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そもそも

今回初めて主人公をこの世界に送り込んだ存在が現れます。

『かぐやよ』


 ……誰?


『かぐやよ。

 物質(もの)を創る事無かれ。

 生命(いのち)を創る事無かれ。

 歴史(とき)を創る事無かれ。

 繰り返し申す。

 物質(もの)を創る事……』


 あ、いいです。

 間に合ってますから。

 と言うか今はそれどころではないのです。

 こんな下らない夢を見ている場合ではありません。


『夢ではない。

 其方に警告しておるのだ』


 何か面倒臭い夢です。

 自己主張の強い夢なんて始めてです。

 もう起きなきゃ。


『かぐやよ。

 人の話を聞け!』


 あー、面倒なお客様ですね。


「大変申し訳ございませんでした。

 恐れ入りますが、ご所属とお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


『私は神界の月詠様の使いだ』


「はい、『神界の月詠様』社の『使い』様で御座いますね。

『使い』様、本日はどのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか?」


 いつしか私は現代にいた時の事務員の制服を着て、受付対応をしておりました。

 私達以外に人は居ませんが、懐かしいオフィスです。

 総務部でしたので、受付業務はピンチヒッターとして数回しかやったことがありませんが……。

 起きるのが勿体無い気がしてきました。

 忘れかけていた以前の自分、現代社会、不自由のない暮らし。

 もう、こんなの放っておいて近所のコンビニへ行こうかしら?


『神界の月詠様社ではない。

 私は神界の所属だ。

 私は月詠様の使いだ。

 其方の行いは危険なのだ。

 だから警告に来たのだ』


 本当に自己主張の強い夢です。

 いつの間にか応接室に居て、月詠様の使い(自称)がソファーに座っています。

 私はお茶を出すのですが、何故か器は後宮で使う須恵器の茶碗でした。


「私にご用件とは何でしょうか?

 出来ましたら次回は予めアポイントをお願いします」


『いや、済まぬ……ではなくて、其方を止めに来たのだ!

 其方の行いは危険なのだ』


 妙にリアルな夢です。

 明晰夢というものでしょうか?

 目の前のお茶を口にしたら美味しく飲めそうな気がしてきました。

 あ、給湯室の冷蔵庫にブランドチョコがあったはず。

 あれを持ってこようかしら?


『私の話を聞かんか!』


 あ、怒ってしまいました。

 敢えて惚けていましたが、私も大体の様子は分かってきました。

 多分、私がこの世界にやって来た件について知っている方、もしくはその関係者、もしくは本人? ……なのでしょう。

 そもそも、私はこの世界に好き好んでやって来たわけではなく、説明も何も無しに、拉致された、古代(ここ)に放り出された様なものです。

 苦情を入れるべきは私のはず。

 そもそも、こんな苦労しているのは貴方方が原因なのです。


『大変申し訳ございませんでした。

 ご用件は伺いますが、私は貴方がどの様なお立場の方で、私とどの様なご関係にあるのか、存じ上げません。

 それなのに一方的に怒鳴られましてもご対応致しかねます。

 危険と申されましても、そもそもが当人への説明も何も無かったのです。

 説明責任を果たしていないのは其方なのですよ。

 出来ましたら書面での説明、もしくは電子データによる情報提供をお願いします。

 そもそも、同意得ないまま本件を押し付けたのでは無かったのではないのですか?

 私としましてはクーリングオフを要求します」


『いや……済まぬ。

 それについては神界へ持ち帰ろう。

 だがもう止めるのだ!』


「あのですね。

 使用上の注意も受けていないのに、何が危ないと仰っているのですか?

 そもそも、使用方法すら説明が無いのです。

 むしろどうやって使用するのかを教えて頂きたいくらいなのです。

 正しい使い方を教えて下さらないのに間違った使い方もないでしょう?!」


『いや……済まぬ。

 それについては機会を設けよう。

 だが其方が危険なのだ」


「分かりました。

 それで一体、私は何を止めるのでしょう?

 知識チートですか?

 光る玉ですか?

 金の採掘ですか?

 治癒(ヒール)ですか?

 それとも女を止めるのですか?」


『いや、済まぬ。

 まずは順を追って説明させてくれ』


「最初からそう仰って下さい。

 カスハラかと思いました」


「カ……、分かった。

 先ずは其方の力であるが、それは神より預かりし力だ」


「はぁ……、それで?」


「神より預かりし力には制約が伴う。

 それが先ほどの注意だ」


「先程の……、

物質(もの)を創る事無かれ。

 生命(いのち)を創る事無かれ。

 歴史(とき)を創る事無かれ。』

 という偉そうなお言葉ですか?」


『え……、偉そう?

 つまりだな、創造神でない神には物質創造は出来ぬ。

 そして生命の創造は禁忌にあたる。

 分かるよな』


「ええ、何となくそう思っておりました」


『禁忌を犯そうとするとリミッターが掛かる。

 其方が倒れるのはそれだ』


「しかし生命の創造と申しましても、人工授精が行われているのに今更ではないですか?

 別に私はクローン人間を造った訳ではありませんよ」


『それは人間が行き過ぎた能力を手に入れ、神の禁忌へと踏み込んだに過ぎぬ。

 神は人とは違う行動原理の上に成り立っているのだ。

 神は人のする事に不干渉である事が原則なのだ』


 ???


「それっておかしく無いですか?

 だって神によって私がこの世界に放り込まれて、ガッツリ干渉しているでは無いですか?」


『それについて、此度は説明出来ぬ。

 いずれ話そう」


 何か事情がありそうです。

 とにかく話を進めましょう。

 そろそろ建クンが心配になってきました。


「分かりました。

 とにかく説明を続けて下さい」


『分かった。

 そして今其方が行なっている治療は歴史(とき)を変える行動なのだ。

 故に其方が治療を試みる度にリミッターが働くのだ』


「それってやはりおかしいですよね?

 私が行動を起こせば必ず歴史は変わっていきます。

 そもそも私をこの世界に送り込むこと自体が禁忌では無いのでしょうか?」


『何事にも抜け道はある。

 人が人の歴史に関与するのは可能なのだ。

 先ほども言ったであろう。

 人が神の禁忌に踏み込む事は可能なのだ。

 この世はそこまでの事を出来る生物が現れる事など想定していないのだ』


「話を整理しますと、私が神の力を借りて建クンの治癒を行うとリミッターが働くよ、と。

 何故ならその治癒行為は歴史を変えるから、という事でしょうか?」


『その通りだ。

 ようやく分かったか』


「ええ、分かりました。

 ……だが断るっ!(良い声)」


『何故だ!』


「何故もへったくれもありません。

 建クンが死んでしまうにはあまりにも早過ぎます。

 もっと生を謳歌して欲しいし、その権利があるはずです」


『そうなると神の御技を取り上げざるを得なくなるのだ。

 言ったはずだ。

 神は人のする事に不干渉なのだ』


「それは困ります。

 だけど建クンを見捨てる選択肢は私にはありません」


「だがその度に其方の魂をすり減らしているのだ。

 故に止めに来たのだ」


 随分と物騒な事を言っていますが、そんな物騒な力を説明無しに与えるなんてやはり変です。

 言っている事が全て真実だと思うのは危険ですね。


「それでは伺いますが、魂が擦り減ったらどうなるのですか?」


生命(いのち)が亡くなろうと魂は永遠だ。

 しかし魂が滅べば無になる』


「では無になる方向でお願いします」


『即答か!?』


「魂が永遠であろうと、前世の知識が引き継がれないのであれば、輪廻転生なんてあって無い様なものです。

 ラノベの読み過ぎではないのですか?」


『くっ!

 ならば力を封印させて貰うしか無いぞ』


「そもそも、同意も説明も無しにこの世界に送り込んだのは貴方方ではないのですか?

 私がこの世界に送り込まれる時こう言われました。

『同じ過ちを繰り返すまい。頼むぞ』でしたっけ?

 その意に沿う事が難しくなります。

 それで宜しいのですか?」


『待て、何をするつもりだ?』


「同じ過ちが何なのかは存じ上げません。

 しかし、私が性格の悪い悪役令(かぐや)姫らしい行動をとればその意に反するのでは無いでしょうか?

 かぐや姫の運命に逆らって足掻く事を止めればそうなる気がします」


 これはこの場の思いつきではなくて、この世界に来てから十余年もの間、ずっと考えていた事です。

 何故自分がこの世界に送り込まれたのかと。

 その逆が目の前にいる月詠様の使者(自称)に対する反撃になるはずだと考えました。



 (つづきます)

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