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宴、二日目(3)・・・神楽鈴

鈴の起源の調査はなかなか難しい。

金属の(スズ)や風鈴と混同するため検索ノイズが多く、正しい検索が上手く出来ませんでした。


 将来の求婚者の一人、阿部倉梯御主人あべのくらはしみうしクン。

 彼が私に求婚する未来を叩き潰す為、オレ様キャラの御主人ミウシクンのプライドをコツコツと粉砕中です。


 扇子いっぱいに書かれた百人一首は少〜し破壊力があったらしく、隣にいた氏上うじのかみ様からも「私の扇子にも書いてくれ」と、せがまれてしまいました。

 秋田様とはこの歌が読み人知らずの歌だと口裏を合わせているので、問題ないと思います。

 再び筆を借りて、昨日氏上様へ贈呈した豪華版の扇子に同じ歌を御主人ミウシクンのよりも三割り増しに丁寧に書き入れました。


 ◇◇◇◇◇


 こうして舞台袖では舞以外の話題で盛り上がっている内に、舞台上での演目が終盤を迎えました。


「私の舞う番が近づいて参りました。

 準備を済ませ、舞台袖で控えとう御座います故、中座するご無礼をお許し下さいませ」


「おぉ、姫よ。楽しみにしておるぞ」


「かぐや様、頑張って」


 おっふ! 衣通そとおしちゃんの笑顔の破壊力がすご過ぎます。

 私は一礼して、控えの間に向かいました。

 今日の舞では先月のうちに縫部さんにお願いしたお衣装を着ます。

 元々明るい時間に舞う予定だったので、明るい空の下で映える様、色を付けたお衣装です。


 そしてもう一つ。

 扇子の要部分の真鍮加工を通じて、金属加工が得意な部民、鍛冶部かぬちべさんとの取引コネクションが出来たので、その伝手で特注品を大至急発注しました。

 それは鈴、巫女舞に使う鈴、つまり神楽かぐら鈴を作ったのです。

 土鈴なら考古学資料館の体験授業でも作りますが、私は金属製の涼やかな音を鳴らす鈴の作製をお願いしたのです。

 飛鳥時代には存在しないのかと思っていましたが、馬具に似た様な物があり、それをベースに音色の良い鈴の作製お願いしました。

 注文した個数は40個。片手に15個、両手で30個あれば足りるのですが、音色揃った鈴を選別するために予備10個を追加しました。


 現代にいる頃の神社巡りで巫女舞はたくさん観ましたが、神楽鈴を使ってどの様に舞うのかまでは覚えてません。

 でも大丈夫! こんな時は『助けて、マンタエモン~』で解決。

 萬田先生は神楽鈴を一目見て気に入ってくれて、私が既に知っている舞をアレンジして、半日で振り付けをしてくれました。

 楽隊の方々も舞台の上で舞う巫女が、鈴を鳴らし演奏に参加するという案を快く受け入れてくれて、私は振り付けの種類バリエーションを増やす事なく、持数レパートリーを増やすのに成功したのでした。(←ここ大事)


 前置きが長くなりましたが、それでは本番です。


 ♪〜〜


 楽隊さんの演奏が始まりました。私は楽隊の演奏に合わせて、鈴を鳴らしながら登壇します。


 シャン! シャン! シャン!


 鈴の音には邪気を払うと言われております。

 御主人ミウシクンが私に求婚しようなどという邪気きのまよいを払うつもりで、キレッキレッの音をかき鳴らします。


 シャン! シャン! シャン!


 そして神様に一礼します。

 観客の目が私に集中します。正しくは私の真っ赤なに目がいきます。

 いやーん♪


 現代で、巫女さんと言えば赤い袴。

 袴とはお股が分かれていて、裳はスカートみたいなモノです。

 しかし裳を赤くすると下着こしまきっぽい感じになるのでタックを入れました。

 つまり股の分かれていない袴みたいな感じ、もしくは昭和いにしえのスケバンが履く朱色の超ロングスカート?

 赤袴もどきの上に飛鳥ファッションを重ねて袴の赤色を隠しました。

 ぱっと見は千早ちはやを纏った巫女さんです。

 縫部さんにアレンジして頂いて、飛鳥ファッションでも違和感を感じさせない仕上がりに仕立てました。

 赤は吉兆を表す目出度い色ということで、白い装束の下にチラリと覗く赤い袴もどきは目立ちます。

 チラリズムは全ての男性が好む、と元カレが力説していましたから、間違いないでしょう。


 シャン! シャン! シャン!


 特注の鈴は軽量化したとは言え片手で40グラム×15個= 0.6kg、両手で1.2kgの巫女鈴を持って音を鳴らしながら舞うというのは、幼女にとって結構辛いです。

 そんな時は、疲労回復の光の玉(チート)があります。

 チューン(右)! チューン(左)!


 観客オーディエンスの皆さんにも精神鎮静の光の玉もプレゼント。

 チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!


 ついでに楽隊の皆さんで風邪が流行っているみたいだからウィルス退散、アマビヱの光の玉をプレゼント。

 チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!


 御主人ミウシクンには現実がよく見えるように光の玉を大サービス。

 チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!


 不可視ステルスの光の玉をばら撒いてどうにか最後まで舞を舞い、最後に一礼。

 昨夜は打ち上げ花火みたいなのをどーん! と光の玉を打ち上げましたが、今回は無しです。

 私も学びました。

 チートを使えば使う程、墓穴を掘っているという事に。


【天の声】その台詞セリフ、二度目。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……


 本日もたくさんの拍手を頂きました。

 私は静々と舞台を降り、氏上様の前へと進みご挨拶しました。


「氏上様、此度は新しき試みを致しました。もしご気分を害されたのなら謝罪いたします。大変申し訳ございませんでした」


「いや、その様な事は一切ない。さすがは姫の舞だと感心するほどだ。

 邪気を払ったやしろの気と同じ気が、今この場に満ちておる。そのリンリンと鳴り響く道具につきましては私共も検討したい。

 是非とも相談させて欲しい」


 「はい、謹んでお受け致します」


 うーん、私の能力の中に邪気を払ったり悪霊を退散させる能力は無いはずなのだけど、気分の問題じゃ無いの?

 気分を落ち着かせる光の玉をジャンジャン飛ばしましたから。

 もしかしたら、空気中に存在するばい菌やウィルスの活動を休止させるくらいの事はやったかも?

 ……知らんけど。


 さて、阿部倉梯麻呂様御一行、お帰りの時間がやって参りました。

 もう少し御主人ミウシクンの邪気きのまよいを粉砕したかったけど、憎まれても困るのでこのくらいで勘弁して差し上げましょう。

 だから私への求婚のために財産すり減らしたり、三年も待って人生を浪費する事が無いよう、明るい未来に邁進してね。

 御主人ミウシクンも私みたいな悪役令姫しょうわるおんなに二度と会いたく無いでしょう。


 永遠にさよーなら〜〜♪


 ◇◇◇◇◇


 ***** 御主人ミウシクン視点 *****


 私はこの辺鄙な地に来て、とんでもない女子おなごに出会ってしまった。私よりも遥かに年下なのに、何一つ勝てなかった。自分の浅慮を思い知らされ、思い出すだけで顔を隠したくなる程だ。

 そんな気持ちでみやこへの帰り道を進んでいると、父上が私に語り掛けてきた。


御主人みうしよ。お前はあの娘の事をどう思った?」


「あの娘とは、かぐやという造麻呂みやっこまろの娘の事でしょうか?」


「そうだ」


「……悔しいです。

 歌も、知識も、思慮の深さも…… 何一つ勝てるものがなくて、自分の方が年下じゃ無いかと思う程でした。」


「そうか。だが安心するがいい。あの娘は特別だ。

 みやこの子弟でもあの様な娘は居らぬよ。

 だからこそ、忌部殿は損得抜きであの娘を庇護しているのであろう。

 そうで無かったら私が庇護している」


「それ程なのですか?あのかぐやは!」


「私はあの娘が末恐ろしいと思った」


 え?! 父上の口から一度も出た事もない言葉と、その出来事に驚いた。


「あの娘がサラリと言った徴税の話があったな。

 あれは我らが長年掛けて調査し、考え、計画している徴税内容と殆ど変わり無い。

 理に適った徴税の在り方だった。

 あの娘は施政官として大人と変わらぬ能力を持っているという事だ。

 あの歳で、だ」


「まさか? たまたまではないでしょうか?」


「いや、娘は如何ほどの田畑で如何ほどの収穫量があるのかを正しく知っていた。

 民がどの様な生活を営んでいるのを正しく把握していたのだ。

『人頭数割する』、『収穫の3が上限』と事も無げに言ったところを見ると、算術は取るに足らないものと考えているのだろう。

 あの娘の常識を当てはめたら宮中の半分が無能者として暇を取らねばならない」


「そんな、バカな!?」


「あの娘がその程の高みに居る事を推し量れぬほど、お前とあの娘には差があるという事だ。

 高過ぎる山のいただきは、ふもとから見えぬのと同じだ」


「嘘だ!」


「いや、事実だ。

 娘から貰った扇を見よ。そこに書かれている歌を私は一首も見たことがない。

 しかし歌の美しさは当代一の歌人ですら敵わぬ名歌ばかりだ。

 忌部の者の話によれば、名も無き読み人知らずの歌を娘が好んで集めたのだそうだ。

 読み人知らずの歌は私も知っている。しかし美しいと思える歌は百首に一首あるかないかだ。

 その滅多に見つからぬ名歌が十二首。つまりあの娘は読み人知らずの歌だけでも千首以上を集めたという事なのだ。

 お前はその事に気が付けたか?」


「……………」


 もう、言葉もない。


「あの娘は遠からず中央に来るであろう。容姿ではもう一人居た姫の方が万人受けするだろうが、中身はまるで違う。その時、お前はあの娘に釣り合えるをのこになっておるか?」


「………そう、在りたいと思います」


「ならば一生懸命学ぶが良い。書を眺めるだけではない。身体を鍛え、精神こころみがき、礼節を修めなさい」


「……はい」


 ただ一つ、父上の言葉に違和感を覚えた。

 かぐやはもう一人の姫に容姿で劣る?

 私には逆に思えた。

 舞台で舞う凛としたかぐやの美しさを思い出すたび、胸が締め付けられる思いがする。


 互いに成長して次に会う時……かぐやの前に立って誇れる自分になりたい。

 そしてかぐやに少しでも見直して貰いたい。


 何よりも……取り繕った笑みではなく、心からの笑顔を向けて欲しい。



主人公が目論んでやった事が逆効果だった……というベタなオチで申し訳ありません。


成長したミウシ君が再登場するかしないかは、それまで作者のモチベが続くかどうか……ですね。

頑張りますので、応援のほど宜しくお願いします。

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