かぐやの独白・・・(3)
何故か女三人の恋バナになってしまっております。
これまでのかぐや姫サイドのストーリーをダイジェストにしてまとめてみました。
(※吉野の離宮にて、主人公、斉明帝、鸕野皇女の三人の話が続きます)
「かぐやが独り身なのは何か特別な理由があるということかえ?
女らしさが足らないとか、歳の割に胸が寂しいとか、理想が高すぎるとかでなくて?」
(グサッ)
遥か年下の既婚者から言われますと、クルものがあります。
「中臣鎌足様のお妃様、与志古様からは嫡男の真人様と一緒になって欲しいと言われた事が御座います。
しかし男性から言い寄られた事は、この世界に来て一度も御座いません。
それに、この世界に来るにあたり鍵となる運命の男性が五人の求婚者が現れる筈なのです。
この五人の男性がこれからの歴史に関わってくる様な事を、神のお使い様は仰っておりました」
「運命の相手とな?
それはそれは、とてもとても心躍る言葉じゃ。
ふむふむ、むふふふふふ」
歳若い鸕野様は私の言葉に興味津々です。
一方、帝はというと……
「五人から求婚されるとは……ワシの若い頃と変わらぬ人気ぶりじゃのう」
……何故か張り合っております。
「本来であれば夫婦となりたくないばかりに、私は無理難題を押し付けてしまい、五人の中には身の破滅を招いたり、中には命を落とす者までおります。
そうなるくらいなら最初から嫌われた方が良いかと思い、努力を積み重ねているのです」
「つまり、かぐやが独り身なのは頑張ったからこそ今に至ったという訳かや?」
「そうとも言えます。
ただ思う様にいかないのが実情です」
「上手くいかぬという事は、好かれておるという事か?」
「何とも申せません。
先ほど申しました中臣鎌足様のご嫡男の真人様もその五人の中の一人かと思われます。
幼き時より讃岐で一緒に過ごし、まるで姉弟の様に育ちました。
今は唐へ留学しておりますが、帰って来ましたらどうなるのか……」
「あまり乗り気ではないのか?」
「正直申しまして、弟の様に思っている真人様と夫婦になる事に違和感があります。
唐へ渡る姿を見ても、昔の幼子だった姿が重なって見えておりました」
「それは建が相手でも同じかや?」
「建皇子様に至りましては殆ど母親代わりみたいなものです。
もし建皇子様に素晴らしい女子が現れたら全力で応援しますし、駄目な女子ならばチクチクチクチクと嫌味を言い続けて追い返すかも知れません。
ただ、建皇子様が私を娶る事で生き存えるのなら、それでも構わないという気持ちです」
「本当に母親みたいじゃの。
ところで五人の中の一人だと思われる……とはどうゆう事なのじゃ?」
「私の知る名とこちらでの名が違うため、真人様であると確信が持てないでおります。
ただ車持皇子様、というお名前の皇子様は実際には居られません。
しかし該当するのは今のところ真人様だけ、その様な理由なのです」
「成程のう……、確かに与志古は車持氏じゃ。
で、他には誰がおるのか?」
「他には安倍御主人様、石上麻呂様、大伴御幸様、そして石作皇子様です」
「二人は知っておるの。
阿部倉梯は若いながら有能な官人じゃ。
父親の内麻呂譲りで思慮深く、将来が楽しみな男じゃ」
流石、御主人君。
帝の評価も最高点数です。
「一番最初に会いましたのも御主人様です。
嫌われる様にと努力したのですが、何故か親友の様な間柄になり、忌部氏の衣通姫とご夫婦になられてからも頻繁に連絡を取り合っております」
「つまりは振られたのか?
かぐやは」
(グササッ)
「どうなのでしょう?
努力が実った気もしますし、残念な結果になった気も致します」
「かぐやらしいのう」
「あと一人は大伴御行か?
建を虐めて危うくワシが首を刎ねそうになった悪餓鬼じゃな」
「はい、今は大海人皇子様の家臣である大伴馬来田様の元で教育されていると伺っております」
「おぉ、馬来田殿か。
確かに馬来田殿の側にはいつも息子みたいな男がおったが、彼奴が御行かや」
大海人様の家臣なので、鵜野様にも面識があるみたいです。
「私としましても、彼を目にしたら建皇子が虐められた記憶が蘇り、許せない気持ちになるだろうと容易に推測出来ます。
例え求婚されたとしても、無理難題を押し付ける前にお断り致します」
「じゃが石上麻呂という名は聞いた事がないな」
「恐らくですが、石上麻呂様とは衛部の物部宇麻乃様のご嫡男、麻呂様かと思われます。
宇麻乃様は石上神宮の氏上様ですので」
「成程。
そう言えば、最近宇麻乃を見ておらぬな。
ワシの即位の儀で見たきりじゃ。
どうしたのじゃろうな?」
「ええ、麻呂様とは、真人様と同様に国許の讃岐で一緒に遊んだ仲でして、宇麻乃様とも面識が御座います。
ここ最近はずっと石上神宮におられるとのお噂です」
忌部氏の宮での調査でたまたま物部様のお知り合いの方のお話を伺った時に聞きました。
「健在ならばそれで良い。
で、その嫡男とはどうなのじゃ?」
実は唐へ渡っているのですが、宇麻乃様からは口止めされております。
「申し訳御座いません。
最近は全く会っておらず、何をされているのか予想も付きません」
嘘じゃないよね?
「すると残る一人は石……石作皇子とな?
皇子は全て知っておるが、聞いた事のない名じゃのう」
「はい、私も(秋田様が)石作氏に関係があり尚且つ皇子様のお立場の御方を探してみました。
そうしますとただ一人、多治比古王様がそれに近いのではないかとの結論となりました」
「多治比古王殿か……。
確かに臣下降籍したとは言え、元は皇子じゃった。
丹比氏が石作氏の流れを汲む事は誰もが知る事じゃ。
しかし……些か遠が経っておらぬか?」
「はい、私もそう思います。
そうなりますとご嫡男の多治比嶋様が石作皇子様では?
……と考えられない事も無いかと思われます」
「馬来田殿に続いて、嶋殿もか?
大海人皇子様と関係の深い者ばかりじゃな」
言われればその通りです。
しかし今後の歴史に関わる方々であるのなら、それもまたアリですね。
「そうですね。
私も大海人皇子様の舎人だった頃、多治比嶋様には大変お世話になりました。
嶋様からすれば、私は出来の悪い弟子みたいだったでしょう。
よく小言を言われておりました。
今は気の合う歌の上手な御方を見つけて、ご夫婦となられました」
「つまりかぐやは求婚される前に振られたのかえ?」
(グサッ、グササッ)
「ふ……振られた訳では御座いませんが、問題は解決したと思われます」
「ちなみにじゃ。
石作皇子とやらに其方はどの様な難題を吹っ掛けるのじゃ?」
何故か帝は石作皇子に興味深々です。
「ええっと……、御仏の御石の鉢を持って来るようにと言うはずです」
「その様な物が本当にあるのか?」
「調べた限りでは吐火羅の遥か向こう、弗樓沙國の寺院に仏様が遺された鉢があると言い伝えられております。
当たり前ですが、易々と譲って頂ける物では御座いません」
「つまり、其方は石作皇子だけでなく他の者にも絶対に出来ぬ難題を突き付けるのじゃな?」
「はい、その筈です。
しかし、御主人様はその難題を解決してしまいました」
「阿部倉梯はどの様な難題を突きつけられるのじゃ?」
「火鼠の衣を持って来いと……」
「それは流石に無理じゃろ」
すかさず鵜野様が否定します。
「皇太子様がお求めだという事で、御父上の内麻呂様のご命令で探し求めたのです。
私が持って来いと申したのではありません。
しかし御主人様は、私の助言、『火鼠の衣とは石綿という鉱石から出来た綿を編んだ布かも知れません』のたったこれだけの手掛かりを元に各地を探して周り、途中御父上様がお亡くなりになるという出来事があったのにも関わらず探し、見つけ出したのです」
「倉梯が有能だと聞いておったが、そこまでとは……」
「3年間、各地を巡り、阿波を本拠地とする忌部氏の助力を得てようやく石綿の鉱石を見つけ出したのでそうです。
それを布とするために衣通様と共に苦労なさいまして、衣が出来ると同時に二人きりで婚姻の約定を交わしたと聞いております」
「ふぉぉぉぉ、するとするとじゃ。
御主人殿と衣通殿は互いに好き会うて夫婦になったのか?」
鸕野様、大興奮です。
「はい、今でも目にやり場に困るくらい仲睦まじいご夫婦です」
「それはそれで羨ましく思えるのじゃ。
妾には夢の様な話じゃ」
「安心して下さい。
私の中の智慧では、大海人皇子様と鸕野様はとても仲睦まじいご夫婦だったとなっておりますから」
「そ、その様な事があ、あるのかや?
未だに妾は皇子様に子供扱いされておるのじゃぞ」
鸕野様は顔を真っ赤にして言い返します。
「それだけ大切になさっておられるのだと思います」
ここぞとばかりに大人の余裕で助言します。
「独り身のかぐやに言われてもなぁ」
グサッ、グササッ、グサッ、グサッ
……もうHPはゼロです。
【天の声】ケィオーゥ!
(つづく……のかな?)
一応、お断りしておきますが……、
本作は飛鳥時代をベースにしたお話であり、現代の基準でセクハラとされる表現を当時の価値観のままお伝えしております。
……という事で、ご容赦下さい。




