【閑話】飛鳥時代の動物事情
話の本筋とは関係ないお話です。
いつか書きたいと思っていましたので、まとめて執筆してみました。
……ラクダの鳴き声はこれで良いのか?
ここ帝が住まう岡本宮には様々な動物が飼育されています。
馬や牛はもちろん犬も大切に育てられています。
しかし躾の方は今ひとつですね。
人を見るとやたらと吠えます。
調教してあげようかしら?
オーホッホッホッ……、けふんけふん。
ちなみに猫はいますが、猫と呼ばれず狸と呼ばれているみたいです。
違うニャー。
そしてこの度、海の向こうから珍獣が献上されました。
駱駝と驢馬です。
ブモォォォォォブモォォォォォ。
砂漠の国から献上されたのではなく、百済から帰国した使者より贈られました。
おそらく百済へは唐を経由してやってきたと思いますが、もしかしたらゴビ砂漠から歩いて来たのかも知れません。
……知らんけど。
珍獣の来訪で宮中の人達は一眼見たいと皆さんソワソワしています。
♪ あんまりソワソワしないで ♪
でもその辺は建クンの世話係の特権です。
皆さんより一足早く見物させて頂きました。
「ほれ、建よ。
これが駱駝じゃ。
大きいじゃろ?」
お婆ちゃんモードの斉明帝が建クンに駱駝を見せびらかせます。
ちなみにフタコブラクダです。
楽だ楽だ。
すっかり陰に隠れておっかなびっくりするかと思ったのですが、意外にも目をキラキラさせてラクダを見入っています。
きっとこの後、ラクダの絵を描くのでしょう。
「本当に変わった生き物じゃのう。
人が乗り易いためにこうなっておるのかの?
分かるか? かぐやよ」
「駱駝は雨が滅多に降らず草木の少ない過酷な地でも生き抜ける生き物です。
そのためにこのコブには滋養が詰まっており、飢えに強いという優れた生命力を有しております」
「ほう、そうだったのか。
まさか知っておるとは驚きじゃ。
では何を食べるのか分かるか?」
「申し訳ございません。
おそらく草や穀物、豆を食するかと思いますが、詳細は分かりません」
確かサボテンを食べるのでしたっけ?
「流石にそこまでは知らぬか。
使者の話によると馬と同じで良いと言うとるが、これまで献上された舶来の生き物は長生きせぬのじゃ」
「無理もありません。
気候も違いますし、生えている草ですら向こうとは違うのですから。
この地の植生に慣れ、一日でも永く生きながらえて欲しいと願います」
「そうじゃな。
それにしてもこちらの馬は妙竹林な顔をしておるな。
馬……でいいのか?」
「ええ、馬の仲間ですが荷運びに優れた種類ですね。
馬ほどは早く走れないはずです。
しかし愛嬌のある顔で御座います」
「……しっぽ」
? 建クン、何か言いたげです。
……あ!
「建クン、すごい!
よく分かったね」
「どうしたのじゃ?」
「申し訳ございません。
建皇子は馬と驢馬とでは尻尾の形が違うと言っております。
馬はフサフサの毛の尻尾ですが、驢馬は先っぽだけが毛が生えているみたいです」
「おお、そうかそうか。
建よ、よう気づいたの。
えらい、えらい、えらいぞ」
帝は目尻に涙を溜めて建クンを褒めます。
余程嬉しかったみたいです。
気持ちは分かります。
私も嬉しいですから。
流石に乗るわけにはいきませんので見るだけですが、建クンは満足した様子です。
ちなみ私の後ろに控えていた亀ちゃんとシマちゃんは、互いに手を取って完全にビビって今にも逃げ出しそうな様子でした。
大丈夫、食べたりしないから。
噛むかも知れないけど。
◇◇◇◇◇
帝に献上されるのは四本足の動物だけではありません。
珍しい鳥もその対象です。
以前は孔雀が居たみたいで羽根が飾られていますが、既にあの世へと飛び立ってしまいました。
「建よ、これをあげよう。
また絵に描いておくれ」
「……ん」
建クンとっても嬉しそうです。
「かぐやはこの羽根が何か分かっておるようじゃな」
「はい、孔雀の羽で御座いますね。
雄の孔雀はこの羽根を扇のように広げて、とても大きく綺麗な鳥です」
「そうじゃ。
鳥の孔雀と仏教の孔雀明王とは同じなのかや?」
「申し訳ございません。
詳しくは存じません。
鳥の孔雀はその美しい見た目と違い、長くて丈夫な足で毒蛇すら捕まえて喰らうと言われております。
転じて孔雀明王とは人々の苦行を喰らう明王として信仰されていると聞いたことが御座います」
ただし、現代での寺社仏閣巡りで得た知識なので、古代でも同じ理屈が通じるか分かりませんが……。
「知らぬと言いながら、孔雀の容姿すら知っておるではないか。
長い脚などと見た者にしか分からぬぞ」
「申し訳御座いません。
うろ覚えなので」
「それにしても美しい羽根よの。
我が国にも綺麗な鳥は居ないわけでは無いが、ここまで鮮やかだとは」
「鳥の世界では、雄が雌に気に入って貰えるよう必死に主張するのだそうです。
永きに渡り頑張った結果、ここまで鮮やかな羽根を生やす事が出来たのでしょう。
そのうち私にも綺麗な羽根が生えてくるかも知れません」
「ほっほっほ、それは見てみたいものじゃ」
そうしたら建はかぐやに求婚するかの?」
「…………」
残念ながら、建クンは真っ赤になって何も答えてくれませんでした。
◇◇◇◇◇
帝の元にやってきるのは動物だけではありません。
人もです。
各地に漂着した外国人も京へとやって来ます。
……都貨邏人?
現代に相応する国名が思い浮かびません。
見掛けはインド人よりも中東の人っぽい気がしますが、私には区別がつきません。
しかし中国語らしき言葉を話す事が出来るみたいです。
通訳の方の話では唐と貿易をしている人達の様で、船が難破して海見嶋に漂着したとの事でした。
多分、奄美だと思いますが九州から畿内に来るのも一苦労です。
彼らにしてみればトンデモなく最果ての地に流れ着いた気分でしょう。
エキゾチックな彼らは古代の人達にとって好奇の的です。
百済や唐の人達と違って、明らかに見た目が違いますから。
肌の色の違いも、こんなに日焼けして苦労したのだと同情する人や、何故もっと身綺麗にしてあげなかったのかと怒る人もいます。
この時代の人には人種という概念がほとんどありませんから、ヨーロッパの白人の人や、アフリカの黒人の人を見たらそれこそ珍獣扱いでしょう。
しかしその一方で、漂着した彼らの扱いは悪くはありません。
きちんと身柄を保護して、ここでの生活の面倒を見てあげます。
過去にも同じように漂着した人が定住した例もあるみたいです。
こんな感じで、古代の飛鳥は思った以上に国際的です。
ひとえに少しでも諸外国の進んだ文化や技術を輸入して、この国を豊かにしようとしたいという気持ちが強いのだと思います。
実はもう一つ、鸚鵡の話があったのですが、孔雀の話の後で話が発散しそうだったので削除しました。
記録(日本書紀)の上ではこの年、鸚鵡を贈られたとありますが、状況的に考えておそらく贈られたのは鸚哥ではないかと思われます。
ちなみに孔雀は推古朝の時に贈られました。




