ぺちぺちぺち
コピペ多すぎて、ボリューミーな回です。
実質半分?
闈門で憎っくき蘇我赤兄を迎え討つ私は、チートを惜しげもなく披露して全員を昏倒させるのに成功しました。
後で大変な事になりそうですが、大丈夫。
後宮の皆さんは門が閉まっていたので私が何をしたのか見えていません。
そして敵の皆さんは記憶を消去します。
上手くいかなかったら神の御使いさんにお願いしましょう♪
【天の声】他力本願!?
相手がバタバタと倒れている間に闈門を開け放ち、後宮の皆さんは準備していた作業を開始しました。
テキパキと作業を進めていき、ものの三十分で作業は完了。
なんだかんだで後宮にいる方は皆さん優秀な官僚です。
作業が終わり、皆さんは後宮へと戻り闈門が閉じられました。
さて、今から検証作業です。
まずは兵士①の人。
ぺちぺちぺち
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ。
起きて下さーい(ペチペチペチペチペチペチ)」
「ん……、ここは?」
「どうされたのですか?」
「いや……俺はどうしてここに居るんだ?」
「それは私が聞いているのです。
お名前は?」
「あ……、俺は松本だ。
確か……あれ?
部屋で寝ていたはずだよな?
どうしてこんな格好をしているのだ?」
「しっかりして下さい。
夕飯、何を食べたか覚えていますか?」
「夕飯は……確か久しぶりに鴨肉が出たのだ。
鴨肉のすいとんだった」
「それだけしっかりしている様であれば大丈夫ですね」
どうやら記憶をいじる事に成功したみたいです。
ふふふふふふ。
じゃあ兵士②の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処だ?
おわっ! 一体どうなっているのだ?
お前がやったのか?!」
「貴方は私に何かされたのですか?」
「いや……、違う?
そうなのか?
あれ? 確か……、門の前で……?」
少し消去が甘かったみたいです。
チューン!
パタッ。
これで今日の記憶は完全に消えたかな?
次、兵士③の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処?
私は誰?」
あ、やり過ぎたみたいです。
もしかして全選択して記憶消去しちゃったかかな?
試しにゴミ箱のファイルを元に戻すイメージで……
チューン!
「……はっ!
おのれ物の怪め!
面妖な術を使いよって、覚悟せよ!」
あ、完全に戻った。
チューン!
「ここは何処?
私は誰?」
もう、放っておきましょう。
加減が難しいですね。
兵①の人が次々と気絶した兵を起こしていきます。
そのどさくさに紛れて私はこそっと闈門を抜けて、後宮へと入っていきました。
◇◇◇◇◇
「門を開けぇーいい!」
翌日、記憶を消された事をすっかり忘れた(?)皆さんが再び闈門の前で集結しています。
用事は済んだので放っておいてもいいのですが、中へ押し掛けられても困ります。
昨日と同様、私は一人、闈門の前に立ちました。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! ……
「ひえっ〜!」
「うわぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「おかーちゃーん」
兵達はいとも容易く行動不能になりました。
本当に慣れてしまっています。
そして和かな微笑みを浮かべながら蘇我赤兄へと近づいて行きます。
「うぅぅ……こんな事をしてただで済むと思うなよ」
昨日と全く同じセリフですね。
まるで時間旅行した気分です。
それでは参ります。
ファイルオープン。
ドキュメントフォルダー内のファイルを更新日時順に並べ替えソート。
そして昨日と本日の日付のファイルを……
チューン!
パタッ。
ヨシッ!(ビッ!)
さて次は……、お待たせ実験台ちゃん。
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
……
ふう。
昨日に引き続き検証作業です。
まずは兵士①の人は……あ、いたいた。
ぺちぺちぺち
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ。
起きて下さーい(ペチペチペチペチペチペチ)」
「ん……、ここは?」
「どうされたのですか?」
「いや……俺はどうしてここに居るんだ?」
「それは私が聞いているのです。
お名前は?」
「あ……、俺は松本だ。
確か……あれ?
部屋で寝ていたはずだよな?
どうしてこんな格好をしているのだ?」
「しっかりして下さい。
夕飯、何を食べたか覚えていますか?」
「夕飯は……確か久しぶりに鴨肉が出たのだ。
鴨肉のすいとんだった」
「それだけしっかりしている様であれば大丈夫ですね」
どうやら丸二日分をきっちり消す事に成功したみたいです。
じゃあ次、兵士②の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処だ?
おわっ! 一体どうなっているのだ?
お前がやったのだろっ!」
「貴方は私に何かされたのですか?」
「いや……、違う?
いや、そうか?
あれ? 確か……、門の前で……?
同じ様な?」
今日も消去が甘かったみたいです。
もしかしたら個人差があるのかも知れません。
チューン!
パタッ。
最後、兵士③の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処?
私は誰?」
そうか、昨日全消去した上に更に消去しちゃったんだ。
チューン!
「はっ!
おっ、おのれ物の怪め!
面妖な術を使いよって!
か、か、か、覚悟せよ!」
戻ったけれども、昨日とはセリフが少し違っています。
チューン!
「ここは何処?
私は誰?」
明日があればまた検証しましょう。
…………
(翌日)
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
……
あ〜、面倒くさーい。
昨日、一昨日に引き続き検証です。
兵士①の人は……
ぺちぺちぺち
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ。
起きて下さーい(ペチペチペチペチペチペチ)」
「ん……、ここは?」
「どうされたのですか?」
「いや……俺はどうしてここに居るんだ?」
「それは私が聞いているのです。
お名前は?」
「あ……、俺は松本だ。
確か……あれ?
部屋で寝ていたはずだよな?
どうしてこんな格好をしているのだ?」
「しっかりして下さい。
夕飯、何を食べたか覚えていますか?」
「夕飯は……確か久しぶりに鴨肉が出たのだ。
鴨肉のすいとんだった」
「それだけしっかりしている様であれば大丈夫ですね」
この人は記憶を弄りやすい方みたいですね。
単純な人なのかな?
じゃあ次、兵士②の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処だ?
おわっ! 一体どうなっているのだ?
……まただ。
お前がやったのだろっ!」
「貴方は私に何かされたのですか?」
「いや……、確か……、門の前で……、同じ様な?
これで何度目だ?」
この方は記憶の操作が難しいみたいですね。
疑り深い人なのかも知れません。
もう放っておきましょう。
最後、兵士③の人。
ぺちぺちぺち
「ここは何処?
私は誰?」
もはや様式美ですね。
チューン!
「はっ!
………も、も、物の怪め」
そう言って兵③さんは走って逃げてしまいました。
記憶は消えても恐怖の感情は消えなかったみたいです。
つまりこれを繰り返せば、心の奥底に心的外傷を焼き付ける事も可能かも知れません。
やるつもりはありませんが、奥の手として取っておきましょう。
◇◇◇◇◇
「門を開けぇーいい!」
蘇我赤兄の声が響き渡ります。
これで四日連続ですね。
いい加減、異常事態に気付きなさいよ。
でも今日は飛鳥に残っている長官全員と私が門の外へと出ました。
「ついに観念したか。
素直に検閲を受け入れよ!」
すると私達は静かに傅きました。
「分かればよい。分かれば」
しかし私達は赤兄の言葉を無視して、ずっと傅いたままです。
「?」
「待たせたな。
表をあげよ」
向こうから大海人皇子の登場です。
初日の便りに段取りお伝えしておりました。
タイミングバッチリです。
「大海人皇子様、どうしてここへ?!」
「内裏は帝の住まう場所だ。
そこへ一家臣が出入りしていると聞いたのでな。
内裏の最奥の後宮となれば、中で働く妃や氏女、采女除けば、帝と皇子、皇女のみが出入りする場所だ。
そこへ踏み込もうとしている者がおると聞いて、来ぬわけにも参るまい」
「しかし我々は帝の代理として中を検めたいと申しているだけに御座います。
無体を働くためでは御座いません」
「後宮の何を改めるというのだ?」
「恐れながら……。
先の有間皇子様は残念な事でした。
皇子様なのだから、という思い込みが事件の発覚を遅らせたのです。
反逆の芽を摘む事こそが、私どもの帝への忠誠の証に御座います。
二心は御座いません」
有間皇子も大海人皇子も皇子様です。
どちらも同じ運命を辿らせてやると脅しているかの様にも見えます。
やはり記憶を全消去しておけばよかった。
「そうか、赤兄殿はそこまで忠と義の心に厚い男だとは知らなかったよ。
ここに帝からの便りがある。
其方らが後宮に足を踏み入れる事について問い合わせた返答だ」
「くっ!」
やった、形勢逆転だ!
木簡を手に大海人皇子は便りに目をやります。
「『蘇我赤兄らが後宮へと立ち入り、検閲をしたいとの件については聞き及んでおる。ならば好きに見れば良かろう』
これが帝からのご返答だ」
『えっ!?』
後宮の者達が一同に『信じられない!』という表情に変わります。
「はははは、帝は分かっておられる。
私達が帝への忠誠ゆえに動いているとな。
では、中へ案内して貰おう!」
勝ち誇ったかの様に、蘇我赤兄は私達に言いつけます。
「少し待て、まだ続きがある。
『とはいえ、女だけの後宮に男どもが踏み込み、万が一にも間違いがあっては堪らぬ。
唐では後宮に出入りする男は皆、宦官である。
それに倣い、後宮へ入る男子者は宦官に限るとする』
……だそうだ。
赤兄殿、其方は中へ入るのだな。
案内の前に切り落とさせて貰おう。
アレをな」
宦官と聞いて、蘇我赤兄は顔色が真っ青です。
「どうした?
其方は二心無き忠義の者なのであろう。
私の剣は切れ味が良いぞ」
「う……、暫しお待ち下され。
す……少し検討したい。
それに……人選も考え直したい。
皆の者、引き返すぞ!」
堪らず、蘇我赤兄は逃げる様に去って行きました。
巻き添えでアレを切り落とされたくない兵達も慌てて帰って行きます。
スケベ心を満たしたいと思っていたら、スケベの出来ない体になってしまうのは流石に嫌なのでしょう。
でも受けとして生きていく道もあるから絶望しないで。
「皇子様、わざわざ御足労頂きまして、ありがとう御座いました」
「いや、構わんさ。
それに有間の件では私にも思うところがある。
あの男を凹ませたい気分だったからな」
「やはり……」
「真相は分からない。
だが、あの男が私の家臣として潜り込んで同じ事を企てたのかも知れぬ。
それ故、あの男とは味方にするより敵対した方がマシだと判断しただけだ。
本当に切り落として有間の墓にでも供えてやりたかったがな」
「それはそれで気の毒だと思います。
……有間様が」
「ははははは、違いない」
私は私で新しいチートが手に入ったので、それでヨシですね。
次に蘇我赤兄に会ったら、その時は記憶領域を初期化して真人間に変えて差し上げましょう。
【天の声】OSは変わらんがな。




