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【閑話】かぐや先生の理科&家庭科の実験

二日連続で閑話です。

理由は後書きにて。



 ※ 鵜野皇女がまだ後宮にいる時のかぐやによるある日の授業風景です。


「鵜野様、お覚悟は宜しいでしょうか?」


「うむ、妾はいつでもいいぞ」


「では始めます」


 (ふー、ふー、ふー)


「ふぉぉぉぉぉぉ、何て素敵なのじゃ」


【天の声】R18じゃないよな?


 本日は無黒字(ムクロジ)を使ったシャボン玉の実験です。


 讃岐にいる時から身体を洗うため無黒字の実を大量に確保してあります。

 最近では積極的に栽培しているのでこの様な遊びも使えます。


「何故じゃ?

 何故、この様な大きな泡が出来るのじゃ?

 何故、宙に浮くのじゃ?」


「ええ〜っと、詳しいことは私も分かりません」


 何せ理科は大の苦手でしたから。


「無黒字の実には泡の素が含まれています。

 それが水に溶け出して、水が泡立つのです」


「ふー、ふー、ふー、難しいのお。

 ふー、ふー、……お、出来た!」


 麦藁(ストロー)を使ってシャボン玉を作って楽しんでいます。


「泡の素は間人(はしひとの)太后様と共に行っております施術所で、身体を洗うのに使っております。

 身体の汚れが取れて気持ちよくなりますのも、この泡のおかげです」


「なるほどのお。

 では宙に浮くのは何故じゃ?」


「それはですね。

 私達の身の周りには空気というものが御座います。

 分かりますか?」


「うむ、分かるぞ。

 扇で仰ぐと風になるよな?」


「ええ、その空気には僅かな重みしか御座いません」


「ん? 

 空気とやらには重みがあるのか?」


「はい、本当に僅かですが重みが御座います。

 更に言いますと、空気の種類によって重さに違いが御座います」


「そんな事、どうやったら分かるのじゃ?」


「詳細は省きますが、重い空気は下に溜まります。

 物によっては人を死に至らしめる事もあるのです」


「何と!

 それは誠か?」


「例えば火が燃えた後の空気は、人が吸わなけれなならない空気を含まぬ重い空気を作ります。

 息を止めると息苦しくなりますよね?

 つまり人は空気の中にある必要な種類の空気を常に取り入れなければならないのです。

 それがない空気は人を殺しうる凶器にもなります」


「空気ですら、凶器になるとは考えもせなかった」


「締め切った小部屋で小鉢を焚くときにはくれぐれもお気をつけ下さい」


「怖いのお」


「話を戻しますと、僅かに重みのある空気を押し除けるには多少なりとも力が入ります。

 扇を仰ぐのも力が要りますでしょ?

 しかしこの軽い泡では押し除ける力がほんの少ししか御座いません。

 泡が空気を押し除けるのにモタモタしているので宙に浮いて見えるのです」


「なるほど。

 重い物ならモタモタせぬからな。

 という事は、もし空気が無ければ泡も鉄の塊も同じように落ちるのかや?」


 鵜野様の非凡な所は、根本を理解して新しい閃きを得る所です。

 地頭の良さが如実に現れています。


「確かめた事は御座いませんが、その通りに御座います」


「そうじゃな。

 そのような事を確かめるためには人が生きるのに必要な空気のない場所に行かなければならないからの。

 その様な場所なんてあるのか知らぬが」


「例えば高い山に登れば空気は薄くなります。

 もし月にまで登れば空気がないかも知れませんね」


「という事は月には人も何も居ないのか?」


「どうでしょう?

 もしかしたら、月には月で空気を溜めているかも知れません。

 分からないからこそ色々と想像してしまいます。

 唐に伝わる古い神話(いいつたえ)では『嫦娥(じょうが)』という天女が月に住んでいるそうですよ」


 本当は空気も何もなくて、石だけの死の星だと知っていますが。


「(ふー)

 それにしても楽しいのう。

 建、一緒にやろう」


 建クンも麦藁(ストロー)を使ってシャボン玉遊びに夢中です。

 また一つ、姉弟の思い出が出来ました。


 ◇◇◇◇◇


「鵜野様、お覚悟は宜しいでしょうか?」


「うむ、妾はいつでもいいぞ」


「では始めます」


 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……。


 竹の産地である讃岐で作って貰った茶筅ちゃせんを使って、深いお椀の中身を必死にかき混ぜます。

 入っている物は、卵の黄身、お酢、塩、そして少量の菜種油です。

 そう、異世界名物。

 マヨネーズ作りです。


 生卵を使用するのでサルモネラ菌が怖いですので、殺菌作用のあるお酢を多めにしてあります。

 それでも心配なのでウィルスバイ菌を消毒する光の玉を当ててあります。

 少しずつ少しづつ菜種油を加えて、撹拌します。


 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ……。


「う、腕が……」


「亀ちゃん、鵜野様と交代して差し上げて」


「はい」


「シマちゃん、私と交代して」


「はい」


 ぽったりぽったりぽったり。

 少しずつ少しずつ菜種油を加えていきます。


「姫様……もう限界……です」


「では交代します。

 鵜野様も交代して下さい。

 美味しい調味料のため頑張りましょう」


「かぐやが言うのなら、きっと美味しかろう。

 頑張るぞえ」


 こんな調子でマヨネーズ作りをやってみました。


「さあ、とりあえずこんな所でしょう。

 少し舐めてみますか?」


「そうじゃの。

 しかし酢が入っておるのじゃろ?

 酸っぱいのではないかえ?」


「安心して下さい。

 全然酸っぱくありません」


「どれどれ……ほう、少々モッタリした味わいじゃな。

 しかし癖になりそうな味じゃ」


 私も少し味見してみました。

 やはりメーカーさんが作るマヨネーズとは全然違います。

 胡椒を入れればその味に近づけるかも知れませんが、古代の日本にはありません。

 それに女性だけで使ったせいで撹拌も甘かったみたいで、油っぽさが残っています。


 それでも古代でもマヨネーズが作れるのは格別です。

 鈴菜(すずな)を短冊に切って、マヨネーズを付けて食べてみると意外にイケました。

 現代でコンビニに売っていたスティック野菜を思い出します。

 もちろん、鈴菜も消毒しています。

 (※鈴菜……カブのことです)


 ポリポリポリポリ……。


「何故じゃろ?

 火を通していない野菜が美味しいの」


「青菜には熱を通すと壊れてしまう滋養が含まれております。

 この様に生で食べる事でその壊れ易い滋養を取り込むことが出来ます。

 しかし、熱を通さぬために野菜にくっついている病の(もと)が死滅せず、体内に取り込まれてしまう恐れがあります。

 私はそれを選別する事ができますが、他の方が真似をする事はあまりお勧め出来ませんね」


「つまりかぐやと一緒ならばこの様な物を食すことが出来るということか?」


「ええ、そうなります」


「それは残念じゃのう」


「代わりの方法として、酒粕や酢、塩などに漬ければ病の素は死滅して、誰もが食べられる様になります。

 これも古の人の知恵です」


「しかしこれほどまで美味しくないのじゃがの」


「そうですね。

 もう少し美味しく出来ないか、試してみましょう」


「かぐやがやってみるならいい物が出来るじゃろう。

 楽しみにしておるぞ」


 ◇◇◇◇◇


 こうして後日、出来上がったのが日本最古の糠漬けでした。


 ポリポリポリポリポリポリポリポリ。


「うむ、美味いのじゃ!」



(次話もつづく……かも?)


現在、第8章の構成を練っておりますが、難航しております。

かなりハードなパートになりますため、どうやって話を収束させるべきか頭を悩ませています。


……ということで幕間、閑話に逃避中です。

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