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筑紫国の情報

九州の皆さん、ごめんなさい。

ちなみ作者の父は鹿児島の出身で、大阪⇔宮崎のカーフェリーに乗ってよく行きました。

道中、宮崎の水車のあるお蕎麦屋さんが好きでした。

 皇太子様、こと中大兄皇子の強い要求(プッシュ)で九州へ遷都し、帝を始めとして主要閣僚さん達が筑紫国へ行く事になりました。

 でも私は飛鳥時代の筑紫島(つくしのしま)どころか、社会科で習った程度でしか九州を知りません。


 九州弁という統一言語を話す民族が住んでいて、首都は福岡。

 だけど鹿児島だけは統一言語を話さずサツマ弁という暗号言語を話すとか?

 熊本には頬っぺたの赤い凶暴なクマが出るんだモン。

 皿うどんが名物の長崎県。

 全く異なる2種類があるのは何故?

 ちなみに私はパリパリの皿うどんが好き。

 温泉好きの聖地・大分。

 でもごめんなさい。カボスは少し苦手です。

 佐賀……有田焼も伊万里焼も唐津焼も知っているのに佐賀の名物が浮かばないの。

 あと三大稲荷に祐徳稲荷神社(ゆーとくさん)を入れないと佐賀県人は激怒するらしい。

 あと一つ……あ、宮崎。

 どげんかせんといかんね。


【天の声】こんな社会科の授業はありません。九州の皆さん、ごめんなさい。


 ◇◇◇◇◇


「かぐやよ、其方は筑紫の国に詳しいかえ?」


「いえ、あまり縁が深く御座いませんでしたので、人に笑われる様な程度の知識しか御座いません」


「どの様な知識を以て笑われるのか分からぬが、宮を建設するに適した場所は分からぬよな?」


「はい、全く分かりません。

 私が適当に申してしまいますと、海の中に宮を建てる羽目になるやも知れません。

 そのくらいに全く存じていないのです」


「それはそれで楽しかろうじゃが困ったな……。

 筑紫国に詳しい者は多いが、大抵は娜大津なのおおつ(※)を勧めるのじゃ。

 しかし、万が一遠征に失敗し、逆に攻め込まれでもすれば全滅しかねぬわ」


 ※福岡市の那珂川の河口にあったと言われる港


「では一先ず筑紫に入り、仮の宮に滞在して最適な場所を探すことになるのでしょうか?」


「おそらくはな。

 磐瀬行宮いわせのかりみやという行宮あんぐうがあるそうじゃ。

 それを修繕するのが良かろう。

 じゃが心配なのは、まだ他にもある」


「食事とかですか?」


「……其方ではあるまい」


 思いっきり外しました。


「心配なのは筑紫国の者たちじゃ。

 その昔、大きな戦があっての、多くの者が命を失った。

 その悪感情は未だに癒えておらぬのじゃ」


「それは磐井氏の乱のことに御座いますか?」


「乱と言うかどうかは分らぬが、筑紫磐井つくしのいわいと戦ったの聞く」


 私の知る歴史というのは、後に書き換えられた可能性が高く、特に戦とか反乱の場合は勝った側に都合の良い解釈がされている事が殆どです。

 それを知らずに踏み込むのは確かに危険ですね。


「私にも一人だけ筑紫国に詳しい方が居たのを思い出しましたので、話を聞こうかと思います」


「ほう、ちなみにそれは誰じゃ?」


阿部倉梯あべのくらはし御主人みうし様に御座います。

 確か燃えない布の原料となる石綿を探すため、筑紫島つくしのしまを巡ったと伺いました」

(※第144話『【幕間】御主人の羈旅・・(2)ご参照)


「ならば都合がよい。

 ここへ来て話をしようではないか。

 内麻呂の息子には一度じっくり話をしたいと思っておったのでな」

 

 帝が何を聞かれるのか不安ですが、私も話を聞きたいのは違いありません。


「承りました。

 まずは話を伺ってみます。

 出来るだけ早くお願いしてみます」


「頼むぞ」


 ◇◇◇◇◇


 先ずは忌部氏にお使いを出すのが早いかも知れません。

 あの堅物のミウシ君だから、後宮へ連絡を取るのはハードルが高いでしょう。

 私も以前の様にヒョコヒョコと外出するのは止められていますし。


 使いの者を忌部氏の宮へ出し、言伝を頼みましたら、その日のうちに忌部氏から使いがミウシ君からの便りを持って来ました。

 仕事早っ!


『普段は庁にいるので、帝のご都合の宜しいときに呼び出してくれ。

 すぐに参る』


 ……という官僚らしい答えでした。

 なので翌日、帝の空き時間を見計らって使いを出すことにしました。

 漏刻の鐘のおかげで、待ち合わせの時間が整然としてきたのは良い傾向です。


「帝の置かれましてはご機嫌の程、麗しゅうございます。

 お呼び出しと聞き、参上仕りました」


 ミウシ君、最上級に堅苦しい挨拶です。

 お父様の内麻呂様もきっとこんなだっただろうと思います。


「倉梯よ。呼び出して悪かったな。

 其方の知恵を借りたいと思い、かぐやの伝手を頼って来てもらった。

 官人くにんではなくかぐやの友人としての。

 じゃから堅苦しい挨拶はそこまでにして、話をしようではないかえ」


「はっ、何なりと御聞き下さい。

 私に答えられることがあれば如何様な話も致します」


 帝に言われてハイそうですかと気軽フランクに話せるほどミウシ君は器用ではないですから。


御主人みうし様は筑紫国に長らくご滞在されたと聞いておりましたが、筑紫国の方々の帝に対する感情はどのようなのか、ご存じでしたらお教え願えないでしょうか?」


 帝に話をさせると、堅苦しい受け答えしかできなさそうなので、敢えて私が口を挟む形で質問をしました。

 するとミウシ君は少し表情を和らげ、考えこむようにして話を始めました。


「私が筑紫国に居たのは三月ほどでした。

 飛鳥では筑紫国の国造くにのみやっこと帝との軍で大きな戦があったと聞きました。

 しかし現地の者の話では国造ではなく筑紫の王だと言われております。

 そして帝の軍が前触れもなく筑紫の王へ攻撃を仕掛けてきたのだという者もおります。

 私には何が事実かは分かりません。

 しかし百年たった今でも根強い反発がありますのは間違い御座いません」


「ワシの知る話とはだいぶ齟齬があるようじゃのう」


 この時代で六十を過ぎて現役の帝は長寿の部類に入りますが、百年前の話となると何代も前の世代の話です。

 話が入れ替わったりしていても不思議ではありません。


「真実を突き止めることは難しいかと思います。

 しかし筑紫の人々にはどのように伝えられているのかを知る事が先決かと思います。

 その上で対策を考えましょう」


「そうじゃな。

 倉梯よ、話を続けてくれ」


「はっ。

 筑紫国はその場所が大和よりも任那、百済、新羅に近く、その影響を強く受けておりました。

 そして任那が滅んだ際、任那の民は大量に筑紫へと逃れてきたとの事です。

 友好関係にある任那を構成する諸国にとって、百済は敵対する相手でもありました。

 その百済が、当時の帝の影響下にあった任那の四つの県を百済領と認めよ申し入れがあり、当時の大伴氏の者がこの要請を受け入れてしまったそうです。

 その代わりとして様々な利権を大伴氏は手にしたと。

 筑紫の王からすればそれは裏切りであり、大和と敵対したと言われております」


「大伴が私利私欲に走った話はワシも聞いておる。

 じゃがそれだけで戦となり命の奪い合いになるのか?」


「百済の敵は昔も今も新羅です。

 新羅は筑紫国とも繋がりがあり、此度の百済滅亡に関してはどちらかと言えば喜んでいる者が多いかも知れません。

 大和は百済側、筑紫は新羅側となり相反する考えである聞いております」


「なるほど。

 立場が変われば見え方も違うものじゃな。

 倉梯よ、為になった。

 礼を言う」


「勿体なき言葉に御座います」


 とりあえず質問インタビューは終わったかな、と思ったところで帝からの爆弾発言が。


「ついでと言っては何じゃが、もう一つ教えてくれ。

 其方はかぐやのことをどう思っているのじゃ?」


「な、な、な、何のことに御座いまひょう?!」


 ミウシ君、突然の帝の無茶な質問に呂律が回っておりません。


「いや何、かぐやはな出来ればワシの孫の建皇子が娶らせたいと思っておるのじゃ。

 じゃから恋敵となる其方が、かぐやをどう思っておるのか知っておきたいのじゃよ」


「い、いえ、私には妻も子もおります。

 わ、わ、私には勿体ない妻です。

 か、か、か、かぐや殿には幸せになって欲しいと願っております」


 ミウシ君、顔が真っ赤です。

 ところで妻も子もって……?


「御主人様、子が居るとは?」


「え、ああ。

 そういえばまだ言っていなかったな。

 衣通が懐妊したのだ。

 待望の子供が生まれるのだ」


「まあ、それはおめでとうございます。

 また衣通様へお祝いに行きますね」


「ああ、是非そうしてくれ。

 衣通も喜ぶ」


「なんじゃ、面白くないのう。

 もう少し未練でも持っていれば面白かろうに」


 帝は完全に野次馬モードです。

 というか最初からそのつもりでミウシ君を呼んだのではないでしょうか?

 残念ながら、ミウシ君は衣通ちゃん一筋なんですよ。

 地味顔の喪女には興味がないのです。


【天の声】幾つになっても残念なままの主人公かぐやであった。



三大稲荷の中でトップの座は伏見稲荷神社で揺るぎません。

残るニ席は豊川稲荷神社(愛知県)、笠間稲荷神社(茨城県)、祐徳稲荷神社(佐賀県)がデッドヒート。

では五大稲荷とすると残り一席は?

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