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【幕間】お転婆皇女の冒険・・・(3)

ついつい忘れてしまいますが、皇女様は数えで11歳、満年齢で9歳なんです。

アニメキャラで言えばさくらももことか、磯野ワカメちゃんと同じ歳です。


ところでワカメちゃんパンツ、実は瀬戸物だという噂はホント?


 とある皇女様の冒険譚です。


 妾は皇女、即位した斉明帝の孫じゃ。

 祖母とは面識は無いがの。

 実父に呼ばれ、即位の儀に行ってみたが、そこでかぐやという帝の采女が神の使いらしき光る人間を呼び、共に舞い、観客の度肝を抜いた。

 周りの者は神降ろしの巫女だと言うておったが、妾には神の使いを従える術者にしか見えぬ。

 つまり神よりも上の者という事か?

 でなければ神の使いを騙り帝を(たばか)る不届者か?


 何とかしてあのかぐやという采女に(わた)りはつけられぬものか?


 ◇◇◇◇◇


 即位の儀の翌日、滞在先に姉が来た。

 帰る前の挨拶に来たのだそうじゃ。


「会えて嬉しかった。

 今度はもっとたくさん話をしましょうね」


「妾も姉上に会えて良かったのじゃ。

 昨日の即位の儀では良いものを見れたし、明日帰らねばならぬのが残念じゃ」


「ええ、まさかあの様な神々しい舞を観れるなんて。

 今思い出しただけでも感動してしまうわ」


 確かに神々しかった。

 しかし妾には敢えて神々しく観せられた様な気がしてならぬのじゃ。

 単に神が降りてくるのであれば、一緒に舞を舞う必要など無かったのじゃないかの?

 偶々神が降りてきたというより、神の使いすら散々稽古した(せいか)を見せられた気分じゃった。


「本当に興味深い(おもしろい)ものを観れたのじゃ。

 お祖母様はあの者を従えておるのなら妾も会えるのかや?」


「どうでしょう?

 (とう)様にお願いすれば叶うかも知れませんが、あまりお勧めは出来ないわ。

 利用されるだけですから」


「利用?

 何の利用じゃ?」


「例えば……

『神降ろしの巫女を俺様の妻にするから、仲良くなって俺の所へ連れてこい』とか、

『神の使いを捕まえるのに協力しろ』とか、

『あいつは俺様の敵だから近づいて殺せ』とか、

 何か言われるに決まっています」


 姉の実父に対する不信感がとめども無い様じゃ。

 年嵩の姉は母上との思い出がある分だけ、母上を苦しめた実父がが許せぬであるのだろう。

 じゃが妾には母上の記憶が無い故、思い入れも無い。

 許す許さないではなく、実父への敵意を持ち様が無いのじゃ。

 物騒な噂が絶えぬ男であるのは間違いない様じゃが……。


「姉上には心配かけぬ。

 他を当たってみるのじゃ」


 心配を掛けるのは得策ではなかろう。

 妾にとって、油断のならない実父を除けば唯一の肉親じゃ。

 異母兄弟は沢山いるらしいが……。


「そう。

 聞き分けの良い子ね。

 安心したわ。

 それじゃ、また会いましょう」


 そう言い残して姉は去って行った。

 数年後、まさかあの様な形で再開するとは思わずに……。


 さて、妾も明日帰る前に何か出来ないか考えてみた。

 しかし実父以外に伝手はない。

 所詮は童子(こども)なのじゃ。

 出来る事は殆どない。

 仕方がなく、先日と同じ市へと歩いて行った。


 市に着くと、まずは布を買った露店の男の方へと行った。


「見せてくれや」


「げっ!

 お嬢ちゃん、また来たのか?」


「何じゃ、ちゃんと布を買ってやったであろう。

 客に対して無礼では無いか?」


「ありゃあ、買ったとは言わねぇ。

 買い叩かれたって言うんだ」


「上手い言い様じゃのう。

 褒めて遣わすぞ」


「そりゃあありがたい事って。

 また噂話を集めているのかい?」


「そうじゃ、暇じゃからのう」


「羨ましいね。

 俺なんて毎日休みなく働いても食うのがやっと、いや何も食えない日もある。

 飯に困らず暇だって言ってみてぇもんだ」


「仕方があるまい。

 世の中は不公平なのじゃ。

 じゃがお主が思おている程、やんごとの無い方々は安穏としてはおらぬぞ。

 いつ何時、命を狙われるか分からん毎日じゃ。

 毒を恐れて飯も満足に食えんのが羨ましいか?」


「何だそりゃあ。

 お嬢ちゃんはそんなに偉い方の子供なのか?」


「何度も言わすな。

 高貴な人はこの様な場末には来て、(やす)い布を買い叩いたりせぬわ」


「そうなのか?

 まあいい。

 噂って言やあ、昨日、帝の即位を祝福して神様が現れたって?

 その場にいたモンは自慢げに話をふれ回って、えらい騒ぎになっている。

 いくら自慢したって自分には関係ねぇのにな」


「昨日の今日でそんなになっておるのか?」


「ああ、(みやこ)中の噂だ。

 今まで帝の事を祟りだ、不遜だと言っていた連中が嘘の様に掌を返していやがる」


「其方もその一人じゃ無いのかえ?」


「俺ぁ元から天罰だの、祟りだの、罰当たりだの、全く思っていなかったからな」


「なるほど。

 見事な程の掌返しじゃ。

 恐れ入ったのじゃ」


「そう言うなって。

 俺も神が降りてくるほどの御力が帝様にあるだなんて知らなかったからよ。

 長い物には巻かれるのが俺の主義なのさ。

 布屋だけにな」


「上手いのう。

 では今度は布を買うてやる。

 一番良い布を寄越すのじゃ。

 明日田舎に帰るから土産にしてやろう」


「お嬢ちゃん、あんた良い女になるぜ」


「世辞は良い。

 それに妾は既にいい女じゃ」


 先日買った布は滞在先の手土産にした。

 養母には良い布を土産に持って帰るとしよう。


 こうして妾の短い飛鳥の滞在は終わった。

 明日は馬を駆けて娑羅羅(さらら)へ帰るだけじゃ。


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、妾は馬に乗り、付きの者らと共に出立した。

 急がずとも良いが早く帰りたい気持ちが馬に伝わるらしく、進みが早くなる。

 しばらく行くと、同じ方向へ向かう馬の一団がゆっくりと進んでいた。

 流石にあのゆっくりな連中の後ろをずっと歩みたくはない。

 急ぎ過ぎずにその一団を追い越すことにした。


 段々とその一団に近づいて行くと、護衛役らしき男が剣を手に取り警戒し出した。

 どうやら前を行く一団の中心には偉い御方々いるらしい。

 じゃが抜かさぬことにはずっと後ろを行かねばならぬ。

 そうゆうのは性に合わぬのじゃ。

 妾は気にせず、馬をそのまま進ませて行った。


 いよいよその一団に追いつきそうになると護衛役は剣を抜き、臨戦体制に入った。

 よほど偉いのか、悪どい事をやっているのか、その両方である輩に違いない。


「何者だ!?

 それ以上近づくな!

 言う事を聞かねば斬るぞ!」


 さして広くない街道で馬で抜くなとは我儘な連中じゃ。

 答えようとする付きの者を制して妾が答えた。


「妾は皇太子、中大兄皇子の娘じゃ。

 即位の儀が終わり、讚良(さらら)へと帰る途中じゃ。

 この先ずっとお主らの遅い馬に付き合わせれるのは堪らん。

 道を譲ってくりょ!」


 すると相手方に動揺した雰囲気が見えた。

 そして一団の先頭にいた男が馬の向きを変え、妾の方へとやってきた。


「知らぬ事とは言え部下が大変失礼をした。

 お詫び致します」


 馬から降りず、男は詫びを入れた。

 この男は……。


「其方は確か面談の時に父上の横におった者じゃな?」


「覚えておいででしたか。

 左様に御座います。

 中臣鎌足と申します」


 中臣鎌足?

 名前は知っておる。

 実父と並び、仄暗い噂の絶えぬ輩じゃ。

 じゃがこの男に逆らえる者は実父をおいて他にはない程の権力(ちから)を持っている、と市の噂で聞いた。


「こちらこそ知らぬとは言え、失礼したのじゃ。

 よもや即位の儀の翌々日に、内臣の中臣殿ほどの御方がこの様な場所で馬に乗っておるとは思わなかったのじゃ」


「いえ、皇女様こそもう少し飛鳥にてごゆるりとされているかと思っておりました」


 鎌足殿は少し考えた後、当たり障りのない返事を返してきた。

 何か気に障ったのか?


(みやこ)に居ても知り合いも居らぬのでな。

 ところで妾の滞在先に即位の儀の案内を寄越してくれたのは中臣殿ではないのかえ?」


「左様に御座います」


「いや何。

 飛鳥に来たは良いが、即位の儀がいつ何処でやるの、どうやって入れば良いかすら分からずにおったんでな。

 是非、お礼をしたかったのじゃ。

 助かったぞえ」


「痛み入ります。

 ところでこの辺りは何かと物騒に御座います。

 急ぐのも宜しいですが、途中までお供しましょう。

 私は摂津へ向かうので山を越えるところまでご一緒します」


「そうか、それは助かるな。

 なにぶん田舎娘故、世間には疎くての。

 宜しく頼むのじゃ」


 こうして妾は実父の腹心である中臣鎌足と共に讚良(さらら)までの道のりを同行することになった。



(つづくのじゃ)




今回もまた役小角の出番はありませんでした。

やるやる詐欺、これで三度目。


改めて深く神妙に心の底から深く深くお詫び申し上げます。

_| ̄|○ m(_ _)m ○| ̄|_

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