表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

290/585

【幕間】お転婆皇女の冒険・・・(6)

皇女様、追っかけみたいになっております。

 とある皇女様の冒険譚です。



 妾は皇女じゃ。

 実父に呼ばれ参加した即位の儀で、かぐやという神の使いと目される采女の舞を観てすっかり気に入ってしもた。

 しかし実父の腹心・中臣鎌足殿とからはかぐやを腹心にするには妾の実力も実績も足りていないと諭された。

 奮起一転、妾は当麻豊浜(たいまのとよはま)殿に師事し、自己研鑽に励んだのじゃ。

 そんなある日、気分転換で入った山で道に迷い、怪しげで見窄らしい無遠慮な自称・僧侶に出会った。

 でも悩みを聞き、意見をくれたのには一応礼を言うのじゃ。

 妾は礼儀正しい可憐な女子(おなご)じゃからの。


 ◇◇◇◇◇


 あの怪しげな僧侶の言う事を聞くのは少々癪じゃが、かぐやに教えを乞うのは良い方法じゃと思う。

 じゃが、かぐやが後宮の采女である以外は全然知らぬ。

 そこでまずは当麻殿に聞いてみたら、かなり有名な様で詳しく教えてくれた。


「かぐやという采女は書司(ふみのつかさ)女嬬(めのわらわ)でな、この葛城にもよく姿を見せるのだよ」


 何と!

 知らぬ間に妾はかぐやに接近(ニアミス)しておったのか!?


「こちらにくる時は必ず建皇子(たけるのみこ)と共に来ている様だ。

 気の毒な事に建皇子殿は話すことが出来ぬ子だ。

 かぐや殿は帝から世話係を仰せつかって、甲斐甲斐しく建皇子のお世話をしているのだよ」


「それは別のかぐやでは無いかや?

 神の使いと言われる巫女を子供の世話係にするとは思えぬのじゃが」


「それが違うのだ。

 飛鳥一帯で『神降ろしの巫女』として名高いかぐや殿は、神に使いである事を全く鼻にかけず礼節を持って人とお会いなさると、会った者は皆感心している。

 まるで弁財天の様な御方と評判なのだ。

 巫女殿の世話にしても全く嫌な様子はなく、側から見たら中の良い親子にしか見えぬのだそうだ」


「にわかには信じられぬな。

 そんなに出来た人なぞ本当に居るのかや?」


 神がかりな力を持って、能力が高くて、その上性格も良いなんて……。


「建皇子は其方の姉弟だが、知らぬのか?」


「そう言えば……。

 妾に弟がいるとは聞いておるが、一度も会ったことがないそうじゃ。

 つまりかぐやは妾の弟の世話係という事なのか?」


「そうゆう事になるな」


「世間は広い様で狭いとは本当なのじゃな」


「はははは、その通りだ。

 もし皇女殿がかぐや殿の事を知りたいのなら、詳しい者がおるから聞いておこう」


「詳しい者とは、かぐやの知り合いなのかや?」


「三日に一回は会っているそうだ」


「羨ましい者もおるもんじゃのう」


 こうして妾はかぐやと顔繋ぎをするため、あれこれと調べて貰った。

 しかし調べれば調べるほどかぐやの評判は高く、欠点などのない完璧な女子(おなご)ではないかとすら思えてきた。

 きっと多くの者に求婚をされて、あまりのしつこい求婚に辟易として、無理難題をふっかけて追い返しているに違いない程に違いないのじゃ。


 ◇◇◇◇◇


 明けて翌年、焼け落ちた板葺宮に代わり、新たに岡本宮が落成の日を迎えた。

 きっとかぐやが見られると思い期待したのじゃが、妾には招待がなかったのじゃ。

 やむなく落成の儀に出席した当麻殿に儀の様子を聞いてみたら、今度は月のない夜に月が出たそうじゃ。

 そしてその月がバラバラになって童の姿になって宮に降り立ったとか。


 ん〜〜〜〜!

 悔しいのじゃ!

 見たかったのじゃ!


 じゃが同じ頃、妾の計画は着々と進んでおった。

 忙しい帝よりも叔母上の間人(はしひとの)太后様なら文の返事が戻ってき易いと当麻殿の助言(アドバイス)を受けて、叔母上に連絡を取っていたのじゃ。

 弟に一度も会ったことが無いので是非とも会いたい、と便りを出したら返事が来たのじゃ。

『是非宮へ来なさい。楽しみにしております』と。


 そこからは早かった。

 無論、学びは以前からずっとやっておったよ。

 無学と侮られては大変じゃからな。

 それにかぐやは性格が良いとの評判じゃから妾も見習うのじゃ。

 嫌われとうは無いからな。

 大切なのは当麻殿に教わった慈悲の心じゃ。

 礼儀作法も当麻殿に教わったし、準備は完璧じゃ。


 ◇◇◇◇◇


 宮に着き、間人太后様にお目通しを願った。

 当麻殿に、妾と太后様とは口調がそっくりなのじゃと言われてたが、確かにその通りじゃった。

 太后様と意気投合して、その足で建皇子の所へと参ったのじゃ。

 母が亡くなってから生まれた弟である事は、特に気にしておらぬ。

 同じ実母を持つ姉とも一度しか会っておらぬし、母親が誰であれ妾の弟である事に変わりはないのじゃから。


「ささ、鸕野(うのの)や。

 これが神降ろしの巫女じゃ。

 妾の知り合いじゃぞ」


 いよいよかぐやとの対面じゃ。

 間人太后様の自慢げな紹介を受け、妾から名乗った。

 妾の方が上の立場なのじゃからな。


「妾は鸕野讚良(うののさらら)じゃ。

 其方が神降ろしの巫女かえ?」


「世間でそう呼ばれる事が御座いますが、私は舞がほんの少し得意なだけの平凡な采女(うねめ)に御座います」


 かぐやは噂通り控えめな語り口で、神降ろしの巫女である事を否定した。

 その後、幾度聞いても光を放つ神降ろしは帝の成せる技と言って譲らぬ。

 じゃから聞いてみた。


「かぐやはお祖母様のことを尊敬しているのか?」


「はい、帝にはたくさんの敬愛を捧げております」


 この言葉にお祖母様である帝に思わず嫉妬してしまった。


「何故そんなにもお祖母様を尊敬しておるのか?」


「私は建皇子様のお世話を通しまして帝の人となりに触れる機会に恵まれました。

 その帝のお人柄がとても素晴らしい方であると思えたからに御座います」


 つまり帝への忠誠は人柄なのか?

 ついでに実父について聞いてみたのじゃが、やんわりとはぐらかされた。

 かぐやに人を見る目はあるという証拠じゃ。

 じゃが何故、叔父上の大海人皇子をどう思っているか聞かれたのじゃろう?

 つい惚れた女子(おなご)を護れぬ意気地のない男だと本音が出てしもうた。

 妾とて女子(おなご)じゃ。

 自分を護ってくれる強い男が好みなのじゃ。

 すると何故かかぐやは叔父上の事を持ち上げようとした。

 もしかしてかぐやの好みは叔父上の様な優男なのじゃろうか?


 その後、建皇子を一目見て部屋を後にし、帝に挨拶をしたのじゃ。

 初めて会うお祖母様には自分の事を話し、弟である建皇子の事と世話役のかぐやの事を聞いて、是非また来たいとお願いをした。

 普段は厳しい顔をしているであろうお祖母様は相好(そうごう)を 崩し喜んでくれた。

 かぐやが敬愛するお祖母様らしく、懐が深いお方じゃった。


 後日、帝と間人太后様にお礼の便りを出した。

 そして前々から望んでいたかぐやに師事したい旨を伝えたら、帝は妾の来訪を歓迎してくれた。

 初めてかぐやの舞を見てから一年半、ようやくかぐやの教えを受ける事が叶ったのじゃ。

 やったのじゃ!


 早速、当間殿の都合の合間を縫って、三日間だけ岡本宮へと訪れた。

 待ちきれなかったのじゃ。

 しかしその甲斐は十分にあった。

 やはりかぐやの知識はすごかったのじゃ。

 これまで一年以上学んだ内容が霞んでしまいそうなくらいじゃった。

 もしこの教えを一年も続けたならばどうなるであろう?

 そう思わずにいられない程じゃった。


 そして最後の三日目。

 かぐやは忌部氏の宮へ行く用事があると言った。

 妾の習い事を優先すると言うてくれたが、妾の目的はかぐやの知識の源を知る事じゃ。

 忌部氏の宮へ同行して、何をするのか見学したのじゃが……。

 そこには葛城山で見たあの男がおった。


 初対面らしくしようと、何食わぬ顔で言うてやった。


「生駒の山に妙竹林な破壊僧がおるとの噂を聞いたが、まさか破壊僧が下山するとは知らなんだ」


 すると破壊僧はこう言い返してきた。


「生駒の(ふもと)讚良(さらら)には駿馬と駿馬に乗るじゃじゃ馬がいると聞いた事は御座います」


 事もあろうに、破壊僧は妾を”生駒のじゃじゃ馬”と言いよった。

 今考えれば、当麻殿が言っていた『かぐやと親しい者』とは小角の事じゃったと今更ながら分かる。

 じゃが、あの破壊僧は絶対にかぐやに気がある。

 何よりあの目が怪しい。

 何よりかぐやと知り合いである事を妾に内緒にしておったのが怪しい。

 妾にかぐやを取られるのが悔しかったのじゃろう。

 じゃから妾は破壊僧から守らねばならぬのじゃ。


 そこで妾は破壊僧に出された菓子を横取りしてやったのじゃった。


 どうじゃ、参ったか!

 わははははは。


 (幕間、ひとまずおしまい)

最後はグダグダでしたが、鸕野(うのの)皇女様は重要人物として後のストーリーに関わってきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ