歓待の宴にて
サッカー日本代表、初戦快勝おめでとう御座います。(記 2024.9.6)
帝と与志古様とのお話の晩、讃岐を挙げての歓待の宴が催されました。
讃岐に皇太子様がいらした事は何度かありましたが、帝がいらした事は未だ嘗て一度もなく、初めての事です。
皆んな大張り切りです。
急拵えの舞台は、猪名部さんとピッカリ軍団が作ってくれました。
帝のお席は雨避けバッチリ。
雲行きが怪しかったので助かりました。
『姫様の無茶振りには慣れているので、これくらいお安い御用です』とは何とも失礼ですね。
まるでいつも私が猪名部さんに無茶ばかり押し付けている様な言い方ではありませんか。
心当たりが全く無いわけでは無いのですが……ほんの少しだけ。
そして私のお衣装の種類が寂しいからと、縫部さんが私の今の体型に合わせて衣を用意してくれました。
縫部さんにはお礼にクーパー靭帯再生、バストアップの光の玉を進呈しましょう。
チューン(右)! チューン(左)!
ふぅ。
舞台があって、宴があって、出し物を用意しようとすると私が舞うしかありません。
幸いな事に、ここにいる人達の殆どが私の力を知っている人ばかりなので、遠慮も躊躇もなく光の玉を出せる事ですね。
ドローンショーから始まり、光の人をポポポン! と出して、私一人でアイドルグループをやりました。
♪ みんなー、ありがとう〜。
宴の中休みには領民達による蹴布の競技会が催されました。
帝を前にしての天覧試合です。
いずれも白熱した熱戦で、いつの間にか皆さんすごい技術を身につけていて、見応え十分でした。
ちなみに優勝は源蔵さんのところのシンちゃん。
蹴布の天才少年ぶりを遺憾なく発揮しておりました。
スポーツの盛り上がりというのは、古今東西、時代を問わずすごいものですね。
まるで埼玉スタジアム2002を埋め尽くすサッカー日本代表のW杯アジア最終予選のホーム初戦みたいな盛り上がりを見せました。
そして最後は、私が真面目な舞を舞って、光の玉を使った音のない打ち上げ花火で空を染め上げて終演。
やっつけとは言え、帝を歓待する宴としてはまずまずの出来だったと思います。
催し物も一通り終わり、小雨も降ってきましたので、宴は一旦お開きとなり屋敷の中でお食事とお酒の席が設けられました。
領民の前でお食事とはいかなかったので、皆んなお腹が空いていることでしょう。
◇◇◇◇◇
夕餉の席では讃岐に住む主だった人達、評造であるお爺さんとお婆さん、中臣氏を代表して身重の与志古様とお子さん達、そして忌部氏からは秋田様夫妻、が御簾の向こうの帝を前にして、皆んなで食事を共にして歓談をしました。
そしてお食事中……。
「萬田郎女よ」
不意に帝から萬田先生にお声が掛かりました。
「は、はいっ!」
よもやのお声掛かりに、萬田先生は口にしていたご飯を思わず詰まらせそうになりながら返事をします。
うんがっちゅっちゅ!
「後宮を去った其方がこの地で健勝に過ごしていると聞き、ワシは嬉しく思う。
かぐやの舞の師として、見事に育て上げた手腕を讃えようぞ」
「え、あ、いえ、そんな。
身に余るお言葉、ありがとうございます」
「ワシはかぐやの舞に何度も助けられておるのじゃ。
其方の功は決して軽くはない。
じゃから胸を張るが良い」
「………んんっ!」
帝からの大絶賛に萬田先生は感涙、感涙、ただただ感涙です。
帝の優しいお言葉で後宮での忌まわしい記憶が塗り替えられると良いですね。
だから詰め物の胸を思いっきり張って下さい。
「感激のあまり声の出ない妻に代わり御礼申し上げます」
横に居た秋田様が喜びのあまり呼吸困難になりそうな萬田先生を気遣いつつ、代返します。
「其方は……確かかぐやの師にあたる者か?」
「え、はい。
私は室戸忌部秋田と申す者にございます。
姫……かぐや殿とは、名付け親でもあり、姫に書をお教えした師であると自負しております」
二人のやりとりを見る限り、秋田様と帝とは全く面識が無さそうです。
私の行動が帝に筒抜けなのは秋田様あたりが密告しているのかと勘繰っておりましたがどうやら違うみたいです。
「ほう、其方がか。
かぐやが書司へと配属されたのも其方の影響なのであろう。
おかげで実に助かっておる」
「恐れ多い事です」
「特にな、情事を描いた薄い書とやらが後宮中で流行っておっての。
その大元を辿ると、其方の蔵書であると聞き及んでおる」
「え!? な、な、何故その様な事に!?」
「言わずとも分かるじゃろ。
ぜーんぶかぐやのせいじゃ♪」
秋田様、頭を抱えております。
ごめんね、秋田様。
秋田様から受け取った書は帝に没収されてしまったの。
(※第284話『厳しい処罰』ご参照)
「ひーめーさーまー」
「誤解です、誤解。
昨年の雑司女の騒動で、不始末の責を負い没収されてしまっただけです。
何故バレたのかは私こそ知りたいくらいなのです」
無実の罪(?)を着せられそうな私は必死に弁明します。
「(はぁ……)
もし、女性ばかりの後宮で書が慰みとなるのでしたら、一人の蔵書家として恐悦至極に御座います。
ご存知の通りかぐや殿は突飛な行動が多く、不肖の弟子がご迷惑をお掛けしておらぬか、ただそれだけが気掛かりに御座いました」
なんか私が悪いみたいな言い方。
心外です。
断固抗議します!
「気にするでない。
かぐやの失敗なぞ微笑ましい程度のものばかりじゃ」
私が反論する前に帝がフォローをして下さいます。
気のせいかフォローになっていない気もしますが。
「かぐや殿は帝のお役に立っておりますのでしょうか?
ご迷惑をお掛けしておりませんでしょうか?
私も妻もそれだけが気掛かりで……」
「そうじゃの……。
おそらくは其方らの予想を遥かに超える程の貢献をしてくれておるぞ。
先程も与志古とその話をしたばかりじゃ。
我が孫の世話はかぐや無くしてあり得ぬ。
それにの、次官として実務面でも良い手本を示してくれておる」
私のOL時代に染みついた振る舞いが周りの手本になっているというアレですね。
にわかには信じ難いですが。
「それを聞きまして大変安心しました。
不安のついでと申しますのは不敬かも知れませんが、一つだけお教え願いたい事が御座います。
宜しいでしょうか?」
「何じゃ?
申してみよ」
「高向王の遺子であります漢皇子様は今、何をしておられますでしょうか?」
………ピシッ!
これまでの和やかな雰囲気が一変。
奇妙な緊張感が走ります。
「秋田よ……。
それを聞いてどうするつもりじゃ?」
「私の望みはただ一つ。
我が弟子、かぐやの安寧だけです」
「ふ……む。
分かった。
後ほど席を変えて話すとしよう。
あまり公に出来ぬ話じゃからな」
「はっ!」
「(小声)秋田様、急に一体どうなされたのですか?」
「(小声)姫様に頼まれた調べ物ですよ。
真相を知る方が殆どいないので、この機に聞きたかったのです」
「(小声)そんな危なっかしい事をしなくてもいいんじゃないですか?」
「(小声)詳しくは帝とのお話の時に。
帝のあのご様子ですと、残念ながら私の懸念は当たってしまっているみたいです」
調べ物?
懸念?
……何でしたっけ?
そしてその夜、私は帝から衝撃の事実を聞く事になるのでした。
(つづきます)
本日は少々短くて申し訳ございません。
次回の話の都合、ここで切りました。




