せつけるのだ。
反対する者も、歯向かう者もおるまい」
うーん、このお方の考えは全て自分中心に回っているみたいです。
北極さんとお呼びしましょう。
帝が止めれなくて、中臣様が防波堤の役目を果たさず、今や暴走一直線です。
この人に日本の未来を託して大丈夫なのでしょうか?
ものすごく不安になってきました。
◇◇◇◇◇
議事録を清書し、提出した後、私は阿部倉梯の屋敷へと向かいました。
衣通ちゃんの御懐妊祝いです。
「衣通様、御主人様から伺いました。
この度はおめでとうございます。
本当に良かったわ」
「ありがとうございます。
かぐや様に祝福されるなんてこれ以上嬉しいことはありません。
お腹の子も幸せです」
「私がお祝いするだけで幸せになるのでしたら、これから毎日祝福しますね。
ふふふふ」
「御主人様から聞きましたが、かぐや様は筑紫へと参られるのですか?」
「ええ、そうなりそうです。
あまり気は進まないのですが、仕方が御座いません」
「そんなに嫌な事なのですか?」
「嫌というより、利が無さ過ぎます。
他所の国のためにそこまで肩入れしたところで、得られるものは殆どないのです」
「百済の方々は困っていないのですか?」
「おそらく困っているのは王族と高官の方々だけかも知れません。
四十年前に隋が滅んで、唐の国が興りましたが、そこの住んでいる人々は同じなんです。
ただ施政者が置き換わっただけです。
むしろ民衆を苦しめた施政者がいなくなったことで喜ぶ人も多かったと聞きます」
「百済は民衆を苦しめていたのでしょうか?」
「それは分かりません。
ただ、戦が絶えなかったことで苦しんできたことはあったと思います。
その争いが終結したことで、民衆は安堵しているのかも知れません」
「そうですね。
私も争いは無い方が嬉しいですから」
「もし衣通様のお腹の子が大きくなった時、争いが無くなっていたらこれ以上嬉しいことはないでしょう。
そのためにも御主人様には頑張って頂きましょう」
「ふふふ、そうね。
御主人様は偉大なお父様を尊敬なさって日々頑張っております。
御主人様も尊敬されるお父様になって頂きたいわ」
「大丈夫、きっとなれます」
私がそう言い切れる自信の根拠が(一応)あります。
『竹取物語』に出てくる五人の求婚者は皆、後の世の有力者がモデルとなっているのです。
つまり求婚者のモデルとなったミウシ君もまた後の世の有力者なのです。
こんなのんびりした日々もあと僅か……。
今後の展開は、驚くほどゆっくりです。
出発まであれやこれやあり、移動も数か月掛かりです。
一応、この辺は史実に則って話を進めるつもりです。
百済の役の間、おそらく皇族に連なる方々は筑紫へと行ったと思われます。
妊婦だった大田皇女が同行したことは記録にも残っており、常識では考えられない事だと思うのですが……何故なのでしょう?




