【幕間】シマの決心
第285話『武闘派かぐや姫』とその次の第286話『シマちゃん』の間の、シマちゃん視点による間話です。
今まででサイトウ(里長)の台詞が最多です。
つるっぱげの連呼で心を痛められる方がおりましたら、心よりお詫びします。
大変申し訳御座いませんでした。
m(_ _)m
私は十嶌、かぐや様付きの雑司女です。
かぐや様からは「シマちゃん」と親しげに呼ばれております。
とても勿体無い事です。
◇◇◇◇◇
もう一年以上前の事です。
ある日、おっとうがつるっぱげになって帰って来て、
「おめぇがかぐや様のお付きになる事になった」と言われました。
いきなりです。
何が何だかさっぱり分かんないよ。
かぐや様ってあのかぐや姫だよね?
隣の領のお姫様だよね?
お付きって何の事?
おっとうがつるっぱげになったのは何故?
私はこれからどうなるの?
次々に出てくる疑問に、口下手なおっとうが一つ一つ説明してくれました。
するととんでもない事になっているのを知りました。
事もあろうに、おっとう達は謀反を起こして元領主様を家族もろとも殺してしまったと言うのです。
以前から領主様に対していつも怒っていたのは知っています。
ひどい事を数限りなくされてきたと聞いていました。
そこで皆んなで立ち上がって、元領主様に仕返しをしたのだと。
じゃあ、何がいけなかったの?
それを聞いたらおっとうはブルル身震いし、青い顔で話を続けました。
元領主様が何をしたからと言って家族全員を殺してしまったのはやり過ぎだったと。
それをかぐや様に咎められて、全員が領地を追い出されるところだったそうです。
その罪を償うために全員がつるっぱげにされたのだそうです。
でも髪なんてすぐに生えるでしょ?
そう思ったのですが、これはかぐや様の呪いによってつるっぱげにされたため、かぐや様がお許しにならない限りずーーっと髪が生えないのだと言うのです。
そんな事が可能なの?
するとおっとうは小さな声で言いました。
『讃岐の天女様』と言われるかぐや様は、この馬見の地でも有名でした。
しかしその正体はこの世の者とは思えない物の怪だったとおっとうは言うのです。
かぐや様に咎められて反撃をしようとしたおっとうは、かぐや様を前になす術もなく叩きのめされたのだそうです。
手を触れていないのに頭をガツンと殴られて、内臓を搾り取られる様にお腹が痛くなって、脚が千切れた様な痛みに襲われたんだって。
もう命は無いだろうと半ば諦めたんだと、おっとうは震えながら言うのです。
幸い命は取られなかったけど、娘を差し出す様命令されたのだと。
おっとうの娘って……わたし?
ひやぁぁぁぁ!!
私、食べられちゃうの?!
それともかぐや様の慰み者としてあんな事やこんな事をされてしまうの?
その話を聞いた時、私は目の前が真っ暗になりました。
おっとうに言いました。
今からでも遅く無いから逃げよう。
しかし、あの物の怪から逃げられる気がしないとおっとうは項垂れています。
心の底から叩きのめされてしまったみたいです。
じゃあ新しい里長様にお願いしてみましょう。
新しい里長様はかぐや様と親しい間柄だと聞いた事があります。
里長様のお屋敷へ行って掛け合ってみました。
すると驚いた事に里長様もつるっぱげになっていました。
里長様のつるっぱげの頭を見て、只事で無い事がようやく実感できました。
「里長様、私はかぐや様にどの様にされてしまうんでしょう?」
「確か姫様が務める後宮で、君には雑用係として働いて貰うと言ってたぞ。
一応、三年間だ。
その後は好きにすればいいとの事だ。
良かったな。
姫様のお付きでいられる間、食うもんには困らないぞ」
「しかし私はかぐや様に呪われてしまうのでは無いのですか?
里長様もつるっぱげじゃないですか」
「これは私が姫様にお願いしたのだ。
領民が罪を償うまで、里長である私もつるっぱげにしてくれとな」
「何故そんな事を頼んだんですか?
せっかく格好良かったのに台無しじゃ無いですか」
「元の領主のせいで馬見は貧しい土地になってしまったんだ。
私はこの土地を豊かにしたい。
皆んなで力を合わせてな。
そんな時私だけ髪の毛が生えていたら、皆んな嫌だろ?
だから姫様に同じにしてくれと頼んだんだ」
「この土地は豊かになるんですか?」
「ああ、なるよ。
讃岐も昔は貧しい土地だったんだ。
しかし姫様が来てから、色々な知恵を授けてくれたおかげで豊かになったんだ。
同じ事をこの馬見でもやるつもりだ」
「それじゃまるでかぐや様がとても良い人みたいじゃないですか」
「ああ、讃岐の皆んなは姫様を天女様と崇めている。
とても慈悲深くて優しいお方だ。
今回の件も、元領主の家族を殺されて一人ぽっちになった雑司女さんを気の毒に思って、反省しようとしない皆んなに罰を与えたんだ。
君のお父さんは今回の騒動の首謀者だったから、より一層反省して貰うために君を一時預かる事にしたんだ。
もしそうしなかったら君のお父さんは同じ事を繰り返して、私にも同じ事をするかも知れない。
それを防ぐためでもあるんだ」
ふーん、そうなんだ。
おっとうは昔から頭に血が上ると人の話を聞かないもんね。
「じゃあ私がかぐや様に仕えれば、皆んなが豊かになって、おっとうも許されて、私は食うもんに困らなくて良い事づくめなんだね」
「ああ、その通りだ。
しかし一つ気をつけて欲しい事がある。
今の姫様付きの雑司女さんは、君のお父さん達が殺してしまった元領主の娘でただ一人の生き残りなんだ。
君のお父さんを憎んでいるかも知れない。
出来ればその先輩にあたる雑司女さんと仲良くして欲しいんだ」
「私はその方に憎まれているの?」
「分からない。
もし君がお父上を殺されたら、その相手を許せるかな?
その相手の娘と仲良くできるかな?」
「うーん、どうだろう。
もしかしたら嫌がらせしたくなるかも知れない」
「そうだね。
だから相手の気持ちになって考えて欲しいんだ」
「分かりました。
じゃあ、私は今から京へ行くんですか?」
「今すぐじゃ無い。
暫くお父上と会えなくなるんだ。
たくさん話をしておきなさい。
明日、評造様のところへ行って、京へ行く手筈を整えるから」
「分かりました」
新しい里長様、格好良いと評判でしたが中身も優しそうな人でした。
その里長様がかぐや様がお優しい方と言うのだから間違いないでしょう。
おっとうが迷惑を掛けてしまった償いのため、私も一生懸命にお仕えしなくちゃ。
◇◇◇◇◇
その次の次の日。
私は生まれ育った馬見を、生まれて初めて離れる事になりました。
おっとうは涙を流して見送っています。
「どぉ〜じぃ〜まぁ〜〜。
辛くなったら逃げて帰っても良いんだぞ。
おっとうがどうにかするならな〜」
いつもの事だけど、本当に暑苦しいです。
周りには、かぐや様に逆らったおっとう達が助かるために私が人身御供として差し出されたのだと言う人もいます。
でも里長様が大丈夫と言ってくれるから、きっと大丈夫。
まだ一度も会った事のないかぐや様と、先輩の雑司女さん。
京ってどんな場所なのでしょう?
馬見や讃岐よりも人が多いのかな?
宮という場所には帝って偉いお方が居るらしいけど、どんだけなの?
分かんない事ばっかりで、ドキドキでした。
◇◇◇◇◇
今は三年と言わずもっとかぐや様にお仕えしたい気持ちです。
先輩の亀さんともわだかまりなくお付き合いして、すっかり仲良しです。
かぐや様は、年頃になったら馬見に戻っていい人を見つけなさいと言います。
でも実を言うと……
もし馬見に戻ったなら里長様のお妾さんになれるといいなぁと、密かに恋焦がれている事はかぐや様には内緒です。
次話より新章始まります。
拙作をお読み下さいます皆さんに納得して貰える様、ストーリー作りに勤しむつもりです。
今後とも宜しくお願いします。




