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歴史の修正

建皇子の危機のお話もようやく着地点へとやってきました。

 ※時は前日まで遡ります。


 建クンが帝になる未来を回避できれば[歴史の修正力]の埒外となり、建クンは助かると帝へ便りを出しました。

 便りの中には[歴史の修正力]云々の説明はありません。

 きっと混乱されると思いますが、それでも帝は私を信じて動いて下さると信じております。


 しかし、それが簡単な事ではないことに今更ながら気が付きました。

 それを決定するのが皇太子様(オレ様)であり、彼の方が素直に認めるとは思えないからです。

 秋田様情報によると、皇太子様に子供がたくさんおりますが男子は建クンと近江にいる大友皇子の二人だけです。

 いえ、つい最近もう一人生まれたって話を聞きましたから全部で三人ですね。

 生まれたばかりの赤ん坊を除けば世継ぎ候補はたったの二人。

 そのうちの一人を帝になる権利を放棄させろと言われて、あの皇太子が飲めるとは思えません。


 とにかく[歴史の修正力]が建クンを帝となる事を拒んでいるわけです。

 おそらく皇子として子を成すこともNGでしょう。

 他に方法はないかしら……?

 例えば、建クンが亡くなったことにして、何処か別の場所でひっそりと暮らすとか。

 例えば、私が建クンを連れ出して駆け落ちするとか。

 例えば……歴史の表舞台からの退場、それさえ出来れば助かるかも知れません。


 ……歴史?

 歴史って何ぞや?

 ここでいう歴史とは、日本書紀の事をいうのでしょうか?

 つまり歴史を書き換えるという事は、日本書紀を書き換えるという事ではないでしょうか?

 日本書紀の編纂へんさん者の一人が忌部の小首おびとクンである事を私は知っています。

 つまり小首クンに頼めば、建クンが今後どのように生きたとしても、書記(れきし)では幼くして亡くなった事に改変出来るはずです。

 つまり、小首クンに「はい、歴史を書き換えます」と言わせればそれでOK?

 子供の小首クンに「はい、僕は嘘をつきます」的な発言をさせるのに少し引っかかるものはありますが、ダメ元でやってみる価値はあるかも知れません。

 [歴史の修正力]が相手なら、こちらも[歴史の改変]で対抗しましょう!


 思い立ったが吉日。

 先触れ(アポ)なしですが、行ってみましょう。

 もう残された時間は少ないですから。


 ◇◇◇◇◇


「かぐや様、だいぶおやつれになりましたが大丈夫ですか?

 最近お越しになられなかったのですが、もう建皇子様は回復されたのですか?」


 忌部氏の宮へ行くと、氏上である佐賀斯(さかし)様がお迎え下さいました。

 アポ無しでしたが快く迎えて下さいました。


「まだ回復はしていないのですが、それに関してお願いしたい事ができました。

 申し訳ないのですが小首(おびと)様にお目通ししたいのですが宜しいでしょうか?」


「それは一向に構いません。

 早速呼びましょう」

 (意訳:おお、いよいよかぐや様が小首に興味をお示しになったぞ。小首よ、頼むぞ!)


 すぐに小首クンが来てくれました。


「かぐや様、ご無沙汰しております。

 御用があると伺いました。

 何でしょうか?」


 相変わらず小首クンは礼儀正しい良い子です。

 衣通ちゃん自慢の甥っ子だけあります。

 事あるごとに自慢するくらいですから。


「少し変なお願いになりますが聞いてくれますか?」


「かぐや様の言う事が変に思うのは僕が理解が足らないからだと思います。

 かぐや様の言う事に変な事はありません」


 本当に良い子♡


「もし……もしも小首様が、建皇子様について語ったり、記録に残そうとした時があったとします。

 その時、建皇子様は本日お亡くなりになったとして下さい」


「「ええっ?!」」


 小首クンも隣にいる佐賀斯様もびっくりしています。


「本当に変なお願いでごめんなさい。

 実は神託があったの。

 建皇子を襲っている病魔は、将来、建皇子や建皇子の子孫が帝になる事を妨害するため建皇子を亡き者にしようとする呪いなのです。

 なので、私は建皇子がそのような将来が訪れないように妨害するつもりなの。

 そうする事で建皇子が呪術の埒外となり、病魔から逃れられると考えているのです」


 まだ子供の小首クンには理解し難いだろうけど、全〜〜部、神託のせいにします。

 佐賀斯様も納得のご様子です。


「でも何故、僕なのですか?」


 あ、そっちの理由(いいわけ)を考えていませんでした。

 まさか小首クンが日本書紀の編纂に関わるなんて言えないし……。


「それも神託なの」(ドンッ!)


「「なるほど、分かりました」」


 二人ともあっさり受け入れてくれました。

 こうなるとまるで葵の御紋ですね。

 ひかえおろー!


 用事が済みましたら、早々に後宮へと戻りました。

 もしかしたら建クンが良くなっているかも知れないという期待もあります。


 しかし、建クンの様子は変わりありませんでした。

 でももしかしたら……。

 一縷の望みを掛けて光の玉を当ててみます。

 原因が分かったので、今行っている治療は鎮痛解熱の光の玉のみです。

 でも医薬品分類第一類なのは変わりありません。


 チューン!


 バタン!


 ……やっぱダメでした。


 ◇◇◇◇◇


 陽が傾きだいぶ薄暗くなった頃、私は亀ちゃんに起こされ建クン元へと行きました。

 長い闘病生活で建クンの顔色は青白く、呼吸も苦しそうです。

 建クン見ているうちに涙が出てきました。


 原因は分かったのに。

 その原因を取り除けば、建クンは普通の男の子として生きていけるんだよ。

 何で建クンがこんなに苦しまなくっちゃいけないの?

 段々と建クンを取り巻く理不尽さに腹が立って、何も出来ない自分にも腹が立って、未だに建クンを歴史の呪縛から解放してくれない皇太子様(オレ様)に腹が立ってきました。


 横になっている建クンの傍へと座り、額に滲んでいる汗を手拭で拭き取ってあげました。

 また熱が出てきたみたいです。

 光の玉を当ててあげなきゃ。


 そう思って、心の準備をした時でした。

 建クンが仄かに光を放ち始めました。

 私が治癒(ヒール)の光の玉を当てて、効果があった時に光るアレです。

 もしかして帝が私のお願いを聞き入れてくれたの?


 胸を大きく上下させて苦しそうに呼吸していたのが止んでいます。

 もしかして! と慌てて建クンの鼻先に自分の耳を近づけました。


 すーすーすー


 呼吸が落ち着き、建クンは静かに眠っています。

 念のため光の玉を当ててみましょう。


 チューン!


 ……全然平気です。

 いつもでしたらバタンと倒れるはずなのに全然平気です。

 つまり危機は脱したの?

 建クンは助かったの?!


 深い安堵の気持ちに包まれ、段々と気持ちよく気が遠くなり、いつしか私は意識を手放しておりました。


 ……すぅ。


 ◇◇◇◇◇


『かぐやよ』


 ……誰?


『かぐやよ。

 物質(もの)を創る事無かれ。

 生命(いのち)を創る事無かれ。

 歴史(とき)を創る事無かれ。

 繰り返し申す。

 物質(もの)を創る事……』


 また来たの?

『神界の月詠様』社の『使い』様でしたっけ?


『其方、わざとやっておらぬか?』


 急激に先程までの出来事を思い起こして、意識を呼び戻しました。


「建クン!!

 建クンは助かったの?!」


『ああ、当面の危機は去った。

 安心するが良い』


 良かったぁ〜〜〜〜。


「ありがとうございます。

 それではごきげんよう。

 さようなら。

 いずれまた。

 バイバイ」


『待て待て待て待てー!

 当面の危機が去っただけだ。

 完全には解消しておらぬ』


「え、だって建クンは皇子でなくなったから、もう後継者争いとかに巻き込まれる事は無いのでは?」


『違う、彼はまだ皇子のままだ』


「え、どうして?

 もしかして小首クンにお願いしたのが功を奏したの?」


『それもある。

 しかし一番の理由は斉明帝の、孫を思う気持ちが[歴史の修正力]に優ったからだ』


「どうゆう事ですか?

 帝が何をされたのですか?」


『今からそれを説明しよう。

 ………茶は出ぬのか?』


「あ、はいはい。

 少々お待ちを」


 私は急いで(夢の中の)給湯室へお茶汲みに行くのでした。



 (つづきます)

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