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かぐやの独白・・・(4)

(※吉野の離宮にて、主人公(かぐや)、斉明帝、鸕野(うのの)皇女の三人の話が続きます)



「のう、かぐやよ。

 これはワシが単に知りたいから聞くのじゃが……。

 神とはどの様な御方だったのじゃ?」


「どの様な……ですか?」


「そうじゃ。

 帝とは毎日を神々に祈りを捧げるのが仕事みたいなものじゃ。

 実際の(まつりごと)は葛城と鎌子がやっておるしの。

 ワシは神の身姿を知らずに祈うておるが、その御姿を思い浮かべられるのなら、張り合いも出ようと思うのじゃ」


「えぇ〜っと。

 神託を受けた時に私がお話ししたのは神の御使い様ですが、私の居た世界の格好をしておりました。

 恐らくは私に合わせて下さったのかも知れませんし、私の記憶がそうさせたのかも知れません。

 ごく普通の男子(おのこ)でした」


「なんじゃ。ガッカリじゃな」


「あ、しかしながらですね。

 私がこの世界にやってくる際にお会いしましたのは神様ご本人だったと思います。

 御使い様は、ご自身を月読命(つくよみのみこと)様の御使いだと仰っておりましたから、恐らくその方が月読命様かと思われます。

 私が拐かされた場所も月読命様を御祀りする神社でしたから」


「月読命様とな?

 天照大御神様の弟神ではないか。

 して、どの様じゃった?」


「確か……(みづら)を結っておられました。

 古代のお召し物を纏われ、御尊顔は………。

 あれ?

 思い出せません。

 と言いますか顔があったかしら?

 何もない場所に引き込まれて『頼むぞ、かぐやよ』と有無を言わずにこの世界へと送り込まれましたから」


「神というのは随分と勝手なのじゃの」


 私の物言いが良くなかったせいか、鸕野様が不機嫌そうに月読命様を批判します。


「勝手と申しますか、人の道理とは違う道理に則りお考えになられていらっしゃる様お見受けしました」


 現代風にいえば、価値観が違うって事ですね。


「神々は高みに(おわ)す方々です。

 私達は神々の理に疎い事を前提に、丁寧にご説明を求める事が寛容かと思います」


「ふむ……、かぐやがそう言うのであれば誠なのじゃろう。

 ところで、かぐやは月読命様に『頼むぞ』と何を頼まれたのじゃ?」


「それが……良く分からないのです」


「分からぬなどとはあり得ぬじゃろう。

 それではなんの為に其方を寄越したのじゃ?」


「その辺りが、神の理と人の理の違いなのかと思います。

 過ちを繰り返すな、とだけ言われただけです」


「ならばどうするつもりなのじゃ?」


 あまりの大雑把さに、やや呆れた帝は質問を重ねます。


「私も良く分からないまま過ごして参りました。

 ただ神託を受けた時に御使い様から朧げながら話を聞く事が出来たのです」


「かぐやの事じゃから、悪者を退治せよとか、頭をツルツルにしてやるためじゃろ?」


 あり得そうですが違います!

 と、心の声を封印して帝の質問に答えます。


「どうやら今の世は歪んでいる様子なのです。

 その歪みを私の力を以て正す事が目的なのだと言われました」


「歪み? ……とは何じゃ?」


「私の予想ですが、あるべき歴史からの逸脱が起きているのだと思われます」


「それは(まず)くはないかえ?

 先ほどかぐやが言ったであろう。

 万を超える大きな戦さがあると。

 それを捻じ曲げてしまうと取り返しのつかない事になるのではないのか?」


「そうかも知れません。

 私も自分の行動がどの様な影響を引き起こし、どの様な結果を招くのか、悩んだ時期も御座いましたら。

 しかし結果を怖がって何もしないのでは、この世界に来た意味が無くなってしまうのだと思い直したのです。

 ですから私の手の届く範囲だけでもお助けする。

 もしその方と友誼を結べたのなら、力になって差し上げたい。

 と考える様に致しました。

 なのでお二人には正直に申し上げる事にしたのです」


「それでいいのかや?」


『これでいいのだ』と言いそうになるのをグッと堪えて、答えを捻り出します。


【天の声】バカ◯ンのパパか?


「誰を助けて誰かを助けないなんて事は出来ませんもの。

『これまでもこれからも私の好きな様にやらせて頂きます。

 もしそれが不服であるのならとっとと元の世界へとお戻し下さい』

 ……と御使い様には申しておきました」


「あははははは、さすがはかぐやじゃ。

 神の御使い様にそこまで言える者は居まいて。

 気持ちが良いのう」


「何と言うか……ワシの持つ神託の印象が音を立てて崩れていくわ。

 神託に啖呵を切るなぞあり得ぬわ」


「まあまあ、お祖母様。

 それだけかぐやが神に近い存在なのじゃ」


 いえ、それは違います。

 神に近くもないし、親しくも御座いません。

 と心の中で突っ込みを入れます。


「そうじゃな。

 かぐやといると気安い娘と一緒にいる気分になってしもうて敵わんよ。

 本来、神様と面識がある巫女なぞ居ったら、本来であれば内裏の最奥に奉るべきなのじゃが……。

 かぐやにはそうゆう気持ちにさせぬのう」


 褒め言葉……なのかな?


「それは妾も当間様に言われたのじゃ。

 神降ろしの巫女を、帝はどうして宮の中に囲わないのかと」


「そんな事をすればかぐやは何処かへと隠れてしまいじゃろうて。

 正に岩戸に隠れた光の神様と同じじゃ」


「それは流石に穿ち過ぎに御座います。

 何度も申しますが私は平凡な女子なのです。

 ホンの手違いで神様が私をこの世界へと連れてきて力を与えてしまっただけです。

 天照大御神様を引き合いに出されては、神様が気を悪くされるかも知れません」


「そんなものかのう」


「ええ、私は神とは程遠い女子に御座います。

 そもそも『かぐや』という者は何処の世界にも居ない存在なのですから」


「そうなのか?!

 帝の妃とか、皇子の母親とか、歴史に其方の名は残らぬのか?」


「かぐやとは書の中にしか存在し得ない架空の人物の名なのです。

 架空の人物であるが故に歴史に反する様な事が出来てしまうのです。

 だからこそ、歪みを正す役目を果たせるのでしょう。

 そしておそらく……。

 全てが終わった暁には……、私はこの世界から去るのだと思います」


「ここに残れば良かろう。

 かぐやよ、この世界は嫌か?」


「先ほど申しましたが、元居た世界とは神の如き豊かな生活を享受できる世界です。

 しかし豊かさと引き換えに失った数多(あまた)の良い部分がこの世界にあるのです。

 元の世界で居場所のなかった私にとって、この世界はとても居心地が良いのです」


「かぐやよ……。

 其方の両親はその事を知っておるのか?」


「いえ。

 両親は私の異能の事をよく存じております。

 しかし私が変化(へんげ)の者であるなしに関係なしに無償の慈愛の心を授けて下さっているのです。

 その二人を悲しませる事は私には耐え難い事です」


「そうなのか。

 其方は前に言うておったの。

 いずれは讃岐を去ると。

 そうゆう事じゃったのか……」


「もし私が元の世界へと戻るのなら、両親には一緒に来て頂きたいと強く願っております。

 もし私がこの世界に残るのであれば、最期を看取るまでずっと寄り添いたいと切に願っております」


「……そうか。

 其方の両親は其方の様な娘を持って果報者じゃの」


「何よりも嬉しい言葉に御座います」


「かぐやよ、其方はその両親に身を固めよと言われておらぬか?」


「何よりも耳にしたくない言葉に御座います」



 鸕野様のツッコミのせいで、しんみりした空気がぶち壊しです。



 (ひとまず独白はおしまい)

今回の話を書いているうちに、これまでのストーリーがスッキリ整理できて今後のストーリーの方向性が明確になってきました。

少々修正も入りそうです。

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