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蛇の前で踊る蛙?

本日は新幹線が終日大変な事になっておりました。

明後日、利用する予定だったのでかなりビビりました。

 (※宴はまだまだ続いております)


「かぐやよ、面倒な者に捕まっていたみたいだな」


 話し掛けてきたのは本日の主役、大海人皇子です。


「面倒だけなら良かったのですが、ご自覚の無い方と話をするのは疲れます」


「自覚か……、どの様に無自覚なのだ?」


「周りの雰囲気、ご自身のお立場、身の丈、相手の事情、世の道理、今後の世の中、等々。

 何を分かっていないかを全く分かってらっしゃらないご様子でした」


「随分と手厳しいな。

 余程腹に据えかねたのか?」


「蛇の目の前で無邪気に踊りを踊る蛙を目にしましたら、同じ気持ちが味わえるかと存じます」


「ははははは、それは見てみたいものだ。

 で、其方は蛙になんと助言したのだ?」


「身の振りを考えなさいと。

 無闇に政を批判したり、女子(おなご)の年齢を聞くなと、懇切丁寧に言い聞かせました」


「はははははははは。

 慌てて去って行くから何をしたかと思えば、そりゃあ良いな」


 皇子様、大爆笑です。


「同じ言葉を皇子様にも申し上げましょうか?」


「いや、済まぬ。

 初めて会った時は幼い童だった其方が年齢を気にするなんてな。

 時が過ぎるのは早いものだ」


「本当に困ったものです」


「困る程度なら良いが、兄上の目の前であれは拙かったな。

 まず間違いなく目をつけられたであろう」


「やはりそうでしたか」


「其方には分かっていたのか?」


「孝徳帝がご心配なさってましたから」


「そうか……。

 其方は孝徳帝から話を聞いていたからな」

 (※経緯については第225話『オレ様、再び×2』ご参照)


「若者が理想に燃え、熱くなる事は珍しい事では御座いません。

 しかし、あそこまでのべつ幕無しで底が浅いと、誰にとりましも格好の餌食でしょう。

 敵であれ、味方であれ……。

 その事に気がついていない皇子様が気の毒としか申せませんでした。

 なのでつい厳しい対応をとってしまいました」


「其方らしいな。

 若者というが、其方と指して歳は変わらぬのが気になるが……」


「え”っ?!」

 (意訳:なんか言いました?)


「い、いや何でもない。

 話は変わるが鸕野(うのの)から話は聞いた。

 色々と世話になったみたいだな。

 私からも礼を言わせて貰う」


「いえ、私こそ楽しい刻を過ごさせて頂きました。

 弟君の建皇子様も鸕野様にはとても懐いており、世話役として非常に助けられました」


「私としてはもっと其方の元で学ばせてやりたかったのだがな」


「昨日申しました鸕野(うのの)様の優秀さはお世辞ではなく、本当の事に御座います。

 私が教えて差し上げられる事も残り少なくなっております。

 最近では自らが何を知っているのか思い出さねばならない事が増えて参りました」


「其方程の智慧者がそう言うのなら本物なのだろう。

 鸕野(うのの)に惜しみなく教えを説いてくれた事に改めて感謝したい。

 何者にも変えられぬ(たから)物だ」


「勿体無い言葉に御座います。

 しかし智慧とは仕舞い込んでは役に立ちません。

 実際に使ってこそ磨かれるものです。

 鸕野(うのの)様は智慧だけでなく、好奇心旺盛で、行動力に溢れ、分け隔て無き博愛の御心を持つ御方です。

 皇子様のお側において、活躍の場をお与え下さいます様、お願い致します」


「えらい入れ込み方だな」


「そうですね。

 皇子様だからこそお願い出来ます事です。

 そして、皇子様にしかお願い出来ない事なのです」


「責任重大だな」


「その刻がくれば舎人としてお役に立ちます、という約束を私は忘れておりません」


「そうか。

 分かった、約束しよう」


「それにしましても一度に四人もの(きさき)様を娶られて大変では御座いませぬか?」


「まあ、仕方がないな。

 自分の立場も弁えているし、兄上のお気持ちも分かっているつもりだ」


「此度の婚姻に、皇太子様なりのお考えがあったのですか?」


「それはそうさ。

 兄上にとって信頼のおける兄弟が私しかおらぬのだ。

 自らの血縁を外に出さぬためには私以外、他に居らぬのだ」


「産婆を経験した身としましては、そのお考えには賛同致しかねますが……」


「それを其方に聞きたかったのだ。

 叔父と姪とで子を成すのはやはり(まず)いのか?」


「いえ、すぐに影響は現れないと思います。

 実の兄妹の間で子を成す程の影響はないだろうと思われます。

 しかしそれが繰り返される事により問題が生じ易いであろうと推測されます」


「繰り返し……か。

 確かに母親は違うが、押坂彦人大兄皇子(おしさかのひこひとのおおえのみこ)の息子である父上(舒明帝)と、孫である母上(斉明帝)。

 つまり叔父と姪の関係だ。

 建皇子が(おし)である原因がそれではないかと、母上は気に病んでいた事もあったな」


「私は建皇子様の緘黙(かんもく)と、血が濃い事とは無関係だと思っております。

 しかし常にご心配を抱えるのは大変に辛う御座います。

 ちょっとした病気、人とは違う性格、身体や容姿の異変、大人になってからの妊娠、それらが血が濃い事と関係あるのかを疑ってしまいます。

 私としましては、せめて従兄妹(いとこ)婚に留めて頂きたいと願っております」


「そうか……このような事は私の代で終わりにしたいものだな」


「差し出がましい事を申しまして、大変恐縮に御座います」


「構わぬさ。

 昨日も言ったが、当面の間、鸕野(うのの)が子を成す事は無い。

 暫くは気の向くまま動いてもらうつもりでいる。

 岡本宮に行くのも構わぬし、額田に歌を習うのを止めるつもりはない」


「その辺につきましては、流石は皇子様だと思います」


「お褒めに預かり光栄の至りだな」


「此度の婚姻で其方の智慧を授かった后を迎える事ができた。

 当麻殿との(えにし)も結べた。

 思いもかけず吉野の地に拠点も出来てしまった。

 ゆっくりではあるが着々と準備は進んでいる。

 まだまだ足りぬが、これからも準備を進めるつもりだ」


「先は長う御座います。

 十年二十年を掛けて万全を期して下さい。

 私にお手伝い出来る事があれば、教え子の鸕野(うのの)様に会いに参じますので」


「是非頼む」


 大海人皇子が額田様を失って久しいですが、相当な覚悟を秘められたご様子です。


本日は短くて申し訳ありません。

次話は鸕野(うのの)皇女とのガールズトークの予定です。

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