宴、初日(4)・・・初めてのお友達
久々に主人公の腐女子ぶりが発揮されます。
宴初日の予定表を全て終えて、屋敷で宴会が行われます。
とは言え私はまだ八歳、満年齢で六歳、現代なら幼稚園の年長さんクラスに通う幼稚園児です。
クラスメイトはしんちゃんとマサル君です。
大人達の宴会に参加するのは躊躇われますし、大人達も幼女の私が同席するのを嫌がりました。
利害の一致ですね。なので、別室にて若い人同士にお任せされました。
やや狭いお部屋に御馳走が並べられ、一番年上で十歳くらい、一番下が三歳児の子供が集まる託児所状態です。
中央の豪族のご子息ご令嬢の皆さんは流石に貴族風の高貴さと僅かな高慢さを漂わせています。
地方豪族の子供達は元旦の宴の席の時のまま、高貴さはゼロ、高慢さは満点でした。
まるで成長していない……。
地方豪族の娘として、中央の氏族、豪族の皆さんとの橋渡しをしてみましょう。
……するしかないでしょう。
……出来るかな?
……無理かも?
「おい、早く食おうぜ! オレはここ!」
「あ、その席、オレが狙ってたんだ。退けよ!」
「にーちゃーん、早く飯食おーよー」
「やーねー、男っていつまでも子供だから」
「ホントに」
幼いというか……怖いもの知らずの集まりですね。育ちの良い中央のご子息達がドン引きしております。
「ど、どうぞ、お座り下さいまし。ごゆるりとお寛ぎ下さい」
後に控えているお付きの人にも席を勧めました。何とか全員が着席しましたので、まずは差し障りのないご挨拶を。
「ほ……」
「もういいから、早く飯食わせろよー」
『ピキッ』
「そ、それではここは無礼講という事で、お召し上がりながら歓談しましょう。どうぞ召し上がって下さい」
ガツガツガツガツガツガツ……
ワンコの方が躾けられているだけマシかも知れませんね。
無理に橋渡しなんてしたら、親に報告されて、領地没収の上お家断絶になるかも知れません。
宴の席に一般人が紛れ込んだものとして扱いましょう。
ふと、周りを見渡すと一人の女の子と視線が合いました。
こちらとの視線が合うと、スッと視線を外されてしまいました。
確か忌部氏の氏上様と一緒に居た女の子だったはず。
お世話になっている方へのご挨拶は社会人としての常識です。
女の子の前に行って、橘の皮を煎じた飲み物を差し出しました。
「これをどうぞ。初めてお目に掛かります。讃岐造麻呂の娘、かぐやと申します。忌部氏のお方ですよね?」
「は、は、は、は、(ごっくん)、はい! 天女様に覚えて頂けたなんて光栄でし!」
「えっ?」
「し、し、失礼しました」(ガバッ)
ガチャン!!
あららら、お辞儀が勢い良過ぎて、食器をひっくり返してしまいました。
「落ち着いて、落ち着いて。
お付きの方。申し訳ありませんが、お片付けを手伝って頂けないでしょうか?」
「は、はい! 姫様、まずは片付けますので、お立ち下さいませ」
「ひ、ひゃい!」
ガッチャーン!
あらららら、慌てて立つからお膳ごとひっくり返してしまいました。
このままでは埒が開かないので、最終手段といきましょう。
【天の声】初手が最終手段か!?
立ち上がって、忌部の女の子の手を取りました。
「ひっ!」
プチパニック状態の女の子の顔は引きつっていますので、掌を通して精神鎮静の光の玉 (ステルスバージョン)を女の子に与えました。
チューン!
少し表情が和らいだので、もう一回。
チューン!
注意深く見ると女の子はほんのりと光っていますが、部屋の灯りのおかげで殆ど分かりません。
「……落ち着きましたか?」
「は、はい。信じられないくらい安らかな気持ちになりました。
本当にかぐや様は天女の様なお方で御座います。
私の様な下賤の者の手を取って頂けるだなんて、天に上るかのような気持ちで御座います」
いやいやいや、周りが引いてます。
天女じゃないと説得したいところですが、気の毒なくらいあがり症みたいなので順を追って柔らかくそーっと言い聞かせましょう。
最初にガツンと言ってしまうと萎縮する一方です。
職場でもこういう娘の面倒を見た経験がありますので、慣れたものです。
繋いだ手を離して、付き人の方に新しいお膳を手配してもらう様お願いして、私は女の子の隣に座りました。
「改めてご挨拶しますね。私は讃岐造麻呂の娘、かぐやと申します。」
「わ、わ、私は忌部首氏上の孫にあたります衣通郎姫と申します」
そとおし?………ああ、聞き覚えがあります。
「まあ、伝説の美女と謳われた衣通姫(※)と同じ名前ですの?」
衣通様は目を丸く見開いて、驚いた様子です。
「かぐや様は秋田様から伺った通り、聡明な姫様なのですね。
その様に受け応えられたのは初めてです。大人でもその様なお方はいらっしゃいませんでした」
「え、ええ。書を読むのが何よりも楽しみなので……」
……言えない。
まさか秋田様が真面目な本と難しい本の間に差し入れた楽しい書物に書いてあったなんて。
実の兄と情を通じた事が発端となった兄は流刑となり、流刑先まで兄を追って情を交わした後に心中した悲劇の姫様だなんて。
官能的な描写で燃え上がる愛を語る実の兄妹。
萌える展開! 報われない禁断の愛! でも止められないお互いの気持ち!
これぞ純愛ってお話が飛鳥時代に存在していたという、大、大、大発見でした。
……なんて言えません。
【天の声】…………。
「まずはお食事をご一緒しましょう。朝早かったからお腹が空いたでしょう?
私も緊張で食事も喉を通りませんでしたの」
「かぐや様でも緊張するのですか?!」
「それはもう、舞を待っている時はグルグルと目が回りそうなくらい、緊張しました」
【天の声】その結果がアレだったからな。
けほんけほん。
「かぐや様、お風邪ですか?」
「いえ、大丈夫です。時々、訳もなく咳が出るのです。
何故でしょう? おほほほほ。
さ、お膳が来ました。一緒に食べましょう」
「はい」
周りの喧騒は置いておいて、中央の子弟は中央の子弟同士、地方の子弟は地方の子弟同士で、私と布通姫は二人で、ワイワイと楽しく食事をしました。
「おい、かぎや。もっと飯持ってこい!」
『ピキッ!』
◇◇◇◇◇
追伸.
しばらくしたら、地方の子弟が居なくなったので探しに行きました。
そうしましたら大人達の宴会の場を覗き見しておりました。
「どうしたのですか?」
と声を掛けるとビックリして慌てて部屋へと走って戻っていきました。
本当にどうしたのかしら? と思い、戸の隙間から中を見ましたら。
そこには神話にあった天岩戸の場面が再現されてました。
大人の男性が車座でお酒を飲んでいて、その中心には………、
上着がはだけてトップレスになったお椀の大きな巫女さんが、台の上に乗って情熱的で扇情的なダンスを踊っていたのです。
萬田先生がウチに来た時、初めて踊ったあの舞です。
あれって本気だったのですね。
プルプルウッフーン♪
衣通姫は5世紀頃に存在したという女性、歌人です。
その美しさが布を通して光り輝いたという意味だそうです。
「そとおり」とも読みますが、ここでは「そとおし」としました。