誤解よ、解けよ!
今更ですが、このお話は『竹取物語』の世界をベースにした異世界ものです。
ファンタジーものです。
帝が戻られて、いつもの後宮の風景が戻りました。
本社改装中、仮社屋で営業していた会社がいよいよ新築の社屋で営業再開したみたいな気分です。
中身は変わらないのに職場がリフレッシュした、って感じですね。
最近気になる事と言えば……。
若い娘から「おねえさま、お慕い申し上げます」と毎日のように迫られています。
私もそろそろ後宮の中ではお姉さん、別の言い方をすれば(したくないけど)年長者です。
いつの間にか後宮の中での私のキャラがタチ的位置に収まっています。
か弱い女性だらけの後宮の中で男性と互角(?)に渡り合う女性というのは希少ですから、無理もありませんが……。
だけどお願い!
私を秘密の花園へと連れ込まないで。
百合は私の守備範囲外ですからっ。
この悩みを尚兵の靑夷様にお話ししましたら、
「それは丁度いい。
私に言いよる女子の半分を引き取ってくれ。
いや、かぐや殿の方が私より強いから全部差し出すぞ。
これで私の肩の荷も降りるというものだ。
あははははは」
と、事態を悪化させるしかないご提案をされました。
後宮の中で流普している同人誌の供給元が私である事は誰もが知る公然の秘密となっていて、当然、私もその手の知識と経験に詳しいと誤解(?)されております。
言っておきますが、私は、彼氏イナイ歴イコール異世界滞在歴です。
こっちに来てからチューした事すらありません。
男性との性的接触を強いてあげるとしたら、蘇我赤兄が私の尻を触ったくらいです。
思い出しただけで腹が立ってきます。
お尻を穢された気分ですね。(さすさす)
とは言え、現代での私は彼氏がいた事はあるし、やる事は一通りやっています。
未経験なのは出産と堕胎くらいです。
情報に溢れた現代社会に居りましたから、無駄に広い世界も知っております。
だから知識“だけ”はあります。
だけど”なよ竹のかぐや姫”は処女なのです。
穢れを知らない女の子なのです。
【天の声】カマトトかっ!
……なんて愚痴を言ったところで何の解決にもなりません。
私も考えました。
何故こんなにも同性からのアプローチがあるのでしょう?
ここが後宮であるのも一因です。
成長期に栄養状態に恵まれたおかげで人より背が高い事もあるでしょう。
だけど一番の敗因は、私に男性とのご縁を感じさせるオーラがからっきし無いからでは無いでしょうか?
はっきり言って、現代にいた時からの筋金入りのオーラです。
オーラに筋金を入れられるのか分かりませんが……。
だから誰か良い人を見つけて婚約してしまえば、言い寄る女性もいなくなるはず。
誰と?
求婚者候補と?
真人クンは唐へと渡ってしまい、いつ帰って来るか分からない身です。
麻呂クンも同様です。
御行クンは私の事を嫌っているかも知れません。
私と建クンのせいで酷い目にあって、挙句お母様と離れ離れになったのだし。
御主人君は衣通ちゃんにゾッコンラヴ(死語)です。
側室となってあの甘〜い二人の空間に入っていく勇気はありません。
多治比様は音那さんを娶りましたし、側室になって潜り込みたいなんて気持ちは欠片もありません。
と言いますか、求婚者達に求婚されないよう努力した結果がこれなのです。
因果応報、自業自得、目的達成、何とかの一念岩をも通す、です。
求婚者候補が全滅となると残るは……建クン?
建クンには[歴史の修正力]という強大な敵がおります。
私がずっと建クンの側に居ることで運命を変える心積もりです。
しかも建クンはとってもハンサムです。
今はまだ八歳、満年齢で七歳くらいですが、建クンがあと十数年もすれば立派な美青年に成長するはずです(※親バカ視点)。
ならば、建クンの“逆・光源氏”計画を考えてみようかしら。
しかしその計画には大きな大きな障害があります。
十数年後の私は、現代での私の年齢に差し迫っています。
それを足し合わせたら……ブルブルブル。
建クンに見捨てられないために、私もコツコツと努力せねばなりません。
クーパー靭帯をリフレッシュして、いつでも迎え入れられる様にしましょう。
カモーン!
現代知識をフル動員して、コエンザイムQ10、ヒアルロン酸、コラーゲンにオメガネスリーの光の玉を開発します。
うぅ……異世界なのに現実が辛いよう。
何はともあれ、これを機会に建クンの“逆・光源氏”計画を発動します!
【天の声】メチャクチャ言ってるな。
◇◇◇◇◇
「た〜てクン」
「……」
計画発動の初日、思わぬ事件が発生しました!
何と! 建クンが! 反抗期になっちまいました〜!!
昨日まで、何でも素直に「……ん」と聞いてくれた建クンは何処?
ぷにぷにほっぺを思う存分スリスリさせてくれたのに。
私を捨てて行かないでぇ〜〜。
その日から私の長く、苦しい、闘いが始まりました。
「建クン、朝だよ。起きよう」
「……」
「建クン、これ食べる?」
「……いらない」
「建ク〜〜ン」
「(プイッ)」
うぅぅぅっ。
建クン、おねーさんは悲しいよ。
建クンの一大事なので帝にもご相談しました。
「建皇子が素直に言う事を聞いてくれなくなってしまったのです〜(ズビズビ)」
「ほっほっほ。
男子なぞ皆同じじゃよ。
年頃になれば言う事を聞かなくなるのが当たり前なのじゃ。
今でこそ大人しい大海人もあれくらいの頃は親の言う事に逆らってばかりじゃったぞ」
「ではどうすれば良いのでしょう?」
「智慧者の其方でも、子育てとなるとまるで母親になりたての若い女子みたいじゃの。
新しい発見じゃ。
ほっほっほっほ、愉快じゃのう」
「そんな、建皇子に嫌われたら生きていけません(ズビズビ)。
愉快どころではありません」
「嫌われてはおらぬよ。
むしろ其方を好きじゃから建は反抗しておるのじゃ」
「本当にそうなのでしょうか?」
「建も自分が何であるのか考えるようになったと言う事じゃ。
親代わりの其方の言う事を何でもはいはいと聞くのを止めたというのは、健やかな成長の証じゃ。
男子は皆、そうやって成長するのじゃ。
気に病むでない」
「はい、承知致しました」
「それにしても、建がのう……。
子供じゃと思うておったが、気付かぬうちに大人に近づいているという事じゃ。
もうそろそろ良い縁談を探さねばな」
「その時は是非ともご本人の意思を尊重して下さいませ」
「ふふふふ、そしたら其方以外に見つからぬのかも知れぬぞ」
「その時はそれで全く構いません」
「満更ではないのじゃの。
楽しみじゃ」
何となく有耶無耶のうちに私が建クンの妃候補になりそうな雰囲気です。
もしかして玉の輿?
これに乗じて後宮に巣食う私への誤解、男っ気が無いとか、男に縁がないとか、男に興味がないとか、実は淫乱だとか、そうゆうよからぬ噂を払拭して欲しいと切に願います。
(ヒソヒソ)
「ねえねえかぐや様って建皇子様との婚約の話があるの聞いた? やはりかぐや様って正太なのかしら?」
「私は両刀使いだって聞いたわ」
「かぐや様なら誰でも受け入れてくれそう♡」
「実は枯れ専で後宮の外ではお年を召した推し活連中がたくさん居て、布教をしているそうよ」
「かぐや様の好みに年齢も性別もないのですの?」
「斉明帝の寵妃だって噂もありますし……」
【天の声】他人の噂とは、なかなか自分の思い通りにはいかないものであった。
カマトトとは……
「あのねー、かまぼこってオトトから作られているのー。知らなかったー」
と何も知らないふりをして純情ぶる女性を指して言う、昭和に流行った俗語です。




