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かぐやの独白・・・(2)

 吉野の地で突然始まった告白タイム。

 帝は最初からそのおつもりで、この吉野行きを計画したご様子ですが……。


「……それにしても、じゃ。

 其方の叡智が如何に凄かろうとも、鸕野の婚姻まで見通すというのは行き過ぎではないのかや?」


 帝がやっとの事で質問を絞り出しました。


「私が知る事が出来ますのは、ほんの歴史の表層のごく一部だけに御座います。

 そして大海人皇子と鸕野様とのご婚姻は、今後の歴史において最も表層に近い出来事なのです」


「するとかぐやは妾に会う前から妾を知っておったという事か?」


「初めてお会いした時、心の臓が止まるくらいに驚きました。

 知識でしか知らぬ御方を目の前にしたのですから。

 当然、帝も同様に御座いました。

 なのでこの様にお話しさせて頂くことは誠に畏れ多く、未だに緊張致しております」


「つまり鸕野は今後、重要な役割を持っておるという事じゃな」


「はい、知らぬ者が無いくらいに」


「其方が鵜野の教育に熱心だったのも頷けよう。

 ならば建はどうなるのじゃ?」


「申し訳ございません。

 分からないのです。

 この先、建皇子が生きたという歴史の痕跡が無いのですから」


「ならば建はこのまま生ける屍という扱いなのか?」


「あくまで私が知れるのは歴史の表層に御座います。

 つまり表層に今後の建皇子の足跡が全く無いという事で御座います。

 なので建皇子が帝になるとか大臣になるなどの足跡が残る様な事があれば、昨年の原因不明の病気の様に歴史から排除しようとする力が及ぶのです。

 逆を申しませば、歴史に埋れてしまえば危機は去るのだと思われます。

 そう、神のお使いは申しておりました」


「其方は神の使いに会うたのか?!」


「ええ、神託と申し上げていたのはそれに御座います。

 私がこの世界に来て初めての事でした」


「かぐやが時々見せる摩訶不思議な力は神の仕業なのかや?」


「これでしょうか?」


 そう言って私は掌を上に右手を前にして、光の玉を浮かべました。


 ぽわっ!


「「!?」」


 突然現れた光に二人は息を飲みます。


「この力はこの世界に渡った時に授かった力です。

 丁度良い(あかり)代わりみたいな力です」


「いやいやいや、かぐやよ。

 かような力は聞いたこともないぞ」


「いや、神話には在るぞ。

 神々が住まう高天原(たかまがはら)で天照大御神様が光り輝く太陽の化身で、岩戸にお隠れになると世の中が真っ暗になったと言い伝えられておる。

 ワシらは天照大御神様のお孫様に当たる瓊瓊杵尊にぎぎのみこと)様の子孫なのじゃ」


「するとかぐやは天照大御神様かえ?!」


「それは大きな勘違いに御座います。

 先にも申しました通り、私は取り立てて申し上げることも無き、ごく普通の平凡な女子です。

 その様な不遜な勘違いをされては天罰が当たってしまいます」


「天の使いと会話して、常人が持ち得ぬ力を持つ其方が平凡であるとは悪い冗談にしか思えぬが……。

 その話は後回しにしようか。

 キリが無いでの。

 ところで、其方はこの先の歴史を知っていると言うのじゃな?」


「ええ、あくまで表層だけですが」


「ならば教えて欲しい。

 この先何があるのじゃ?」


 社会的影響力のある二人が未来を知る事で、どの様な結果をもたらすのか予想が出来ません。

 ここは慎重に答えなければなりません。


「残念ながら、近々に起こり得る出来事で存じておりますのは二つだけです。

 そのうちの一つは鸕野様が当事者の一人なので、それを知る事により宜しくない影響が及ぶやも分かりません。

 それ故、鵜野様には言う事が出来ぬとお伝えしております」


「そうじゃったな。

 妾もそれを知りたいがかぐやの事じゃ。

 妾に危機が迫れば何か動いてくれるであろう。

 じゃから聞かずにいられるのじゃ」


 本当に鵜野様は聡明なお嬢様です。

 只者でないオーラを感じます。

 私とは大違いです。

 しかも既婚者だし……。


「そうか、鵜野が言っていたのはこの事か。

 ようやく合点がいったわい」


 どうやら帝には筒抜けだったみたいです。


「そしてもう一つ。

 我が国は万を超える死者が出る大きな戦禍へと巻き込まれます」


「それは誠か!?」


「私としても何としてでも避けたいと願っております。

 しかしその戦によってその後の国の在り方が変わります。

 それ故、私にはどうすれば良いのか分からずにおります」


「かぐやよ、それは何時なのじゃ?」


「おそらくは数年以内に」


「そんな兆しは無いぞ。

 百年前にあった筑紫の反乱ですら、その様な被害があったとは聞いておらぬ」


「いえ、その兆しは既に始まっております。

 何故ならば戦場は海の向こうですから」


「唐と戦うのか?」


「はい。

 戦う相手は唐と新羅、そして戦場は百済です」


「その戦いで多くの命が失われるのか?」


「はい」


「もしワシが、その戦を止めればそれは無くなるのか?」


「申し訳御座いません。

 分からないのです。

 何がきっかけで起きた戦いなのかは、私の智慧の中に無いのです。

 それに……もし帝が歴史を知りながら無理にお止めになろうとした場合、昨年建皇子を襲った天の裁きと同じものが帝の身に降り注ぐかも知れません」


「むう………。

 ワシとて無益に人が死んでいくのを黙って見るはずはない。

 戦の原因、きっかけ、事前の準備、その後の事後処理、考えることは山積みじゃ。

 それでも戦が起こるのであれば、せめて被害だけでも少なくしたいのじゃが」


「はい、私もそう想います」


「かぐやよ。

 今思い返すと其方の言葉の端端にこの事を言っておったの」


 鸕野様が思い出したかの様に話を続けます。


「もし唐と戦えば我が国は危ないと。

 そして我が国が唐に味方する国へ戦を仕掛けるかも、とな。

 何もかもお見通しじゃったのか」


「お見通しと申しますか、あまりに衝撃(インパクト)の大きな出来事です。

 知らない方が難しいでしょう」


「こうも言っておったの。

『唐の皇帝が全てを支配する欲に駈られる』とな。

 それもあり得るのか?」


「それは大丈夫です。

 五百年後の出来事ですから」


「「ご、五百年!!」」


 あ……ついうっかり、13世紀の元寇襲来の事を言ってしまいました。


「今のは忘れて下さい。

 無かったということで(汗)」


「はぁ、婆ぁは目が回りそうじゃよ。

 かぐやが只者では無い事は分かっていたつもりじゃ。

 しかし、予想を遥かに上回っておった」


「妾も目が回っておるのじゃ。

 お祖母様だけではないのじゃ。

 かぐやの教わった叡智は極一部じゃったのじゃな」


「それは違います。

 私の居た世界では数えで八つから二十歳までずっと学舎で勉学に励むのです。

 鸕野様はそのうちの半分をたったの一年で学び終えてしまわれたのです。

 残り半分にしましても、この世の理から外れた学問であるが故、教える事は殆ど残っていないのです。(英語とか民主主義とか……)

 もう少し正直に申しませば、私はそれほど優れた学徒ではなかったので、既に忘れてしまっている事が多いのです」


「何とも恐ろしげな世界にかぐやは居ったのじゃな」


「恐ろしいと申せば恐ろしいかも知れません。

 ですがこれ以上楽な世界も他に無いかも知れません」


「ほう、その世界とやらを是非教えて欲しいのう」


「取り立てて言うほどでは御座いませんが、総じて皆、長生きです」


「お祖母様くらいにか?」


「いえ、帝ならばまだお若いと言われるでしょう。

 世の半数以上の者が八十過ぎまで生きます。

 百人生まれた子供の殆どが二十歳まで生きます。

 なので生き急ぐ必要がなく、三十を過ぎても婚姻せぬ者も珍しくありません」


 ……私の事ですけど。


(じょうしき)が違いすぎておるのか?」


「ええ、生活の基盤が違えば考え方も変わります。

 死生観も大きく違います。

 向こうの世界で私は親しい者との死別を経験したのは二度ありました。

 しかしこの世界に来て十数年で多くの者を見送ったのです。

 それ程までに死という存在が遠いのです」


「かぐやが二十歳を過ぎても独り身なのはそのせいかや?」


「それは……少し事情があるのです」



 (まだまだ続きます)


元寇が何故起こったのか?

その理由は諸説ありますが、一番有力なのは元が送ってきた国書を既読スルーしたからと言われております。

そしてその国書は表現は柔らかですが、日本が元と一つの国となる(日本が元の支配下に置かれる)事を望むとあり、元国の野心がアリアリの国書だったそうです。

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