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宴、最終日(1)・・・VIP来訪

いよいよ最終日です。

詰め込みすぎて、一話一話が長くなってしまいます。

 無事、二日目の演目が終わりました。


 初めて使った神楽鈴が好評でしたので、萬田先生から明日も急遽神楽鈴を使った振り付けに変更しましょうとの提案があり、夕餉ゆうげの時間まで稽古が続きました。

 疲労が残っていては明日良いパフォーマンスが出来ませんので、巫女の皆さんには疲労回復エナジードリンクの光の玉 (ステルスバージョン)をプレゼントしておきます。


 外ではトンテンカンテンと音がしています。

 大道具係さん達が明日に備えて舞台の補修をしているみたいです。

 最後の最後まで手を抜かず、全力で取り組む姿は、やはり専門家《プロ中のプロ》なのだと感心します。


 二日目の夜、今夜は宿泊されるお客様が少ないので、宴会は小規模なものになり、子供も大人も一緒くたです。

 今夜の夕餉の宴で余興としてくじ引き大会を執り行いました。

 くじ引き用に『大吉』1本と『小吉』5本の当たりを入れたおみくじ箱を源蔵さんに用意して貰いました。

 ギャンブル性を楽しんで頂くため、宴に参加している大人も子供も奥さん方も全員におみくじ箱を持って行って、引いて頂きました。

 盛り上がりは昨日以上でした。

 奇しくも『大吉』を引き当てたのは、例の酔っ払いのオジサンでした。

『大吉』を引き当てた時の喜び様は、まるで贔屓のサッカーチームがゴールを決めた瞬間のサポーターみたな雄叫びをあげておりました。

 ゴォォォォォォル!


 フェスも残りあと1日です。

 皆さん頑張りましょう!


 ◇◇◇◇◇


 宴の最終日。朝食あさげを済ませたら本日も受付嬢です。

 残念な事にフェスの三日間、晴天が続き、風も強くなく、陽だまりに居ればポカポカ陽気を堪能できる程、天候に恵まれてしまいました。

 昨日の舞でアマビヱの光の玉をばら撒いたせいか、体調不良を訴える人もおりません。

 これまで大きな混乱もなく順調に予定表アジェンダを消化してきました。

 何はともあれ、今日を乗り切ったら刑期満了ごくろさまです。


 本日は主賓の方の到着が遅くなるということなので、昼過ぎからの開始です。

 中央の有力者ビップがやって来るみたいで、周りの皆さんの雰囲気がOL時代で大事な取引先の重役おえらいさんがいらっしゃる前の玄関先の雰囲気に似ております。

 私としては、その有力者の中に後宮からの来客がいらっしゃると伝え聞いたので、一番気になっています。将来の上司になる方かも知れませんから。


 三日目は近隣の豪族の来客は少なく、どちらかと言えばやや遠方の有力者がお見えになるみたいです。

 何組か受付をしたのですが、屋敷に入らず表で待機している方がいらっしゃいます。

 何となく、とある組織の『親分、永らくのお務めご苦労様でした』的な物々しい雰囲気が漂ってきました。


 ……あれ? こちらでは初めて見る物がやってきます。

 八人で担ぐ神輿?

 ……いえ、人が乗る輿こしですね。

 横にはお馬さんに乗った護衛らしき男性も付き添っています。

 護衛にしては身なりが綺麗過ぎる気もしますが、お輿に乗ったやんごとなきお方ならば護衛にもドレスコードが求められるのかも知れません。


 本日はお爺さんには予め来て貰っています。

 受付けで一緒だった秋田様は屋敷に控えている氏上様へ使いを出したみたいです。

 昨日の内麻呂様の時と同じかそれ以上の警戒感を感じます。


 目の前まで御輿が進むと同行していたお付きの人が折り畳みの木枠を設置し、御輿をそーっと木枠の上に置かれます。

 思わず御輿を担いでいた方々に『お疲れ様でした』と言いそうになるのは、私が現代人だから?

 日本人だから?

 アラサー事務職だから?


【天の声】たぶん全部だろう。


 でも御輿の中の方は外へは出ず、代わりに馬に乗っていた身なりの良い男性が進み出てきました。


「軽皇子の夫人、与志古郎女よしこのいらつめ様が到着なされた。控えの間まで案内を頼む」


 主催者であるお爺さんがその方にカンペを読んだかの様な返事をします。


「これはこれは、遠い所を御出で下さり大変恐縮で御座います。

 此度は娘、かぐやの命名の祝いにおいで下さり感謝の念に絶えません」


 続いて、秋田様が後を引き継いでくれます。


「この者が控えの間までご案内いたします。

 中にて忌部首氏上様が控えております。このままお進み下さい」


 案内係の氏子さんの一人を差し向けて、御輿を誘導します。

 本当にイベント業最大大手の忌部氏、卒のない運営ぶりです。

 お付きの方は、お付きのお付きの方に指示を出して御輿を再び担がせ、指定の場所へと移動しました。


「此処で見事な舞が観られるとの評判を聞き、与志古よしこ夫人が皇子みこを伴ってきた。

 本日は宜しく頼む」


「ははっ!」


 何となく身なりの良いお付きの方は忌部の人と馴染みがあるっぽい感じがします。

 お仕事の関係者でしょうか?

 それと秋田様や周りの人の様子を見ますと、お付きの方も身分の高そうな対応に見えます。


「そこの娘が見事な舞を舞ったという娘か?」


 おっと、お付きの方が私を見て突然のご指名です。


「初めてお目に掛かります。讃岐造麻呂さぬきのみやっこまろが娘、かぐやと申します。

 此度は忌部様に有り難きお名前を頂いた祝いの宴にて、お礼の代わりとして拙い舞をご披露する予定でおります。

 どうぞ良しなに」


「其方は忌部の天太布命あまのふったまみこと神社で舞を披露したのか?」


「はい。分不相応ながら参内の時、氏上様の前で舞をご披露致しました」


 ……尋問? ところで誰?この人。


「ふ………む、気になって来てみればこの様な幼子だったとは驚きだ。

 少し話を聞きたい。場所を貸してくれ」


 この人、警察の人なの?

 事情聴取?

 身辺捜査?

 態度も身分も偉そうな方だから穏便に質問しましょう。


「お話は構いません。

 ただ事情が分かりませぬ故、困惑しております。

 どの様なお話をされるのでしょうか?」


「ふ、普通の幼子ならば訳がわからない時は嫌がるか、黙って言う事を聞くものだが……どうやら一筋縄ではいかぬ娘の様だな」


 そこへ秋田様が助け舟を出してくれました。


「中臣様、姫は貴方様が誰方かも分からず困惑している様です。

 それに姫に何かありますと我が氏上様も看過できませぬ故、お話の場はこちらでご用意させて頂けませんでしょうか。」


 ナイス! 秋田様。

 ……ん?

 ……中臣?

 まさか?


「そうだったな。少し急いてしまったようだ。

 先ずは忌部殿に挨拶をするとしよう。話はその後でだ」


 中臣様と仰るその方は、御輿が行った方へとそのまま歩いて行きました。

 すごく強引な感じの方です。でもオレ様と言うより、忙しいアメリカ企業のCEOみたいなやり手な方といった感じがします。

 もっとも電気自動車からITまで手の広げているオレ様なCEOもいますが……。


「秋田様……誰?」


 先ずは秋に聞いてみましょう。


「あの方は中臣氏の方で名を鎌子様と言います。祭官にはならず、今は学問に没頭しているとの噂です」


 ナカトミのカマコ、もしかして中臣鎌足?!

 小学校の教科書にも出て来る有名人じゃないですか!?

(※作者注:中臣鎌子(もしくは中臣鎌)が『鎌足』と改名するのは645年の乙巳の変以降です)


「一体……? 何故」


「中臣様のお考えになる事は分かりませんが、氏上様にご同席をお願いしてみます。

 おそらく氏上様は同じ祭事を司る氏として中臣様のお話は看過できませんでしょう」


「分かりました」


「それでは造麻呂殿、私は姫様に同行します。

 後を宜しくお願いします」


「分かった。かぐやや、気をつけるんじゃよ」


「はい、ちち様」


 お爺さんが心配そうな顔で言います。天太衣命神社のであの時と同じみたいです。

 私は心配よりも面倒な事になったと思いつつ、中臣様が待つ屋敷の客間へ、秋田様と一緒に向かいました。


「先ずは氏上様にお目通しします。少々お待ち下さい」


 滞在中の氏上様がお使いのお部屋に、秋田様が声を掛けて入ります。

 そして入れ替わりの様に、綺麗な女性と二歳くらいの子供、そしてお付きの人が部屋の中から出て来ました。私はさっと廊下の隅へ控えます。

 すると、その女性が語りかけてきました。


「貴女がここの姫ですか?

 御輿から貴女の姿を見えた様な気がします」


「はい、私は讃岐造麻呂が娘、赫夜かぐやと申します」


「まあ、貴女がかぐやなのですね。こちらに見事な舞を舞う幼き姫がいると聞いて、押し掛けてしまいました。

 ご迷惑でしたか?」


「いえ、その様なことは。

 ただ私の手足は短く、師の舞とは比べものにならぬ程未熟ですので、ご期待に添えるのか……」


「師と言うのは萬田郎女まんたのいらつめですか?」


「はい。萬田様には並々ならぬお世話になっております」


「そう……。萬田が後宮を去って心配しておりましたが健勝そうで安心しました。

 言い遅れましたが、私は与志古郎女よしこのいらつめです。

 この子は真人、軽皇子の皇子みこです」


 おぉ! 正真正銘の王子様ですね。

 将来、卒業イベントで悪役令嬢に婚約破棄を言い渡すのかな?

 でもなんか元気がないです。


「お目に描かれて光栄に御座います」


 皇子にもご挨拶するため、しゃがんで下から見上げる様にして、話し掛けました。

 普段使わない表情筋を総動員した笑顔をゼロ円でお付けします。


「真人様、どうぞよしなに。

 少しお顔の色が優れませんが体調は大丈夫でしょうか?」


 元気のない皇子の代わりに与志古様がお答えになります。


「少し輿の揺れに酔ってしまったみたいなの。お部屋で少し休むわね」


 私は立ち上がって、与志古様に返答しました。


「はい、ごゆるりとお過ごし下さい」


 こうして夫人と皇子様が行き過ぎるまでお辞儀してみおくりました。

 現代を合わせても、皇族の方と会話するなんて初めてです。

 ちょっと感動ですね。

 ついでに乗り物酔い止めの効果をのせた赤外線ステルスの光の玉をプレゼントしたのは内緒です。


 そうこうしているうちに、部屋から氏上様が出てきました。


「姫よ。中臣殿との話の席に私も同席しよう。

 姫の不利益になる事なら看過できぬ」


「はい、宜しくおねがいします」


 私と氏上様、秋田様の3人は中臣鎌足様の待つ部屋へと行くのでした。



(つづきます)

本日、左足ふくらはぎの肉離れのMRI撮りました。

ケガの程度は中程度で出血が多いとの事。

ケガをしてちょうど3週間、明日から装具をつけて日常生活に戻ります。

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